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九フェイズ目

作者: ParticleCoffee
掲載日:2017/05/13

   1


 休み時間、教室の前の廊下を体操服の集団が通る。

 体育の授業のためにグラウンドへ移動しているのだ。

 左から右へと通り抜けてゆくそいつらを、ボクは銃で撃ち抜いた。

 もちろん、本当に撃ったわけじゃない。ボクの想像の中の拳銃で、だ。

 具体的な拳銃のモデルが有るわけではない。

 握りが小さく銃身が短い回転式の拳銃。

 火薬の少ない弾丸で、威力も弱く距離も短いがターゲットがぶれない。

 そんなふんわりとしたイメージの銃を、通り過ぎてゆく同級生たちに向けて構える。

 パンッ、パンッ――

 軽めの炸裂音を何度も響かせた。

 しゃべりながら歩いて来る数人の集団を一フェイズとして扱い、現在、八フェイズ目を打ち終えた。

 今のところ、ひとつの撃ち漏らしもなく、全てヘッドショットを決めている。

 休むことなく九フェイズ目が始まる。

 が、歩いてきたのは女の子がひとりだけだった。

 ゆっくりとした足取りで、『体育なんか大嫌いだ』と言わんばかりにうなだれている。

 あまりにも簡単な標的だった。

 撃ち抜いてきた人数的に見ても、休み時間的に見ても、多分最後のひとりだ。

 速度に合わせ、頭に狙いをつけ……引き金を絞る。

 銃声と反動を残して、弾が発射された。

 女の子の側頭部をつらぬく――瞬間、女の子は後ろへのけぞった。

 弾は空を切る、女の子が右腕を振り上げた。

 ストンッ!

 小気味良い音を立て、ボクは眉間をつらぬかれていた。

 ボクは、何重もの驚きにただ呆然とするしかない。

 驚かせた張本人は、こちらに目を向けることすらせず通り過ぎていった。

 ボクは眉間に刺さっているものに手を伸ばす。

 もちろん、本当に刺さっているわけではない。

 ボクの想像の中だけで……のはずだ。

 持ち手らしき部分を握って引っこ抜いた。

 彼女の投げたもの。それはクナイだった。

 ボクが確認すると同時に、クナイは霧散してしまう。

 眉間にユビで触れるとポッカリと穴が開いているイメージが有る。

 有りもしない傷口に、想像上でバツの字形に絆創膏を貼り付けた。

 イマイチ納得のいかないボクを置き去りに、次の授業のチャイムが鳴った。

 授業が始まっても、ボクはずっと彼女を撃ち取ることを考えていた。


   2


 チャイムが鳴り、教員が教室から出ていって間もなく、体育を終えた集団が帰ってくる。

 ボクは自分の席に座って廊下を通る集団を撃っている――そう見せかけて、もうひとりのボクが遠くから『狙撃』の準備をしていた。

 席に座っているボクはオトリだ。

 本命は、学校から五百メートル弱離れた家の屋根で銃を構えている。

 この狙撃銃も、長く重く口径が大きいという程度のふわふわしたイメージだ。

 何もしてこない、と油断している彼女を遠距離から撃つ。

 ――今度は本気だ。

 体操服の集団が一フェイズ、二フェイズ、三フェイズ……と、廊下を横切ってゆく。

 そして、行きと同じように、八フェイズが通り過ぎる。

 すべての意識を廊下に集中させる。

 待つ。

 待つ。

 待つ――ふと気づくと、ふたりのボクの喉元に冷たい刃があてがわれていた。

 なんの前触れもなかった。

 視線だけで首元を見ると、クナイを持つ白い華奢な腕が見える。

 これも本当に、ボクの想像上のイメージなのだろうか?

 そして、廊下にも女の子が現れた。

 気だるげに歩いてきたが、突然立ち止まり、九十度カラダを回転させてボクを見る。

 口元だけで軽く笑みを浮かべて、女の子は親指で首を掻き切るジェスチャーをした。

 瞬間、ふたりのボクの喉は横一閃に撫で上げられる。

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