あのね、ライバル出現なの。
パンドラちゃんと手分けして王族とゲートを探したの。
警備が厳重な場所を探せばいいんだよね。
その部屋の前だけ、五人もの兵士が立っていた。
あぁ、ここだなって思って、中に入るとそれらしい人がいたよ。兵士は私を見るなり動かくなったから何もせずに入れたの。
「どうも、どうも~」
一応あいさつして、そして殺した。
パンドラちゃんと合流するまで、目についた者の首元に一筋の切り傷だけをつけていく。
肌に赤い線が浮かび上がる。
竜人のパンドラちゃんの闘気は凄まじく、離れていてもどこに行くかよくわかる。
息苦しくなる方へ向かっていけばいい。
いいね、いいね、近づく度にきゅんきゅんするよ。
動いてないね、てことはもう見つけたんだと思っていいよね。
案の定、パンドラちゃんの元へつくと、傍には眩く光るゲートがあった。
その場を守っていた兵士はすでに意識はない。手早く片付けてくれたみたい。
「姉者、そっちはどうじゃった?」
「うん、多分だけど王族らしき人達は殺したよ。とりこぼしのないように遭遇した者、全員に傷をつけてきたしね」
よし、後はここで待ってるだけだよ。
私の見立てだと、後10分以内にはここに現れるはずなんだ。
大体時間通りに、ゲートから人影が浮かび上がった。
血相を変えて、飛び出してきたのは、今まさに妹達が攻め込んでいる大国バルバリアの王族達。王、后、まだ幼い王子と王女、お付きの大臣。
私は微笑を浮かべ、その五人を見つめた。
来た早々固まる五人の内、まず大臣の額にナイフを突き刺した。そのまま持ち上げると、後ろに投げ捨てた。
「じゃあ、死のうか」
怯えた表情を浮かべる王達に血が滴るナイフを向けた。
「姉者・・・・・・王子達はまだ幼い。その二人だけは生かしておいてもいいのではないじゃろうか」
突き立てたナイフを止める。振り返ってパンドラちゃんの顔を見た。
「え、パンドラちゃん、どういうことかな? 後々の事を考えたら殺しちゃった方がいいはずだよ」
「・・・・・・しかし、殺さずとも幽閉するなりどこかに追放するなり、他の方法もあるんじゃなかろうか」
なんでだろう、そんなの面倒なだけじゃないのかな。
「えっと、この子が成長したら恨みを抱いて復讐してくるかもしれないよ。叔父であるここの王も仕留めたのに、一番近い王子と王女を殺さないのはおかしいでしょ」
「し、しかし・・・・・・」
この件に関しては私が正しいよ。だからもう殺るね。再びナイフを振り上げる。
「姉者っ! 相手はまだ子供じゃ。少し非道すぎではないかの」
「もしかして、子供だからって理由なのかな? パンドラちゃんも散々色んな人殺しておきながらそれはないよ。殺すのに大人も子供も老人もないよ? むしろこの子達はここで死なせてあげたほうがいいよ。幽閉しても追放しても辛いだけだよぉ」
変なパンドラちゃん。どう考えても生かしておくメリットがないよ。
「・・・・・・姉上の言ってることもわかる。しかし、ここは我の顔を立ててくれんかの。その命預けさせてくれ。ちゃんと教育して姉上の足かせにはせぬと誓う。お願いじゃ」
パンドラちゃんが膝をつき、頭を下げた。
「・・・・・・・・・・・・」
ナイフを握る手を振った。頭部が地面に落ち、ころころと転がる。
それは王と王妃のもの。王子達には手を出さなかった。
本当なら今ので全て終わってるんだけど。思いとどまったの。
「正直理解できないけど、パンドラちゃんがそこまで言うなら後の事は任せるよ。ちゃんと調教はしてね。少しでも反発しそうなら今度は問答無用に殺すからね」
「・・・・・・心得ておる。姉者、我が儘を通してくれてありがとうなのじゃ」
たまに妹達の考えが分からない時がある。
非効率な選択を選ぼうとさえする。
でもね、可愛い妹達だもん、少しは理解をする努力はしないとね。
「じゃあ、パンドラちゃんはその子達つれて、そこのゲートから戻ってよ、私は後始末するね」
「後始末とは?」
私は言葉で答える代わりに、魔ナイフを掲げた。
「よ~し、ダーインナイフちゃん、餌だよぉ、た~んとお食べ」
私の呼びかけに、ダーインちゃんの刀身がどす黒く光りを放つ。
私の周りに風が起こる。
まず、近くの首無し死体、その首元から血が吸い上がって行く。
透明な風が紅く色づき、ナイフへと向かう。
後は、私が傷をつけてきた者達の傷口からも血が湧き出てここに集まってくるの。
城中から餌をかき集め与える。何十人という兵士は干からびるまで搾取されるのだ。
お預けをくらっていた魔剣はすごい吸引力を見せつけ螺旋を描くように血を飲み込んでいった。
「結構傷つけてきたからね、時間かかるかも・・・・・・」
「やはり、面妖な武器じゃのぉ・・・・・・」
先に帰ってても良かったんだけど、パンドラちゃんはその光景に目を奪われていた。
先に帰らせなくて良かった。
じゃなきゃ、私死んでたよ。
突然、私達に向けて風が吹き抜けたの。とても不快な突風。
後ろにいた王子と王女の小さな頭が爆発した。
殺気? 魔法? 深く考えてる暇はないみたい。
即座に反応したパンドラちゃんが槍を取り出し、私の前に庇うように立った。
前方には先ほどまで気配すらなかったのに、二つの人影。
「お、お、お、死んでない。今ので死んでない。こいつら、強い」
「すぐ殺しちゃ駄目でしょう。色々聞かなくちゃでしょう、体にぃ」
サイドテールで、目が半開き、歯はギザギザ、手には包丁。やばそうな女の子。
もう一方は、緑のポンチョコートで、すごい可愛いらしい容姿をした女の子、かな。見た目はそうだけど、なんかちょっと違う感じがする。
でも確実な事が一つ。一目でわかったよ。あれ、この世界の住人じゃないね。
私と同じだよ。目が合ったからわかる、しかも同種みたい。目が泥水みたいに濁ってる。
「何者じゃっ!?」
パンドラちゃんが激しく威嚇するも、二人にはまるで効いてない。涼しい顔をしている。私だってスイッチは入れっぱなしなのに。
「それを聞きたいのは、こっち、この大陸は私達の縄張り、なにしに来た」
「好き勝手やってくれたね、人の畑荒らして、どうなるかわかってるの?」
緑コートの方もアイスピックを取り出した。二人の持ってるのは、完全に私の世界産だ。こりゃ決まりだね。
歩みを止めずにこちらに近づいてくる。殺す気満々、むしろそれが楽しくてしょうがなさそう。
食事を終えたので、私もナイフを構える。
う~ん、どうしよう。相手の力量がわからない。ただ常軌は逸している。
同じ殺人鬼でも、あんなの知らないなぁ、多分私と同じで捕まってないんだろうね。
そうとう、遊んでるよあれ。あっちで殺した数、どっちが多いだろう。
さて自前の強化だけでいけるかな。あっちは自信たっぷりみたいだし。とっくに私が別世界から来たのは分かってるだろう。
「パンドラちゃん、数回でいいから刃交えてみて」
「御意っ」
まずはパンドラちゃんで測ってみる。竜人であるパンドラちゃんはこの世界でも指折りの強さ、もし予想以上の力を持っていたとしても、後ろに退路がある。ゲートを通るだけの隙は作ってくれるよね。
パンドラちゃんが、踏み込む。二人との距離を一瞬で埋めた。
槍を振り抜く、しかし、二人の姿の消えた。
その本体、すぐにパンドラちゃんの左右に露わになる。
私ならこれで終わってたかも、包丁とアイスピックで胸を刺されて即死だったね。
でも、さすがパンドラちゃん、ちゃんと反応して後ろへステップ、間髪で避けきった。
「お、お、お、今の避けた。なにこいつ、まじ強っ」
「やるね、見たことないけど、これ竜人てやつだよ。他の貧弱貧弱種族とは違うみたい」
二人の体が眩く光ってる、強化してるみたい。すでに魔法は習得済みかぁ。
「せっかく、姉者が生かしてくれたのに・・・・・・貴様らぁぁぁ」
お、なにかわからないけど、パンドラちゃんが激しく怒ってる。先ほどまでの闘気がさらに増してるね。
これなら大丈夫かな。冷静さを失ってるのとは違うよね。感覚は研ぎ澄まされてるはず。
妹に全面的な信頼を寄せて、私も行動するの。
魔剣を持つ手に力を込める。
相手にではなく、ナイフに殺意をありったけ送りつける。
笑うように、歓喜するようにナイフが紅く鼓動する。
強化魔法と共に、そのナイフを前方に向かって空を裂くように振りきった。
空間に切り込みをいれるかのように、景色がずれる。
描いた一本の線、キャンパスは上下で別々の動きを見せる。
パンドラちゃんは、後ろから迫ってきた脅威に受け身を無視して床に倒れて避けた。
残りの二人は反応が遅れ、手に持つ得物でなんとか受け止める。
衝撃で二人は後方へ押し出され、遙か後方、壁をも突き抜け吹っ飛んだ。
と、思ったのに、二人は健在だ。たしかに外へと出したはずなのに。
質量のある残像ってやつかな。それでも後ろまで押す事には成功し距離は確保できた。
「手、痛い、なにあの女」
「あいつ死臭が半端ないよ、あれ、そうとうな変態だね」
私の事かな、好き勝手言ってくれてる。
今すぐ殺してあげたいけど、ちょっと厄介そうな相手だから、今回は逃げるよ。
「さ、パンドラちゃん、今のうちに帰ろう」
魔剣による斬撃で天井が崩れ落ちてきた。このままじゃ生き埋めになっちゃう。
しかし、あの二人なんなんだろ、上半身と下半身を真っ二つにするつもりだったのに、あんな玩具みたいな武器で防いだよ。凄いね。
ここは、ユマニュロト大陸だったね。ここもその内統一しなきゃならない、縄張りとか言ってたからこの先二人とぶつかるのは必至だね。
「ま、これで、ノスタルユーリは統一できた。次は別の大陸だけど、そう簡単にはいかなそうだねぇ」
崩壊していく建物と、遠くに見える二人を眺めながら私達はゲートに乗る。
追撃は諦めたのかな、二人に動きはない。代わりに気持ち悪いようにこちらを見て笑ってた。
目的地をバルバリアに定める。
さぁ、帰ろう、あんなのに付き合ってられないよ。妹達が待ってるんだ。
今日は頑張ってくれたから、みんないっぱい可愛がってあげる。




