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6話 森の王と出会いました

 家の補修で調合を繰り返したため、賢者の石の在庫が少なくなってきました。

 そこで私は、太陽の花を採取することにしました。


 アンジェラさんに森に行くことを伝えると……


「言い忘れていたんだけど……森の王に気をつけてちょうだい」

「森の王……ですか?」

「あの森に住んでいる魔物のことよ。他の魔物とは違って、体が大きくて知能が高いと言われているわ。力も強くて、森を縄張りにしているらしいの」

「そんな魔物がいたんですか」

「できるなら、森に入らないでほしいんだけど……」

「うーん。それはちょっと難しいですね。あの森でしかとれない素材があるので。それがなくなると、けっこうピンチです」

「そう……」

「大丈夫ですよ。今までそんな魔物に出会ったことはないですし、こう見えても、私強いんですよ?」

「そうなの? 失礼かもしれないけど、とてもそんな風には見えないのだけど……」

「腕力がある、っていうわけじゃないですからね。ただ、錬金術で爆弾とか作っているので。そこらの魔物が襲ってきても返り討ちですよ」

「……ちょっと前に、ナインが森に行った時に聞こえてきた爆発音はソレだったのね」


 なぜかアンジェラさんがひきつった笑いを浮かべた。


 もしかして、私のこと爆弾魔だと思っていませんか?

 やたらめったら爆破なんてしませんからね?

 必要だから、爆弾をばらまいているだけですよ?


 ……あれ?

 傍から見れば爆弾魔とあまり変わりないかも?


 き、気のせいですね、うん!


「というわけで、行ってきます!」

「気をつけてね? もしも森の王にあったら、すぐに逃げるのよ」

「あはは、大丈夫ですよ。そんなのが現れても、返り討ちにしてやりますよ!」


 なんてことを口にしていた私ですが……


「グルルルゥ……!」


 森に入って少し。

 身の丈3メートルはあろうかという、巨大な狼のような魔物と遭遇した。


 これが森の王……?


 無理。

 無理です。

 こんなものを返り討ちにするなんて、絶対に無理です!


 軽口叩いてごめんなさい!

 謝るからなんとかしてくれませんか、神様!


 私はわりと本気で祈りましたが、事態が好転するわけではなくて……

 森の王は牙を剥いて、唸り声をあげました。


「むぅ……!」


 タダでやられるつもりはありません。

 私は賢者の石で作成した、特製爆弾を手にしました。


 死なばもろとも。

 いざとなれば、こいつで一緒に吹き飛ばしてやりましょう。


「グルゥ……」


 森の王が怯んだように、一歩、後ろに下がりました。


 あれ?

 もしかして脅しが効いている?


「や、やるつもりですか!?」

「グルルルゥ……」


 森の王は立ち去りません。

 でも、威嚇は続けます。


 襲いかかってくる様子はありませんね……?

 というか、敵意が感じられません。


 どういうことでしょうか?

 不思議に思い、じっと森の王を観察してみます。


 すると、森の王が傷ついていることがわかりました。

 ふさふさの毛に隠れて見えませんでしたが、あちこちに傷があります。


 いったい、なにが……?


 不思議に思っていると、もう一匹、大きな犬が現れました。

 失礼。

 狼ですね。

 森の王の伴侶と思わしき狼が現れました。


 その瞬間、ピーンときました。


 森の王は彼女を何者からか守っていたのでしょう。

 そして怪我を負った。

 そんな時に私と出会い、戦う力が残っていないけれど、奥さんを守るために必死になって立ち向かおうとしたのでしょう。


 うるっ、と涙腺が緩んでしまいます。

 泣いてしまいそうです。

 私、こういう話には弱いんですよね……


「ちょっとまっていてくださいね」


 私は爆弾をしまい、代わりに小型錬金釜を取り出しました。

 賢者の石をぽいっ。

 調合薬をぽいっ。


 錬金棒でぐーるぐーる。


「完成! どんな傷も治してしまう傷薬です!」


 塗り薬だけど、傷口に染みるということはありません!


 ……あれ?

 塗り薬ということは、私が直接塗らないといけない?


「グルゥ……」


 怖い。

 すごく怖いです。


 でも……


 怪我をしながらも奥さんをかばう姿を見ていると、なんていうか、どうにかしないと! という気持ちになってきて……


「じっとしててくださいね?」


 私はおもいきって森の王の近くに歩み寄る。


 意外というか、森の王はおとなしくしてくれていた。

 奥さんもじっと見つめているだけだ。


 私は傷薬を森の王の体に塗りつけていく。

 染みることはないと思うけれど、それでも、なるべく痛みを感じないように丁寧にそっと……

 優しくなでるように傷口に薬を塗り込みました。


「グルゥ……?」


 効果はすぐに現れて、森の王の傷口は全て塞がりました。

 森の王は不思議そうに唸りました。


 ……あれ?


 っていうか、ここで森の王を元気にしたら、私はパクリと食べられてしまうのでは……?

 今更ながら敵に塩を送っていたことを自覚して、サアアアァと顔を青ざめます。


 ど、どどど、どうしましょう!?

 やっぱり爆弾!?

 賢者の石を素材にした特製爆弾で全てを吹き飛ばしましょうか!?


 あわあわと慌てていると……


「クゥーン」


 森の王は甘えたような鳴き声をあげて、くるりと反転。

 ハッハッハッ、と舌を出しながら、私にお腹を向けてきました。


 えっと……これは、完全服従のポーズ?


 試しに、森の王のお腹をなでなでしてみます。

 あっ。

 ふさふさですっごく気持ちいい。


「オンッ!」


 森の王が元気よく鳴きました。

 奥さんも追随するように鳴きました。


 えっと……

 よくわかりませんが、懐かれてしまったみたいです。




――――――――――




 その後、太陽の花を採取して村に戻りました。


「ナイン、おかえ……りぃ!!!?」


 出迎えてくれたアンジェラさんの声がひっくり返りました。

 無理もありません。


「「オォンッ!!」」


 森の王と、その奥さんが一緒ですからね……

 驚いて当たり前、というものです。


「ちょっ……ナイン、どういうことなの!?」

「えっと……色々あって、怪我を治してあげたら懐かれちゃいました。それで、私の傍を離れなくて……今日からこの子たちも一緒でいいですか?」

「わぁ、ワンちゃんだぁ♪」


 喜ぶシンシアちゃんとは正反対に、森の王を使役してしまうという私のとんでも技を目の当たりにしたアンジェラさんは、白目を剥いてしまうのでした。


 めでたしめでたし……なわけありませんね。


 なにはともあれ……

 こうして、新たしい家族が増えるのでした。

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