九フェイズ目
1
休み時間、教室の前の廊下を体操服の集団が通る。
体育の授業のためにグラウンドへ移動しているのだ。
左から右へと通り抜けてゆくそいつらを、ボクは銃で撃ち抜いた。
もちろん、本当に撃ったわけじゃない。ボクの想像の中の拳銃で、だ。
具体的な拳銃のモデルが有るわけではない。
握りが小さく銃身が短い回転式の拳銃。
火薬の少ない弾丸で、威力も弱く距離も短いがターゲットがぶれない。
そんなふんわりとしたイメージの銃を、通り過ぎてゆく同級生たちに向けて構える。
パンッ、パンッ――
軽めの炸裂音を何度も響かせた。
しゃべりながら歩いて来る数人の集団を一フェイズとして扱い、現在、八フェイズ目を打ち終えた。
今のところ、ひとつの撃ち漏らしもなく、全てヘッドショットを決めている。
休むことなく九フェイズ目が始まる。
が、歩いてきたのは女の子がひとりだけだった。
ゆっくりとした足取りで、『体育なんか大嫌いだ』と言わんばかりにうなだれている。
あまりにも簡単な標的だった。
撃ち抜いてきた人数的に見ても、休み時間的に見ても、多分最後のひとりだ。
速度に合わせ、頭に狙いをつけ……引き金を絞る。
銃声と反動を残して、弾が発射された。
女の子の側頭部をつらぬく――瞬間、女の子は後ろへのけぞった。
弾は空を切る、女の子が右腕を振り上げた。
ストンッ!
小気味良い音を立て、ボクは眉間をつらぬかれていた。
ボクは、何重もの驚きにただ呆然とするしかない。
驚かせた張本人は、こちらに目を向けることすらせず通り過ぎていった。
ボクは眉間に刺さっているものに手を伸ばす。
もちろん、本当に刺さっているわけではない。
ボクの想像の中だけで……のはずだ。
持ち手らしき部分を握って引っこ抜いた。
彼女の投げたもの。それはクナイだった。
ボクが確認すると同時に、クナイは霧散してしまう。
眉間にユビで触れるとポッカリと穴が開いているイメージが有る。
有りもしない傷口に、想像上でバツの字形に絆創膏を貼り付けた。
イマイチ納得のいかないボクを置き去りに、次の授業のチャイムが鳴った。
授業が始まっても、ボクはずっと彼女を撃ち取ることを考えていた。
2
チャイムが鳴り、教員が教室から出ていって間もなく、体育を終えた集団が帰ってくる。
ボクは自分の席に座って廊下を通る集団を撃っている――そう見せかけて、もうひとりのボクが遠くから『狙撃』の準備をしていた。
席に座っているボクはオトリだ。
本命は、学校から五百メートル弱離れた家の屋根で銃を構えている。
この狙撃銃も、長く重く口径が大きいという程度のふわふわしたイメージだ。
何もしてこない、と油断している彼女を遠距離から撃つ。
――今度は本気だ。
体操服の集団が一フェイズ、二フェイズ、三フェイズ……と、廊下を横切ってゆく。
そして、行きと同じように、八フェイズが通り過ぎる。
すべての意識を廊下に集中させる。
待つ。
待つ。
待つ――ふと気づくと、ふたりのボクの喉元に冷たい刃があてがわれていた。
なんの前触れもなかった。
視線だけで首元を見ると、クナイを持つ白い華奢な腕が見える。
これも本当に、ボクの想像上のイメージなのだろうか?
そして、廊下にも女の子が現れた。
気だるげに歩いてきたが、突然立ち止まり、九十度カラダを回転させてボクを見る。
口元だけで軽く笑みを浮かべて、女の子は親指で首を掻き切るジェスチャーをした。
瞬間、ふたりのボクの喉は横一閃に撫で上げられる。




