あのね、魔剣の出番なの。
バルバリアの王族がどこに逃げるだろうか。
情報を集め、数国まで絞った。
女王の叔父が治める国、ユマニュロト大陸の南端。ペル二ア王国。
私達の大陸、ノスタルユーリの北西に位置し、竜人の住む島を挟んだ先にある。
「ま、普通に考えたらここだよね」
私とパンドラちゃんは高い崖からその目星をつけた国、エスタリアを瞳に取り込んでいた。
初めて大規模な戦闘が始まろうとしていた。
すでに、バルバリアは周囲の国々と孤立していた。
ドルマを中心とした同盟各国から兵を招集。今、完全に周りは囲った。
数回に及ぶ無血開城の要請、大国としての意地からか全て拒否された。あちらもこの不利な状況で戦う意志を見せていた。
パンドラちゃんを抜いた他の妹達に指揮は任せたの。
フレムちゃん以外はお飾りのようなものだけど、初陣を経験させたかったし私の妹という立場だから大きな役割を与えて他者との明白な違いを見せておかなければならない。
今回は勝ち戦だからね、経験と自信さえつけばいいと思う。
バルバリアの兵は三千ほど。こちらは一万弱。
実際に戦闘を行える兵はこれよりもっと少ないけど、普段畑仕事をしているような村民まで招集した。本来戦争での大部分の兵士は、普段普通の生活を送ってる平民ばかりだし、包囲する兵が多いほどあちらの士気は確実に下がるからね。
時間は合わせた。
私達は同時に攻め込むの。
妹連合がバルバリアへ。
私とパンドラちゃんがペルニアにと。
私はナイフを取り出す。
魔剣ダーインスレイヴ、それを加工して使い慣れたナイフにした。
空気に触れると、その切っ先からどす黒い靄が立ちこめる。
ついに、私の手に収まりうねりを上げる。
「うふふ、早く、血が欲しいってさ」
「・・・・・・それが姉者の本来の武器か。見ているだけで取り込まれそうになるのぅ。正直、触れたくもない」
「そうかなぁ、こんなに可愛いのに~」
握る手から伝わってくる。
早く、早く、血が見たい、血を浴びたい、と。
うんうん、そうだね、私も同じ気持ちだよ。
さぁ、そろそろ行こうかな。
堂々と正面から入国を始める。
「パンドラちゃん、最初から全開で覇気ってて、私もスイッチ入れてくから」
「御意」
私達は二重になっている城壁の一枚目、その門番が見えた瞬間、戦闘モードに切り替えた。
全身から殺気を放つ。目が潰れ、呼吸が出来ないほどに、主張する。危険だよって、近寄ったら死ぬよって、馬鹿でも分かるように教えてあげるの。
魔剣が出す禍々しさと相まって、私達は異様なオーラに包まれる。
こちらに気づいた4人の門番は、そのまま止まってしまった。
声も出さず、ピクリとも動かず、私達はその中を通り過ぎる。
「良い子だね」
最初の城門を開いた、二枚目が見える、突然開いた一門目を不審に思い、二門目を守る兵がこちらに目を向けた。そして動かなくなる。
ここは別大陸だからね、手つかずの場所であんまり派手にはできないの。
近隣から助けが入ると困るからね、だからもう少しお預けだよ。
ごめんねと、ダーインナイフに呟く。
素通りで、城下に入った。
住民で賑わっていた、国をしての機能が正常なのだろう、活気があった。
でも、私達の出現で、その場は静寂に包まれた。
兵でさえ何もできないのに、そこに多く住む平民がなにかできるわけもなく、口を開けてこちらを見てるだけ。
「うふふ、あんまりジロジロ見てると、頭おかしくなっちゃうよ?」
薄く笑いながら、足は止めない。
ゆっくり、ゆっくり、私達はお城を目指す。
無条件で城への侵入に成功した。
皆、私達を見たのち手をぶらりと下ろし無気力になる。
透明にでもなったみたい。
誰もかれもがこちらに干渉しない。しようとしない。
しばらく、奥へ進むと、静粛を破る声が放たれた。
「と、止まれっ!」
声が投げられた方に顔を向ける。そこには白銀の鎧を着る一人の兵士。
「へぇ・・・・・・」
思わず感嘆の声を上げる。この状態の私達に声をかける者がいようとは。
「姉者、こやつ城守じゃな。我がやろう」
「ううん、そろそろ魔ナイフちゃんのお預けを解いてあげなきゃだからね、私がやるよ」
さっきから、生け贄がわんさかいたのに、私が手を出さないもんだから、持ってるナイフからドクドクと流れ込んでくる、まるで私を乗っ取って暴走しようとしているように催促する、満たされない欲求が溢れてくる。
呟く、詠唱は一瞬。
強化を足だけに施し、私は踏み出した。
一気に詰めた間合い、ナイフを銀に光る鎧に差し込む。抵抗などまるでないまま刃は全て体に収まった。
「っ!?」
声を上げる間もないまま、城守の体が変化していく。
固い鎧の中身が奇妙に形を変える、膨張しているように肉体が内部から沸騰していく。その現象は鎧をも巻き込む、グニャリグニャリと粘土をこねるように変形していく。
私はナイフを抜いてさっと距離をとる。
ダーインスレイヴから直接呪いにも似た力が押し込まれた。
やがて、血の水疱を全身に浮かび上げ、城守の体が膨れあがり爆発、鎧と共に血肉が飛び散った。
宙に飛散した血だけが、ナイフへと吸い込まれて行く。
乾ききった喉に水を流し込むように、赤の流れが刃先へと勢いに乗って集まっていく。
床には、鎧の欠片と干からびた肉片だけが落ちていく。
魔剣は飲み終わると、まだ足りないとばかりに赤い刀身が鈍く光をだし、鼓動していた。
「すごいねぇ、よほど喉が渇いていたんだねぇ」
「むぅ、なんと面妖な・・・・・・」
そうだよね、魔剣てだけで封印されてたんだもんね。
なにも与えられずにずっと閉じ込められてたんだもんね。
でも、これからはいっぱい与えてあげるね。
私に従ってれば、この先不自由はさせないよ。
身につけている服を見れば、ある程度の身分がわかる。
偉そうな人を見つけ、ゲートとここの王族がいる場所を聞こうを思ったんだけど。
「・・・・・・ひゃぁ・・・・・・うあはやはあ」
目を合わせると、すぐに発狂して踊り出しちゃった。
ナイフをしまってスイッチを切ればいいんだけど、ここはもう敵ホームのど真ん中だからね、戦意を戻した兵士が押し寄せてくるのも面倒だよ。
騒ぎが大きくなって、ここの王族がゲートで逃げたら本末転倒だしね。
「ま、城の構造なんて立地が似てれば、大体同じだし、ゲートも近くになければ意味ないからちょっと探してみようか」
あちらは今どんな感じかな。
そろそろ、バルバリアの王族が逃げる準備をしててくれるといいのだけど。
私は、ゲートを見つけたら、そこで待ち構えていよう。
もう、そこは繋がってるの。
待ってるのは死だけ、だよ。




