はじめまして
はじめまして。
鋭狐といいます。
今回は自分の中では書きやすいであろう、恋愛モノに挑戦してみました。
このサイトで掲載するには私の文章は拙すぎますし、不定期更新ではありますが、どうぞ宜しくお願いいたします。
――高一の春。
「こんにちはー」
「おう、こんにちは」
塾舎に入って挨拶をすると、塾長である広野先生が返事をしてくれる。
私は西埜弥里。学校では、「みさと」だとか、「みり」だとかで呼ばれている。本名なので前者の方がどちらかといえば嬉しいのだが、親友の久御山菜々海は、小学校の時に読み間違えて以来、みりと呼ぶのをやめない。
「花粉ひどいねえ」
「そうですね。私、スギ花粉ダメなんでちょっとキツいです」
先生が始めた話に、笑いながら返事を返す。
……そういえば、今日の先生誰だろう。
この塾では、当日にならなきゃ先生が誰だか分からない。
というのも、授業の担当教員はほぼ固定ではあるが、教員もまだ学生。
大学での研修などで手が空かなかった時は、他の先生が代わりにやる。
そんなシステム。
だから、日替わりと言っても過言じゃなかった。
「今日の先生誰ですか?」
私が気になって聞くと、
「あ、僕です」
塾長ではなく、見覚えのない顔の男性が出てきて、答えた。
やだイケメン。
でも、誰だ?
「今日からの新しい先生。初めて持つ授業が西埜さん、あなただからよろしくね」
今度は塾長が答えた。
「あー……はい。よろしくお願いします」
新しい先生か。
別に珍しいことはない。
「はじめまして。河西恭治です。あそこの席とってるから、座っといてください」
「はーい」
指定された席は、塾舎のちょうど真ん中あたり。
この塾は基本、先生が一人、生徒が二人の1:2方式なので、席は先生が選ぶ。だから、先生にしてみれば自由。
そのせいで、席はどの季節も、エアコンが設置されていてちょうどいい温度の、比較的入口からは遠いところか、真ん中あたりの取り合いになる。
しかし、新任にしては意外と手馴れていて、「その」ちょうどいい場所にある席をとっていた。
もともとここの塾生だったのか?
だからどこがいいとか、どの時間帯にとれば争奪戦に巻き込まれにくいか知ってた、とか。
まあそんなことはどうでもいい。
今日は理科。
私が通っている学校は進むのが速く、テストの範囲も広い。そのせいで、教える塾側が戸惑うこともある。
大丈夫だろうか。
なあーんて、こんな風に上から目線で耽っていると
「あ、おもしろいひとぉ!」
「おー、こんにちはー。
えー?おもしろいかなー私」
1:2の生徒のうちのもう一人である子――小学三年生の男の子が来た。
大体いつも同じ先生に担当してもらうことになり、少しその子がうるさくなる時や、先生がコピーをとりにいって集中出来なくなった時に、私が学校で起こった変なことについて話し、あやす。
だからだろう、彼の中で私が面白いという認識なのは。
「……いい加減名前で呼ぼうぜ」
「えーだってなまえしらないもん」
……名前も覚えてもらってないっていうね。
私は覚えているぞー?
中原流希。小三男子。読み方は「るき」で、給食だとカレーが好き。理由は辛くて美味しいから!
ということまで。しっかりと覚えてる。
まあ、こういう子キライじゃないからね。むしろ好み。
だから覚えてるんだろう。
私がまたしても耽りながら参考書とノートを出していると、その新任の先生がきて、私に聞いた。
「いつも一緒なの?」
恐らく私と小学生のことだろう。
「はい。同じになりますね、よく」
「そっかー。結構曲者だって聞いたけど……大丈夫かな、俺」
先生の質問に少し笑ってしまう。
「あはっ、大丈夫ですよ、多分。ただ、一回目の授業でなめられたら、もう後はない、かな」
そう、一回目の授業でこの子になめられたらほんとに終わり。
……なめられたら、次の授業からは全く話を聞かずに寝たりする。
「うわ、まじか……」
「うん、まじ」
先生と目が合って、笑ってしまう。
……楽しい先生なのかも。
――今後の授業が楽しみになった日だった。