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脇役ヒーロー

作者: こぶた


「試合終了!1-0で〇〇高校の勝ちです!」


ワァァと歓声が上がる。高校最後のインターハイ予選、僕らのサッカー部は全国大会への切符を手にした。


メンバー全員が歓喜の表情を浮かべ、相手チームの選手達は悔しさに打ちひしがれ、その誰もが泣きながらも整列し挨拶する。


「ありがとうございました!!」


その瞬間僕らのチームは喜びの感情が爆発する。


「よくやった!」


「感動した!」


「おめでとう!」


「よくがんばった!」


「全国大会、がんばれ!」


様々な声が観客席から上がる。


メンバーはそれに応えて感謝の礼をする。


僕は…その様子を応援席から見ていた。


団体競技にはよくある話、僕は「レギュラーになれずベンチ入りすら果たせなかった3年生」だった。


チームが勝つことはもちろん嬉しい。全国大会に出場することも嬉しい。この幸福な空間に居られることも。


それでもどこかで思ってしまうのだ。


"なんで僕がその輪の中に居ないのだろう?"と。


顔には出さずに「ありがとう!よくやった!」と周りと同じように喜びの声を上げる。


そしてメンバーはグラウンドを後にする。


僕も泣いていた。喜びの感情が"ほとんど"だったから。


「これで引退、伸びましたね!まだ3年生とサッカー出来るんですね!」


「あぁ、良かったよ。まだまだ引退しないからな。」


同じく応援に回った後輩と言葉を交わす。


僕はもう一度グラウンドを、四角いコートを、ゴールを見渡す。


そして思い出す。僕は「主人公(ヒーロー)」になりたかったんだ。


僕はサッカーが好きだった。

小学生の頃から同級生とよくサッカーをして遊んでいた。オフサイドの意味も知らないガキだったけれど、ずっとテレビで見たサッカー選手に憧れて日が暮れるまでボールを追いかけた。


中学校ではもちろんサッカー部に入った。

自分達の代ではレギュラーにも入って試合にも出ていた。


けれど地区大会の3回戦止まりだった。


悔しかった。自分がもっと上手ければ、強ければ、もっと練習していれば…そんな事を思った。


高校に入ったら、自分の力でもっと輝くステージに行きたい。そう思って所謂強豪校を受験し、入学した。


当然サッカー部に入った。けれど、現実はそんな僕に陰を挿し込む。


同級生達は中学の時に全国大会に出場した経験がある奴らばかりで、僕は一番下手クソだった。


がむしゃらに練習した。下手なら練習すればいい。上手くなればいい。


3年間努力してきた。


それでも周りのメンバーは僕よりももっと努力していた。


最後の大会でも僕はベンチに入ることは出来なかった。


自然と悔しくなかった。むしろ笑って「頼んだぞ!」とか「僕らの分もがんばってくれ!」とか言った。


悔しさが湧かなかったのはなんだろう?


メンバーが上手なのはわかってたし、自分の実力じゃレギュラーにはなれないだろうなって分かってた。


たぶん、諦めてたんだろう。


自分じゃ無理だって思うことで自分の心を守ってたのかもしれない。


その悔しさが、全国大会出場を決めた今になって湧いたんだ。


主人公(ヒーロー)になりたかったんだ。


あのピッチに立って決勝のゴールを決めたかった。どんな気持ちだろう。きっと「今死んでもいい」と思えるほど気持ちいいだろうな。


きっとまさに光輝いているようだろう。


僕には主人公のハードルが飛べなかった。


「努力は報われる」とか「練習は嘘をつかない」とか「ここにいる全員で勝つ」とかそういうの、嘘じゃないけど本当じゃない。


歓喜と共に悔し涙が出る奴もいる。


僕は実感したんだ。


主人公(ヒーロー)になれなかった。けど自分は本気だった。


今更悔しいなんて、全国大会に出場を決めた今になって、諦めてたくせに。


それでもそういう奴だっているんだって覚えといてくれ。主人公に本気でなりたかった脇役が居たんだってことを。




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