嫉妬
休み時間に、廊下でキャー!という悲鳴があちこちで聞こえ始めた。そう、今日は久々に母さんが寝坊して、海斗の弁当を俺が持って来たのだ。
「キャー!キャー!」
我が教室も、すごい悲鳴。思わず耳に指を突っ込みたくなる。実際突っ込んでいる男子もいた。教室に現れた海斗に、俺は弁当を持って近づいた。すると、栗田が走り寄ってきた。
「岳斗、今日こそ紹介してくれよ!」
嬉しそうな顔をした栗田がいた。ここでか・・・ちょっと心配だ。海斗には早く去ってもらった方がいいと思うのだが。しかし、ここまで先延ばしにしていた俺も悪いし、仕方ない。
「あー、海斗、こちら、友達の栗田。」
俺は弁当を手渡した後、そう言って栗田を指さした。海斗が栗田を見る。栗田は、
「こんにちはっす。栗田です。よろしくっす。」
と言って頭を下げた。面白い。なるほど、女子や護くんのようなガチなファンとは違うな。そこへ、笠原と金子も駆けつけて来た。
「ちわっす、金子と言います。よろしくっす。」
金子も同じように頭を下げた。笠原は、
「海斗さん、ちはっす。俺たち岳斗のマブダチっす。」
と言った。海斗は三人を見渡して、にこっと笑った。
「へえ、岳斗の友達か。よろしくな。」
海斗がそう言うと、三人はそろって
「はい!」
と返事をした。そして海斗が教室を去ろうとした時、クラスの女子のほとんどがダーッと詰めかけて来た。
「私、岳斗くんの友達の〇〇です!」
とそれぞれが叫ぶ。海斗も無視できないようで、立ち止まったけれど、このままだともみくちゃになる。
「あーちょっと、もうやめてくれ!頼むから、ここまで!」
俺は海斗と女子たちの間に入って両手を広げた。
「海斗、行って!」
俺が首だけ振り返ってそう言うと、海斗は俺の首に腕を回した。つまり、バックハグしたのだ。片手には弁当を持っているけれど。
「サンキュ、またな。」
海斗は俺の耳に口を付けてそう囁くと、腕を放して去って行った。バックハグを見て一瞬静まり返った女子たちは、海斗が俺の耳に口を付けたところで
「キャーー!」
と、ひと際激しく悲鳴を上げた。俺は耳が・・・多分真っ赤。あ、穴があったら入りたい。久々に。
席に戻ると、栗田たちが俺を見てニヤニヤしていた。
「なんだよ。」
俺がふくれっ面をして問うと、
「いやー、海斗さんかっこいいなあ。そして、お前は愛されてるなあ。」
笠原がそう言ってうんうんと頷いた。他の二人も笑っている。俺は何も言えなかった。愛されてる、よな。少し嬉しかったりする。そんなの、前から分かっていたはずなのに。
だが、やはり心穏やかではいられないのだった。また、目撃してしまったのだ。前園さんと海斗が話しているところを。教室の移動をしている時、体育館の入口で二人が話しているのを見てしまった。大勢一緒にいたのではなく、二人で話していたのだ。
嫌だ。こんな風に心が乱れるのは嫌だ。一体どうしたというのだ、俺は。何がそんなに嫌なのだ?それは・・・海斗に恋人ができるという事実が、嫌なのだ。どうして?自分だって、かつて彼女を一瞬作った事があったし、ずっと思っていたではないか、海斗にも決まった人が出来れば、俺の恋愛も上手くいくのにって。海斗に彼女ができればいいのにって。それなのに、実際に出来たと思ったら、なんだこのどす黒い感情は。胸の痛みは。
海斗、嫌だよ、誰かに取られたくないよ。




