あのね、魔女に会いにいくの。
翌朝、早めに起きてさっそく町に繰り出した。やっぱり夜と朝とじゃ様相が異なるね。
昨晩は閉まっていたお店が色々出てる。
石畳の道を首をキョロキョロさせながら歩いて行く。
武器屋みたいなのもある。これは興味あるよ、後で覗いてみよう。今、最優先なのは情報を得ることだからそっちが先。
「普通なら酒場とかなのかな」
でもこの時間やってないよね。昨日の夜に見て回った時はそれらしい場所があったけど、寄ることはなかった。酔っ払いの巣窟に私は一人で行ったら絶対何人か殺すはめになると思ったの。
となると、代わりになりそうな所は。路地をいくつも抜けていく。勿論最短距離の一本で済むように。
「見つけた」
本屋さんだ。ここには知識は埋まってるはずだよ。
「どうも、どうも~」
意気揚々をお店に入る。入り口には店主らしきおじいさんが座っていた。本を読んでいてこちらにはあまり興味をしめさない。
「いらっしゃい」
おじいさんは、形式上の挨拶を済ませると、目線は本へとすぐに戻した。
「ごめんね、本は買うつもりはないの。でもこれでしばらく読ませてね」
おじいさんの前に金貨を置いて、奥に進んだ。まずは文字から覚えなきゃ。同じ人間なんだから系等はさほど変わらないでしょ。覚えたら片っ端から本の内容を頭に詰め込んでいこう。
何時間たっただろう。もう気づいたら外はすっかり暗くなっていた。
「あらら、もうこんな時間だ」
さすがにお腹すいたな。とりあえず必要な情報は得られた。この世界の地図。種族、政治、経済、情勢。現在位置がわかったのはかなりの収穫。
本屋を出ると、なにか食べれる所を探す。歩きながら先ほど得た知識をおさらいする。
ここは五つある大陸の一つで、ノスタルユーリ。種族でいえば人間が多く住んでいるみたい。で、その人間の上位版である魔法が使える女性達を魔女と呼んでるね。他の大陸にはエルフやドラゴン、他にも天使、悪魔、それぞれ支配してる地域がある。想いをはせると自然に涎が出てくる。興奮しちゃう。宝の山だもん、素晴らしい素材が手に入る。
基本的に人間は最底辺みたいだよ。私の世界では最上級なのに。人間で魔法を使えるのは魔女だけみたい。私も教えてもらえれば使えるのかな。
今のままじゃ、他の種族には太刀打ち出来ないよね。と、なると力が欲しい。天使や悪魔といった最上種にも通じる武器。そして自分自身の肉体もなんらかの方法で強化しなくてはね。
「まずは魔法かな・・・・・・」
ここから西に行けば魔女の集落があるみたい。
私は次の目的地をそこに決めた。
素直に教えてくれるといいのだけどね。
旅支度を済ませ移動手段を確保した。町から町へ橋渡しするタクシー業者みたいなのがいたの。こっちはライニーちゃんのような巨大ワニではなく、首の長い馬みたいな生き物だったけど。馬車のように人を運んでくれるから、自分で扱わなくていい分楽できそう。
規定のルートに魔女の集落までってのは当然なかった。だから残りの金貨を全部渡して無理を聞いてもらったよ。
「でも、嬢ちゃん、近くまでしかいけねぇぞ。奴らは警戒心が強いからな、下手すりゃ攻撃されちまう」
うん、自分達だけでひっそりと引きこもってる位だからそんな気がしてたよ。
「あ、近くまででいいよ。その方が都合いいし」
いきなり真っ向から村に入ろうとは最初から思っていない。
深い森が見えてきた。その先に集落があるらしい。
「ここらでいいか? これ以上は無理だ!」
「いいよぉー」
私はここで馬車から降ろされた。
「しかし、嬢ちゃん、いまさらだが森に入ったら命はねぇぞ。見つかったら問答無用で焼かれちまう。やっぱりやめた方がいいんじゃねぇか?」
「ううん、大丈夫だよ」
事前にある程度は村の状況は聞いていた。あそこにいる魔女達はその名の通り女性だけ、そして数は三十人ほど。滅多に生まれないけど女の赤ん坊から稀に魔法の素質を持つ者が生まれる。その時点で忌む者とされ、この森の近くに捨てられるんだってさ。
て事は女の私がいきなり殺されるって事はないと思うの。魔女である事を隠して育てる場合だってあるはず。その隙を突く。
じゃあ、ちょっとスイッチ入れ替えようかな。
私は息を吸い込むとゆっくり吐いた。閉じた目を見開く。
「じゃあ、ありがと、私、行くね」
ここまで運んでくれたおじさんにお礼をいうと、私は森の中へと走り出した。
すぐに視界が曇り出す。魔女の森だけあって、迷いやすいのかな。でも私は一瞬で視覚情報を頭に植え付けるからめったに惑わされない。
「もしかしてもう気づかれてるもかもね」
兎のように軽くステップしながら森を進んで行く。足場は悪いけど関係ない。最適な場所を選んで踏み込む。集落を発見したらまずは近くで様子をみよう。
「っ!?」
突然、目に矢が飛び込んできた。私は間髪首を曲げそれを避ける。
続けざまに何本もの矢が私目掛けて襲いかかる。私は体をくるくる回しながらその全てを回避していく。矢は真っ青で地面にささるとその周囲を凍らせている。
「・・・・・・これ、魔法ってやつかな?」
矢を避けただけでは駄目みたい。その追加効果にも目を見張る。
私はまだナイフは出さない。私の思惑は別にある。まだ戦闘の意思を見せたら駄目なの。
しばらく矢を凌いでると、攻撃が止んだ。
私は見計らって両手を挙げる。敵意はないのを教えなければならない。それにしてもちょっと予想外、問答無用に殺そうとしてきた。でも、止んだって事は私の予見は当たらずと雖も遠からずだと思うの。
手を上げたままその場で留まっていると、奥から人影が見えた。二人組だ。
「その動き、貴様、人間ではないのか?」
「・・・・・・同胞なの?」
黒いフードをすっぽりかぶった二人組はゆっくり私に近づいてくる。片方は背が低く、もう一人の背中に隠れていた。
「わからないの。私は普通だと思ってたのに、周りはみんな異常だって意地悪するんだ。変な現象が勝手に起きるの。私、魔女なのかな」
私は悲しそうな顔を作って、体を震わせた。
「・・・・・・そうか。お前、大方、無意識で魔力が暴発でもしたのだろう。今まで普通に暮らして来たのにそれ以降、忌み嫌われたか」
「私達の中にもそういう人はいるよ。だから安心して」
私はさらにその場に泣き崩れるように膝をついた。
「魔法ってなに? 先天的なものじゃないの?」
二人は私の態度に同情してさらに近づいてきた。慰めるように私の前に跪く。
「女なら誰でも元から魔力は持ってるものだ。それが我々は他より多かっただけ。それでこの仕打ちだ。お前も大変だったな。攻撃してすまなかった」
「村のみんなは優しいよ。誰も意地悪なんてしないから」
仲間だと思った瞬間、態度はがらりと変わった。なんてお人好しなのだろう。まだ確定してないのにこんなに隙だらけで。
「魔法ってどうやって使うの? 私が魔女なら使えるよね?」
泣き声を出しながら聞いてみる。
「・・・・・・魔法理論を理解し、術式を頭で構成するのだ。まだ完全に覚醒してないのなら大婆様が色々教えてくれるだろう」
「一緒に行こう。仲間がいるよ」
小さい方の魔女が私に手を差し伸べた。私はちょっとだけ考えるとその手をとった。
発動に詠唱が必要っていうなら喉を切って殺そうと思ったけど、これはこのまま村に行ったほうが得策だね。もしかして私も素質あるかもしれないし、それを試してからの方がいいはず。
「ありがと」
涙を拭き取る仕草でお礼を言うと、二人はフードの中から優しく微笑んでいた。