この世界は間違っている!、、、、多分、
眼界に広がる人々の営みの灯火が一瞬、俺の目をくらませる。
俺以外誰もいない高層ビルの屋上には、ただ俺の疲れ切った呼吸と
夕方から突如降り始めたうっとうしい雨の音だけが響き渡っていた。
俺は、左手の腕時計に視線を向ける。
5分後には、俺の部下がヘリコプターで向かいに来る手はずだ。
俺はまだ死ぬ訳にはいかなかった。
俺にはまだこの世界でやらなくちゃいけないことがたくさんあった。
守りたいものがあった。もう一度会いたい人がいた。壊さなければならない悪があったーーー
もう一度、左手に目をやる。
針は、先ほどと全く同じ位置にあり、動く気すら感じられない。
屋内で戦っている俺の仲間はどうなったのだろう。
コツ、、、コツ、、コツ、
静寂が支配していた空間に突如、階段を何者かが上る音が響き渡る。
ついに敵がここまで来てしまったのだろう。
俺は覚悟を決め、天を仰いだ。
足音が不意に止まる。
キィィィーーーーーー
ゆっくりと金属製の重厚な扉を開ける音が響き、警官のような服装の若い男が一人姿を見せた。
高身長でいやなくらいに姿勢の正しい立ち姿に、どうしてだろう、俺は少しノスタルジーを感じた。
「君がボスか、、、下にいた君の仲間は大方片付けさせてもらったよ。もう15分もすれば完全に掃除が完了するだろう。」
このいらつくほどハキハキとしたしゃべり方にもなぜか懐かしさを感じた。
「よくここが分かったな。」
「僕の勘はなぜかよく当たるんだよ、昔からね。」
ピカッ、、ドッカーーーーーーーーーン
突然、眩しすぎる閃光と鼓膜を破るかのような爆音が同時に訪れた。
20メートル先にある避雷針が大きく揺れていた。
それと同時に、俺は彼、そう、三日月ハヤテのことを思い出していた。
この正しすぎる姿勢、ハキハキとしたしゃべり方、そして、よく当たる勘。
目の前の男は、まさにハヤテだった。ハヤテでしかなかった。
どうして今まで彼のことを忘れていたのだろう。
いや、心の底ではずっと彼のことを思い続け、今日まで生きてきたのかもしれない。
ハヤテは、俺の最初にして最後の友達だった。