15話 新しい住人です
「すみません!」
お昼ごはんの準備をしていると、聞き覚えのない声が響きました。
「お客さんかしら?」
「かもしれないですね」
「わたし、いこうかー?」
「いえ、私が応対しますね。一応、この村の責任者ですし」
というわけで、私は声がする方……村の入り口へ。
エルフの女の子がいました。
わあ、わあ。
エルフです。
本物です。
耳が尖っています。
さ、触りたい……!
「なんですか、その手は?」
「はっ!? す、すみません。つい、欲望に負けてしまいそうになりました」
「やはり、恐ろしい人間ですね……今も、きっと私と食べようと……」
エルフの女の子はぶつぶつとつぶやいていましたが、よく聞こえませんでした。
「こんにちは、エルフさん。私は、ナイン・イルメリアです」
「これは丁寧に……私はミリアです」
「ミリアちゃんですね」
「なぜちゃん付けなのですか?」
「え? だって……ミリアちゃん、という感じですから」
ミリアちゃんはとても小さいです。
一言でいうと、子供。
ミニマムサイズです。
シンシアちゃんのいい友だちになるのでは?
「イルメリアさん」
「あ、名前で呼んでくださって構いませんよ」
「調子が狂いますね……では、ナインさん。あなたに決闘を申し込みます!」
「え? ……なんでです?」
「しらばっくれないでください! 私は、ただやられるのを待つだけの女じゃありません。最後まで勇敢に立ち向かう、誇りあるエルフの戦士です!」
「そういう設定なんですか? かわいいですねー」
「こーらっ、頭を撫でないでください!」
ぷんぷんと怒るミリアちゃん。
うーん、怒り方も子供っぽくでかわいいですね。
なでなで。
「だから撫でないでください!」
「はっ、つい」
ミリアちゃんがかわいいのがいけないんです。
かわいいものを見たら、女の子はかわいがりたくなります。
それ、自然の理。
なので私は悪くありません。
「自然の理とは、大きく出ましたね……それほどまでに壮大な言い訳をする人、初めてみましたよ」
「それよりも……決闘って、どういうこと?」
どうも、ミリアちゃんは本気みたいです。
「まだとぼけるんですか? 私を侮っているみたいですね……いいでしょう、そのことを後悔させてあげます!」
うーん。
この場合、どうしましょうか?
本当に決闘を受けるわけにはいきませんし……
と、その時でした。
キュルルルッ、とかわいい音が鳴りました。
「……」
「……」
ミリアちゃんが真っ赤になりました。
「ち、違います! 今のは、なんていうか、その……あうあう」
「お腹空いてるんですか?」
「だ、だから違います!」
「もうすぐごはんなんですけど、よかったら一緒に食べませんか?」
「だから違うと……ごはん? ごはん、ごはん……」
ミリアちゃんがよだれを垂らしました。
「し、仕方ないですね。そこまで言われたら、断る方が失礼というもの。決闘は後回しにして、ごはんをいただくことにしましょう」
「はい、そうしましょうね♪ ごはんはみんなで食べた方がおいしいですよー」
というわけで、一名さま、ご案内です~♪
――――――――――
よっぽどお腹が空いてたらしく、ミリアちゃんはたくさんのお肉を食べました。
保存用の干し肉も食べてしまいました。
また後で狩りをすればいいので、思う存分、お腹いっぱいになるまで食べてもらいました。
その後……
話を聞いてみると、ミリアちゃんは森に住んでいるということが判明しました。
100歳になったエルフは、自分の力で新しい場所を開拓しなければいけないらしいです。
というか、ミリアちゃん、100歳だったんですね……
でも、こんなにもコンパクト。
そのギャップがたまりません。
アリです!
ちなみに私に決闘を申し込んできた理由は、私が恐ろしい人に見えたから。
失礼しちゃいますね。
こんなにもかわいい錬金術師、他にはいませんよ?
「せっかくだから、一緒に暮らしませんか?」
誤解が解けたところで……
そう言って、ミリアちゃんを誘いました。
森で一人で暮らすなんて寂しいです。
そんなことをするくらいなら、私たちと一緒に暮らした方がいいと思います。
この村は森に面していますから、森を開拓しているとも言えなくはないですし。
「え? いいのですか?」
「私は大賛成ですよ。アンジェラさんとシンシアちゃんは?」
「いいんじゃないかしら。仲間が増えることは歓迎よ」
「わーい、友だちができたー!」
「と、いうことですが……ミリアちゃん、どうですか?」
「え、えっと……」
ミリアちゃんは戸惑うような顔になりました。
私が言うのもなんですが、かなりの好条件だと思いますが……
なぜに戸惑うのでしょうか?
「どうかしたんですか?」
「その……いいのですか? 私などを受け入れて。一時は、イルメリアさんを狙おうとしていたのに……それなのに、簡単に信用するなんて」
「いいんですよ。私、人を見る目はあるつもりですから」
「ふぅ……お気楽なのですね」
ミリアちゃんが笑う。
「でも、嫌いじゃありません。あの……これからよろしくおねがいします」
「はい、よろしくおねがいします♪」
そうそう。
一つ、忘れていました。
「あと、私のことは『ナイン』でいいですからね?」
「え、しかし、長を名前で呼ぶわけには……」
「気にしないでください。だって……私たちは家族ですからね♪」




