あのね、聖剣を手に入れるの。
新たな妹を迎えて一週間。
「じゃあ、行ってくるよぉー」
「い、いってくる、のだ」
私と円ちゃんは、お出かけするの。
今の状況はサンニョール大陸を二分して争ってる最中。
主要国は落としたけど、その周辺はまだだから小競り合いは続いている。
でも、他の妹達が優秀だから全部任せているの。
この隙に、戦力を強化しようと思うの。
私達は、ゲートを使って、目的地の近場へ。
「あ、姉御、どこ、いく、のだ?」
「うふふ、それは行ってからのお楽しみだよぉ」
円ちゃんの属性は光だった。
ていうことは、もしかしたらなんだよぉ。
情報は以前から知っていた。
でも、手を出さなかったのは、最初から無理だと諦めていたから。
そこはエリッチポリン大陸の南。
この大陸はあっちの縄張りだけど、気づかれる前に用は済ませるつもり。
それなりに大きな街だった。
観光地として発展した歴史がある。
街に入ると、中央には大きなモニュメントが飾られていた。
それを囲むように、すでに人集りが出来ている。
観光客だろう、人種が異なる人々が順番に何かやってるの。
「ん、なんだ、あれ、あいつら何してる、のだ?」
円ちゃんが首を傾げる。
「あれはねぇ、聖剣を抜こうとしてるんだよぉ」
そう、この街の観光の目玉はあの地面に突き刺さった剣なんだよぉ。
なんでも、天人と魔人の戦いの最中、落ちてきたって伝説なんだけど。
筋肉隆々の人が引き抜こうとするけど、びくともしない。
「さ、私達も並ぼうか」
どうせ、他の人には無理だろうけど、割り込みはいけないの。
ちゃんと、ルールは守らなきゃだよぉ。
人気アトラクションかというほど並んで。
後少しで、私達の番。
って、とこで予想外な事が起こった。
私達の四人くらい前の少女。
自分の番になり、聖剣を握った。
そして。
少女の体から、目が眩むような光が放たれる。
「・・・・・・まじかぁ」
「うううう、眩しいの、だっ」
なんの抵抗もなく。
片手で。
少女は剣を引き抜いた。
その剣を天に掲げる。
今も、体から迸る光の波動。
私の体に当たる度、これまた気分が悪い。
周囲の人々は、無言でその光景に見入っている。
顔の半分が長い前髪で隠されている。
その表情は、特に感慨もなく。
「これ、貰ってもいいんすかね?」
ただ、それだけを口にした。
あぁ、これは駄目だねぇ。
あれは、円ちゃんの物なのに。
先を越されちゃったみたい。
「ねぇねぇ、それさぁ、私達に譲ってくれないかなぁ?」
私はそう言いながら、少女の前に歩み寄った。
「・・・・・・・・・・・・」
少女が、私と目を合わせる。
それは、数秒くらいだったと思うの。
「・・・・・・駄目っすねぇ。あんたの目、腐りきってるっす。そんな奴にこれは渡せないっすわ」
少女の目が一気に鋭くなった。
それは、こちらも同じで。
「あら~、それは残念だよぉ」
言い終えて、二刀の魔剣が瞬時に握られる。
一つは、首を。
一つは、心臓を。
狙い澄ませて突き立てた。
それを。
少女は、今し方、手にしたばかりの聖剣で。
どちらも凌いだ。
「姉御っ!」
円ちゃんも、私の意図を得て、動いた。
ナイフを手にして、同時に光を纏う。
私も同調、闇が地面から渦巻くように体に纏わり付いた。
「なんすか、なんなんすかぁぁあああああああああああああ」
いきなり襲われて、少女の口調も変わる。
目付きが先ほどまでとはまるで別人。
やっぱり、この子、普通じゃないね。
魔剣と、聖剣、ぶつかる度に、まるで叫び声のような甲高い音を立てる。
「それ欲しいの、でも、くれないの、なら殺すの」
強化はすでにかけている。
属性も。
魔剣も二本出している。
つまり、今、自分自身が出せる全力。
だけど。
どんなに強く。
どんなに速く。
全てを凌ぎ、かわされ。
絶え間なく、両腕は、相手の急所へ。
円ちゃんも背後を狙って攻撃を仕掛ける。
でも、少女は軽々と受け流す。
この子と円ちゃんは同属性。
自分に取り込むように、円ちゃんの光輝くナイフを素手で掴む。
そういえば、言ってたね。
他の属性同士は相性があるけど。
闇と光は例外。
光は光を取り込み。闇は闇を呑み込む。
そして、同じ力なら光と闇は相殺しあう。
つまり、闇と光は。
単純に強い方が、強い。
「よく、避けるねぇ、それならさぁーー」
地面から、黒い鎖が、無数に湧き出る。
天高く伸びると、動きを止め、そして斜めに急降下。
少女を拘束すべく、その全てが襲いかかるも。
「はぁあああああ????」
聖剣一降り。
雲を裂く、一閃。
吹き飛ぶ、闇の鎖。
う~ん、駄目かぁ。それなら。
「うふふ、円ちゃん、当たっちゃ駄目だよぉ」
二刀の魔剣に命じる。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
囁くように、何度も何度も何度も何度も。
右手を振る、赤い斬撃が、三日月のように前方に放たれる。
左手を振る、蒼い斬撃が、地面をかき分けながら前進する。
周囲の人、建物が、巻き込まれて、壊れていく。
その切っ先は、人の体を半分に、建物の形を歪に。
いつの間にか、私の体から発せられる闇がどんどん広がっていった。
街を呑み込むように。
黒き底なし沼は、人を呑み込んで行く。吸い込まれるように。
中で圧縮されて、水面から血が噴水のように飛び散った。
「どんだけ、狂ってりゃゃ、こうなるんすかねぇえええ」
少女は聖剣を縦に斬撃を受け止める。
魔剣のご機嫌を取りながら、少女を殺してと懇願するけど。
死なないねぇ。
あぁ、殺したい。
脳髄を引き抜いて。胸を裂いて、切り刻んで。
殺したい、死んで欲しくない、殺したい、死んで欲しくない、殺して、殺して、生かして。
もっと楽しみたい。
いいよぉ、私が殺したいと思っても死なない人。
こんなの、あっちではいなかった。
この世界、やっぱりなかなかいいの。
もう夢中だった。
もう円ちゃんすら目に入ってなかった。
見えるのは、あの少女だけ。
私は笑いながら、闇を、魔剣を振りまいた。
あちらもそれを振り払うように、聖剣を縦、横、斜めに振る、呼応するは光の刃。
時には、鎖を一点に集めて壁に。
時には、魔剣の斬撃と抱き合うように消え。
「あ、あね・・・・・・・」
だから、聞こえなかったの。
何度も、私を呼ぶ、その声に。
ようやく、耳に届いたのは、相手の動きも止まったから。
「あ、姉御、なんか、やばいのが近づいてる、のだっ!」
言われる前に、私にもわかった。
そちらに首を向けるも、まだ姿は見えない。
気づいたら、街はほぼ壊滅していた。
人の気配はなく、建物は瓦礫に様変わり。
「あっちゃぁ。ちょっと夢中になっちゃった」
これだけ派手にやれば、気づかれるよねぇ。
なんせ、ここはあっちの陣地なんだし。
「円ちゃん、逃げるよぉ」
「ういうい、わかったのだ」
少女も、聖剣を降ろした。
あちらも厄介事に巻き込まれたくないみたい。
てことは、あっちの勢力とは関係ないのか。
「君、その剣は、また後で貰うよぉ」
私達は逃げる準備に入る。
それでも、少女からは目を離さない。
「別にこれいらないっすけどねぇ。でも、あんただけには意地でもやらないっすわ」
挑発するような目線が向けられて。
少女は、顔を天に向ける。
そして。
背中から、四枚の翼が。
出現した。
地面を踏み込むと、一気に上昇。
姿が一瞬で、見えなくなった。
「なるほどねぇ。あれが・・・・・・」
私達もその場を離れる。
「天人かぁ」
天人なら、その強さは竜人や鬼人以上。
なら、さっきのは全然本気じゃなかったのか。
いや、あの子は、私達を本気で煩わしかったように見えた。
じゃあ、あれだよぉ。
属性は強い方が強い。
私の闇が、相手の光を上回っていたのかもしれない。
私の闇は深いよぉ。
だって、私はあっちではこう呼ばれてる事になるの。
最悪の殺人鬼、ドールコレクター。
私は人を殺すために生まれてきた。




