あのね、テストをするの。
新たな妹を迎えて。
だけど、この子は敵だったから。
他の妹達がすんなり受け入れてくれるはずもなく。
だから、テストをするの。
その課題は、単独で敵国の一つを落としてくること。
これが上手くいけば、力量も、信頼もある程度は示せる。
「さぁ、ついたよぉ」
その前に一つプレゼントをしようと思う。
前に私と他の妹達、全員に属性開放を施した場所。
一人につき、1億マギカという破格の支払いをしなきゃいけないけど。
まぁまぁ作戦で全部ただにしてもらいました。
で、今回も。
「げぇええ、また来たぁ」
私の顔を見るなり、属性屋のお姉さんの顔が梅干しのようにしわくちゃになったの。
「久しぶりだよぉ、で、さっそくだけど、この子の属性解放してもらおうと思います、勿論、ただで(ぼそ)」
「よ、よろしく、だ」
円ちゃんの頭を押さえて、無理矢理お辞儀させる。
「いやいやいやいやいやいやいやいや、こ、今度はお金払っていただきますよっ!」
ほほう、前回、あんなに可愛がってあげたのに、まだ調教は完了してなかったみたい。
じゃなきゃ、本来、私の顔を見るなり尻尾を振るのに、まだ色々甘かったかな。
「まぁまぁ、それはいいとして」
「よく、ありませんっ! 近寄らないでっ!」
ここからは、一瞬だった。
強化魔法、瞬時に、お姉さんの後ろに回り込む。
そのまま、服に手を入れ。
「は、早いっ! あ、やめ、あ、そこは、いけません」
「まぁまぁ、大丈夫、大丈夫、私は超弩級だから」
その後、超弩級な・・・・・・。
「光ですね。もう目が眩むほどの輝きです」
「え、闇じゃなくて?」
今度こそ調教を終えて、まず円ちゃんの属性を見て貰ったんだけど。
「ええ。もう、重力の影響さえ受けず、ブラックホールの中でも突き進み、事象の地平面の中でも観測できるほどの光です」
そ、そんな、物理や理論を無視するほどの光だというの。ていうか、なんでこのお姉さん、そんな単語知ってるんだよぉ。
てっきり、私と同じ、どす黒い闇属性だと思ってたのに、まさか真逆の光とは。
これは、嬉しい誤算だね、光属性はレアだって妹達も言ってたし。
「じゃあ、お願いするよぉ」
「た、頼むのだ」
「かしこまりましたー」
今度こそ、このお姉さん、素直に応じて。
一悶着あったけど、円ちゃんの中にある属性を引き出してもらうことに。
ぴったり三時間後。
私と他の妹達が見守る中。
円ちゃんが敵国、ジンボンの地に降り立った。
「姉上、本当に大丈夫でしょうか?」
「いくらなんでも、単騎で国は落とせないよ」
「そうじゃな、我やオニチナでさえ怪しいぞ」
「私達の強化魔法も無しぞな、それはきついぞな」
「そうぞな」
妹達が口々にそういうけど。
「まぁまぁ、黙って見守ろうよ。私はあの子ならやってくれると思うんだよぉ」
よく説明できないけど、あの子とは妙なフィーリングを感じる。
まるで、以前から知っているかのような。
深く、絡み合う糸が。
私に、説得力を与える。
「さぁ、見せて。円ちゃんが本当に、私の妹に相応しいか。私はそれが見たい」
エルシーちゃんとエルダちゃんが、私達の目と耳に強化魔法をかける。
それにより、視力、聴力が向上、そこそこ離れたこの丘からでも円ちゃんの様子が分かる。
光はここまで届いた。
円ちゃんが、属性解放をしたんだ。
光の柱が天に一直線に伸びていき。
程なく怒号がわき起こる。
殺戮が始まる。
血飛沫、煙が、悲鳴が上がる。
「うふふ、光が人を呑み込んでいく。まるで溶けるよう」
属性を纏ったナイフが鎧を切り裂く。すると半分に別れた体は、影に光が当たったように綺麗に消え去る。
数十人に取り囲まれるも、その場で体を高速回転、名前のように円を描くと、周囲の兵士が渦を巻くように順に消滅する。
無数の矢が円ちゃん目掛けて飛んでくる。光のカーテンがそれを防ぐも、気づくのが少し遅かった、取りこぼした数本が体に突き刺さる。
一瞬、怯んだその隙、近くにいた兵士の槍が背中を襲う。
後ろから横腹を貫通する。だけど堪える。その先端を握ると、振り向きざまに斬撃、兵士の頭部が吹き飛んだ。
斬られ、貫かれ、それでも、ゆっくり城門に向かう。
門の中からわらわらと兵士が蟻の大群のように湧き出る。
その波を割るように、進んで行く。
「うくく、私を止めたいなら、首を落とす、のだ」
鎧を掴み、地面に叩き付け。
鎧を掴み、頭上に放り投げ。
切り裂き、切り裂かれ、刺し、刺され。
どんどん傷が増える。
それでも、前だけ見据える。
目の前の敵だけを殲滅。他には一切目をくれず。
鬼気迫る形相で、眼前の敵を薙ぎ払う。
ついに、城へと入った。
ここからはもう見えない。
一体、中ではどうなっているのか。
最終目的は王の首、だが、その前に城守が立ちはだかる。
そもそも、そこまでたどり着けるのか。
何十分、何時間経ったのだろう。
その姿が見えなくなってから、私達はただ静かに城だけを見ていた。
他の妹達は誰一人、言葉を発してなかったけど。
みんな、こう思っていた。
あいつは、中で死んだ。王まで辿り着けずに、力尽き、床に倒れ、その体に取り囲む兵士の槍を何度も突き立てられ、ついには息絶えたのだと。
だけど、私は違うの。
あの子は、やるよ。
もう一人の私がそう確信している。
城の最上部、塔の扉が開いた。
そこから、出てきたのは。
全身血まみれで。
されど、二つの足はちゃんと地面を踏みしめて。
誰かの首をしっかり握った。
円ちゃんだった。
円ちゃんは掲げる。
私達にしっかり見せつけるかのように。
王の首を、拳を振り上げ、天へと。
それを見て、私はエルシーちゃんとエルダーちゃんに合図を送る。
耳を指刺し、そこだけ強化を解除。
「合格だね。みんなはどうかな?」
妹達の顔を見る。
強化は解いたが、それでもまだ誰も口を開かない。
まだ決めかねているのか、それともあの光景に目を奪われているのか。
円ちゃんは、もうフラフラだね。
立ってるのがやっとって感じ。
血を流しすぎたのか、目も虚ろ。
そんな中、シンメトリーのもう一方の塔の扉が開かれた。
出てきたのは、二つの人影。
その顔、忘れるはずもなく。
バールを持ったツインテールと。
千枚通しを手に握る、おかっぱ少女。
私の体に傷をつけた、残りの二人。
二人は、薄ら笑いを浮かべながら、円ちゃんに近づいて行く。
「よぉ、まじで裏切ったのか、お前」
「うちのボスが言った通りだ、本当にここを襲ったよ」
唇を読む。多分、こんな感じ。
いづれにしろ、あちらにしたら友好国なのだから、円ちゃんのやったことは裏切り以外の何ものでもない。
円ちゃんは、動かない。
いや、動けないのか。
「さて、私は行くよぉ。みんなはどうするかなぁ」
二本の魔剣を両手に握る。
「・・・・・・どうやら、あいつはちゃんと示したようです。私は姉妹と認めましょう。ならば、助けなければです」
「そうじゃな、有能な者は歓迎じゃ。我も受け入れようぞ」
「あ、今、強化魔法かけるぞな」
「私達も、助けるのを手伝うぞな」
「私は最初から、お姉ちゃんが決めた事に反対してないよ」
「・・・・・・はぁ、もう一人加わるなら、戦略は一から見直しね」
全員が円ちゃんを認めたみたい。
なら。
「よ~し、じゃあ、改めて、新しい妹を迎えにいくよぉ。全員でねぇ」
まず、オニチナちゃん、パンドラちゃんが飛び出す。
それに私と残りの妹達が続いた。
立ったまま、意識を朦朧とさせていた円ちゃんを囲むように、守るように。
私たちは、落ちていく。
「どうも、どうも~」
二人の前に、姿を現せて、まずはにこやかに挨拶。
「あぁ? やっぱり、生きとったんか、われ」
「これも、ボスの言った通りだね」
私達の登場にも、さして驚かない。
それどころか。
「おらぁああああああああ、どうでもいい、見たが最後だぁああぁああぁぁ、今度こそ殺してやらぁあああっ」
「皆、皆、皆、皆殺しぃ」
二人の身体から赤いオーラと、青のオーラがそれぞれ立ち登った。
なるほど、あちらも属性解放済みって事だねぇ。
あっちはとことんやる気みたい。
私達も、それぞれの属性色が頭上高く迸る。
戦力的にこっちが有利。
でも、このままやれば被害も尋常じゃないよね。
「おらおらおらおら、かかってこいやぁぁあ」
「ドワーフ、エルフ、ノーム、竜人、鬼人、そしてお前。すべからずその眼球抉ってあげよう」
衝突は必死。
だけど、私は知ってるの。
こういう場合どうなるか。
「オニチナ、お前は左だ、我はあの目の周りが真っ黒な方をやろうぞ」
「心得た」
後、数秒、どちらが先に動くか、そんなまさに直前。
その最中、ツインテールの眉がぴくりと動いた。
「・・・・・・ちっ、ボスからだ」
「なんだって?」
振り上げていたバールはそのままで。
「帰ってこいってよ」
「なんだよー、お見通しって事かい」
ね、大抵、こういう時って、あっちが勝手に引いてくれるんだよぉ。
それにしても、脳に直接メッセージが送れるのかな。あれ便利だね。
「おい、お前ら、今回は見逃してやるわ、次あったら絶対殺す」
「ちゃんと、眼球洗っておいてねー」
うふふ、実際、見逃すのはこっちなんだけど。
まぁいいか。ここで確実に殺してもいいのだけど、大事な妹達が傷つくのは嫌だからね。
今日以上の状況をつくって、こちらの被害が一切ないようにこの二人を殺す事にするよぉ。
二人が去って行く。
「いいのですか、姉上、今倒しておいた方がいいのでは?」
「あいつら、この先さらに厄介になりそうじゃの」
二人の言ってることは概ね正解なんだけど。
もっと先を見据えた時、この一手は生きてくるはずだよ。
「いいの、いいの、それより、早く帰って、歓迎会だよ。思いっきり派手にいこう」
踵を返して、今にも倒れそうな円ちゃんの元へ。
私が、手を広げると。
倒れるように、胸に飛び込んでくる。
安心したのか、円ちゃんはここで意識を失い。
優しく抱きしめ、その血がこびり付いた髪を撫でる。
「・・・・・・よくできたね。いい子だよぉ。これから、私と一緒に・・・・・・」
囁くように。
「世界を壊そうか」
耳元でそう呟いた。




