あのね、町に行くの。
日も落ちてきた。うっすらだけど暗くなってくる。夕方が近づいている。そしたらすぐに夜になってしまう。そろそろ寝床を確保しなきゃだね。近くに町があればいいんだけど。
「・・・・・・うん?」
気温は温かいまま。むしろ夜になるのを待って明かりを探した方が早いかな。なんて思ってたら前方に土煙が見えた。
「わわっ!? なにアレ!」
でっかいワニみたいな爬虫類に乗った二人組が私目掛けて突っこんでくる。
「女だっ! ヒッハーっ!」
「おい、今日は俺が先だからなっ!」
凄い、これで確実になった。こんな生物は私の世界には存在していない。
ワニより足が長い。二人を乗せてこのスピードが出せるなんて水棲じゃなく陸上に特化した生き物なのかな。そんな事を考えている内にその生き物は私のすぐ目の前に来た。乗っていた二人が飛び降りる。
「お嬢ちゃん、こんな所でなにしてるのかな~?」
「一人でいるなんていけない子だね、お仕置きしちゃうぞ~」
下卑た笑いを見せながら私を囲む男達。
「うわー、なにこれ、すご~い」
でも私はそんな事よりこの生き物に興味を奪われていた。固い皮膚を手のひらでなぞる。5メートルはある大きなワニみたいな生物の体を色々観察していく。古代にいたバウルスクスに近いかも。
「大人しいね、これ。私でも乗れるかな?」
男達に質問したけど、返ってこない。
「なんだ、お前、頭おかしいのか?」
「今の状況わかってるのかぁ」
大体は分かってるつもり。貴方達はおじさんが言ってた山賊じゃないのかな。私が一人でいるのを見て性欲丸出しで近づいてきたんだと思うけど。
「ま、色々聞きたい事があるから、丁度良かったよ」
男達の方に体を向けた。一人生かしておけばいいかな。どっちもあまり頭良さそうには見えないけど、比較的左の方がまだましかも。
私の両手はこの時点ですでにスカートの中に入っていた。
木に寄りかかり座り込む男。私はしゃがみながらその体にナイフを刺していく。
「で、町は近くにあるかな?」
もう一人は即時に心臓を一突きして仕留めた。
「あ・・・・・・あ・・・・・・この、まま・・・・・・道なりに・・・・・・あ、あ、あ」
肩に差し込む。
「はがやあっぁっ」
「距離はどの位かな?」
「は・・・・・・はかあ・・・あ・・・・・・近い・・・・・・そのライニーで行けば・・・・・・すぐ・・・・・・あ」
今度は脇腹を刺す。
「ないうはあっ」
男は涙を流しながら悲鳴を上げる。
「私にも乗れる?」
「・・・・・・調教され・・・・・・ああ・・・・・・てる、あうう、から・・・・・・いあはだだいいい」
「乗れるんだね?」
太ももに連続で二回ナイフを入れる。
「あぐぴいあいいいあ・・・・・・乗れ、乗れるっ・・・・・・もう・・・・・・やめ」
「そう、ありがと」
最後にそういうと、額に刃先を突き刺した。ナイフを抜くと男の体が斜めに崩れていった。
立ち上がる。二つの死体から何かないかまさぐっておく。おじさんの所にあったものと同じ金貨があったので貸してもらおう。一通りの作業を終える。ライニーと呼ばれた巨大ワニは終始大人しかった。
「ちょっと乗ってみるね。よろしく、ライニーちゃん」
個体の名称なのか、種名なのかは分からないけどとりあえず挨拶しておく。
乗りやすいように、足かけや腰掛けも着いている。背中に乗るのは簡単だった。
手綱を持ち、向かう方向に力を入れるとライニーちゃんの頭がそちらに向いた。
「夜までには着くかな? ライニーちゃん行くよぉ!」
乗馬のようにやってみる。するとライニーちゃんの足が動き出した。
早い。これだけの巨体なのにこの移動速度。私自身もここに来た時から違和感はあった。何故だか体がいつも以上に軽い。もしかしてちょっとだけ私の所より重力が低いのかもしれない。となると、当然、身体能力も上がっているはず。体はやがてこっちに合わせて筋力とか落ちるとは思うけど今ならまだ大丈夫。
これならいつも以上に簡単に人を殺せるかもしれない。そうだ、人だけじゃないおじさんの話だと他の種族もいるみたい。どんな風に息絶えるのだろう。私の鼓動が高鳴っていく。
ライニーちゃんはまっすぐ町に向かってくれているはず。
現在殺害人数三人っと。
町に着く頃には夜の帳は落ちていた。灯り始めていた明かりが大きい。それなりの規模の町のようだ。
ちょっと離れた場所でライニーちゃんから降りた。山賊御用達の乗り物だったら警戒されてしまうから。
町は高い塀に囲まれている。入るまえに一周してみた。時間にして一時間ほどで回れた。時速にして5キロってとこだから、それなりに広いね。門は四方に一つずつ。門番らしき人が二人ずつ配置されている。山賊が出るくらいだから治安が悪いのかも。
さてどうしよう。素直に入れてもらえるものかな。
門番を殺して入れれば楽だけど騒ぎになっちゃうもんね。
思いっきりジャンプすれば塀を越えられたりして。
一応全力で飛んでみたけど、たしかにいつも以上に距離が出た。でも塀を越えるほどではない。う~ん、残念。
正攻法でいこうか。交代の時間は絶対あるだろうし、入れ替え時に注意を逸らして中に入ろう。
作戦通りに上手くいった。放置しておいたライニーちゃんを交代時に門番の近くを走らせた。完全にそちらに意識が向いていた所を、私は特に急ぎもせずに町へと進入した。
時間かかっちゃった。町はもう明かりが少ない。人もほとんど見当たらない。
基本的に煉瓦で出来てる町並み。外灯だけが点々と町をちょっとだけ照らしていた。
「泊まれそうな所あるかな」
宿らしきものを探すついでに町並みの詳細を頭に入れていく。何があってもいいように事前作業は怠らない。
一通り町を巡り終えると、途中で見つけた宿っぽい場所を訪れる。
「どうも、どうも~」
眠そうに頬に手をついていた宿番に声をかける。
「いらっしゃい。宿泊で?」
宿番は私の格好に眉を潜めながらも営業を開始した。そんなにおかしいかな、この服。
「うん、とりあえず眠れればいいよ」
「一泊なら300マデカだ」
ここでこの世界の通貨単位を知る。多分、さっきおじさんや山賊から借りた金貨がそうなんだと思うんだけど。一先ず、一枚取り出す。
「これで足りるかな?」
目の前に金貨を出してやると、宿番の表情が変わった。
「足りるどころか、10日は泊まれるぜ」
「あ、本当? じゃあこれでお願い。一泊でいいから、おつりは上げるね」
元々長居はするつもりはないから、明日中に情報を集めて次の行動に移るの。
宿番はあからさまに態度を変え、私を部屋に案内してくれた。
ここで一番いい部屋なのかも。思ったより綺麗だ。
私はまず服を脱ぐと、下着とニーソだけになった。ベットに腰掛けやっと落ち着くことができそう。ニーソに挟め携帯していた二本のナイフを取り出す。切れ味が落ちてるだろうからしっかりメンテをしておく。ここではこれだけが頼りだ。
「今日はゆっくり寝て、明日改めて情報を集めよう、おやすみなさい」
ランプの明かりを消す。今日は色々あって疲れちゃった。