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 私の名はヌイゲート・デル・ジョエサシーレ。

 この国の第三王子である。

 私には物心つく頃には既に同年の許嫁がいた。何でもこの国の創成から続く決まり事なのだそうだ。そう言われれば「ふうん」くらいの気持ちだったし、年の離れた長兄が既に立太子している以上、臣下に下る未来しかない私にとって、公爵と同等の権力を持つ彼の辺境伯になれるのは悪くない話だった。

 ……アルティエールの顔も悪くないしな。


 しかし、歳を経る毎に世の中を知っていった私は、自身が如何に高貴で尊い存在であるかを自覚し、また愛らしい女性は世間に溢れていることも学んだ。いや、顔だけならアルティエールが一番可愛い。


 顔 だ け な ら な !!!!!


 愛嬌の欠片も無い、会えば小言ばかりの婚約者を思い出し苦虫を噛み潰す。

 それに比べてレベッカ嬢のなんと慎ましく献身的で愛らしい事か。全身から私を愛していると言っているのが伝わってくる。これこそ真実の愛!

 最初こそ罪悪感に駆られたものの、この背徳感が私たちを一層燃え上がらせたと言えるだろう。

 それに私は曲がりなりにもこの国の王子。最終的に私の意思が尊重されるのは明白の事実なのだから。

 そうして幾度とレベッカ嬢と逢瀬を重ね、アルティエールと比較するほどに彼女への愛を確信していったのだが、徐々に私の可愛い人には影が落ちていった。ある日堪りかねて理由を問いただしてみれば出てくる出てくる婚約者(アルティエール)の非道な所業。

 私は決意した。こんな悪行を許すわけにはいかないと。そして好機だとも思った。これでいけ好かない婚約者を挿げ替える事が出来ると。

 天道は我にあり。今こそ愛しい姫を魔女から助け出し、正しき(王子と姫の)結末(ハッピーエンド)を迎えるのだ。

 私は勝利を確信していた。

 だからこそ、衆目の場で(あの夜に)憎きあの女に引導を渡してやったというのに、どうして……


 一体何故こんな事になってしまったのか……!


 + + + 


「おほほほほほ! 鬼は外~! 福は内~~~~!!」


 高笑いと共にアルティエールが謎の掛け声をかけると、全方位から一斉に謎の白い物体が私めがけて飛んできた。

 私は驚きのあまり目を見開いたまま硬直してしまう、すると―――


 ベショッ

 べしょべしょべちょっ!!


「痛……くはないが、な、なんだこのべた付いたものは―――」


 私が文句を言い終わる前に新たな一皿が顔面に命中


「ブ」


 口を開けていた時に顔全体に付着した事でこれがクリームだという事が判明した。


「キャーーー!? わ、私のドレスがぁぁぁ!!!!??」


 隣から上がった悲鳴でレベッカ嬢も私と同じ状況だと気付いて慌てて抗議の声をあげようとしたのだが、


 べちゃっ!


「ブホッ」


 再び顔面へと着弾したクリームに阻まれてしまった。いっ息が出来ない!?


「さぁ、皆さん! もっともっと殿下たちに幸福を(投げ)付けるのです♪ 鬼はぁ外ぉ~☆」

「「「「「フクハ~ウチ~~~」」」」」

「オイッ!! 止め……ブッ! ろっ!!」

「イヤーーーブフッ!」


 顔のクリームを拭い指揮官(アルティエール)を睨みつけようとした瞬間新たな皿が顔面着弾し、隣で絶叫するレベッカ嬢の悲鳴も同様に中断される。


「さあさあ鬼さんは逃げないと、どんどん幸福が飛んできますわよ♪」


 至極楽し気に哂うアルティエールに殺意が湧き上がるが、このままでは私たちの方が先に窒息死してしまう。私はレベッカ嬢の手を握りしめると一目散に駆けだした!


「皆さん! 鬼を逃がしてはなりません! これは殿下たちを歓迎する儀式。追いかけてじゃんじゃん福を(投げ)つけるのです!!」

「「「「オーーーーーーー!!!!!」」」」


 な、何が歓迎の儀式だ! ここにいる全員打首にしてやるっ!!!


 大量に押し寄せてくる民衆から逃げつつそう決意するものの、多勢に無勢、まずは体制を整えねばどうする事も出来ない。


 泣き出したレベッカ嬢の手を引き、宥め励ましながら私は走った。

 徐々に愚民どもとの距離は開いていく。よし、いいぞ! 何処か隠れる所は無いものか……


 そう思った所で私の視界に『辺境の名湯はこちら⇒』という看板が目に入った。

 温泉か、有難い!! この散々たる有様を綺麗に出来ると私は進路を決定する。矢印の先は繁みの奥、丁度今後ろの追っての姿が見えなくなったし身を隠すのにも都合が良い。

 ニヤリとほくそ笑んで私は案内に従って進んで行った。


 それすら誘導されていたということに気付かずに……


 + + + 


(うわ~、見事に全部引っ掛かってるじゃんウケるww)


 ワタクシの目の前には泥まみれで呆然と立ち尽くすヌイゲートと泥沼にへたり込んで泣きじゃくるレベッカ嬢。少し先には湯けむりを上げる我が領自慢の温泉。道中には『〇』『☓』と描かれた人よりも大きな紙が吊るされていて、どちらか片方が破かれていた。


「あら殿下、こんな所にいらしたんですね。急に駆けだされたので驚きましたわ!」


 白々しくも困り顔で声をかけると、油の切れたゼンマイ人形の様にギギギとヌイゲートが振り返る。あら大変、殿下の目が据わっているわ☆


(スルーされると思ってたけど、律儀に○×クイズ挑戦したんだねこいつらw)


 そうね。そうなるように挑発的な立て看板は立てましたけれど、こんなに上手くいくなんて(全問不正解とか)驚きね(マジ引くわ~)

NEXT → will be tomorrow!

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