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声を聞かせて  作者: はるきりょう
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刺さった釘

2020.4.29 一部修正しました。

 未婚の男女が密室に2人でいることはあらぬ疑いを生む。そのため、扉は開けたままだった。静かになった部屋に居心地の悪い空気が流れる。

「王子、あの、…ありがとうございました」

「さっきも聞いた」

「あ、…そうですね。えっと…お怪我はありませんか?」

「ない。…お前は?」

「え?…あ、はい。大丈夫です」

「ならいい」

「心配、してくださるんですね」

「目の前で女に怪我されたら胸糞悪いからな」

 きっと、こんな言い方しかできないのだろうな、とサーシャは苦笑する。

「それより、今の話、聞いてたな。さっきのこともある。口輪をつけさせろ」

「承知しました。説得してみます。…そのために呼ばれたみたいですし」

 小さな皮肉を言ってみる。しかし、ユリウスはサーシャを一瞥しただけで、何も言わず、ソファーの上に腰かけた。そのぞんざいな態度にオースはあきれ顔を浮かべた。

『サーシャ、王子って性格悪いんだな』

「奇遇ね、オース。私も同じこと思ったわ」

『ま、助けてくれたけどね』

「まあ、…そうね」

「ユリウス王子」

「入れ」

 入室の許可にハリオは頭を下げ部屋に入る。ハリオの後ろには屈強な男が3人。纏う服の豪華さからそれ相応の地位の人物であることが見て取れる。

「ユリウス王子、盾をお持ちしました。それから、サーシャ様には、これを」

 ハリオは手に持っていた盾をユリウスに、口輪をサーシャに渡す。

「それから王宮に常駐しております、獣医と、念のため医者も連れてきました」

「いい判断だ。ただ、人数が多いとライオンが興奮する可能性がある。ドアの外で待機させろ」

「御意」

 短く返事をすると、ハリオは獣医たちに指示をする。音を遮断するように扉は閉め、その外で彼らは待機することとなった。

 部屋の中には、ユリウスとハリオ、それから男たち3人とサーシャ、オースだけが残る。ユリウスはハリオと男たち3人の方を向いた。

「お前ら、よく聞け。俺がライオンの釘を抜く。口輪に鎖が付いているから、お前らはその鎖でライオンを押さえろ」

「ユリウス様がやらずとも我らで遂行します」

 一人の近衛兵が言った。ユリウスはライを一瞬見て、すぐに近衛兵に視線を戻す。

「…いや、いい。俺のペットだ。俺がやる」

「王子、でも…」

 とっさにそう答えたハリオをユリウスは睨むように見た。

「俺に口答えする気か?」

 その視線の鋭さに、近衛兵は首を横に振る。ハリオは何か言いたそうに口を開けたが、すぐに口を閉じた。

「お前らが押さえていれば、問題ない。違うか?」

「…いいえ」

「ハリオ」

「はい」

「俺を信じろ」

 ハリオは一瞬目を丸くした。そしてユリウスの目を見る。先ほどとは違う視線の鋭さに、今度はゆっくりと頷いた。

「お怪我だけは、なさいませんように」

「当たり前だ。…おい、お前。その口輪早く付けろ」

 強い口調でサーシャに指示する。

「わかりました。でも、ちょっとだけ待ってください」

 サーシャはゆっくりとライに近づいた。

「サーシャ様!?」

 先ほどの光景が目に浮かぶのか、ハリオは驚いてサーシャの名を呼ぶ。

「おい、黙ってろ」

「ユリウス王子。…でも」

「あいつに任せると決めたらな、やりたいようにやらせろ」

 どこか信頼しているような言葉に、サーシャは気合を入れる。そして、まっすぐライを見た。どこか不安そうな目。サーシャはにっこり笑って見せた。

「大丈夫だよ、ライ」

『…さっきは、ごめんね』

「ううん。私が悪かったの。痛かったでしょう?私こそごめんね」

『怪我しなかった?』

「ええ。王子が助けてくれたわ」

『それならよかった』

「…ねえ、ライ。今から王子があなたの釘を取ってくださるそうよ。でもそのために、この口輪をつけてほしいの」

『…僕、それ嫌いだよ。息が苦しくなるんだ』

 いやいや、と首を横に振る。そんなライのたてがみにサーシャは手を伸ばした。ゆっくり撫でる。

「わかっているわ。でもね、さっきのことがあるでしょう。だから、とっても心配なの」

『…』

「ねぇ、ライ少しの我慢よ。終わればすぐに取るわ。約束する」

『だけど…』

「お願いよ。少し我慢してほしいの。そうすれば王子があなたを痛みから解放してくれるわ」

『……ほんと?』

「ええ。本当よ」

『…わかった。いいよ』

「いいこね」

 サーシャの言葉にライは一つ声を出して吠えると、口輪をはめやすいよう、自ら屈んだ。そんなライにサーシャは微笑みを浮かべる。

 口輪を付け、ライの立派なたてがみを2、3回撫でた。そしてユリウスの方を向く。

「どうかよろしくお願いします」

「お前に言われるまでもない」

「王子、笑ってください」

 サーシャは、自身の両頬を人差し指で持ち上げた。そんなサーシャに向けるユリウスの視線は冷たい。

「…バカなのか」

「バカじゃないつもりです。王子様、知らないんですか?笑えば大抵の事は上手くいくんですよ?」

「そんなわけあるか」

「そんな怖い顔をしてたらライが心配します。大丈夫だよ、って笑顔でお願いします」

「お前の指図は受けない」

「わかりました。それじゃあ、代わりに私がにこにこしますね」

 宣言どおりサーシャは満面の笑みを浮かべた。ユリウスはサーシャを一瞥し、一瞬呆れた表情を浮かべた。

「勝手にしろ」

 吐き出すようにそう言うと、一度ハリオたちの方を向く。

「行くぞ」 

「はっ!!」

 男たちの声が重なった。一斉に動き出す。ハリオを先頭に男たちは、ライの後ろに回った。口輪の鎖を手に持ち、足を踏ん張る。けれど、まだ引いてはいけない。余計な行動はユリウスの身を危険にさらすだけだということをよくわかっていた。

 ハリオたちの顔に緊張が走る。けれどユリウスは気にせず、ゆっくりライの左前脚に手を伸ばした。

 息を大きく吸い、深く吐き出す。目に力入った。そのまま、一気に釘を引き抜いた。

そして、やっぱり、どこか脇役が好きな自分がいる(笑)ハリオが好きです(笑)

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