第1章 告示
走る暇があれば本を読んでいたいメリッサ。
友人や家族は彼女をその気にさせることができるのか?
王都イベリダから馬車で5時間ほど南西にいくと、
豊かな小麦畑が広がるエルガの村がある。
村の中心には役場や集会所や診療所、雑貨屋、食料品店、酒場等、
集会所の横の道を少し行くと小学校がある。
広場には1日1回郵便馬車が来る。
赤毛のメリッサの家は村の中心から少し離れた小川のそばにあった。
メリッサ(アルム・メルサリーナ)は15才、
両親と兄(今は家を出た)と姉の5人家族。
父は役場勤めの地方政務官で、家は村では裕福な方だった。
村の子供たちは13才で小学校を卒業すると、半分近い生徒が
町の上級学校や職業訓練校に進む。
メリッサの兄や姉も上級学校へ進み、
姉はそこで資格を取り、今は村の小学校で教師をしている。
兄はさらにウラガの専門学校に進み、
ウラガの街で建築士として働いている。
残りの子供たちのうち女の子は家事手伝いの花嫁修行、
男の子は長男は家業(たいてい農家)の手伝い、
次男以下は職人に弟子入りしたり、兵士見習いになるのが普通だった。
メリッサも小学校を出て、姉と同じ街の上級学校に進む予定だった。
ところがその頃同居していた祖母が倒れ、
母と介護をすることになった。
半年後に祖母は無くなったが、もうその頃にはメリッサは進学する気が失せていた。
家には本がたくさんあるし、わからないことは姉のアルネに聞けばいい。
窮屈な寮生活より、好きな時に好きなだけ本を読んでいられる
今の生活の方がダンゼンいい。
だから今日も朝の水やりや片付けと洗濯をすませた後、
父の本棚からお気に入りの青い表紙の本を取り出し、
庭の(父が日曜大工で作った)ベンチに座り、ゆっくりページをめくるのだった。
父の本棚にはいろんなジャンルの本が並んでいる。
小さい頃からメリッサは本を読むのが好きで
読めそうな本を片端から読んでいった。
とくに歴史や伝説、中でも『ドラゴニア伝承譚』が大のお気に入りだった。
青竜の化身の竜騎士アルディウスとミザリア姫の恋物語に夢中になった。
お気に入りのシーンは何度も読んで、そらで言えるくらいだ。
「メリッサー」
本から顔を上げる。
白い帽子に水色のワンピースのユリカがやって来る。
ユリカは同級生で1番の仲良しだった。
はっきり言って2番はいない。
ユリカは村でも裕福な農家(かなりの土地持ち)の一人娘で
愛くるしい整った顔に自慢の金色の髪、
とてもおしゃれで、自分は村の小汚い子供とは違うのだと下に見ている。
当然他の子からはうっとおしがられ、
在学中は本ばかり読んでいて変人あつかいのメリッサと
なにかと一緒にいることが多かった。
彼女は『勉強なんかきらい〜」と進学しなかった。
「今ひまー?郵便がつくころよ。広場いかない?」
「いいよ、ちょっと待って」
メリッサは本を戻し、麦わら帽子とポーチを取り
台所の母に一声かけて家を出る。
「おまたせ!」
「アルネ先生(姉のこと)そろそろ結婚するんじゃないかってウワサだけど」
「まだぜんぜん先みたいだよ」
姉のアルネも少し変わっている。
イベリダで知り合った恋人がいて休日ごとにデートしているのだが
彼の方は結婚したがっているのに、アルネには全然その気がないのだった。
『夫の世話をするより子供達に教えている方が楽しい』が理由で、
結婚したいならほかの娘を当たってと言ったが彼は諦めていないらしい。
青い麦畑にそって5分も行くと、糸杉の間に村の集落が見えて来る。
広場に着くとちょうど馬車が着いたところだった。
集会所の前に馬車が止まり、人が集まっている。
採りたての野菜や山菜を並べた露店や、
靴直しやいかけの店が出ている。
閉まっている酒場の前に数人の若者がたむろしている。
そのうちの1人がユリカに声をかけるが、ユリカは無視する。
ヒューヒューと口笛がなる。
馬車から丸めた紙を抱えた役人らしい男がおりて来る。
彼は集会所の横の掲示板に持っていた紙を貼り付けた。
すぐ人だかりができる。
「へえーっ」「これは…」
「なんだろ?」2人もかけより、人をかき分けて掲示板を見る。
『来月28日 王立イベリダ公園にて
バルディミオン王子の婚約者を決める乙女徒競走を行う』
イベントに参加する乙女50名を募集とある。
次はいつになるか…気長にお待ちください。
誤字脱字等気づいたことがあれば指摘してもらえると助かります。