2話 賢者の石を生成しました
本日、時間をずらして3話を投稿します。
お待ちいただけると幸いです。
「うーん、暗いですね」
私は村の近くにある森の中を歩いていました。
木々が伸びていて、陽の光を遮っています。
そのせいで昼なのに夜みたいに暗いです。
なぜこんなところにいるのかというと……
村で出会った女の人……アンジェラさんの妹さんを助けるためです。
話を聞いてみると、妹さんは謎の病にかかってしまったとのことでした。
錬金術師の力は人々のために世のために。
私は妹さんを助けようとしましたが……
妹さんの病気は私の知らないものでした。
錬金術師になる過程で色々な知識を詰め込んできましたが、そんな私でもわからないものでした。
ひどい高熱と体の痛み。
発作が起きると呼吸困難。
数日前からそんな症状が続いているらしく、アンジェラさんの妹はかなり弱っていました。
でも、知らない病気だからといって、治療法がないわけではありません。
錬金術なら、どんな病気も治してしまう薬を作ることができます。
ただ、特殊な材料が必要で、手持ちにはありませんでした。
なので、材料を求めて森に入った、というわけです。
「グルァ!」
狼のような魔物が飛び出してきました。
「邪魔しないでください」
あらかじめ錬金術で作っておいた爆弾で吹き飛ばしました。
錬金術は攻撃能力も長けているんです。
そこらの魔物に負ける気はしません。
「どいてください」
「あっちいってください」
「どかーん、です」
次から次に現れる魔物を爆弾で蹴散らしていきます。
予想以上に魔物の数が多いです。
爆弾、足りるか心配になってきました。
「早く戻らないといけませんね」
アンジェラさんの妹さんは、かなり弱っていました。
急がないと間に合わないかもしれません。
そんな焦りが私の注意力を乱してしまいました。
「あっ!?」
急な傾斜になっていたことに気が付かず、転げ落ちてしまいます。
「いたたた……ここは?」
周囲を見ると、地面に大穴が空いたような、そんな窪みに転がり落ちていました。
たぶん、地下空洞などがあって……
なにかしらの要因で崩落して、ぽっかりと穴が開いてしまったんでしょう。
足元に草木が生えていることから、穴ができたのはここ最近ではなくて、かなり昔みたいですね。
幸いというか、怪我はしていません。
やっぱり、日頃の行いがいいからでしょうか?
「って……あれは?」
よく見てみると、木々が開けていて、太陽の光が差し込んでいました。
その先に花が咲いています。
大きくて、赤くて、とても綺麗な花。
「これはもしかして……太陽の花?」
陽の光を十年浴びることで咲くといわれている花です。
普通の人は綺麗な花としか思わないでしょうが、私のような錬金術師からしたら、とんでもない奇跡が舞い降りたと思うでしょう。
この太陽の花は、伝説の錬金素材、賢者の石を作る素材になります。
賢者の石があれば、なんでも作ることができると言われています。
黄金なんて朝飯前。
不老長寿の秘薬や大量破壊兵器も作れる……らしいです。
その錬成を夢見て、世の錬金術師たちは日々研究に勤しんでいますが、未だ、誰も成功していないと聞きます。
そんな賢者の石の作成に必要な太陽の花が、まさかこんなところに咲いているなんて……
「しかも……いっぱいですね」
太陽の花は一輪だけではなくて、たくさん咲いていました。
数え切れないくらいです。
すごい。
賢者の石、何個できるんでしょうか?
「って、いけません。今は薬を作らないと!」
私は急いで小型錬金釜と錬金棒を取り出しました。
太陽の花を錬金釜へ。
そこに調合薬を入れて……
ぐーるぐーる。
ぼんっ。
「できました……これが賢者の石……」
手の平サイズの青い石です。
透き通るような透明度で、一見すると宝石のようにも見えました。
素材があったとしても、うまく作成できるかどうか、かなり微妙なところでしたが……
さすが私。
やればできるものですね。
――――――――――
「おまたせしました!」
アンジェラさんが待つボロ屋に戻りました。
……ボロ屋は失礼ですね。
やり直し。
アンジェラさんの家に戻りました。
「あっ、ナイン! 薬は!? 妹がまた発作を起こして……」
草を敷き詰めただけのベッドの上で、小さな女の子が苦しそうにしていました。
「大丈夫ですよ、安心してください。今からすぐに薬を作りますね」
賢者の石を調合することに成功しましたが、薬はまだ作っていません。
森の中だと魔物が出てくる可能性があるので、邪魔されたら困るから、一度戻ることにしました。
錬金釜をセット。
錬金棒をスタンバイ。
賢者の石を投入。
続けて、調合薬をぽいっ。
ぐーるぐーる。
「できました!」
青く輝くポーションができました。
さっそくアンジェラさんに渡します。
「さあ、これを妹さんに飲ませてください」
「わ、わかったわ!」
一度、その体で錬金術の効果を試しているからなのか、アンジェラさんは迷うことなく妹さんに薬を飲ませました。
時折、咳き込みながらも、妹さんは薬を全部飲むことができました。
賢者の石だから大丈夫。
そう思うのですが、でも、不安もあり……
私はアンジェラさんと一緒になり、妹さんの様子を見守ります。
そして……
「すぅ……すぅ……すぅ……」
ほどなくして妹さんの呼吸が穏やかになり、苦しそうにしていた顔が安らかなものに変わりました。
念のためにという感じで、アンジェラさんが妹さんの額に手を当てます。
熱はないらしく、ほっとした顔になりました。
「治っている……よかった、ホントによかったぁ……」
緊張の糸が切れたらしく、アンジェラさんは泣いてしまいました。
私は笑顔になります。
錬金術師になって、辺境開拓を任されて……はじめてのお仕事。
無事にやり遂げることができました。
誇らしい気分でいっぱいでした。
「ナインっ、ありがとう!」
「わわわ!?」
アンジェラさんに抱きつかれました。
ぎゅうっとされます。
「ナインは妹の命の恩人よ……! ううん、妹だけじゃない。あたしも助けてもらったし……ホントにありがとう、ありがとう……! この恩はいつか絶対に返すから!」
「いえいえ、そんなことは気にしないでください。恩返しとか、別にいらないですよ」
「でも、ここまでしてもらっておいて……」
「私はここの開拓を任された者ですから。アンジェラさんやその妹さんを助けるのは当たり前のことですよ。なによりも……」
にっこりと笑顔で言う。
「私は錬金術師ですからね!」
錬金術は世のために人のために……です。
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