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あのね、対抗馬はなかなかやるみたいなの。

 辺境のエルフ達に私の名を轟かせた。

 生き残りを集め、数個の集落を作って手厚く保護する。

 皆、葵様と慕ってくる。

 私は笑顔と手を振ってやればいい。

 

 盗賊や魔物の被害はどの大陸でも問題視されている。

 点在する国々は自国の周辺にしか興味が無い。

 いわば外れにいくほど誰も手を差し伸べてくれない。

 そこで、単体で移動も戦闘もこなせる私の出番。

 この自作自演は、他の大陸でも使えそうな手だね。

 

 この大陸限定とはいえここに住まうエルフからの支持を得れば、仲がいいドワーフという種族も私達を邪険できない。

 ただでさえ、妹の一人カジーナちゃんはドワーフの長の孫。

 これでグラドオルは統一したも同然。

 五大陸中二つは私の手中に。


 次は北の大陸、エリッチポランか、西北のユマニュロトにするか。

 ここらは他の妹達と相談しようと思う。

 フレムちゃんがすでに全大陸の情報収集に努めてくれている。  

 

 

 そう思っていた矢先の事。

 私達の元に結構重要な話が飛び込んで来た。


「ね、姉さん、大変だよっ!」


 昨晩はエルフの二人を一緒に寝る番だったから、私達は裸で川の字に寝てたの。

 そこに血相を変えてフレムちゃんが飛び込んできた。


「ん、ん~。なにかな。まだ眠いよ、もう少し眠ってもいいよね」


 大声で起こされたからまだ頭がはっきりしないの。


「そ、それどころじゃないよっ! 北の大陸エリッチポランとユマニュロトの二大陸が統一されたんだよっ!」


 統一? 私はやってないよね。ん、ん、ん。

 じゃあ、一体誰が。

 まだ夢心地で事態の重さに気づけない。


「姉さんっ! ちゃんとしてよっ! 私達の他にいるって事だよっ!」


 裸のまま立ち上がる。エルフの二人は可愛い寝息を立てている。

 このまま寝かせてあげよう。


「下に行こうか。話はそこで聞くよぉ」


 とりあえず顔を洗ってこよう。



 用意された朝食を前に、私はテーブルに座った。


「で、どういうこと?」


 他の妹達はすでに朝食をとり、各々の作業に取りかかっているのか、ここにはフレムちゃんしかいなかった。

 私はご飯を口にしながらフレムちゃんの話に耳を傾ける。


「早朝、私の元に手紙が届いたの。エリッチポランは私の故郷だからね。ここの情報は集めやすいんだよ。半月前まで特に動きはなかったの。でも、事態は急変した」


「ふむ、もぐ」


「あそこはとても広大だけど、北方付近はとても人が住める環境ではない。それでも国は十一個あったの。それがこの数週間で一つの旗の下統一されたんだよっ」


「ふむふむ、もぐもぐ」


「ちょっと、姉さんっ、もう少し反応してよっ!」


 あ、このパン美味しい。

 フレムちゃんは私がご飯のほうに意識を向けていくから少しご立腹みたい。


「まぁまぁ、フレムちゃん。これは少し予想できてた事でもあるんだよぉ。先日私とパンドラちゃんが遭遇した正体不明の存在の事は話したよね? あれって私と同じ世界から来た人間だと思う。あの時会ったのは二人だったけど、あの時言ってたんだよ。ユマニュロト大陸は私達の縄張りだって。で、今回ほぼ同時にエリッチポランまで統一を果たした。あっちも私達の存在に気づいてる。そこであえて一つずつじゃなくて一気に二つ手中に収めたんだよ」

 

「こっちに出来るだけ派手な行動を見せないため? 逆に同時に統一するなんて芸当のほうがよっぽど目立つよね」


「そうだね、これってこっちを挑発してるんだよ。自分達の力を見せつけたのかな」


 相手はよっぽど自信家みたい。

 そしてそれを証明するだけの能力がある、か。


「どうするの、姉さん、これから北へ侵攻しようかと思った矢先だよっ。このままほっとくわけにもいかないよね?」


 私はお肉を頬張りながら首を横に振った。


「別にいいよぉ。オセロみたいに後で一気にひっくり返せばいい。私達のかわりに統一してくれてるんだもん、ありがたいじゃない」


「じゃあ、このまま利用するって事!? こっちより力をつけだしたら最終的に手が出せなくなるかもよっ! 後、オセロってなにっ!?」


 フレムちゃんは相当危機感を募らせてるようだね。

 大丈夫だよぉ。

 私の上はいないもの。

 いつも最後に笑っていたのは私なんだよ。

 今までもそしてこれからもそれは変わらない。


「まぁ、一応見てこようとは思うよ。私達と敵対するのがどんな人物か。少し興味があるよ」


 この前の二人じゃないね。直感だけど、彼女達はどっちかというと動かされてる。

 他に何人こっちに来てるか分からないけど、纏めてる奴がいるよぉ。

 あの、肥だめみたいな瞳をした二人をうまく扱える人間。


「フレムちゃん、エルダちゃんとエルシーちゃんを連れてくよ。起こしてきて」


 そうと決まれば用意しなきゃ。今だに私スッポンポンだよ。


「エルフの二人を? パンドラとオニチナじゃないの?」


「うん。別に見に行くだけだしね」


 ま、ちょっとはちょっかい出しちゃうかもね。



 数時間後、私はエルシーちゃん達を連れだってエリッチポランへ。

 フレムちゃんの情報だと、大陸中央の国、カンドコエにいるみたいだけど。


 城壁前まで行くと、城門が勝手に開きだしたの。

 門番が何人もいたけど、誰も声も手も出してくる気配がない。


「ふーん。お見通しってことかぁ」


 それならお言葉に甘えようかな。

 門を潜ると、身なりのいい青年が私達を迎えた。


「葵様ですね。お待ちしておりました。我が主から、丁重にお迎えするようにと。さ、こちらへ」


 私達は素直に言葉に従う。ここから馬車に乗り、お城まで一直線。

城内に入ると、兵士達が左右にずらりと並んでいた。


「うう、なんぞな。なんか不気味ぞな」

「そ、そうぞな。なんで私達が来ることを知ってるぞな」


 エルフ達はこの状況に少し臆してるみたい。

 駄目だよぉ。仮にも私の妹達なんだから堂々としてなきゃ。


「主はこの先におられます。私がお供するのはここまででございます」


 階段を上って玉座の間へいけばいいのかな。

 ここからは私達三人で進んだ。

 

 重厚な扉を開けると、そのには人影が5つ。


「うくく、本当に来た。やばい、まじ、来た」

「凄いなぁ。なんでわかったんだろ」

「あぁ、アタシ達と同じだ。糞みたいな目。あれ欲しい」

「ふふ、思ったより可愛い。あれ調教したい。隣のエルフもいいね。解体したい」


 う~ん。立ってる四人は、以前会った二人の他に初顔二人。

 おかっぱ頭に目の周りが真っ黒の禍々しい女。

 ツインテールでにっこりしてるけど、目が笑ってない、気持ち悪い女。

 共通するは全員、ゴスゴスしていて生ゴミのような腐臭が湧いて見える。これは元々散々人を殺してるね。

 四人はニヤニヤと舌を出したり殺気をぶつけてきたりこっちを挑発している。

 私は無視して中央を見据える。


「あ、はじめまして。私、蓮華って言います。そろそろ来るのではないかと思ってたんですよ」


 そして奥に鎮座する、この微笑む女。

 白いワンピース姿。長いエメラルド色の髪、柔らかくふわりとなびく。

 この子が頭だね。

 なるほど、他とは違う。別の意味でやばそうな感じ。


「どうも、どうもー。はじめまして。葵だよ。こっちは妹のエルシーちゃんとエルダちゃん」


 こちらもにこやかに挨拶。


 そして。


「ちょっと、どんな感じか見せてもらうね」


 言い終わるなり、属性解放。

 私の体に闇の渦が一気に放出される。


「エルシーちゃん、エルダちゃん、強化魔法、できるだけ重ねてっ」


「は、はいぞなっ」

「わ、わかったぞなっ!」


 さらに、後方から強化を施す。勿論、自前のも発動。

 魔ナイフ、ダーインちゃんも取り出す。


 最初から全力で行くよ。


「あっ!? なんだ、こいつっ!」

「やる気だよっ!」

「いいね、わけわかんねぇっ」

「先に手を出すとか最高じゃないっ」


 前にいる四人も即座に動いた。

 それぞれ、咆哮を上げながら武器を構えた。

 

 なるほど、全員凄まじい狂気だね。


 四人を無視して、奥の蓮華ちゃんを狙う。

 踏み込んで一気に駆けた。

 

 でも、一人が即座に目の前に立ちふさがる。

 歯がギザギザの眠そうな子だ。

 速い。この状態の私より。


「耳もーらいっ!」


 その子のナイフが、易々と私の強化された体を切り裂く。

 私の耳が髪と血を伴って宙に舞った。


「目ちょーだいっ!」


 今度は下から突き上げるようにアイスピックが顔に迫る。

 おかっぱのパンダ目の女の攻撃。

 先端が私の目に突き刺さる。


「私、指欲しいーっ」


 回り込まれた。鉈が左手に振り下ろされる。

 私の五本の指がバラバラに散らばった。


「じゃあ、髪でいいやっ」


 ツインテール女が私の髪を掴むとそのまま地面に叩き付ける。

 床が罅をあげて全体に大きく割れた。

 その際、私の頭皮から髪が束で引き抜かれる。


 俯せで、顔を上げる。体勢を整えようと立ち上がろうとした。

 その時、奥の蓮華ちゃんが目に入る。


 彼女は装飾が施されている古い銃を構えていた。


「どうです? お望み通り見せてあげました。ご満足頂けたでしょうか? しかし、残念です。もう少しゆっくりお話したかったのですが。今日は顔合わせということでこれでお引き取り願いましょう」


 言い終え、引き金が引かれる。

 銃弾が放たれ、私の顔面直前で大爆発を起こした。


 強制的に吹き飛ばされる。


 玉座が崩れるほどの衝撃。

 私は城外へ爆風によって退場されてしまう。



 数百メートル空を舞い、地面に落ちる。

 そこはもう城壁すら軽く越えていた。


 

 視線は空へ。とても綺麗な青空。


 しばらく呆然としていると、エルシーちゃん達の声が聞こえた。


「アオイ姉っ! しっかりするぞなっ!」

「す、すぐに回復魔法をかけるぞなっ!」


 良かった。この二人は無事だったね。

 私を殺す気はなかったはずだけど、この二人は確証がなかった。

 あっちも私達をとことん利用する気みたいだね。



 あぁ、体中が痛い。耳も指も取られちゃった。

 左目が全く見えない。

 これが痛みかぁ。

 

「うふふ、うふふふふ」


 自然に笑いがこみ上げてくる。


 想像以上だよ。蓮華ちゃんだっけ。

 持ってたのは魔銃かな、そしてあの四人は一人一人が馬鹿げた力を持ってた。

 よくあんなの纏められるよ。

 これは認めざるをえないね。

 これまで、私は自分より上の存在はいないと思っていた。

 今でもその考えは変わらないけど。

 少なくとも私と同等位には考えてあげる。


 これは楽しくなってきたよぉ。


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