あのね、大陸の半分は葵に染まったの。
部屋に入ると、皇帝はお楽しみの真っ最中だった。
「どうも、どうも~」
キラキラのシャンデリア、壁には絵が書いてあるよ。
興味がないからそんな印象しか受けない。
天蓋付きのふかふかそうなベットに皇帝と愛人は裸で絡み合ってた。
遠慮無く部屋に入ると、皇帝達は化け物が出たみたいにびっくりする。
「だ、誰だっ!? 見張りはなにをしているっ!?」
出た、侵入者によくいいやつ。もういないからここに入れたに決まってるのにね。
さて、この人達は公開処刑するみたいだからここで殺しちゃ駄目みたい。
一応アキレス腱は切っておこう。仮にも皇帝とその愛人だもん、裸で逃げるとは思えないけど。
裸のままの二人を抱えパラスを出ると、パンドラちゃんがもう仕事を終え私を待っていた。
周りには鎧姿の兵士が無数に横たわっている。さすが、自慢の妹だよ。
「姉者・・・・・・うまくいったようじゃな」
こちらに気づき、口元を緩ませた。
「パンドラちゃんも仕事が早いね」
城守の男も例外にもれずに地に伏せていた。竜人のパンドラちゃんには役不足だったね。
よし、城の制圧は完了したも同然だけど、私にはもう一つやらなきゃならない事があるの。
「パンドラちゃん、この二人をちょっと持ってて、私地下室に行ってくるよ」
「ん、地下室になにか用でも?」
「うん、首輪はしとかなきゃだもんね」
場所は皇帝に聞いたよ。ナイフを見せたらお喋りになったの。
私は、幽閉されている女王の下へ足を運んだ。
地下室は蝋燭の明かりが点々と灯ってだけでかなり薄暗い。湿気も多くてじめじめしてた。こんな場所に、女王、かつて愛した者を閉じ込めるなんて、普通に考えたら非道いよね。
ここには他の罪人達もいるみたい、牢の中で蠢いている。
まともな人もかなりいそうだね。あの皇帝だもん、反乱分子とか気にくわない者も沢山入れられてそう。それでも、ここには欲に飢えた獣が多く潜んでいるね。
私はそんな人達に構われないよう、入る前にスイッチを入れナイフを手に持ちながら進んで行く。これで誰も声をかけてこないはずだよ。
一番、奥の牢に来ると、中では薄汚い毛布に包まった塊がもぞもぞしてた。
「だ、誰っ!?」
こちらに気づくと、女王ちゃんはかなり怯えた様子で声を出した。
「葵だよ、大丈夫、助けに来たの」
「あ、あおい?」
ナイフを縦に振り鍵を両断した。
「きゃっ! 何をっ!?」
そのまま持ち上げる。劣悪な環境におかれてたからかなり汚いね。
「ふふふ、すぐ、綺麗にしてあげるよ」
そして、そのまま城の大浴場へと・・・・・・。
後日、皇帝と愛人の公開処刑が行われた。
会場には民衆が押し寄せる。一目見ようと続々と集まってくる。
国のお偉いさん達と一緒に、用意されたバルコニーの上で私達、葵シスターズもそれを高見で見物する。
「フレムちゃん、どうだった?」
断頭台に首を押し込まれている二人を見下ろしながら、隣のフレムちゃんに声をかける。
「うん、調べてみたけど国庫はこの皇帝になってからかなり窮乏してるね。民衆の不満はこの集まった数をみるかぎり相当なものだったろうね」
私は、その熱狂が渦巻く民衆の様子を見る。皆、目を輝かせている。
「・・・・・・それだけなのかなぁ」
まるでショーを楽しんでるような狂気に満ちた光景だ。私にはとても心地よいけど、これはこれで利用できそうだね。
「アオイ殿。準備は整いました、このたびの功労者として合図を」
「うん、わかったよ」
私が一歩踏み出すと、民衆の視線が一気に集まった。
助け出した女王が私に駆け寄る。
かつて愛した男が今処刑されようとしている。非道い仕打ちを受けたとはいえ、心中は複雑だろう。
「ここにおられるアオイ様は、私を狭く汚い牢から救い出してくれた英雄です。一見、人間のように見えて、その実、他の種族を全て魅了し纏め上げる全く新しい人間を超えた存在。これからアオイ様がこの天人、魔人派で別れ、いがみ合う世界を皆が笑って暮らせる世界へと作り替えてくれる事でしょうっ!」
と、思ったけどそんな事なかった。もうこの女王は私の洗礼を受けたからね、とっくに上書きされてるの。
拍手喝采、大気が震えるほどの歓声が上がる。追放された事で暴動が起こるほど彼女は人気があるからね、その女王がそういうならそうなんだろうと単純な国民は疑わないでしょう。
「どうも、どうも。葵だよ。私達はこれからこの大陸を統一して、その後他の大陸も制圧するからね。今から私にかしづくといいよ。この妹達のようにね」
周りにいた妹達6人が私に跪く。竜人、鬼人を含めた種族達が私に忠誠を誓う姿は、その言葉を信じさせるには充分の効果があった。
「さ、首を落とそうか。これは新たなる幕開け。ページを捲るよ」
私が手を上げると、執行者がギロチンの紐を放した。
斜めになった刃が地上4.5メートルから一気に落下する。
寸前まで取り乱し泣き喚いていた二人は、あっけなく断首台の露と消えた。
転がり落ちた二人の首を、執行人がつかみ取ると四方に向けて群衆に見せつけた。
国民は皆、狂乱のまま歓声を上げていた。
これで西はほぼ完了したも同然だね。
まだ、天人派の小国や領土はあるけどドルマを落とした以上何もできないでしょう。
拠点に戻り、また会議が始まる。
「フレムちゃん、領地はどんな感じ? 後を継げそうかな」
西方にかなり広い領地があった。それを治めるのは跡継ぎのいない領主。フレムちゃんはその後釜に納まるためにその場へと派遣してたんだ。
「うん、現領主はかなり私によくしてくれてるよ。まるで孫のように可愛がってくれてる。私も、問題を次々を解決してるから領民の支持も得てきてると思う」
さすが、フレムちゃんだね。後は、城守に志願させてたオニチナちゃんだけど。
「オニチナちゃんの方は?」
城守になれたのは報告されてたけど、信用を得たかどうかが気になるよ。
「鬼人の私が城守になったということで、あそこの王は鼻高々です。よほど手放したくないのか私の要求はほとんど通ります」
うんうん、いい感じだよ。となると。
「じゃあ、オニチナちゃんの方はもう少し様子を見ようか。あそこには女王か姫がいるよね。それを落としてからでいいかな。で、フレムちゃんの方はもう領主を殺しちゃおうっか」
「え?」
私の提案にフレムちゃんは驚きの声を上げた。
「フレムちゃんだけでもうコントロールできそうだし、そうなると早めに現領主には退場してもらった方がいいよね。これから行動は激化してくると思うんだ」
今やれることは順々にやっておいた方が後々楽だもんね。
「で、でも、姉さん。元々領主は老い先短いし、私もまだ完全には領民の信頼を得てないよ」
あれ、フレムちゃんなら賛成してくれると思ってたのにおかしいね。フレムちゃんならそっちの方がいいってわかると思うんだけど。
「あらかじめ、領主の血縁者だってふれ込んだでしょ? 隠し子とか妾の子だかって。なら正当性はあるし問題ないんじゃないかな?」
目立った反乱分子もいないから、すんなり行くでしょう。
「でも、殺しちゃうと私が疑われる可能性もあるよ」
フレムちゃんは顔を伏せながら必死で反論してる。
「大丈夫だよ、目立って殺さなきゃいいよ。毒か何か使えばいいんじゃないかな? 元々床に伏せてるんだもん」
「・・・・・・そうだけど・・・・・・でも・・・・・・」
なぜだか、フレムちゃんが泣きそうになってる。訳が分からない。
「姉者、フレムもなにか思う所もあるのだろう、もう少し様子を見てみたらどうじゃろうか?」
「・・・・・・ですね、フレムは頭がいい、その判断に任せてもいいのでは」
「そうぞな、やはり現場の意見は大切ぞな」
「直接見ている者にしか見えない物もあるぞな」
「お、お姉ちゃん、ここはフレムちゃんに任せてみない?」
ここで、他の妹達からも意見が入った。
正直、私の考えは間違ってないと思うんだけど、可愛い妹達が揃ってそういうなら仕方ないかな。
「・・・・・・わかったよ。じゃあとりあえずフレムちゃんの方は保留にするね」
私がそう言うと、フレムちゃん、そして他の妹達の顔が明るく開けた。
「み、みんな。ありがとう。・・・・・・姉さんも我が儘いってごめんね」
「ううん、別に構わないよ。別の意見を通すための会議だもん」
それに相手は老いぼれだしいつでも殺れるからね。今は、なんだか悪くなった雰囲気が元に戻った事をよしとしよう。
「それじゃあ、東の大国バルバリアだけど、周りの魔人派にドルマ側が同盟を申し入れ外堀を埋めるね。あちらがこっちの動きに気づく前に水面下で準備を終えるつもり」
バルバリアを制圧したらもうこの大陸はもらったようなもんだよ。
そしたら、今度は別大陸に攻め入らなくちゃ。
大きな武力衝突が起こるだろうけど、そこはこっちがちゃんと優勢になる秘策があるの。
そっちは追々やるとして、まず何から優先するべきか。
それじゃ、あれにしようかな。
「ねぇ、みんな、もう一つ私から提案があるよ」
今日、思いついたんだ。
「あの公開処刑を見てて思ったの。この世界には娯楽が足りてないみたい、だからそこを利用しようと思う」
この計画は私と可愛い妹がいるからできるの。
私がいた世界ではごく当たり前の事だけど、この世界にはもちろんそんなものはない。
「ちょっと、私達でアイドル活動をするよ」
聞き慣れない単語にみんな顔をポカンとさせてる。
まずどんな事かを説明しないとだね。




