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声を聞かせて  作者: はるきりょう
21/28

笑え

2020.5.2 一部修正しました!!

「…あれ?」

 朝日とともに目を覚ましたサーシャは、違和を感じ、辺りを見回した。少しだけ考え、自分のいる場所がおかしいのだと気付く。

「ベッドの上?」

 サーシャはベッドの上にいた。寝ぼけている頭で昨日の記憶をたどる。ソファーの上で寝ていた筈だった。キョロキョロと辺りを見渡す。

「起きたなら、着替えて来い」

 そう答えたのは、ユリウスだった。声の方を見えれば、すでに机で仕事をしていた。

「王子、どうして私、こっちに寝てるんですか?」

「寝ぼけて移動したんじゃないか?」

「え?も、もしかして、…王子と同じベッドで寝たんですか?」

「憶えてないな」

「…」

「それより、部屋に戻って着替えをしてこい。戻ってくるときは、ハリオを連れて正面から入れ」

「え?」

「その方が自分の部屋にいたように見える」

「なるほど」

「早く行ってこい。お前たちがそろったところで、報告することがある」

「…すぐに行ってきます」

 まだ聞きたいことはあったが、そんな場合ではないとサーシャは頷く。そして、隠し戸から部屋に戻った。そんな背中を見送って、オースが言う。

『素直じゃないな、ユリウス。サーシャが寝てすぐに、ベッドまで運んであげて、自分はソファーにいたくせに。しかも、あんまり寝てないくせに』

「おい、スチャ、何か言ったか?」

『まあ、うちのサーシャは可愛いから無理もないけどね』

「…昨日も言ったが、俺にはお前の言葉がわからないんだ」

『そんなこと、わかってますよ~だ』

 オースがユリウスに向けてそう言う。ユリウスは鳴き声の意味が分からず、睨むようにオースを見た。オースは優雅に部屋の中を旋回する。そんなオースにユリウスは小さくため息をついた。


 しばらくして、控えめなノック音が聞こえる。

「ユリウス王子、ハリオです。サーシャ様をお連れしました」

「入れ」

「お待たせしてすみません」

 サーシャは入ってくるとすぐに頭を下げた。ハリオも続いて部屋に入る。静かに扉を閉めた。

「報告がある。そこに座れ。ハリオも徹夜明けだが、話を聞いていけ」

「一晩の徹夜くらいどうってことないです」

「いや、話を聞いたら仮眠を取れ」

「大丈夫です」

「俺に反論する気か?」

「…いいえ。かしこまりました」

 ユリウスとハリオのやり取りを耳に入れながら、サーシャはソファーに座った。ハリオはサーシャの横に立つ。

 ユリウスは手を止めて2人を見た。

「鴉から報告があった。昨日の賊に関してだ」

「え?」

「結論から言おう。賊は、自害した」

「自害…」

「ああ。朝から気分のいい話でなくて悪いが情報を共有しておきたい」

「…はい」

 突然の不穏な言葉に、頷くだけで精一杯だった。オースが不安そうにサーシャの名前を呼ぶ。安心させるように小さく頷いた。

「奥歯に仕込んだ毒で死んだ。身元は今、調べさせている」

「自害したとなると、単に金で雇われたという可能性は少なそうですね」

「ああ。金を得るために死ぬ人間はいない。それに、奥歯に毒を仕込み、いつでも自害できるようにしていた点から考えて、雇い主に相当の忠誠を誓っていると考えられる」

 ユリウスの言葉にハリオは頷いた。話についていけないサーシャを置き去りにし、2人は話を続ける。

「サーシャ様が狙われたのはなぜでしょう?」

「昨日、こいつにも言ったが可能性は2つある。1つは第二王子の想い人だから。もう1つは動物の声が聞こえるから。前者だった場合、俺は、こいつがいるため仕事が手につかないことになっている。つまり、ヴォルス将軍をはじめ、俺を国王にしたいと考える連中が黒幕である可能性が高い。後者の場合は、俺に力を持たせたくない連中、つまり兄上を推す派である可能性が高い」

「…なるほど。黒幕は絞り込めないということですね」

「ただ、鴉の話では、見つかってすぐ、抵抗することなく毒を飲んだそうだ」

「それは…」

 ハリオの顔が青白くなる。そんな反応にユリウスは表情を変え、小さく頷いた。

「ああ。…あまりに忠誠が過ぎる」

「…どういう意味ですか?」

 ようやくサーシャが声を出した。そんなサーシャにユリウスはわかるようにかみ砕いて伝える。

「これが、抵抗をして、それでも逃げ切れなかった結果なら疑わない。拷問を恐れて自害を選んだとも考えられるから。けれど、賊は、抵抗せず自害した。どうしてか」

「どうして、ですか?」

「万が一でも捕まって、自害する術を奪われることを恐れたから、だと考えられる」

「どういう意味でしょうか?」

「つまり、万が一でも雇い主の名を話してしまうことを恐れたんだ。…その行為自体が、自分の命より雇い主を優先したことを示唆している。自分より雇い主を守る輩がこの世にどのくらいいるか。…そうはいない」

「…」

「もし、この国の軍事のトップであるヴォルス将軍の差し金だとしても、少しの抵抗もせず、自害するほど忠誠心がある部下がいるとは考えにくい。しかも2階まで壁を伝って登り、俺の剣を受け止められる腕がある人物」

「…」

「幼いころから特殊な訓練を受け、忠誠を植え付けられてきた人物」

「…そんな人、いるんですか?」

 サーシャの問いに、ユリウスは頷いた。少しだけ躊躇うそぶりを見せる。けれど、ゆっくり口を開いた。

「国王、王妃、もしくは第一王子。王族に関連する人物なら十分に考えられる」

 出された名にすぐには反応できなかった。頭がゆっくり理解をする。サーシャは、自分の身体から力が抜けていくのがわかった。

 座っていてよかった。立っていたら、きっと倒れていただろう。ようやく、ハリオの顔色の意味がわかる。

「けれど、ユリウス王子。…それはあくまで、可能性です」

 冷静にハリオがそう告げる。けれど、その声は震えていた。

「ああ。もちろん。人の気持ちは理屈ではない。それに、雇い主はその3人の誰かだとしても、指示したのは別、とも考えられる」

「…」

 目の前が白くなっていく。サーシャは離れていきそうになる意識を必死で掴んだ。倒れている場合ではない。

「…私は、どうしたら、いいですか?」

 どうしたらいいのか、考えることすらできなかった。真っ暗な世界に一人置いて行かれたような気になる。必死で袖を掴もうと、ユリウスを見た。

 ユリウスは、まっすぐサーシャを見ていた。表情もいつもと変わらない。そんなユリウスを見て、サーシャは怖くなる。先ほどまでの恐怖とはまた別の恐怖だ。

 悲しいと思った。表情すら変わらないユリウスが悲しいと。

 だからこそ、サーシャは何かしたかった。何もできないことはわかっている。けれど、できることがあるのなら、何でもしたいと思った。

「今までどおりに。いや、今まで以上に俺といろ。俺といる限り、不穏分子は鴉と俺が排除する」

「…私に、…私にできることは何ですか?」

「笑え」

「え?」

 予想もしなかった言葉に思わず変な声が出る。ユリウスは丁寧にサーシャを見て告げた。

「何事もなかったかのように笑え。こんなことどうってことない、って顔で過ごすんだ。そうすれば、相手は過激になる。過激になれば、ボロが出る」

「…」

「俺が守ってやる。だから、お前は安心して、いつもどおり笑っていればいい」

「……はい」

 サーシャは頷くと、両頬を無理やり持ち上げた。自分でもわかる不格好な笑み。けれど、それで十分だ、というようにユリウスは一つ頷く。

「ハリオ」

「はい」

「このことは、誰にも言うな。同僚だろうが、上司だろうが、誰も信じるな」

「分かりました」

「それから、俺に忠誠を誓うな」

「…ユリウス王子?」

「俺を守って死ぬな。こいつを守ればそれでいい」

 ピンと線を張ったように鋭い空気が流れた。ハリオはまっすぐにユリウスの目を見る。そして、静かに首を横に振った。

「誰に、どのくらい忠誠を誓うかは、自分の心にのみ従います。誰の指図も受けません」

「……俺に逆らう気か?」

「ええ」

 ハリオはそう言い切った。しばらくどちらも視線を外さず、どちらも言葉を発しなかった。

「…勝手にしろ」

 投げ捨てるようにユリウスが言う。そんなユリウスにハリオは笑みを浮かべた。

「承知しました」

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