あのね、寝起きドッキリ皆殺しなの。
おはようございます。(小声)
今、私達は、とある小島に来ております。
時刻は、まだ朝日がやっと顔を出すか出さないかって頃。
「あ、姉御、ここにはなにがあるの、あるんだ?」
円ちゃんが身を潜めながらヒソヒソと問いかけてくる。
「うんとね、ここには槍があります」
ここまで、聖剣、聖槍、雷槌、聖弓、魔弓、と五つの神器をゲット。
私の妹は、円ちゃんを入れて七人。
この子達、全員に神器を持たせるべく、西へ東へと奔走してる途中。
「さて、いくよぉ、みんな起きないうちにね」
小島の中心には神殿が建っており、その中に槍が奉納されてるみたい。
外も中も、神官が守ってる。
話では、かなり高度な魔法を使いこなすらしいけど。
内陸から結構離れてるし、ずっとなにもなかったから。
思いっきり油断してるの。
しかも、今は早朝。
外の見張りも、立ってはいるものの壁に凭れて、目を閉じている。
「よし、円ちゃんがまず特攻だよっ!」
「ういうい、任せろっ!」
私の一声に、円ちゃんがパンと地面を蹴る。
一瞬で、神殿の扉まで詰めた。
見張りは二人。
すでに、聖剣は抜かれ。
同時に、神官の首が落ちた、それはまるで百合の花のようで。
いいよぉ。その調子で、素早く中に侵入して気付かれる前に・・・・・・。
「皆殺しの時間なのだぁあああ! オラァっ!」
円ちゃんは、大声で叫びながら勢いよく扉を蹴破った。
私はそれを見て、顔が引き攣ったの。
私はね、ここの神官が油断してると踏んでいたの。
そして、それは予想通りで。
さらに、慎重を重ね早朝を選んで潜入したわけで。
このまま、簡単に奪えるはずだったのに。
「な、なんだ、貴様っ!?」
「し、侵入者だっ!」
「な、何してる、は、早く、集まれっ! 変な女が入ってきたぞっ!」
勿論、現場は騒然として。
神官がぞろぞろ集まってきた。
あぁ、なにもかも台無しだよぉ。
まぁ、いいか。
少し、予定は変わったけど。
結局は、同じ。
神官全員、皆殺し。
切り替えは大事。
私も、すぐに後に続いた。
二刀の魔剣を両手に握り。
「挽肉にしちゃうよぉーー」
走りながらも、足下からは闇が地面を塗り広げていく。
じょじょに範囲を広げる闇から一斉に黒き鎖が飛び出した。
神殿の中に入った時点で、人数を即座に把握。
前方では、円ちゃんがすでに二人の首を飛ばしていて。
残りは、八人。
魔法を使われると厄介。
すでに、八人全員が詠唱に入っている。
神官の身体には障壁が。
詠唱中の自己防衛。
だけど・・・・・・。
「薄いなぁ、全くもって・・・・・・ペラペラだよぉ」
鎖が障壁ごと肉を貫いていく。
「ぎゃああさじゃ」「ひゃがあああああああ」「がゃあぁああああ」
響く、届く、わき起こる。
叫声、絶叫、悲鳴、最後の言葉。
五人までは串刺しに。
残りは柱の陰で死角になった。
取りこぼし。
でも、大丈夫。
私の前には、あの子がいるの。
柱に隠れていた神官の身体が視界に入った。
左右の柱から傾きながら倒れていく二人の神官。
それは、首から上がないまま地面に吸い込まれていった。
はい、終わりっと。
一時はどうしようかと思ったけど、奇襲は奇襲だったから案外簡単だったね。
「おっと、この人達は・・・・・・・・・・・・」
鎖が貫通しつつ、宙に浮かぶ五つの死体。
このまま魔剣に吸わせてもいいんだけど。
「どうせなら、ハンバーグにしようか」
毎回同じじゃ、魔剣ちゃん達も飽きちゃうもんね。
鎖と、それについてる屍を中央に集めて。
こねくり回す。
絡ませ、引き千切り、穴を開け、引き千切り、肉の塊になるまで繰り返す。
何度もやっていると、人の形はすぐに無くなり、赤黒く、時折白が混ざった何かになっていく。
「こねこねこねこね」
何匹もの蛇が這うように、鎖が蜷局を巻いていき。
漸く、見覚えのある形に変わった。
うふふ、ちょっと大きいけど。
「はい、召し上がれ」
二本のナイフを振り投げ、丸い肉に突き刺した。
途端、凄い吸引力を見せつけて、餌は一瞬で刀身の中に消えていった。
「神官達の潜在魔力はかなり高いはずだから、きっと美味しかったよね」
心なしか、魔剣達が喜んでいるように見えた。
「ほう、なかなか興味深いではないか」
突然、耳元で声が聞こえて。
「っ!?」
頭で考えるよりも早く。
反射的に、その場を一気に離れた。
神殿の隅っこまで飛んで。
ぱっと振り向く。
数秒前まで私がいた、その場所には。
見知らぬ二人組が。
全く、気付かなかった。
全く、感じなかった。
全く、見えなかった。
「おいおい、別になにもしないぞ」
「あはは、お姉ちゃん、すっごい驚いてるっ」
長い前髪が顔の半分を覆った妙齢の女性。
もう一人は、フードをすっぽり被った多分、子供。
いつ、入ってきた?
いつからいた?
この人達は、一体何者?
最大限に警戒しつつ、相手を見据える。
近くにいた円ちゃんが聖剣を構えるも、私の手をゆっくり上げ、それを制止。
現時点で、ただ一つ分かるのは。
この人達は、とにかく普通じゃないってだけ。
「いきなり背後に立つなんて、悪趣味だよぉ」
できるだけ余裕を見せなくきゃ。
先ほどの戦闘で、自分の手札はほとんど出してた。
それをこの人達は見ていたはず。
「あぁ、それはすまなんだ。なにぶん、お前達には少し前から目をつけてたもんでな」
実際は見えてはいないけど、この二人の身体からとんでもない量の黒い靄が立ちこめている。
この神殿、いや、小島全域を覆ってもまだ余りある程の。
私が気づけなかったのには、それも関係してるね。
私の属性は闇。
いつの間にか、交わってたんだ。
だから気づけなかった。
とても大きく、深き闇が、なにもかも呑み込んでいて。
「で、私達になにか用かなぁ?」
円ちゃんは光。その属性値は計り知れない。
それでもなお、かき消された。
てことは答えは一つ。
この二人の正体は。
「魔人のお姉さん達」
そのうち、接触してくるとは思っていたけど。
案外簡単に姿を見せてくれるもんだね。
天人も、魔人も。
さて、どうしようかな。
うまくやり過ごさないと。
私達、ここで死んじゃうよぉ。
凄まじい風邪に襲われ、最近やっと倒しました。




