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(天気は快晴、細工は流々、どうぞ仕上げを御覧じろってね♪)
「みんな~~~! 第三王子殿下をもてなしたいかああああ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」
高らかに突き上げた拳にノリ良く呼応してくれるのはとても良く躾けられた我が領の民たちでございます。
そしてその熱気に押されてポカンとマヌケ面を晒しているのが元婚約者の第三王子殿下とその愛人――公的な婚約の手続きをしていないため――の男爵令嬢。
「お二人とも、こんな辺境領までお出で頂き恐縮ですわ」
優雅にカーテシーをするワタクシ。ですが本日はドレスでは無く乗馬服なので裾をつまむフリで腰を落とします。
「ア、アアアアアアルティエールゥゥゥウ!!!!! いくらこの私の事が忘れられないからと強引に領地へ攫ってくるなどと恥を知り給えっっ!!!!!」
「そうですわっ!! いきなり馬車に詰め込んでこんな辺境へ連れてくるなんてっ!!!」
(呆けた後の認識がそれって、マジお目出度い輩よね~w)
同感だわアタシ――ってあらいやだ。ワタクシ優雅に微笑んでいるはずなのにこめかみが微妙に引き攣ってしまったわ。精進が足りませんね。
(熨斗つけてゆうパックしてきたのは王様なのにね~)
頼んだのはワタクシですけれどね。
ウフフ、今日までの楽しい準備期間を振り返ると自然と笑みが零れてしまいますね。
+ + +
騒ぎの夜を経て王宮を辞したワタクシは大急ぎで領地を護るお母様の下へと帰りました。
「お母様! ワタクシ、相談したい事がございますの!!」
「あらあらティーエどうしたの? 随分と早い帰りではなくて?」
勝手知ったる実家という事ではしたなくも玄関ホールに大声を響かせたワタクシに向かって中央階段から優雅に降りてくるお母様が小首を傾げました。……ほぅ。我が母ながらなんと絵になるのかしら。
「アナタが付いていながらどういう事なのかしら?」
鋭く冷気を帯びた視線がワタクシの頬を掠めて後方へと飛んでいきました。
「オ、オルガ! こ、ここここれはソノそレアノだナァ……」
背後からとっても情けない声が上がります。ええ、お父様なのですけれども。
(王様に対するのとエライ違いじゃん、ウケるww)
そうですわね。でもお母様から射竦められて平気な人間はそういないと思いますよ? かく言うワタクシも今目線を上げられません……
父娘でお母様からの威圧に縮み上がっていると、サッと我が家の有能執事長がお母様に耳打ちしました。すると無言で笑みを深めたお母様がパチンと一度手に持っていた扇子を打ち鳴らし、合わせて威圧が増しましです!ひぃぃ!!
「オホホホ、とっても面白い事になっているみたいねぇティーエ。それで? 相談したい事ってなあに?」
「ハッ! そうでした!! お母様、少し長くなりそうなので談話室へ参りましょう」
恐怖でうっかり本題を忘却するところでした!
ワタクシは使用人たちに指図をしつつお母様と歩き出しました。
「……アナタもいらっしゃい」
「はい……」
お父様……どさくさ紛れに逃げようとは下策でしてよ。
しょんぼりと小さくなった家長がトボトボと最後尾にくっつき仲良く談話室へ。
―――かくかくしかじか、という訳でお母様にも協力して頂きたいのですが……
「まぁ、なかなかに興味深い提案ね! ……そうねぇ、ここをこうすればもっと素敵な催しになるのではないかしら?」
「確かに! 流石お母様ですわ♪」
うふふふふふ
母娘で顔を見合わせて和やかに笑い合っていると、何故だかお父様の短い悲鳴が混ざりました。強行軍での帰宅でしたからお疲れなのでしょう。
「さ、アナタ。わたくしとティーエはこれから準備で忙しくなりますので、アナタが今の話を陛下へ打診してきてくださいませ」
だというのにお母様は容赦がありませんね。ええ、物申したりなどという愚行はいたしませんとも、ワタクシもまだ命が惜しいですから。申し訳ございませんがお父様、生温かい眼差しで見守らせて頂きます。
「わたくしの選んだアナタですもの、一刻でも早く王城へ駆けてくださると信じておりますわ」
「イエスマム!!!!!!」
脱兎の如くお父様が飛び出していきました。……お父様、お父様の尊い犠牲忘れませんわ。
+ + +
(いやぁ、てんやわんやで楽しかったわ、ビバお祭り☆)
アタシの記憶があったからこそです。感謝してますわ。
(いや~照れるじゃん~~~///)
軽く笑ってからワタクシは改めて集まってくれた領民の顔を見回します。
【婚約は白紙に戻りましたが、第三王子殿下の益々の発展とご活躍、幸福をお祈りする為、我が領地を上げてのお祭りを開催します】
なんて馬鹿げたお触れに快く参加して下さった皆様です。慈愛に溢れた表情でワタクシを見守ってくれています。ワタクシ、愛されますね。良き民をもって幸せです。
「ええ殿下。ワタクシたちの縁は繋がりませんでしたが、これまで連れ添った中ですもの。ワタクシ、心から殿下に幸せになって欲しいと思っておりますの」
ギャーギャー喚くボンクラ野郎にワタクシも慈愛の微笑みをくれてやります。そうしたら横のメス豚も鳴きだしましたけれど黙殺です。
「その為に今日は趣向を凝らしてお二人をおもてなししますわ♪ 領地を上げて歓迎しますので楽しんでいってくださいましね」
「ハンっ!誰があんたの言う事なんか聞くっていうの? 私は彼と結婚するの!王族になるのよ!!」
「あら残念。最後には歴史的価値のある記念品も用意してございましたのに……」
ピクリ。レベッカ嬢の耳が反応したのを見逃しませんよ!
「フラれたあんたに情けをかけてあげるんだから感謝なさい!!」
「ア~ハイハイキョウエツシゴクニゾンジマスワ~」
(眼の光が消えてるぞワタクシ~)
ハッ!? ありがとうアタシ! 思わず脳内で5回程処してしまいましたわ……。
お愉しみはこれからですもの!! ちゃっちゃと開幕いたしましょう☆
「極東に伝わる厄払いのお話を仕入れまして。何でもそれを行う事で福を呼び込み厄を払う事ができるのだとか。誰でもできる簡単な儀式でしたので、まずはそれを模した催しで殿下方に幸福を沢山つけて頂こうと思います。殿下とレベッカ嬢がオニをやってくださいね」
「オニとはなんだ?」
「この儀式の主役です」
「なるほど私に相応しいな」
(適役ですよん♪)
「皆さん、祝詞は覚えましたね? オニハソトー、フクハウチーですわよ」
「教会で祈るより簡単でさぁ!」
口々に皆が頷き合います。
よし、準備は整いましたね。
これまでの想いをいっぱい詰め込んだ持て成しを堪能していただきましてよ!
ワタクシがスッと手を掲げると、心得たとばかりに領民たちが手の平に白くて平たい物を持ちました。そうしてじりじりと殿下と愛人に近づいていきます。
当の二人は物騒な物などないので始めは訝し気にその様子を見やり、しかし徐々にただならぬ気配を感じて後ずさりし始めました。でも残念。後ろにも回り込んでますよ♪
「な、なななな何をするつもりだ!!?」
「厄払いですわ!」
(せ~のっ!!!)
鬼 は 外 ~ !!!!!!
更新予約を一度全部取り消して、大幅加筆修正……
短編……これは短編……