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あのね、ここどこか調べるの。

  

 飛び込んだ瞬間、光が溢れた。眩しさに目をつむる。それが収まったとき、私は信じられない光景を目にする。


「・・・・・・ありゃ、ここどこかな?」


 夜の繁華街にいたはず。なのに今、私が立っている場所は太陽の光が降り注いでいる。

 見渡すかぎり木が生い茂る森の中。


「・・・・・・ふ~む」


 とりあえず落ち着くの。こういう事象の前例が無いわけではない。人が突如消えるなんて話は世界にいくらでもある。メアリ・セレステ号事件とかは有名だしね。自分もそれに類似したなにかに巻き込まれたと考える。

 まず携帯を取り出した、でも圏外表示。次に太陽の位置を確認。腕時計から方角を割り出す。気温は低くない、ゴスゴスヒラヒラと着込んではいるけど丁度いい温度。


「アジアの東南あたりかな・・・・・・」


 時差から割り出すとそんな感じ。正直、動揺はしてるけど実際私には感じ取れてる。大地を踏んでいる感触。風が肌を撫で、新緑の匂いが鼻に通る。だから今できる最善を尽くす。


「森抜けてみよう」


 目印や道の形状など、森にあふれる情報を見出していく。出発前に今いる地点が分かるように近くの木にナイフで名前を彫っておくの。


「ア、オ、イっと」


 目に映るものを正確に記憶しながら進めば、迷うことはないでしょ。同じような景色に見えても、形状はまるで違うからね。

 途中、植物などを見つけて観察する。今いる場所のヒントになる。


「・・・・・・なんだろ、これ」


 植物の知識はあるはずなのに、この紫の花は初めて見る。そもそもこの囲まれている木々ででも環境や標高などある程度の情報は割り出せるのに種類がよくわからない。常緑樹林かな、季節的にこの気候なら落葉広葉樹林ではなさそうだし。土も手にとって見てみたけどさほど特徴もない。 

 空間を切り取り、頭に埋め込みながら先を目指していく。

 木々の間隔と地面の様子につねに目を見張る。


「・・・・・・お、抜けた」


 一気に視界が開けた。今度は草原に行き着いた。180度首を動かすと、少し先に煉瓦作りの小屋が見えた。煙突から煙りが立つのが見える。


「人がいるね。色々聞いてみようかな」


 私は小屋の前まで行くと、扉をノックする。

 しばらくすると、ゆっくりとドアが開いた。立派な髭を蓄えたおじさんが半分だけ顔を出した。かなり警戒しているのか手には斧を持っている。


「あーどうも、どうも、ちょっと道に迷っちゃって」


 私がニコニコとそういうと、おじさんは下から舐めるように私の体を見渡した。


「・・・・・・何もんだ?」


 髪の色はころころ変えてるけど今は紫、服も黒いドレスみたいな格好だった。おじさんは得体の知れない者を見るように顔をしかめた。


「えっと私はね・・・・・・」


 名前、国籍、年齢など大体は教えた。ちょっと詐称したけどね。


「知らん場所だな。飛ばされたのか? まぁ、いい・・・・・・入れ。この辺は山賊がでる」

「ありがと」


 狭い家の中に通された。でも警戒は解いてない、おじさんは斧を手放さなかった。

 それにしても自分のいた所から気づいたらここにいましたって正直にいったのに、おじさんは特に疑問を持たなかった。そこが引っかかる。

 家の中に入ると、中央に木製のテーブルが置かれていた。私は同じ素材の椅子に腰掛ける。


「で、ここはどこかな? おじさんはなんで私が飛ばされたって信じるの?」


 さっそく疑問を解消する。とにかく今は情報が欲しい。


「ここはグルニアの山の中だ。お前、転移魔法でも食らったんだろ?」


 う~ん、何言ってるんだろ、このおじさん。


「グルニアって初めて聞くね。そんな場所あったかな」


 国、町、村、全世界の地名は記憶してたはずだけどそんなの聞いた事ない。


「ノスタルユーリ大陸の外れだ。俺もお前のいた場所なんて知らんな。相当遠くから来たのか?」

「よくわからないの。それじゃあ転移魔法ってなに?」

「魔法の一種だろうが。エルフや魔女が使うやつだよ。お前馬鹿なのか?」


 うん、全く話が通じない。おじさんの目を見る。でも冗談でいってるようには思えない。私は同類の嘘ですら見破れる。ただの一般人なら確実にわかるはず。


「・・・・・・少し、考えずらいけど」


 パラレルワールドにでも来たのかな。よく異世界なんて言われてるけど、私の考えてはここは無数に枝分かれした可能性の一つの到達点。

 それにしても目線が気になる。さっきからおじさんの視線が私の顔や胸、太ももに注がれる。思考が手に取るようにわかる。


「お前、なんの種族だ? 妙な格好してるし。魔法を知らないならそっち系ではないよな」


 おじさんが立ち上がった。私に近づいてくる。


「一応、人間だよ」


 私がそういうとおじさんが口角を上げた。


「なんだ、じゃあただの女ってことか」


 おじさんは息を急に荒くしながら私に飛びついてきた。


「・・・・・・・・・・・・」


 瞬時に私はナイフを取り出し、そのままおじさんの喉を切り裂いた。赤い線が引かれその出口から血液が我先にと溢れて出て行く。


「あが・・・・・・が・・・・・・」


 喉を必死に押さえながらおじさんの体が沈んだ。

 私はそれを見下ろしながら可笑しくなった。まるで虫のように藻掻いている。


「あらら・・・・・・もう少し色々聞きたかったのに、やっちゃったよ」


 おじさんがここでの最初の犠牲者になっちゃったね。パーツはどこも粗悪そうだからいらないかな。完全に無駄死にだね。


「ま、他の誰かに聞けばいいか」


 この時点でまだおじさんには息があった。でも止めは刺さない。そのまま苦しみながら昇天するといいよ。

 私は家の中を物色しつつ、何か使える物がないか探してみる。金貨が数十枚。これも見たことがない。ここが別世界と仮定するなら通貨なのかもしれない。一応持って行く。


「後はなにもないよ。・・・・・・じゃあ私もう行くね。ありがと」


 ヒューヒューと漏れていた息の音ももうすごく小さくなっていた。私は最後に笑顔を見せるとドアをバタリと閉めた。


「ふぅ~、誰かいないかなっと」


 私は道を見つけるとそれに沿って歩きだした。

 一応、数えておこうかな。ここに来てから殺した数。

 現在、一人っと。どこまで増えるかな。

 私はクスクスと笑いながら道を進んでいく。

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