11話 狩りをしました
こんにちは。
ナイン・イルメリアです。
そろそろパンが飽きてきました。
肉が食べたい気分です。
錬金術で作ったパンは栄養たっぷりですが、さすがにそれだけだと味に飽きてきてしまうんですよね。
贅沢な悩みと思われるかもしれません。
ただ、食で悩むということは、それだけ余裕が出てきたという証にもなります。
いいことと考えましょう。
錬金術で肉を作ってもいいんですが……
できれば、それは最後の手段にとっておきたいんですよね。
賢者の石の素材である太陽の花はまだたくさん咲いていますが……
なにか想定外のことが起きて、全部枯れた、なんてこともありえますからね。
一流の錬金術師は、常に最悪の事態を想定して動くものなんです。
えへん。
なので、余裕があるうちに自給自足を確立しておきたい、というわけです。
「そんなわけで、狩りをしましょう」
アンジェラさんとシンシアちゃん、それとレオンとハルを集めて、そう言いました。
「そうね……うん。ナインにばかり頼っていられないし、できるだけのことはしようと思うわ」
「がんばるー!」
アンジェラさんとシンシアちゃんはやる気だ。
レオンとハルは……
「ウォンッ!!!」
「オンッ、オンオンッ!!!」
こちらもやる気たっぷり。
期待していますよ。
「それじゃあ、森へ出発です!」
――――――――――
「狩り……難しいです……!」
私はがくりと膝をついて、ぜーはーぜーはーと息を荒くしていました。
うさぎを見つけては逃げられて。
野鳥を見つけては逃げられて。
鹿を見つけては逃げられて。
取り逃がしてばかりで、まるで捕まえることができません。
「はぁ、はぁ……狩りって大変なのね……はぁ、はぁ……」
「お姉ちゃん、わたし、疲れたぁ……」
アンジェラさんとシンシアちゃんも動物と追いかけっこをして、疲れ果てた様子でした。
木の棒に、私が錬金術で作った刃をとりつけた、即席の槍を杖代わりにしています。
「ワフゥ……」
レオンとハルはピンピンしていました。
さすが、森の王です。
私たち以上に走り回っていたはずなのに、体力は底なしですね。
ただ、私たちに付き合って行動していたからなのか、同じく獲物はゼロです。
「うーん、どうしましょうか……?」
このままでは獲物を狩ることができず、今日のごはんもパンという結果に……
イヤです。
もうパンは飽きました。
たまには、脂たっぷりのお肉を食べたいんですよぉ……
女の子ですが、体重なんて木にしないでお肉を食べたいんですよぉ……
「ねえ、ナイン」
アンジェラさんがこちらを見ます。
「はい、なんですか?」
「結局、またあなたを頼りにして申し訳ないんだけど……錬金術でどうにかできないの?」
「うーん……ものを作ることはできるんですけど、狩りをするとなると、なかなか難しいんですよね……」
「そっか……錬金術も万能じゃないのね」
「でもでも、期待されているのにできません、なんてことは言えません! わかりました、錬金術でなんとかしてみせましょう!」
腕を組んで、うーんと考えます。
アイディアを練ります。
「閃きました!」
「はやっ!?」
ふふーん。
一流の錬金術師は直感力に優れているんですよ。
ドヤッ。
「……ちょっとイラッとするわね」
「ひどいです!?」
いけません、いけません。
ついつい調子に乗ってしまいました。
謙虚な心を忘れてはいけませんね。
「それで、どうするの?」
「こうします」
いつも持ち歩いている小型錬金型と賢者の石をセット。
ぐーるぐーる。
ぼんっ!
「できましたっ、とりもちです!」
30センチメートルの大きなとりもちが完成しました。
「え、とりもち? よっぽどすごいものが出てくると思ったんだけど……意外と普通なのね」
「ふふーん、ところがどっこい、これはただのとりもちではありませんよ」
「そうなの?」
「まず、この前、家の補修で使った接着剤を応用しているので、粘着力は抜群です。一度捕らえた獲物は逃がしません。裏面にも軽い接着剤が使われていて、地面に置くだけではなくて、木の幹などに貼ることが可能です。これにより、鹿などの大型の動物も捕獲可能に!」
「おーっ、ナインお姉ちゃん、すごーい♪」
「さらにさらに、ほのかに良い匂いが漂っていて、獲物をおびき寄せる性能もあるんですよ?」
「なるほど、そう聞くとすごいアイテムに思えてくるわね」
「賢者の石一つで50セット作ることができるのでお得です。しばらくは、これで狩りをしましょうか」
みんなで手分けをしてとりもちをセットしていきます。
その間、レオンとハルは周囲の魔物の警戒をしてもらっていました。
獲物はすぐに引っかかるわけではないので、とりもちをセットしたら、一度引き返して……
数時間後、再び森へ。
「おー、大漁ですね♪」
うさぎ、野鳥、鹿……たくさんの獲物が引っかかっていました。
しばらくはこれで狩りをすることにしましょう。
大成功です♪
ただ……
いくつかのとりもちは、生理的に受け付けない虫がひっかかっていて……
「ぴぎゃあああああぁっ!!!?」
私は悲鳴をあげて気絶してしまうのでした。
虫……嫌いです……ぐすん。