あのね。向かい合うの。
海岸沿いの砂浜で。
今、私達は。
「そ~れ」
「ほいっ!」
「なんのっ!」
「えいっ!」
球を打ち上げて。
私と円ちゃん、魔人の二人とでチームに分かれて、バレーをしてます。
「我が命ず、万物からの根源、煉獄からの・・・・・・」
「フィールフォールデメンションっ!」
魔人の番。
詠唱とともに打ち込まれる球。
球は黒い炎に包まれながら超高速で向かってくる。
変な回転も加わってるね。
あれをまともに受けたら。
死ぬっ。
闇の鎖を背中から何本も飛ばし、砂に打ち付ける。
両腕に強化魔法を集中、他は無視。
別に出した鎖を腕に巻き付ける。
ここまでを瞬く間に終える。
そして、受け止めた。
接触した瞬間、突風が舞い上がり、砂が抉れ、波が引き、光が溢れた。
「球はっ!?」
頭上に顔を向ける。
球は太陽と重なるように、空高く跳ね上がっていた。
これは。
チャンスだよ。
「円ちゃんっ!」
私が叫ぶ。
も、すでに円ちゃんは球を追い越すほど高く飛び上がっていた。
両手には聖剣。
両腕を頭上高く翳して。
「エクス・・・・・・」
力を込める。
「カリバァァアア、なのだ!」
声と共に放つ。
いや、だからその剣は違うよぉ。
振り下ろされた斬撃。
光を集約し、幾重にも層を作り。
行く末は。
球を両断し。
大地を割り。
ついでに、そっちにいた魔人の二人を巻き込んで大爆発を起こした。
「なんで、聖剣出しちゃったかなぁ」
数分かけて巻き上げられた土や砂が、地面へと戻っていく。
ここで漸く二つの人影が見えた。
「おいおい、こういうルールなのか?」
「この場合、どうなるの?」
勿論、魔人の二人は無傷。
「えっと、円ちゃんの反則負けだよ。折角、途中までバレーっぽくなってたのに」
ちなみに、使用していた球は、神器と一緒にあったから、その類い。
「つ、つい、なのだ」
まぁそんなこんなでみんなで交流を深めていると。
フレムちゃんから緊急の連絡が入った。
あちらの陣営がついに動き出したらしい。
兵を集め、こちらが抑えたサンニョール大陸の陣地近くに集結。
「思ったより遅かったねぇ」
大体予想はしていた。ただ、意表をつかれたのは。
「ちょっと兵の数が少なすぎるかな」
一気に押してくるかと思ってたけど。
「となると・・・・・・あちらもって事かな」
武器は揃ったし。
まずは、私が先行して帰ろうと思う。
拠点に戻ると、フレムちゃんだけが私を待っていた。
他の妹達はすでに戦場へと赴いているみたい。
「あ、姉さん、お帰りなさいっ! それはそうと、大変だよ、いきなりすぎて、こちらの兵の徴集が間に合わないよっ!」
「うふふ、大丈夫だよぉ。あっちの数を見る限り、思惑は一緒」
大規模戦闘になりそうな場所にはすでにいくつかゲートを繋いでおいてたけど、どうやら無駄になりそうだね。
少数とはいえ、この規模の移動、こちらが気付くのにここまで遅れたとなると、これは最早確信に近い。
「周辺各国から、臨時に向かわせて。そうだね、合わせて千人ほどいればいいかな」
こちらの準備が整うまでは、あっちも待ってくれるはず。
私は、とりあえず、紅茶でも飲んでまったりするの。
体勢が整ったのは二時間後。
私は、ここで漸く腰を上げて、フレムちゃんとともに戦地へと。
小高い丘を挟んで、崖の下は広大な平地。
そこは、すでに両陣営の兵が集結、睨み合っていた。
「姉上っ!」「姉者」「お姉ちゃんっ!」「「アオイ姉っ!」」
私の到着に気付き、妹達が声をかける。
「うふふ、ごめんよぉ。ちょっと、遅くなっちゃった」
妹達は、私が来た事で少し強ばっていた表情がやわらぐ。
どれどれと、対面の崖を見据える。
結構遠いから、目を強化。
「いるねぇ」
中央奥に蓮華ちゃん。そして左右に、ツインテールと目の周りが真っ黒な奴。
「姉上、大将が出てきたわりには、あちらの兵力が不十分です。これは、なにか罠があるかもしれません」
オニチナちゃんが、怪訝そうな顔を見せながらそう進言する。
だけど、違うんだなぁ。
「兵は不十分じゃなくて、これで充分って事だよぉ」
それつまり。
「兵士の数が、戦況に関係ないって事」
いくら、人間の兵士がいても意味がない。
「てことは、あっちにはそれに代わる戦力があるって事だよ」
私が、そう呟いた瞬間だった。
雲が裂ける。
その間から、二条の光が差し込んだ。
光の柱の中には。
二つの人影。
「あ、あれはっ!?」
私以外の全員が、ざわめき出す。
背中には純白6枚羽。
一人は、顔の半分が前髪で隠れ。
この前、私と円ちゃんでやっと撃退した天人だね。
あの時、破壊した肉体は、もう完全に再生している。
そして、もう一人。
天人の基準は知らないけど、見た目には結構お歳を召した女性かな。
お婆ちゃんというと怒られそうな微妙な感じ。
ただ、存在感が今まで出会った誰よりもあった。
目が合うだけで、もう支配されそう。
あれがそうか。
もう一人が言ってた。
天人最強。
二つの影が、あちらの陣営の丘に足をつけた。
二人の出現が、一瞬でこちらの全てを呑み込んだ。
もはや伝説とも言われる天人が二体。
それが、あちらに舞い降りたのだ。
動揺は一気に広がり。
それは妹達でさえ。
「あ、姉上、あれは・・・・・・」
「お、お姉ちゃん」
「アオイ姉っ、これはまずいぞなっ」
「そうぞなっ! て、天人ぞなっ!」
「噂以上・・・・・・じゃのう」
蓮華ちゃん、どうやってコンタクトとったか知らないけど。
いきなり、取りに来たねぇ。
まぁ、切り札は、最後に出すものだけど。
出し惜しみして、負けるのが一番、馬鹿らしい。
天人の出現で、こちらの士気は地に落ちた。
下の兵士も、もはや怯えを見せている。
「狼狽えないでねぇ」
少し、大きめの声でそう叫ぶ。
毒には毒なんだよぉ。
雲一つない、真っ青な空。
そこへ、急速に暗雲が立ちこめた。
そこから、こちらに降りるは、二つの黒き道。
あちらと同様に、中には人影。
背には黒き翼が6枚。
程なく、私の後ろへと、ふわりと足を落とした人影は。
「はっ、まさか、あれを引っ張ってくるとはな」
「年寄りの冷や水ってやつ?」
ちょっと前まで一緒にバレーをやってた魔人の二人。
一回戻ってもらって派手に登場してもらいました。
「以前の天魔大戦で、魔人側を全滅寸前まで追い込んだ最強天人」
「相当、強かったみたい」
ほう、そんなに凄い人なのか。
まぁ、隣の天人と比べても別格そうだしね。
でも、二人の魔神は全く臆していない。
「その時は、私もこいつも生まれてさえいなかったが・・・・・・」
「今度もうまく行くとは思わないでね」
魔人の出現に、こちらの陣営は妹達も含め、動揺を通し超して言葉を失っている。
続けざまに、再度、天から七つの光。
虹の柱が、妹達の前にかかる。
瞬間、七つの武器が、地面に突き刺さった。
「こ、これは・・・・・・」
「じ、神器!?」
少し遅れて、聖剣の落ちた場所に、円ちゃんが飛んできた。
「ちょっと遠くで、全部投げたら勝手に飛んでいったのだ」
それはそうだね、全部、私の調教済みだもん。
どれが誰に対応しているかは、命令しておいた。
さて。
これで、こっちの準備は万端。
妹達はまだ途惑っていたけど。
私と円ちゃん。
魔人の二人が、あちらに顔を向けた。
それは、蓮華ちゃん達も同じで。
あざ笑うように見つめる者。
激しく睨み付ける者。
無表情の者。
「それじゃあ、始めようかぁ」
私は、無邪気に微笑んで。
そう宣言したのでした。
ちょっと間空いちゃいました。




