9話 トイレを作りました
まだまだ改善しないといけないところはたくさんありますが……
ひとまず衣食住はなんとかなりました。
なので、次はその他のことをなんとかしたいと思います。
ズバリ。
私が今一番気にしていることは……トイレです!
「……あう」
ちょっと恥ずかしくなりました。
それはともかく。
今の家は寝るスペースと、小さな囲炉裏しかありません。
トイレがないんですよね。
なので用を足す時は、外に出て茂みの奥で……という感じです。
不衛生ですし……
なによりも恥ずかしいです。
ものすごく恥ずかしいです。
誰もいないのはわかってるんですけど、でもでも、ついつい周囲を見回したりして……
何度も何度も確認したりして……
落ち着くことができないんですよね。
毎回、トイレに行く度にそんな思いをしていたら体がもちません。
なので、トイレを作ることにしました。
「え? トイレも錬金術で作れるの?」
アンジェラさんにトイレの話をすると驚かれてしまいました。
「いえ、作れませんね」
自動で水を流す機構。
下水設備。
脱臭装置。
必要なものがたくさんありすぎて、かつ大規模なので、さすがに錬金術でも完璧なトイレを作ることはできません。
でも、そこそこマシなトイレなら作れると思うんですよね。
きちんと仕切りがあって、不衛生ではなくて、落ち着いて用が足せるようなトイレ。
それが私の理想のトイレです!
……理想のトイレって、なんていうパワーワードでしょうか?
「アンジェラさん。他の家には誰も住んでいないんですよね?」
「ええ、そうね。この村にいるのはあたしたちだけよ」
「なら、家の一つをトイレに改造しても問題ないですよね」
私は爆弾を手に外に出ました。
「えっ? それ、爆弾よね……? どうするわけ?」
「まずは、トイレ用の穴を掘ります。手作業で掘るのは面倒なので、これでどかーんとやって、穴を作ります」
「大雑把なのね……錬金術師って、みんなナインみたいにめんどくさがりやなのかしら?」
「失礼ですね。私はめんどくさがりやなんかじゃありませんよ。効率を考えた上で、爆弾を使うことにしたんです。楽をしたいわけじゃありませんからね?」
ホントですよ?
「というわけで……どかーん!」
爆弾を点火して、他の空き家へぽいっ。
どかーん!!!!!
家が吹き飛んでしまいました。
「……ちょっと威力が強すぎたみたいですね」
「強すぎよ! 跡形もなく吹き飛んじゃったじゃない」
「あ、あはは。失敗はつきものですよ。ほら、失敗は成功の母と言いますし……次はちゃんとやりますよ。もっと威力を絞ります」
「大丈夫かしら……?」
あう。
アンジェラさんの視線が痛いです……
今度は失敗できませんね。
威力を調整した爆弾を作り……
再び投擲!
どかーん。
「あら、今度はいい感じね」
アンジェラさんの言う通り、いい感じの爆発が起きました。
家が吹き飛ぶこともありません。
中を覗いてみると、深さ3メートル、幅1メートルくらいの穴ができていました。
うん、ちょうどいい感じですね。
「これからどうするの?」
「まずは、こうします」
先日、家の補修で余った木板を使い、穴をテキパキと塞いでいきます。
ただ、完全に塞ぐことはしないで、中央に穴を開けておきます。
ここで用をしてもらう、というわけですね。
ただ、これだけだと今までとあまり変わりません。
なので、穴の中に今しがた作成した、とあるものをたくさん放り込みます。
「今入れたのは?」
「排泄物を肥料に変えてくれる薬ですね!」
見た目は炭。
でも、その効果は排泄物を肥料に変えてくれるという、全国の農家さんがこぞって欲しがるアイテムです。
「これを入れてしばらくすれば、ここの土は農作物が育つ豊かな土地になりますよ。そうなれば、トイレの場所を変更して、ここで作物を育てることが可能になります」
「す、すごいのね……」
「えへんっ! 錬金術師は、常に二手三手先のことを考えているんですよ」
「いえ、あたしが言いたいのは、えっと……そういうものを利用して農作物を作っちゃうところなんだけど。汚くない?」
ア、ソウイウイミデスカ。
うーん。
そう言われると、確かに抵抗感が出てきてしまいますね。
一応、私も乙女。
できることなら清潔に……
って、流されたらダメですよ!
「普通の農家は、こういうことをして農作物を育てているんですよ? まあ、ちょっと違うかもしれませんが……基本は似たようなものです。そこに嫌悪感を示していたら、ここでやっていくことなんてできません」
「それもそうね……あたしが間違っていたわ。ごめんなさい」
「いえいえ。わかってくれてうれしいです」
アンジェラさんが納得してくれたところで、作業の続きをします。
小屋の中を綺麗にします。
清潔にしていないと、虫が寄ってきたりしますからね。
トイレの最中に虫なんてでたら、私は悲鳴をあげる自信があります。
その悲鳴をきいて、アンジェラさんやシンシアちゃんが駆けつけたりしたら……?
とんでもない惨事になってしまいます。
大惨事です。
そんな事態を避けるために、きっちりと掃除しておきました。
まあ、小屋がボロボロなので限界がありますが……
ひとまず、これでよしとしておきましょう。
それから木板を接着剤でくっつけて、小屋の補強をします。
壁の穴を塞いで、腐りかけている柱を覆うようにぺたぺたと貼り付けていきます。
これでよし。
すぐに倒壊することはないでしょう。
最後に……
「じゃーん、これを設置します」
私は20センチメートルくらいのガラスケースを取り出しました。
中には1センチメートルくらいの透明な小さな球がたくさん入っています。
そのガラスケースを四つ。
それぞれ四隅に設置します。
「それは?」
アンジェラさんが不思議そうな顔をしました。
まあ、それも仕方ありませんね。
見ただけでは用途はさっぱりわからないと思います。
「脱臭剤ですよ」
「だっしゅーざい?」
「イヤな臭いを消してくれる便利アイテムです。トイレだから、どうしても臭うじゃないですか? でも、それはイヤなので……コレを設置しておけば、極限まで臭いを抑えることができるんですよ」
「へえ、そんなものが。それも錬金術で?」
「はい!」
「すごいのね。錬金術って、ホントに万能なのね」
「ふっふっふ、そうなんですよー。錬金術はすごいんですよー」
錬金術大好きっ子としては、アンジェラさんの言葉は、自分が褒められたみたいでうれしいです。
まあ。
錬金術というよりは、なんでも作ることができる賢者の石がすごいんですけどね。
それは言わずが花というヤツですね。
「というわけで……トイレの完成です!」
まだまだ簡易版のトイレですが……
それでもだいぶマシになったんじゃないでしょうか?
これで草むらでトイレをする生活からおさらばです!
「……」
「どうしたんですか、アンジェラさん?」
「あ、ううん。すごいものを作るなあ、って……トイレに感動していたの」
トイレに感動……またまた新しいパワーワードが生まれましたね。
「えっと……それで、アンジェラさん。ちょっと家に戻っていてくれませんか?」
「え? どうして? せっかくだから、もうちょっと見ていたいのだけど……」
「それはですね、その……」
もじもじ。
「実は私、さっきからずっと我慢していまして……ものすごくトイレに行きたいんです!!!」
この村に来てから一番恥ずかしい告白をする私でした。
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