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強化手術!


 次の日、イリスが寝ているベッドの上にはイリスの他に3人が存在する。イリスを真ん中に左右にはニナとレナの双子がおり、イリスのお腹の上にはリタが眠っている。10月に入り込んで、寒さもきつくなってきたのもあり、4人は一つのベッドで眠っていたのだ。そもそも部屋には大きなベッドしかないのだが、あったとしても寒いので一つで眠っただろう。この時代、まともな寝具などない。


「んっ……」


 イリスは暖かな温もりを感じながら太陽が出る前に目覚める。直ぐに起きたイリスは水の魔法で触手を作り出してリタを持ち上げる。ベッドから抜け出したあとはリタを残りの2人の間に潜り込ませて本人はさっさと寝巻きを脱ぎながら触手を操り、着替える服をクローゼットから取り出していく。この水の触手はイリスの意思の元、濡らす事すらないので非常に便利だ。


(さて、行くか)


 動きやすい服装に着替えたイリスは早速外に出てから練兵場へと向かう。そこで走り回るのだ。それも休憩を行わず、常に全力疾走でだ。当然、直ぐに息が上がり、ゲームではヒットポイントが減っていく。ゲームでもそうだが、動く事にお腹が減ったり急激に動くとヒットポイントが減る仕様なのだ。しかし、減るのはあくまでもヒットポイントである為にリジェネーションを常に発動させておけば強制的回復が可能だ。このゲームではヒットポイントやマジックポイントは使えば使う程緩やかに上昇する仕様となっているからだ。


 数時間の訓練を行ったあと、水の魔法で汗を流したイリスは食堂へと向かう。そこでは既に何人かの料理人が働いている。食堂の中に入ると直ぐにギュンターがイリスに気付いた。


「よお、昨日は魚をありがとよ」

「いえいえ、それよりも少し材料とか借りていいかな?」

「ああ、構わないけどよ……何を作るんだ?」

「うどん」


 必要な道具を借りたイリスはボールと小麦粉だ。うどんは小麦粉と水、塩さえあればできる大変楽にできる食べ物だ。それにイリスは自身で特別に美味しい水を作れる。それを使って作られるうどんは美味しくできる。


「ふう、混ぜ終わった……」


 ここから叩いて行くのだが、イリスの非力な力ではどうしようもない。そこで水の塊を作成してそれで殴っていくのだ。それから塊にして寝かせていく。


「よし、終わり。これでしばらく置いておいてね」

「わかったぜ」


 数十分で作ったイリスは寝かせている間にゴブリンを捕らえた場所に向かう。ゴブリンは地下牢にいるのでそちらに向かったのだ。ここの地下牢では罪人やエーベルヴァイン家に逆らった者達が捕らえられている。他にも無理矢理連れて来た女性なども入れられている。今回はその一部に多数のゴブリンが入れられている。


(さてと……まずは実験だね)


 手足が切断されて焼かれた動けないゴブリンの1体に触れたイリスは試しとばかりに魔法回路を作成してみる。


「いぎゃぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「失敗か」


 その瞬間、ゴブリンが絶叫をあげる。肉体の血管が破裂して地を吹き出す。ゴブリンの血を浴びながら笑っていた。


(とりあえず、血を回収しようかね)


 ゴブリンの血を吸い取って取り入れるイリス。血によってゴブリンの情報を手に入れる。


(記憶はいらない。肉体の情報が欲しい)


 回収した情報を元にしてゴブリンを解体していく。身体を分解して筋肉繊維など細かに調べるイリス。


(ゴブリンとは子鬼。子鬼とは鬼である事。鬼とは肉体的に言えば人型でありながら、かなり強力な存在なんだよね)


 イリスが思う通り、ゴブリンとは幻想種にこそ負けるが、かなり強い部類に入る。その情報はかなり有用となる。


(魔法回路の実験と肉体構造を調べられる上に魔力増強にも使える。本当にゴブリンは宝の山だね)


 イリスは次々と魔法回路を作成させては失敗し、解体して吸収する。ひたすらこれを繰り返す。


(ゴブリンの異常な身体能力の理由は作られた時に含まれる魔力による補正が聞いているみたいだね。つまり、強化魔法が常にかかっている状態……永続エンチャントの類いかな。それに筋肉繊維の構造も1本1本が特殊な状態で形成されている。これらはレベルアップやランクアップの時に行われるのかな? どちらにしろこれは使えるね。人間をやめるぞーって感じで)


 情報を蓄積し、ゴブリンの構造を自身の身体に取り入れて身体能力を比較的に上昇させるイリス。もはや彼は既に人間ではないのかも知れない。それに加えて今回の実験で魔法回路の作成能力も上がっている。少なくとも、最後の方には血管が破裂しなくなった。


(ふふふ、身体が軽いね。リタの、獣人の情報も合わせれば更に基礎能力が上がる。肉体強度が上がれば魔法回路の数も増やせる)


 ゴブリンの血液を魔力に変換して取り込んだイリスの魔力量は人間の枠を超えだしていた。




 食堂へと向かうイリスは襲撃を受けていた。それは弾丸のように飛来してイリスに飛びかかってくる。


「ぐっ……」


 強化された身体能力で地面に足をめり込ませながら下がり耐え切ったイリスは襲撃者の耳をつまむ。


「りーたー」

「ちょっと勢いが付き過ぎやがったです」


 尻尾を丸めて耳をうな垂れさせるリタの耳の感触を楽しみながら責めるイリス。


「殺す気なのかな? かな?」

「ハイライトの消えた目はこえーでやがりますよ……」

「何か言うことは?」

「ごめんでやがります」

「よろしい。おはよう」

「おはよーでやがります」


 あっさりと許したイリスはリタに挨拶をする。イリスにとってこれくらいのダメージは何時も自分で行っているので問題ないようだ。いや、普通はありまくりだろうが。


「ニナとレナは?」

「もう起きて着替えてやがるです」

「そっか。じゃあ、グレンも起こして食堂に連れて来て」

「了解でやがります!」


 パタパタと尻尾を揺らしながら去っていくリタを見送り、イリスは食堂へと向かっていく。


「ただいまー」

「おう。言われた通りの準備はしておいたぜ」

「ありがと」


 ギュンターに依頼しておいた包丁や棒などを受け取ったイリスは食堂のテーブルを一つ占領する。そこで小麦粉をまな板に塗し、その上に寝かしておいた生地を置いて棒に巻きつけて伸ばしていく。ある程度伸ばし終えれば適度な大きさに切る。次に用意された鍋に水をたっぷり入れて魔法で温度をあげて一瞬で沸騰させる。そこにうどんを投入する。


「うまいのか?」

「美味しいよ。タレは薄めの醤油で……面倒だね」


 イリスは面倒がって醤油用に作成した魔法回路にアレンジを加えてうどんスープを作成してしまった。


「イリス~」

「おはようございます」

「……おはよう」

「おはようございます」


 イリスがうどんを作っている間にリタが3人を連れて来た。


「おはよう。ご飯はできているよ」

「「「ご飯……」」」


 嬉しそうにしている3人にイリスはうどんを振舞っていく。


「俺もいいか?」

「どうぞどうぞ」


 ギュンターがイリスにうどんを食べたいとお願いすると、イリスは許可をだして一緒に席に着く。


「どうやって食べるの?」

「……スプーン?」

「これは箸で食べる物だけど、フォークで突き刺して、スプーンでスープを飲めばいいよ。それか、私やリタみたいに箸を使うかだね」

「簡単でやがりますよ。慣れれば便利でありやがりますし」

「試してみる」

「そうですね」

「俺はこっちで……」

「挑戦するか」


 イリスとリタによる箸の使い方講座が行われていく。ろくな食事をしていない彼らにとってはご馳走を食べる為の試練と感じたのかも知れない。


(さて、レナとニナ、グレンの魔法適性を調べて……いや、調べなくてもいいかな。どうせ強化するんだから。まずは身体の改変はまだ無理だから、魔法回路を作成していこうか)


 悪戦苦闘しながらも一生懸命に食べている者達を眺めるイリス。


「旨いな。このスープもいける。これはどうやって作っているんだ?」

「本来は魚介の煮汁に醤油だよ」

「ふむ」

「細かく小さく切ればスープの具材にもできるよ。後はもっと細く切ったりだね。乾燥させ保存させてもいい」

「バリエーションはありそうだな。醤油も貰ったし、色々と試してみっか」

「お願いするね。あと、箸も料理を作る時に色々と便利だよ」


 ギュンターの働き次第では色々な料理が生まれてくる事になる。


「しかし、坊ちゃんはこの料理をどこで知ったんだ?」

「召喚獣達や本から」

「うにゅ?」


 呼ばれて食べていた器から顔をあげて小首をかしげるリタ。


「召喚獣や本ね……」

(あんなのに教えられるとは思えねんだけどな……)


 リタを見た後、不審そうにイリスを見るギュンター。


「ギュンター、それは知る必要のない事だよ?」

「っ!?」


 ハイライトの消えた深紅の瞳と能面のような無表情で背の高いギュンターの顔を下から覗き込むイリス。


「わ、わかったよ」

(や、やべえ……どんな性格していようと、やっぱエーベルヴァイン家の奴か! いや、当主様より恐ろしい何かを感じたぜ……)

「うん、よろしい」


 ぱっと元に戻るイリス。そのまま他の子達を見るとビクゥッと震えている。


「イリスはバーサーカーとか似合いそうでやがりますね」

「失礼だね、リタは。似合いそうじゃなくて似合うんだよ」

「やれやれ、本当に狂ってやがりますね。まあ、だからこそ契約してやったのでやがりますが」

(狂った私には狂った主人が相応しいでやがりますよ)


 両手を広げて上下に揺らすリタ。双子のニナとレナは抱き合って震え、グレンは青ざめている。


「早くご飯を食べてね。今日はやる事があるから」

「は、はい!」

「ん」

「わかった」


 急いで食事を終えた後、イリスは4人を連れて牢屋に向かう。向かった場所はゴブリンを閉じ込めていた場所とは違う区画だ。それも隠された区画だ。イリスはここの存在をゲームで知っていたからこそ利用する事にした。


「おー趣味がいいでやがりますねー」

「私の趣味じゃないけど、ここにある道具は使えるからね」


 牢屋の中には三角木馬や磔台に加えてアイアン・メイデンや梨などもある。鞭や錆びたナイフなどが壁に掛けられており、そのどれもが使用された跡がある。


「あ、あの、こっ、ここは……」

「ここ? ここはエーベルヴァイン家の者が拷問の練習とかする所だよ。情報を洗いざらい話して貰わないといけないし、初心者だと殺しちゃう場合が結構あるから」

「ひぃっ!? お、お姉ちゃん……」

「だ、大丈夫、大丈夫よ……」

「な、何をする気なんだよ!」

「実験だよ。リタ、グレンからするから服を脱がしてそこの台に寝かせて」

「了解でやがります」

「や、やめろぉぉぉぉっ!?」


 抵抗するグレンを捕らえて服を脱がし、手術台のような所に寝かせてしっかりと拘束していくイリスとリタ。双子の姉妹はそれを震えながら見ている。


「ああ、口にも枷を入れておいて」

「これでやがりますね」

「ふがーっ!?」


 棒状の枷を取り付けて誤って舌を噛む事を防ぐ。


「では、これより実験を開始する。メス」

「ねーですよ」

「知ってる。まあ、言ってみただけだし」


 グレンの頭部に手を触れて彼の体内の水分に魔力を流し込んでいく。他人の魔力が流れ込んで来る事によって激痛が生まれて悲鳴をあげるグレン。


「んぐぅうううううううううううぅぅぅぅぅぅっ!?」

「接続完了。肉体の支配の確認。完了。続いて魔法回路の作成に入る」

「ふぐっ!? ふがぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 絶叫をあげて暴れまわるグレンの身体に自身の魔力を流し込んで注意を払いながら魔法回路を作成していく。時に強引に、時に繊細に。リジェネーションの魔法回路をまず作成し、そこにイリスの魔力を流し込んでグレンの魔力に関係なく発動させる。これにより魔法回路を作成する段階で傷ついた肉体の修復を行わせる。その修復が終わると同時に次の魔法回路を作成に入る。複数本のリジェネーション用魔法回路を作成した後は、身体強化の魔法回路を作成する。


「ま、こんなもんかな」

「終わったでやがりますか」

「うん。とりあえずリジェネーション用を5本、身体強化用を2本作ったからね。リジェネーションの燃料の魔力も入れておいたからグレンは大丈夫だよ」

「実験は成功でやがりますか?」

「まあ、無理矢理成功させているだけだけどね」

(リジェネーションがなければ普通に死んでるし)


 これが現実の手術なら確実に血管が破裂して死んでいた。


「後は起きるかどうか。精神に問題がないかだね」

「精神が死にやがったら意味ねーでやがりますしね」

「まあ、大丈夫だと思うけどね。さて、ニナとレナの番だけど……どっちからする? それとも2人同時がいいかな?」


 リタがグレンを牢屋に備え付けられているベッドに移し、イリスが手術台を洗浄しながら2人に聞いた。


「ど、どうする……?」

「し、死ぬことはありません、よね……?」

「うん、死なないように誠心誠意、努力するよ」

「努力、ですか?」

「普通の女の子にするの初めてだし、頑張るけど絶対じゃない。でも、耐え切ったらご褒美をあげるし、可愛がって育ててあげる」


 震えて怖がる2人を抱き寄せて頭を撫でながら囁くイリス。


(私達に選択肢はない。ご主人様を信じるしかない。レナの為にも……)

(お姉ちゃんと一緒なら頑張れる)

「どうする?」

「私が先に――」

「お姉ちゃんと一緒がいい」


 ニナがレナの言葉を遮ってイリスに要望を伝える。


「一緒ならなんでも耐えられる」

「でも、先に私がした方が……」

「一緒がいい。失敗する時も成功する時も……」

「レナ……わかった。2人でお願いします」

「うん。それじゃあ服を脱いでね。血で汚れたら大変だし、どうせだから2人の身体をちょっと弄るから」

「はい」

「うん」


 2人を近づけた2つの手術台に乗せて固定する。手はお互いに握り合っている。不安そうにしている2人を見て、イリスは重要な事を思い出した。


「あっ」

「「?」」

「どうしやがったです?」

「麻酔で眠らせたら問題ないんじゃないかなって」

(手術でも全身麻酔とかしてしてるし。問題点は酸素の供給が……いや、これは魔法で制御できるし問題ないや。切る必要もないし縫合も必要ない。うん、大丈夫かな。魔法回路を作成する最大の難点は苦痛に精神が耐え切れるかだけど、そもそも寝ていれば関係ない。私自身の場合はそういう訳にはいかないけど、この子達は外部から行うしね)


 思い至る前にやったグレン君は可哀想であるが、比較的楽に強化を行えるようになる事は間違いない。


「じゃあ、お休み」

「ふぇ……」

「んんっ……」


 イリスは魔法で作成した吸入麻酔液を気化させて2人に吸わせる。濃度の問題もあるが、そこは慎重に様子をみながら投与していく。


「ちゃんと眠ったね。下手したら起きないだろうけど、その時は浄化すればいいし、うん、大丈夫」

「それじゃあ、いよいよやりやがるです?」

「うん、はじめよう」

「おー」


 2人の身体に触れて魔力を通し、ゆっくりと頭部から作成していく。グレンは暴れまわったが、全身麻酔が効いている2人は大人しく、素早く作成されていく。順番としては同じリジェネーションが先で、それぞれグレンよりも数が多く作成される。


「んー女の子の肌ってやっぱりぷにぷにでいい感触だね」

「そうでやがりますか?」

「うん」


 2人の肌を魔力の篭った指先で滑らせながら作り出していく。両手両足はもちろん、お腹なども含めて何度も何度もなぞって増やしていく。


「頭部と胴体、両手と両足にリジェネーション用15本。身体強化用10本。どれも作成完了。合計100本」

「やり過ぎでやがりますよ」

「だねえ。でも、どうせなら強くしないとね。それに胴体は充分にスペースが空いてるし……汎用用として20本作っておこうかな」

「限界までつくりやがりますね」

「120本が今のこの子達の身体の限界だしね……これ以上は破裂する」


 ゴブリンのお陰で破裂する限界というものを見極められたイリスは120本という膨大な数で今回は終わりとした。


「イリス、自爆用はセットしやがったです?」

「もちろんだよ。首輪があるとはいえ裏切られたら叶わないからね」


 汗が大量に出ている肌を優しく撫でるイリス。


「じゃあ、次に入ろうか」

「何しやがるです?」

「ん? 耐えたご褒美に綺麗に可愛くしてあげるの」

「イリスの趣味でやがりますか」

「うん。といっても少し手を加えるだけだけどね」


 ジュルのような粘着性の液体を手に精製して2人の身体に塗りたくっていく。塗った後、ナイフを取り出したイリスは2人の身体にある痛々しい傷を切り取っていく。周りごと切り取られた場所に直様ジュルが入り込んで止血を行い、全身に施された魔法回路がイリスの魔力を使ってリジェネーションを発動して瞬時に修復していく。


「切除完了。他はあるかな?」

「ねーですよ」

「じゃあ、顔をケアしようか」


 染みやソバカスなどを綺麗に取り除き綺麗な肌に変えると、素朴な女の子から美少女へと変化した。紫色の瞳と髪の毛をしたニナと黄緑色の瞳と髪の毛をしたレナ。


「うん、可愛くなった」

「なら、次は私にやるです」

「そうだね。その前に2人を一つの場所に移そうか」

「了解でやがります」


 ニナとレナの拘束を解いて一つの手術台に移す。それから、リタが服を脱いで空いた場所に寝転がる。イリスはリタを眠らせる。それから、レナやニナと同じように大量の魔法回路を作成していく。最後にはグレンにももう一度施して自室に何度か往復して運んでいった。



 それぞれの部屋で寝ている間にイリスは一人で訓練を行っていく。まずは運動して自分の身体能力がどれぐらい上昇したのかを調べていく。調べる方法は水の鞭を無数に作り出してそれらの攻撃を避け続ける事だ。空間認識能力と状況判断能力を同時に鍛えられる訓練方でもある。


「うん、大分慣れたかな」

「イリス様、当主様からゴブリンの事で指示があるそうです」


 グスタフがイリスの下にやって来て用件を告げるが、イリスには皆目検討もつかなかった。


「なんだろ?」

「わかりません」

「とりあえず行ってみるよ」

「はい」


 イリスはそのまま父親であるグレーデンの下へと向かった。彼は相変わらず女を連れて食っちゃ寝をしている駄目な人間だ。


「お父様、お呼びですか?」

「うむ、入れ」


 許可をもらったので扉を開いて中に入るイリス。グレーデンはメイドと楽しんでいたようだ。


「お前がゴブリンを生きたまま連れて来たと聞いたが、誠か?」

「ええ」

(どういう事か、全然わからないんだけど)

「ちっ、面倒な事をしてくれたな」

「どういう事ですか?」

「ああ、そういえばお前のような年齢では知るはずもないか。そもそも出会って生きて帰ってくるのも珍しいが。流石にわしの血を引いているだけはあるか……」


 自慢話がしばらく続き、イリスが適当に聞き流しているとようやく本題に入ってきた。


「奴らは個体ごとにリンクしている。生きたままここに連れてこれば餌がここにある事に気付く」

「え?」

「馬鹿なお前にもわかるように言ってやる。連中は大規模な部隊を組織してこちらに攻め込んで来るぞ」

「でも、ここの兵力なら問題無いですよね」

「当然だ。わしの召喚獣や守護者ならば軽く蹴散らせるわ」

(ほっ。なら大丈夫か)


 事実、グレーデンだけでも軽く単身で魔物の領域を殲滅できる。そもそもエーベルヴァイン家の領地は元々魔物の領域だったのをグレーデンが殲滅して自身の領地としたのだ。ゴブリンがいくら強いとはいえ、質が量を上回る事すら可能なこの世界では高位の召喚獣が現れれば蹂躙されてしまう。


「だが、面倒だ」

「ちょっ」

「丁度いいから、お前がわしのように自らゴブリンを殲滅し、領地を広げてみせよ。そうすればお前に領地もくれてやる」

「戦力は……」

「兵士の使用は禁止だ。そうだな、奴隷を5人ほど連れて行け。欲しがっていた奴隷と何人か選べ。それとゴブリン共を始末するまで家に戻る事は禁止する」

(まずいよ! どうにかできるけど、姉様との約束がある!)

「姉様と約束があるので1ヶ月に1度はいいですか?」

「ふむ……まあ、いいだろう。最低でも防衛できているなら認めてやろう」

「ありがとうございます。武器とかも欲しいので、持って行っていいですか?」

「好きにせよ。ただし、3日以内に出立するのだ」

「はい!」


 イリスは直ぐに奴隷が住んでいる……いや、飼育されている部屋に飛び込んで目的の女の子を探す。無数の牢屋が並び、中には妊娠したあられもない姿をした女性達が入れられている。中には生まれてからここで成長した子供もいる。


「居た! すいません、この子を貰うね」

「っ!?」

「畏まりました」


 牢屋の中には美しい金髪碧眼の女性とその子供が居る。彼女達こそ、聖女と聖女の娘だ。聖女の方は既にボロボロにされているが、愛しそうに娘のフィリーネを抱いている。娘だけが自害すら許されない彼女のたった一つの生き甲斐だ。


「どちらですか?」

「娘だよ」

「では……」

「お待ち下さい! どうか、どうか娘だけは!!」

「黙りなさい」


 ここの係の者が鞭を手に取る。無理矢理引き離してイリスの下にフィリーネを連れてこようとしている。


「や、やめてください! お母様に酷いことをしないでください! 私がおとなしく行きますから!」

「フィー、いや、やめて……行かないで……」


 必死に娘を抱きしめて離さない母親。それを見ながらイリスは面倒だと思った。それはもう非常に。ただでさえ時間がないのだから当然だ。


「ねえ、奴隷を数人貰える事になってるから、母親ごと頂戴。面倒だから2人とも連れていくよ」

「畏まりました。ほら、2人共でいいから来い」


 係の者も先程の話を聞いていたのですんなりと納得した。


「あ、ありがとうございます……」


 娘と一緒という事で彼女も観念したのかイリスの下にやってきた。


「では、奴隷更新の手続きを行います」

「うん」


 2人の所有権がイリスに譲渡された。イリスはにやりと笑いながら2人に回復魔法を掛けて傷を治す。


「ほら、さっさとついて来て」

「はいっ!」

「わ、わかりました……」


 その後、風呂場に連れて行き2人を魔法で綺麗にしたあと部屋に連れ込んでフィリーネ達を眠らせる。直ぐにレナ達と同じように魔法回路を作成し、回復と召喚特化の魔法回路を作り出す。


(防衛拠点の確保から食料の確保。やる事がいっぱいだね! でも、眠い)


 朝から魔法回路の作成に大量の魔力と時間を費やしたイリスの体力は限界に来ていた。その為、おとなしくその日はベッドに入って眠ったのだった。







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