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ゴブリン対策準備1




 次の日。イリスは同じベッドで寝ている女の子達を起こさないように抜け出して、別室で寝ているグレンを起こす。


「起きて」

「んっ、んんっ……」


 優しく揺すって起こそうとするが、全然起きないグレン。次第にほっぺたをつねったり、叩いたりしても起きないので、時間のないイリスは最終手段を使う事にした。


(出来る限り必要ない事に命令したくないけど、やる事いっぱいで時間もないし仕方ないよね。必要以上に怖がられると作業効率とか下がるんだけどなー)

「起きろ」


 イリスが命令として言葉を発すると、魔導具でもある首輪が反応して強制的に意識を目覚めさせる。


「っ!? お、おはよう、ございます」

「うん、おはよう。早速だけど今日から無茶苦茶忙しいから、早く準備して。他の子達が起きる前に整えたいし」

「わかり、ました」

(何させられるんだ!)


 起きたグレンは直ぐにベッドから出て執事服に着替えだす。イリスは服を次々と渡しながら手伝った。


「よし、じゃあ行くよ」

「はい」


 イリスが初めに向かったのは数々の剣や槍、鎧などが置かれている倉庫がある場所だ。ここに来た目的は単純明快で、武器の確保だ。


「ここで何をするんですか?」

「武器の選定だよ。グレンは何か使いたい武器はある?」

「俺はできたら剣がいいです」

「かっこいいから?」

「はい! いいですよね、剣! 騎士みたいで男なら憧れる! あっ、俺達みたいな農民や奴隷にとってはですけど・・・・・・」


 武器を選ばせて貰える事で興奮して敬語を忘れたグレン。そんなグレンの言葉を聞きながら倉庫の前に立っている兵士の下へと向かう。兵士もこちらに気付いて直ぐに姿勢を整えた。


「そうなんだ。じゃあ、グレンは剣でいいか。っと、いいかな?」

「なんでしょうか?」

「ゴブリンから剥ぎ取った剣とかってどこに置いてある? 数日前にライヒアルトやアルフォンス達が持ってきたと思うんだけど」

「はっ。それでしたら中にあります。どうぞ」


 倉庫の鍵を開けた兵士がイリス達を中に迎え入れられる。中には沢山の武具が置かれており、そのどれもがゲーム後半の地だけあって質が良く店売りとしては高性能なものとなっている。そんな中にある樽に入れられた武具がある一角へと案内される。


「ここです」

「状態はどう?」

「そうですね……防具は使い物になりませんね」

「臭い?」

「臭いもそうですが……溶けてます」

「ああ、なるほど」

(リタが高火力で一気に殲滅したし、そうなるよね)

「武器の方も無事なのは数点ですね」


 別けられた物の中で比較的まともなものが入っている樽の中身を兵士が取り出してイリス達に見せていく。内容は短剣が2本、長剣が2本、斧が2本、槍が10本だった。そのどれもが大人が使うサイズであり、ゴブリンの凄まじい筋力がうかがい知れる。


「これから私達だけでゴブリンの相手をしなくちゃいけないんだよね」

「え? まじですか!?」

「うん、まじ。戦力は私にリタ、君達3人に加えて昨日新しくもらった奴隷2人と、追加でもらえる残り3人かな」


 驚くグレンにさらりと事実を告げるイリス。それを聞いて愕然とするグレンと気の毒そうに見ている兵士達。


「準備は整えていいって事だから、そっちで全部換金してくれる?」

「畏まりました。後ほど代金をお渡し致します」

「うん。じゃあ、次は装備を選ぼうか」

「はい。お手伝いした方がよろしいでしょうか?」

「いや、いいよ。それより直ぐに換金してきて。直ぐに出るだろうしね」

「わかりました」

「あ、空箱を使っていい? 他の子にも装備を渡さないといけないから」

「ええ、もちろんです。そちらをお使いください。他には何かありますか?」

「大丈夫。ありがとう」

「いえ、それでは失礼致します」


 兵士が背中を向けて出て行く姿を見詰めるイリスの口元は笑っていた。


(あっ、これは碌でもないことを考えてるな)


 そして、兵士が出て行った後、イリスは空箱を引き出して蓋を開ける。


「さてさて、邪魔者は居なくなったし、貰うもの貰おうか」

「いいん、ですか?」

「いいのいいの。いくらかまでなんで指定されてないしね」

(うわぁ)


 笑顔でそう言ってのけたイリスにグレンは少し引いた。


「グレンは剣が好きなら大剣とか?」

「俺の身長や筋力じゃまだ使えないですよ」

「筋力さえあればいけるんじゃないかな」

「その筋力がないですからねえ」

「ふむ……試してみるか。これ、持ってみて」

「無理だ、と思いますが……」

「いいから」


 イリスが立てかけてある大剣を指差して指示する。指示された通りにグレンが手に持ったのは綺麗に光り輝く銀色の刀身を持つミスリル製の大剣だ。自分の身長より微かに短いだけの大剣を持ち上げる事は難しく、微かに浮かせただけだった。


「む、無理ぃぃっ」

「まあ、予想通りだね。使ってみたいならいい方法を教えるけど」

「そりゃ、使ってみたい、ですけど! 憧れですし」

「わかった。じゃあ、しっかり覚えるんだよ」


 グレンの背後からイリスが近づく。そっと肩に手を乗せて魔力を注ぎ込む。


「っ!?」


 普通なら他人の魔力を一気に体内に流し込まれれば激痛を味わう事になるが、グレンの身体は魔法回路を作成する時に散々流し込まれたイリスの魔力に慣れてしまっている。その為、直ぐに魔力を受け取る事ができる。そして、魔力の使い方を知らないグレンの代わりに流し込んだイリスの魔力とグレンの魔力を混ぜ魔力を使い、身体強化用の魔法回路を起動させる。


「うわっ、なんだこの感覚!!」

「その感覚に身を任せて受け入れて。それがグレンの新しい力だ」

「わ、わかった」

(身体強化とリジェネーション、腕、足、第一段階起動完了。続いて第二段階に移行っと)


 両手、両足、胴体、頭部に施された身体強化用魔法回路は全部で40本。それぞれの部分で10本ずつあり、最大10段階まで強化できる事になる。身体強化魔法は重ねるごとに肉体の強さを倍々に上げていく。それだけ身体に掛かる負担も大きいが、その負担をリジェネーションで強制的に回復させるのでデメリットは魔力が切れた後の壮絶な苦痛ぐらいだ。


「はい、試してみて」

「わ、わかった……って、軽っ!?」


 ミスリルとはいえ1メートル以上もある金属の塊を10歳の少年が軽々と持ち上げる状態は異常の一言に尽きる。


「振ってみて」

「はい!」


 ぶんぶんと楽しそうに振り回すグレンを見ながらイリスは魔力の消費状態を観察する。


(うん、燃費悪いね! まあ、鍛えていけば問題ないか)

「はい、それじゃあグレンの武器はそれでいい?」

「おう!」

「じゃあ、後は適当に持っていくから手伝ってね」

「わかった!」


 ミスリル製の武具達を箱に詰め込んでいくイリスとグレン。といっても、子供用の鎧などないのでサイズ調整の魔法が掛かった普通よりも高価な装備を選んでいる。担当がいれば確実に止めたような物ばかりが入れられている。


「さて、後は……」

(やっぱり、貰っておかないとね)


 倉庫の奥に向かうイリス。そこには棚があり、沢山の安物の装備や廃棄品が置かれている。そんな棚に対してイリスは水の魔法を行使する。行使された魔法により生み出された触手がどんどん邪魔な物を退けていく。


「何してるん、ですか?」

「隠し扉」

「え? そんなのがあるの、ですか」

「うん。この棚を退けて、床を引っペがせば……ほら」


 床を剥がした場所には金属でできた扉がある。これはグレーデンを殺さずに捕獲して尋問し、書斎を漁ってようやく手に入る情報を元に探す事になる隠しクエストだ。


「いいん、ですか?」

「気にしない気にしない」

(どうせお父様も忘れてるしね。書斎から見つかった古い手記を使ってようやく思い出すくらいだし)


 扉の上で指を切って血を垂らすイリス。扉に掛かった血液が取り込まれてゆっくりと扉が開いて穴が出現する。開いてから少しすると階段がせり上がってくる。エーベルヴァイン家の血が鍵とされているのだ。


「じゃあ、グレンは見張ってて」

「わかった」


 イリスはさっさと階段を降りて手早くトラップを解除していく。ゲームで既に何度も挑戦したので配置は分かっているし、エーベルヴァイン家の血族であるイリスにとって解除は非常に優しい。そんな訳でサクサクと進んだイリスは最奥の部屋へとやって来た。


「あったあった」


 壁には様々な召喚に使う道具や触媒が配置され、部屋の中心にある台座には宝玉が置かれている。イリスはそのまま中心に進んで宝玉に触れる。


(道具とか全部トラップなんだよねー。宝玉以外に先に触っちゃうと台座ごと宝玉が壊れるんだよね)


 宝玉に触れるとどれか一つだけ召喚に関する事を選べる。例えば上位召喚だったり、複数同時に召喚できる多重召喚など様々なスキルを覚える事が本人の才能に関係なくできる。


(上位召喚とかは手順を知っていて魔力があれば問題なく使えるしいらない。要るのはこっち)


 召喚獣を体内に取り込み、自身の身体を住処とする事で取り込んだ維持コストを無くしつつ召喚獣達の力を得る万魔殿パンデモニウム。このスキルの利点は他にもあり、時間をかけずに瞬時に召喚獣を呼び出せる事だ。当然、習得には制限があり、一定以上の召喚スキルを覚えている事だ。難易度はエーベルヴァイン家以外の者はほぼ全ての召喚魔法を自力でマスターしていないといけない。エーベルヴァイン家の者は魔力量と召喚獣のランクによって判断される。魔王であるジェラルドもこのパンデモニウムを所持している。ジェラルドはSランクのファフニールを所持しているので条件を満たしている。イリスの場合はリタがEXランクなので文句無しの合格という訳だ。ちなみにゲームではこのスキルを得た召喚術師はソロモンやサタン、混沌、這いよる名状しがたきものとか呼ばれたりする。


「さて、宝玉は戻し……あっ、持ってけばいいじゃないか」


 イリスはそのまま宝玉を懐にしまった。それどころか、ついでとばかりに高価な道具類が置かれている所から使えそうな指輪やブレスレットなどを回収していく。次に何時来れるかわからないので、服のポケットに入れるだけ入れてさっさと出て行くイリス。


「ただいまー」

「お帰りなさい」

「ちょっと待っててね」


 箱に指輪やブレスレットを入れてしっかりと閉じて元通りの配置に戻す。それから2人で荷車に乗せて運び出していく。扉の外で待機していたもう一人の兵士にお礼を言って次の目的地へと向かう。次の目的地は食堂で、そこで小麦粉や朝食のパンなど食料を貰うのだ。貰った後はリタ達を起起こさないように運んで用意させた馬車に乗せて河原へと向かった。







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