5話 家を補修しました
次は住をなんとかしないといけません。
でも、私は建築技術は持っていません。
アンジェラさんもシンシアちゃんも、同じく、そんな技能はありません。
材料は錬金術でなんとかなりますが、家を作るとなると難しいです。
なので、今は一から作ることは諦めて、今ある家を補修することに専念することにしました。
錬金術で、水に強く耐久性があり、なおかつ軽いという夢のような木板を作成しました。
釘と金槌も作成して、いざ、家の補修開始です!
――――――――――
「失敗しました……」
開始10分。
なんということでしょう。
そこには釘が斜めに刺さり、めちゃくちゃに貼り付けられた木板が!
「これは……ひどいわね」
「うん、ひどいねー」
「うぐっ」
アンジェラさんとシンシアちゃんの言葉が胸に刺さります。
思わずその場に倒れてしまいそうになりました。
「あっ……!? ご、ごめんなさい、つい本音が……」
「慰めているのかトドメを刺しにきているのか、どっちなんですか……?」
「も、もちろんフォローしているのよ?」
アンジェラさんはひきつった顔で笑う。
「ほ、ほら。見た目はひどいけど、一応、穴は塞ぐことができたから……あっ」
釘がしっかりと刺さっていなかったらしく、アンジェラさんが触れると、木板はぽろりと落ちてしまいました。
「……」
ものすごい気まずい空気が流れました。
「ナインお姉ちゃん……ふぁいと、だよ♪」
シンシアちゃんが慰めてくれますが……
今はとても心が痛いです。
穴があれば入りたい!
「とまあ、現実逃避をしているわけにはいきませんね」
どうにかして家の補修をしないといけません。
倒壊の危機もありますし……
あと、雨が降ると大変なことになってしまいます。
空を見上げます。
運の悪いことに、雲行きが怪しいです。
今すぐにという雰囲気ではありませんが、今夜あたりに雨が降ってもおかしくありません。
「うーん、どうしましょうか?」
「別に無理して補修することないわよ? あたしたちは今までこの家で暮らしてきたから、別に文句はないし……あっ、でもナインまで巻き込むのはまずいか」
「いえ、ここで引き下がると、錬金術は家も直すことができないのかと思われてしまうのがイヤで……錬金術はなんでもできて、本当にすごいんですよ?」
「それはものすごく理解しているつもりだけど……」
「本当ですか?」
「もちろんよ。あたしもシンシアも、あのまま死ぬばかりだと思っていたのに……ナインったら、たったの一日であたしたちを治しちゃうんだもの。ナインはとてもすごいわ」
「いえ、すごいのは私ではなくて錬金術なんですけど……まあいいです」
どうも、アンジェラさんやシンシアちゃんは、錬金術ではなくて私個人の能力を評価しているみたいです。
私は一般的な錬金術師で、そんなに大したことはないんですけどね。
んー……でもでも、賢者の石を生成できたから、それなりにすごい錬金術師と名乗ってもいいのでしょうか?
んふふー。
そう考えると、ちょっとうれしくなってきました。
「どうしたの、ニヤニヤして?」
「はっ!? いえ、なんでもありません」
ついつい妄想に浸ってしまいました。
反省。
さて。
気を取り直して、この家をどうにかしないといけませんが……
どうしましょうか?
木板は用意することはできます。
しかし、技術がないため、釘で打ちつけることができません。
私たちだけでなんとかしようとしたのがいけなかったのかもしれません。
餅は餅屋。
街へ赴いて、プロの方を呼びましょうか?
お金は……まあ、錬金術があるので、いざとなれば金塊を渡せばなんとかなるでしょう。
お釣りはいりません、とっておいてください。
うん。
一度は言ってみたいセリフですね。
とはいえ、そこまでしてご足労いただいたのに、やる仕事は今にも倒壊しそうな小屋の補修。
職人魂を傷つけるというか、バカにしているようではばかられますね。
やっぱりなしです。
本当に職人さんを呼ぶとしたら、一から家を建てる時だけにしましょう。
そうしましょう。
となると、私たちだけでなんとかしないといけませんが……うーん。
釘を打つのは意外と技術が必要なんですよね。
打つとかそういうのではなくて、ただ貼り付けるだけで木板がくっついてくれるなら……
「あっ、そっか」
「どうしたの?」
「ふっふっふー、いいことを思いつきました」
私はドヤ顔をして、さっそく小型錬金釜を取り出しました。
賢者の石をぽいっ。
調合薬をぽいっ。
そして、ぐーるぐーる。
ぼんっ。
「なんでも接着剤のできあがりです!」
「なんでも接着剤?」
「わー、なにこれ? ねばねばしてるー」
シンシアちゃんが興味深そうに、接着剤を木のヘラでかき回していました。
「どうせ補修なんだから、そこまで本格的にする必要はなかったんですよね」
「と、いうと?」
「接着剤でぺたり、とくっつけます」
「そんな簡単にいくの……?」
「大丈夫ですよ。この接着剤は特別製ですから、木と木を強固に接着することができます。ちょっとやそっとのことじゃはがれませんよ」
「へえー。そんなものを作るなんて、ホント、ナインはすごいのね。尊敬するわ」
「わわわっ、尊敬するなんて……」
どうしましょう?
そんなことを言われたのは初めてです。
ついつい顔が赤くなってしまいます。
「ふふっ、ナインの照れ顔いただきね」
「いただきましたー」
「も、もうっ」
アンジェラさんとシンシアちゃん姉妹が意地悪に笑います。
でも、こういう空気は悪くありません。
むしろ、好きです。
二人ともっと仲良くなることができたというか、距離が縮まったというか……
そんな気がして、とてもうれしいです。
「それじゃあ、がんばって補修をしましょう!」
「「おーっ!!」」
木板に接着剤を塗り塗り。
穴を塞ぐように貼り貼り。
天井の穴は、錬金術で新たに踏み台を作成して、それを使い塞ぎました。
そして……
「やりましたっ、完成です!」
少し不格好ではありましたが、家の穴を塞ぐことができました。
ついでに、ヒビが入っていた部分を補修することができました。
これで雨が降っても安心です。
それと、すぐに倒壊する危険もなくなりました。
「……」
アンジェラさんが、じっと穴のなくなった家を見ています」
「どうしたんですか?」
「ナインって、本当にすごいのね。あたしはもう色々と諦めていたのに、それなのに、こんな風にしちゃうなんて……ねえ、どうしたらそんなことができるの?」
「それは……」
私が錬金術師だから。
錬金術師の使命は、世のため人のため……だから。
でも、今はその答えはふさわしくない気がして……
「アンジェラさんとシンシアちゃんが好きだから……でしょうか」
「あたしたちのことが……?」
「出会って間もないですけど、私、お二人のことが好きですよ。だから、色々としてあげたくなるんです。私、別に聖人君子っていうわけじゃないので……好きでもない人にここまでしませんよ」
「……もう、そんなことを言われたらどうしていいかわからないじゃない」
「笑ってください」
私はにっこりと笑う。
「アンジェラさんの笑顔が、私にとって最高の報酬なんですよ? だから、にっこりと笑いましょう」
「ふふっ……これでいい?」
「バッチリです!」
アンジェラさんもにっこりと笑うのだった。
「おもしろい」「続きが気になる」等、思っていただけたら、
感想、評価、ブックマークをしていただけるとうれしいです。
とても喜びます。
よろしくおねがいします。