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あのね、武器を手に入れたの。

 私が巨大岩をくり抜いたような住処の最奥地に辿り着くと、一人のドワーフが金属の塊をハンマーで打ち付けていた最中だった。


「どうも、どうも~」


 急に声をかけたからかな、びくりと体がはねる。ドワーフさんは私の方に振り向くとすぐに驚愕の表情を見せた。


「っ! なんだお前・・・・・・って、お、おいっ! それはっ!」


 ドワーフのおじさんの視線は私の両手に注がれる。


「あ、これ? うんとね、私がね、どうも~、武器作ってくださ~い、ってここに入ろうとしたら入り口にいた人達がね、斧を振りかざしたの。だからね、やっちゃった」


 私の両手には左右三つずつ、ドワーフの生首を持っていた。まるでスイカを六個買った後のよう。普通髪の毛を持つんだけど、この人達、すごい立派なお髭を生やしてたからそっちを指に絡ませました。


「貴様ぁぁぁっ!」


 ドワーフおじさんがハンマー片手に激高し立ち上がる。


「あ、やめて。じゃなきゃ殺しちゃう」


 目を細めておじさんを見据えた。ドラーフの動きがピタリと止まった。


「居住区ってあっちだよね? 行ってもいいかな」


 ここは彼らの仕事場で、住まいはまた別にあった。入る前に下見したから全部わかってるの。


「・・・・・・なにが目的だ」


 お、察してくれて助かるよ。私も素材になりそうもないドワーフを何人も殺すには面倒だからね。


「武器が欲しいの。それも、すっごいの。作ってくれる?」


「凄いのだと? 神器クラスはここじゃ作れねぇ。ここよりでかい所じゃなきゃ無理だ!」


 嘘は言ってないね。となると困ったな。


「じゃあ、大きいとこ、そこに行けばいいのかな? どこにあるの?」


 ドワーフの村も地図にはいっぱいあった。そのどれなのかが分からない。


「グラドオルの拠点がそうだ、だが、神器クラスは早々作れねぇ、村人総出で何十年とかかるんだ、だから行っても無駄だ!」


 これも本当だね。口ごもらないし、視線も真っ直ぐだった。


「う~ん、出来合いの物とかないかな? 強いのならなんでもいいんだけど」


 とは行ったけど、斧とかは嫌なの。やっぱり私はナイフが一番好き。


「神器はほとんど誰かの手に渡ってる、あるとしたら呪われた武器で誰も使えず出戻りしたやつ位だろう」

「へぇ・・・・・・」


 どんな物だろうが、神器があるのはあるんだね。


「じゃあ、それもらうよ。取りに行くから紹介状かなんか書いてくれないかな?」


 また襲ってこられても話がややこしくなる。このドワーフはこの村の長みたいだし、それなりに口は聞くよね。


「・・・・・・わかった。少し待ってろ」

「うん、ありがと」


 やけにあっさり了承してくれた。てっきりごねるかと思ったんだけど。 

 その場ですぐにドワーフおじさんは紙に何か書いて私に手渡す。


「ふむふむ・・・・・・こ、いつは、危険人物、俺の所の、村人を何人も、殺した。隙を見て、捕らえろ・・・・・・ね」


 私が紙を広げ読み上げると、おじさんは口をぽかんと開けた。


「私がドワーフの文字読めないと思った? ほとんどの種族文字はこの前、覚えたんだよ」


 すかさずナイフを一本取り出した。おじさんの前に向ける。


「ま、待てっ! ちゃんと書くっ! 書くからっ!」


 慌てふためくおじさんを見て、私はナイフを下げた。


「一分だけ待ってあげるね」


 私はにこりと微笑んでみせた。そして数え始める。


「い~ち、に~い、さ~ん・・・・・・」

「書くってのっ! くそっ」


 おじさんは急いで再び、紙にペンを走らせた。


「ほら、今後はちゃんと書いたぞっ」


 五十一、五十二、五十三・・・・・・。


「・・・・・・うん。ちゃんと書いてくれたね」


 五十七、五十八、五十九・・・・・・。


「ありがと」


 私は六十を数え終えると同時に、おじさんの右の眼球にナイフを刺した。その後、手首をグルリと捻る。


「これで、武器も揃うね」


 おじさんは体をひくつかせながらもまだ立っていた。私は踵を返して出口に向かう。

 これで43人。



 おじさんが言ってたグラドオルってとこに着いた。

 転移魔法には目安となるゲートが各地に設置されている。

 それを知ったのは、私が転移魔法の方程式を完成させた後だったけど、そのゲートに出るようにすれば細かい計算はしなくていい。縦、横、高さ、それぞれの軸を入れて、さらに魔法を使用した際のデータから逆算して今いるこの場所がどのように動いているのかを割り出す。


 基準となる座標系を定めるのも苦労した。私の世界とここの重力差から質量を・・・・・・とにかく途轍もない計算量だけど、私は何とか一定の答えは出したの。それなのにまさか自動で位置を修正してくれるそんな便利な物があったなんて。そもそも魔法を科学の知識で解析しようとしたのが間違いだったみたい。


 岩山に囲まれるドワーフの本拠地。

 私はそれを見下ろすように近くの崖から観察する。

 巨大な蟻塚のような住居が密集して一つの建物のようになってる。


「・・・・・・あそこから出入りしてるから・・・・・・そうなると、大まかな構造は・・・・・・」

 

 ある程度は下見しておく。私は行動を起こす前に何通りも今度の展開を考える。

 予期せぬ事態に巻き込まれた時、冷静に動けるように。それは魔法を手に入れた今も同じ。


「ま、やることは結局同じなんだけどね」


 私は崖から飛び降りると、数十メートル下の大地に着地した。

 外にいたドワーフたちは突然降ってきた私に、驚いて視線を集めだす。 

 それらを無視してメインゲートへ向かう。

 それにしてもみんな小さくて可愛い、老若男女みんな私の胸くらいまでしかない。私もそんなに背は高い方じゃないんだけど。

 入り口近くに武器を持つドワーフの男達が集まっていた。


「どうも、どうも~」

 

 今度は襲われないように、紹介状をいち早く出した。それを見せたらドワーフ達の私に向けられていた敵意や警戒心は薄れたよ。

 それでも見知らぬ他種族の私を完全には信用してない、ドワーフたちは私を囲むように中に案内してくれた。



「たしかに、ここには二本ほど手に余る神器がある。だがお前では無理だ、どちらの剣も呪われておる」


 地下の工房を抜け、さらに奥に進むと、ここを統括する長に会わせてくれた。


「どんな呪いかな?」

「一つは持ち主に破滅をもたらす剣、ティルフィング。そして鞘から抜くと誰かの血を見るまでは再び鞘に収まらないダーインスレイヴ。いづれもとても人間に扱えるものではない」


 長老さんは、そう説明してくれたけど、私は拍子抜けしてしたの。


「なんだ、それだけ?」


 呪われてるなんていうから、生気を吸い取るとか、持った瞬間火に焼かれるとかだと思っててただけに、たいしたことないね。鞘から抜いたら血を見るまで収まらないなんて、別に当たり前だよ。


「それだけだとっ!? 人間風情がよく言うわ。お前など、持った途端に精神を乗っ取られ気が狂うほどの呪いだぞ」

「じゃあ、持たせてみて。試してみるね」


 長老は私の自信に溢れている態度が気にくわないのだろう、人間なんてこの世界では最低位の種族だもんね。見下してるのが見て取れるよ。


「いいだろう、ただし、飲み込まれたら即座に殺すからな、それでいいなら好きにしろ」

「うん、やってみるね」


 私は頷くと、長老は仲間数人を引き連れ別の場所へ誘う。厳重に鍵をかけられた扉を開けると、様々な武器が所狭しと置かれていた。作品を展示してるのか、在庫を管理してるのか。しかし、それらは凡庸な品、私はさらにいくつもの鍵を開きながら奥に進んでいく。

 そして、たどり着いた先で私が見た物は。


「・・・・・・これだ。そのまま手に握る位にしろ」

「わぁ・・・・・・」


 二つの剣は鞘に収まったまま、クロスされ鎖でグルグルと封印されていた。この時点で他の武器とは存在感がまるで違う。禍々しさが目に見えるよう。

 私は吸い寄せられるように剣の元へ足が動き出す。


「・・・・・・いいね。狂ってる」


 私は両手を広げると、二つの剣柄を同時に握った。

 瞬間、きつく巻かれていた鎖が粉々に弾けた。

 私はそのまま二刀の剣を鞘から引き抜く。

 紅い刀身が眩く発光しているのは右の剣、そして左は蒼く輝き自身を主張している。


「お、お前、なんともないのか?」

「うん、全然平気だよ」


 腕を上げ、二刀を天に掲げる。


「ねぇ、おじいちゃん。ドワーフの中で一番腕がいいのは誰かな?」


 唐突な質問に、少し間が開いたけど、長老ちゃんは口を開いた。


「腕? 鍛冶のか。それなら、うちの孫娘だ。身内贔屓じゃねぇ。あいつは、まだ幼いが天才だ」

「ほほー、孫娘・・・・・・」


 私が何故そんな事を聞いたかというと、勿論、この二つを加工してもらうため。しかも、そうかぁ、女の子か。


「ねぇ、おじいちゃん。その子、可愛い?」


 私はにっこり笑いかけた。


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