あのね、神器を揃えるの。
聖剣を持って行かれたの。
あれが、天人。
多分、髪に隠れていたもう一つの瞳が金色なのかな。
それとも、感情やなにかに作用して変化するとか。
いづれにしよ、あれが最終目的の一つだよ。
折角のチャンスだったけど逃げられたからには仕方が無い。
円ちゃんのは後回しにするしかないね。
今、上手い具合に全体の領土は大体あっちと半分こ。
細かい部分はまだだけど、あちらも動きがない。
それはそれで気にはなるけど。
近々、大規模な行動を起こすと思うの。
だから、こっちもできるだけ戦力強化を図る。
「円ちゃん、このまま、次の場所にいくよぉ」
妹達、全員に神器を揃えるつもり。
オニチナちゃんとパンドラちゃんには槍を。
エルフの二人には、弓を。
ドワーフのカジーナちゃんには斧を。
フレムちゃんには・・・・・・なにかを。
円ちゃんの聖剣はまだ他にも当てはある。
できるだけ早く揃えたい。
聖剣は、円ちゃん用にナイフに加工したいし。
だから、それらを集めるには。
ほぼほぼ、全て。
力づくで奪おうと思う。
私達が、次に向かったのは、太陽に一番近いといわれる塔。
これも天人だか魔人だが、どっちかがこの世界を戦場にしていた時の名残だね。
今は、この場を領地にしている王国が保持している。
少し遠くから、塔を見上げる。
「姉御、中に入るか、結構、厳重だ」
「ううん、別に律儀に中から行く必要はないよぉ、外から登ろう」
ここもまた、蓮華ちゃんの方の陣地だからね。
手早くやらなきゃならない。
塔の周りにはそれなりの数の兵士が常駐されている。
中も同様だろうし。
いちいち倒している時間も惜しい。
強化魔法。
私は円ちゃんの手を握ると、一気に地面を踏み蹴った。
地面が陥没して、その反動は私達を空高く運んだ。
急接近する塔の外観。
中央付近で、再び、蹴り上げる。
また、体が急上昇。
今度は、塔を飛び越えていた。
後は、もう重力に身を任せて降下。
頂上の一角、その壁を蹴り壊して、中へ進入した。
「うおおお、体、ふわっとしたのだ、やばいのだ、こう下半身が、ふわって」
「ほらほら、円ちゃん、気を抜かないの」
着地とほぼ同時に、足下から闇が広がる。
泥沼が部屋全体を染めて。
兵士は一五人。
すでに、地面から飛び出した黒い鎖が全員の体をきつく縛り上げていた。
「あれが、例のだね」
ご大層に、フロアの中心に飾られていた。
どうせ、この国にこれを扱える者もいなかったのだろう。
武器ってのは、殺してなんぼだよ。
こんな絵や花瓶のように飾っておく物じゃない。
「それにしても、思ったより・・・・・・」
本当にこれなのかな。見た目が結構しょぼい。
一見、ただの木で出来た安物の槍のよう。
なんか、葉もついてて、本当、枝かなにかだよぉ。
そう思って近寄ってみたんだけど。
「・・・・・・あれ?」
なぜか、足が止まったの。
脳では動けと命じてるのに。
次の一歩が踏み出せない。
そして、腰に挟めていた二刀の魔剣が。
鼓動した。
「あ、姉御、あれは、駄目だ。姉御じゃ、触れない」
円ちゃんが、そういい、私が行けない先へと進んでいく。
手を伸ばして、しっかり握った。
その瞬間、槍と、円ちゃんが。
同時に輝きを放つ。
「ううう、なんだ、これ、持つのが、やっとだ、これは私のじゃ、ないのだ」
ふむふむ、私の魔剣のように、持ち主は自分で決めるか。
私では、近寄ることさえできない。
完全に、嫌われたね。
全力で、私を拒否している。
「まぁ、別に私が使うわけじゃないからいいんだけど・・・・・・」
それは、それで。
気にくわないよぉ。
動かない足を。
無理矢理、前に出した。
健が、筋が、引き千切られそう。
それでも、前へと。
歯を食いしばって、槍の元へ辿り着く。
そして、握りしめた。
きつくきつく、瞬間、私の手から煙が上がった。
肉が焼かれる、溶けていく。
「あ、姉御、は、離すのだっ! これは、姉御じゃっ」
確かに、私が使うわけじゃないけども。
あくまで所有者は私なんだよぉ。
だから、分からせてあげなくちゃ。
「ほら、ほら、もっと、拒絶して、まだ足りないよぉ、そんなんじゃ、私は追いかける、ずっと、ずっと、いつまでも、どこまでも、いかなる時も」
全身から闇が溢れだし、槍が放つ光を呑み込んでいく。
まるで、日が落ちるかのように。
闇の帳が降りるように。
必死に抵抗を見える。
槍が脈うつ、それは大きく、そして速く。
「うふふ、なかなか、いいこと聞かないねぇ」
私を退けようとする度、腕がちぎれそうになる。
「あ、姉御、もう・・・・・・」
気づいたら、鼻から血が出ていた。
目が真っ赤に染まり、視界が霞み出す。
「まだ、まだ、だよぉ」
決して離さない。潰すくらいの勢いできつく握る。
私の闇もどんどん深くなる。
いつもはうまくコントロールしているつもりだけど。
今はもう、なりふりかわまず行使する。
程なく、闇鎖によって展示状態だった兵士達の体が歪み出す。
鎖は肉を巻き込みさらに食い込み続け。
強烈な圧力が兵士の体をいくつにも分解。
破裂と同時に肉片と血を撒き散らした。
階層が、黒と赤の世界に変わっていく。
自由になった無数の鎖が、今度は標的を槍に定め、次々と絡め取っていく。
「あぁ、もう折っちゃおうかな、粉々にしちゃおうかな、燃やしちゃおうかなぁぁ」
あらゆる方向へと鎖の力を導く。
あああ、槍が悲鳴を上げている。
痛い、痛いって叫んでる。
やめて、やめて、やめて、やめて、やめてって。
物なのに、まるで意志を持ってるように。
でも、やめないよぉ。
「私は、なんでも、殺す、人でも、物でも、聖槍でも」
命をかけた綱引き。
そんな中、下の方から声が上がってきた。
さすがに、異常に気づいちゃったかな。
鎖を巻き付けたまま、槍を高く持ち上げた。
天井を突き破り、槍は日の光を浴びる。
その槍を、塔に突き刺すように、天から、振り下ろす。
槍は地面に落とされる。
何十もある塔の床を突き破りながら。
大きな穴を開け、槍が通った階層を順々に崩しながら。
私と円ちゃんは、粉々になった塔の瓦礫と共に、下へ落ちていく。
ついに、地面へと辿り着いた槍は、一際大きな穴を作り、その中央に深く突き刺さった。
私は円ちゃんの手を握ったまま、遅れて地上へと足をつける
それと同時に、再び、地面が黒い大きな影を落とした。
そこから、獲物に襲いかかるように、猛スピードで鎖が飛び出して行く。
槍に一斉に絡みついた。喉元に噛みつくように、しっかりと。
「さて、もう一度、答えを聞くね」
今度はすんなり、進めた。
槍の前まで来ると、また手を伸ばす。
「・・・・・・うん、いい子だねぇ」
観念したのか、もう手が焼かれることはなかったの。
今の私の手の平は、ただただ酷く爛れて激痛を訴えるだけ。
「君は、私の妹に使わせてあげる、だからしっかり仕事するんだよぉ」
鎖の力も借りて、地面から引き上げる。
「はい、これは円ちゃんが持っててね」
槍を円ちゃんに手渡す。
「わ、わかったのだ」
小刻みに動く槍、それは呼吸か、それとも恐怖の震えか。
さぁ、この調子でどんどんいくよ。
「次で、ここから一番近いのは・・・・・・弓がある場所かな」
これも二つ欲しいから、ちょっと急がなきゃだね。




