真相
目の前に玉座があった。そこにはベールをかぶった女が座っていた。座っているというより鎖で何重にも玉座に縛り付けられているというかんじだった。
私は直感的に聖なる女王なのではないかと思った。
女王らしき女は私に自分を連れて逃げろというようななことを言ってってきた。女王は命令口調で、私がまるで自分の臣下みたいな態度だった。
私はその女王の態度が気に食わなかった。私は別に女王の臣下でもなんでもない。
私が生返事をしているのが気に入らないのか、女王はますます高慢にわめきちらした。
女王は気に食わないが、秘宝の事を教えてくれるかもしれないので私はとりあえずは生返事で通した。
ふと、左の方を見ると、そこにもう一人いた。
尼僧のような恰好をしてうつむいてちょこんと座っていた。こちらは柱に鎖でくくりつけられていた。
私はその尼僧の方に興味がわいた。なぜか女王よりも気になった。
女王は私が尼僧に気がついたことに気がついたようだった。
「それはただの召使いじゃ」と甲高い声で言った。女王はそちらは無視しろと言いたげな顔をしていた。
それでも私は気になった。ずっとそちらをみていた。
「秘宝がほしくないのかぇ?」女王の言葉に私は反応した。
女王を連れて逃げれば、秘宝が手に入るというのだ。
現王家が手に入れようとして手にすることができなかった秘宝。すべての人間がほしがる力を手に入れることができるらしい。
秘宝の自慢をする女王の顔が、口ぶりが気に入らなかった。
秘宝に興味があったのは事実だ。秘宝が何か知りたかったのは事実だ。しかし、私は秘宝を手に入れたいと思ったことは一度もない。
それなのに、私が秘宝を手に入れたくてやってきたと決めつけてかかる女王の態度が不快だった。
私は尼僧の方へ向かった。
女王が、秘宝秘宝とわめきちらす。
私はもう秘宝に興味はなかった。女王にはもっと興味はなかった。
私は尼僧の鎖を解いた。
「秘宝は良いのか?」尼僧がすごいしわがれ声で言った。
私は、もともと秘宝がほしいわけじゃないと答えた。
尼僧の顔はまるでミイラだった。ハッキリ言って怖い。それでも私は女王より尼僧のがいいと思った。
女王はまだ秘宝秘宝とわめいていた。
「哀れなおなごじゃ」尼僧はそうつぶやくと、私におぶさってきた。
軽い。まるで着ている衣だけの重さのようだった。
尼僧は自分の袖を私の胸のところで結ぶように言った。私は言うとおりにした。
そして私にに目をつぶり3歩歩いた後は合図があるまで決して目を開けてはならないといった。
私は素直に従うことにした。私は目をつぶった。
女王が金切り声をあげる。1歩 2歩 3歩 ふわっと宙に浮いた気がした。
ふわっとしたあと、下に落ちていく感覚がした。思わず目を開けそうになったが我慢した。足の底に何があたった。私はなんとか踏みとどまった。
「目をつぶったまま前に進め。何が起こっても決して目を開けるな」尼僧の声がした。私は言われるままに歩き出した。
何か顔にあたった。水のようだ。そう雨の日に傘をささずに歩いている感覚だった。どんどん雨が強くなる。どしゃぶりのようだ。
顔が痛い。水が口の中にまで入ってきた。苦しい。それでも我慢してあるいた。
突然水が来なくなった。今度は風が吹いてきた。どんどん強くなる。息ができない。
それでもがんばって目をつぶったまま歩いた。何度かそんなことを繰り返した。
ふと、広いところに出た気がした。
「目を開けてもよいぞ」いわれて目を開けた。
まぶしさに目の前が真っ白になった。すぐにみえるようになった。
目の前に草原が広がっていた。
尼僧を背中から降ろした。そこには、ミイラババアではなく、美女がいた。
「これが秘宝じゃ。ここにおると時の流れが止まるのじゃ。しばしば不老不死の秘法と勘違いされるがの」
驚く私に尼僧は自分こそが本物の女王だといった。
玉座にいた女の方が召使で、裏切り者ということらしかった。
女王一族はもともと長命というか、自分の中の時を止めることができる能力があるらしい。
そしてこの場所は一族の者以外も時を止めることができるとのことだった。
本物の女王はほとぼりがさめるまで、しばらくここで過ごすつもりらしい。
私が希望すれば出口に案内するとのことだった。
私は今の世に特に思い残すことはない。しばらく女王の元にいようと思った。