7話 名前はレオンとハルです
森の王とその奥さんを飼うことに、アンジェラさんは最初は反対していました。
まあ、わからないでもありません。
いきなり魔物を……しかも3メートル超えの狼を飼うと聞けば、すぐに納得できないでしょう。
拾ってきた場所に戻してきなさい……
なんて言われるんじゃないかと、私は気が気じゃありませんでした。
この時、私はすっかり森の王と奥さんに感情移入していました。
だって、仕方ないじゃないですか?
身体は大きいですが、二匹とも人懐っこくてかわいいですし……
なによりも、もっふもふのふさふさなんですよ!?
もふもふのふさふさ!
大事なことだから二度言いました。
その魅力に、私の心は一発でノックアウトです。
そんな私の味方になってくれたのはシンシアちゃんでした。
シンシアちゃんは物怖じすることなく、森の王と奥さんを見ると、とびっきりの笑顔を浮かべて抱きつきました。
そのまま、わしゃわしゃと二匹の頭を撫でました。
アンジェラさんは、あわわわ、と慌てていましたが……
二匹はとてもおとなしくしていました。
さらに、シンシアちゃんが撫でやすいように、頭を下げていました。
そんな光景を見て、アンジェラさんも二匹が危険でないと理解してくれて、飼うことを許してくれました。
こうして、森の王とその奥さんは、私たち家族の一員になりました。
そこで、森の王の名前をつけることにしました。
森の王さん、なんて呼んでいたら面倒だからです。
でも、もしもすでに名前がつけられていたら面倒なことになります。
なので、森の王に尋ねることにしました。
「ねえ。一つ聞きたいのですが、あなたはすでに名前を持っているんですか?」
「オン?」
首を傾げられました。
むぅ……
森の王というくらいだから、人語を理解していてもおかしくないと思ったのですが……
そうそううまくはいかないみたいです。
残念。
「ナイン」
私は自分を指さして、そう言いました。
「アンジェラ、シンシア」
続けてアンジェラさんとシンシアちゃんを指さして、そう言います。
それから森の王を指さします。
「……ムフゥ」
森の王は首を横に振りました。
すでに名前がついているのか、いないのか。
私の聞きたいことを察してくれたみたいです。
言葉は通じないですが、頭のいい子です。
いい子いい子。
「ワフゥ……」
「グルルルゥ……!」
「キャンッ!? キャンキャンッ!」
奥さんに睨みつけられて、森の王は慌てて言い訳するような鳴き声をあげました。
奥さんに頭があがらないみたいです。
というか……
私はただ撫でていただけなのに、それなのにヤキモチを妬いてしまうなんて。
仲が良いんですね。
でも、ちょっとヤキモチ妬きみたいですね。
安心してください、奥さん。
あなたの旦那さまを寝取るつもりなんてありませんよ。
私はNTRが大嫌いですからね。
おっと、話が逸れてしまいました。
森の王と、その奥さんに名前をつけないといけませんね。
というわけで、会議です。
「というわけで、どんな名前がいいと思いますか?」
アンジェラさんとシンシアちゃんに相談します。
「ポチとタマ!」
シンシアちゃんが元気よく答えました。
ポチはともかく、タマは猫の名前だと思います。
あと、シンシアちゃんがポチと発言した時、森の王がものすごくイヤそうな顔をしたので、申し訳ないですが却下です。
「うーん、そうね……森の王がカゲマルで、奥さんがシロマルとか?」
「おぉ、なかなかいいですね」
森の王は黒い毛が多いです。
対する奥さんは白い毛が多いです。
いい名前だと思いますが……
「ワフゥ……」
肝心の森の王の反応はいまいちでした。
うーん、悪くないと思うんですが……
もしかしてこの子、けっこうわがまま?
「お姉ちゃん、ダメだよー」
シンシアちゃんがアンジェラさんいダメ出しをします。
「どっちもマルがつくと、見分けづらいよ」
「あ……それもそうね」
森の王が同意するように頷いていました。
なるほど。
言われてみると、呼び名が似ていますね。
いざ呼ぶ時になると、どちらがどちらなのか混乱してしまいそうです。
「ナインは?」
「うーん、そうですね……」
考えます。
考えます。
考えます。
「ワンとにゃん?」
「えっと、それは……」
「わーっ、かわいい!」
シンシアちゃんは同意してくれますが、アンジェラさんには微妙な顔をされてしまいました。
ええ、わかりますとも。
自分で言っておいてなんですが、こんな名前はありませんよね。
私、ネーミングセンスがゼロなんでしょうか……?
ちょっと凹んでしまいます。
「わふぅ」
森の王が小さく鳴きました。
気にするな、と言ってくれているみたいです。
優しいですね、お前は。
「あっ」
その時、ピーンと閃きました。
「レオンとハル……なんてどうでしょうか?」
「レオン……ハル……うん、いいんじゃない?」
アンジェラさんの同意は得られました。
シンシアちゃんも、キラキラと目を輝かせています。
さてさて。
肝心の森の王と、その奥さんは……?」
「オンッ!」
力強い鳴き声。
それでいい、と言っているみたいでした。
「決まりですね。今日からあなたたちは、レオンとハルですよ」
二匹の頭をなでなでします。
気持ちよさそうに目を細めていました。
身体はとても大きいですが……
すごくかわいいですね。
なんだか猫みたいです。
「ところで、どうしてレオンとハルなの?」
アンジェラさんが疑問顔で尋ねてきました。
「私、錬金術の勉強のために色々な本を読んでいるんですけど……たまに、息抜きに勉強と関係ない本も読むんですよ。そこで読んだ物語で、レオンとハルっていう、仲睦まじい主人公とヒロインが出てきて……そこから名前をとりました!」
「なるほどね。ふふっ、いいんじゃないかしら? とてもナインらしい名前だと思うわ」
「はい、ありがとうございます!」
レオン。
ハル。
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