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初めての外出

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 門でイリス達が待っていると一緒に行く事になった兵士の2人、アルフォンスとライヒアルトが革の鎧を着て剣を腰に下げながらこちらにやって来た。彼らの後ろには樽が何個か乗せられた荷車を引いた馬と、手綱を握られた馬が2頭の系3頭の馬が連れられて来た。


「お待たせいたしました」

「すいません、準備に手間取ってしまって」


 アルフォンスとライヒアルトが跪いて頭を下げて来る。それにイリスは引き気味になりながらなんとか返事をする。


「ううん、大丈夫だよ。そんな事しなくてもいいから立って。無理にお願いしているのはこっちなんだから」

「「はっ」」


 立ち上がって顔を見ると、その顔には安堵の表情が伺いしれる。2人はイリスからのお仕置きを恐れていた。理由としては当主の直系の者を待たせるなど、ここエーベルヴァイン家では厳しい罰が与えられる。それこそ、江戸時代にあった斬り捨て御免といった無礼打ちが行われる程だ。


(とりあえず、話を進めよう、うん)

「荷車の方は分かるけど、そっちの馬は?」

「こちらの馬は馬車を引く為ですよ。この門を潜った先に馬車の保管所があります。イリス様と守護者の方にはそちらに乗っていただきます」

「御者は我々でしますので問題は無い、です。その、人数が少ないので途中で盗賊やモンスターが出れば……」


 アルフォンスとライヒアルトの目線はイリスの隣に立って、魚を思いながら楽しそうにゆらゆらと尻尾を揺らしているリタへと注がれる。それを見たイリスは彼らが何を求めているのか理解した。


「戦闘だよね。むしろ、任せてよ。レベル上げにも丁度いいし、戦力は使ってなんぼだしね」

「任せやがれです」

「ありがとうございます。しかし、レベルですか?」

「え? レベルって知らない?」

「知ってるか?」

「いや、俺は知らない」

(あれ? おかしいな。ゲームの時は認知されていたけど。やっぱり、ゲームはゲームって事?)


 ワールド・オブ・エンブリオではプレイヤーに対してレベル制を採用していた。プレイヤーは手に入れたステータスポイントとスキルポイントを自由に割り振れていた。だが、NPCの場合は経験値を貯めると自動で割り振られる。


(いや、そう考えるのは早計だね。ゲームでもNPCのステータスポイントは自動で割り振られていたし。スキルに関しても行なった行動から手に入れていた。私もそうなのかも知れない。って、事は勇者だけじゃなくてプレイヤーと戦う事もあり得るという事で……うわぁ、流石ルナティックモードだねぇ~。でも、まあ強くなるにはいいか。ステータスを見る事の出来る装置は数年後だろうし、今は出来る限り戦力の増強と発展させないとね。強くなる為には触媒とか装備とかを揃えるのにお金がいっぱい掛かるし)


 どのゲームや世界でもそうだが、強くなる為にはお金が要る。強い装備を強化して強力な物にするには素材とお金が掛かるのだ。無論、それを行う技術力も必要だが。


「うん、気のせいみたい」

「イリス、さっさと動きやがれです」

「そうだね。じゃあ、行こうか。うちのお姫様のお望みだし」

「そうですね」

「わかっ……わかりました」

「ああ、敬語じゃなくていいよ。そっちの方が楽だし」

「それは……」

「いいじゃねえか、俺もそっちの方が楽だし。イリス様なら大丈夫だろう」


 ライヒアルトは敬語が苦手なようで、直ぐにタメ口になりかけて言い直していた。イリスが許可をした事で楽に話せるようになった。ライヒアルト自身も本来なら有り得ない事だと理解しているが、死にかけの大怪我から助けてくれたイリスなら大丈夫だと思ったのだ。アルフォンスは何とも言えない表情をしていたが、やがて諦めたようだ。


「他の人が居る所では無しだぞ」

「わかってるって」

「まだでやがりますか?」

「お待たせしました」

「すいません」

「それじゃあ、行こうか」

「「は」」


 4人は門を抜けて馬車が置かれている保管所へと向かう。そこでは伯爵家の家紋が入った馬車が何時でも出せるように準備されている。中に置かれている馬車の大き差と立派差は大きい順から段々と小さくなっていく。統一されているのはほぼ成金趣味だという事だ。


「それでは馬車を用意してきます」

「用意されているのは?」

「アレは当主様用のともっと上位の方の為なんだ。イリス様はこう言っちゃなんだが、認知されているエーベルヴァイン家で継承権は最下位だからその扱いも……」

「ライヒアルト」

「あっ」

「別にいいよ。その通りだしね」


 ライヒアルトの失言にイリスはその通りだと笑ってみせた。イリスにとって継承権などどうでもいいのだ。どうせ何れは滅ぼされる家だと分かっている。どうあがいたところで魔王を召喚した家が存続するなど有り得ないのだ。一族郎党皆殺しが基本だろう。


「ありがとうございます。ほら、さっさと準備するぞ」

「あ、ああ」


 アルフォンスとライヒアルトが小さめの馬車に連れて来た馬を繋いで準備していく。この小さい馬車にしても普通のよりは断然豪華であり、エーベルヴァイン家の家紋が入れられている。


「準備できました。どうぞ」

「ありがとう。リタ、行くよ」

「お魚求めてレッツゴーでやがります」


 イリスとリタが乗って座ったのを確認したアルフォンスが御者台に座って馬を進ませる。直ぐ後ろにライヒアルトが乗った荷車が付いてくる。一行はそのまま館から出て街へと出て行く。

 エーベルヴァイン家の家紋がある馬車を見た街の住人は直ぐに左右に道を開けて通してくれる。


(随分と恐れられているね。それにどの人も疲労困憊か。栄養が足りてないね)

「リタ、おいで」


 馬車の中から外を見ながら膝を叩いてリタを呼び寄せるイリス。リタは直ぐに座席の上に身体を横たえて頭をイリスの膝の上に乗せる。イリスはリタの頭を優しく撫でながらガタガタと揺れる中、外を眺める。途中でリタの要望に従って撫での技術を向上させる以外やる事がないのだ。


 しばらくして一行は街から出て畑が広がる穀倉地帯へと入っていく。そこでは街の住民よりもやせ細った者達が休むことも許されずに働かせられている。働いている者達の殆どは首に首輪を付けられており、身分が奴隷だと直ぐに分かる。逆に働かせている者達は鞭を持った兵士達だ。


「ねえ、アルフォンス」

「なんですか?」

「子供の奴隷も働かせているの?」

「ええ、そうです。少しは役に立ちますから」

「そう」

(昔から子供は労働力だし、これは仕方ないね。奴隷制度は犯罪者達を労働力に変えたり、食べさせられない人を売って必要なお金にして他の人が生き残る。全滅するよりはましだし、悪い事ばかりじゃない。そんな事よりもまずい事があるね)


 イリスが見つめているのは馬車の中から見える水路だ。そこには水が殆ど無い。微かな水も数人の子供達が荷車に水瓶を乗して運んできているのだ。


「ねえ、日照りでも起こってるの?」

「はい。それもありますが……水魔法を得意な者達が戦争に出されて死んでしまった為、川から汲んでくるしかないのです」

(水は川から引いていたんじゃなくて、魔法で作り出していたのか。これは水車とか作った方がいいかも。いくら魔法があるとはいっても、手を抜ける所は抜けばいいし)

「戦争に連れ出した奴等って馬鹿じゃねーですか」

「全くだね」

(食料の生産に必要な大切な水を確保する人員を潰して何を考えてるのやら……いや、何も考えてないのかな。本当にやらなくちゃいけない事が多いね)

「ふにゃ」


 イリスはリタの喉を撫でてやりながらゆっくりと考えながら過ごしている。そんな時、急に馬車が急停車した。


「うわっ!?」

「ふぎゃっ!?」

「申し訳ございません。急に子供達が飛び出して来て止まりました。直ぐに切り捨ててきます」

「いや、いいから」


 イリスは剣を引き抜いて御者台から降りようとするアルフォンスを止める。


「しかし、罰を与えねばなりません。そうでないと我々が罰せられてしまいます」

「それじゃあ、罰を与えればいいんでしょ?」

「そうです」

「なら丁度いいよ」

「イリス様?」


 イリスは馬車から出て、道に飛び出して来た子供達を見る。彼らは震えながら互いに抱き合っている。漏らしてしまった子まで要る。他の者達は道の脇で平服して頭を地面に付けていた。彼らにとってエーベルヴァイン家は恐怖の象徴であり、自身の生殺与奪を持つ存在なのだ。


「イリス、どうしやがるです?」

「ああ、この子達には実験台になって貰おうかな」

「「「ひっ!?」」」


 イリスは子供達を見ながらそう告げる。実験台という言葉を聞いて子供達は気絶してしまった子まで要る。


「アルフォンス、この子達を連れていくのは問題ある?」

「いえ、ありません。罰則としてですから、こちらで行っておきます」

「そう。じゃあ、綺麗にしてから川に連れて来てね。ああ、その荷車とかも使うから」

「わかりました」

(お手伝いをして貰うのはもちろんだけど、他人の身体に魔法回路を作成するとどうなるか試さないといけないし丁度いいや。まあ、その前にモンスターで試すけど。技術が確立したらリタにしてあげないとね)


 イリスが子供を殺すのを止めたのは優しさも含まれている。実験台にすると言われればほぼ確実に死ぬので充分の罰となるのだ。もちろん、耐え抜いたら許される事になる。イリスが自身の身体で試しているのだから耐え抜く確率はかなり高い。それに加えて弱肉強食の世界で強くなれる手段が与えられるのだから、彼らにとってはまたとないチャンスだろう。


「では、ライヒアルトあとは頼む」

「ああ。こっちで手続きをして連れて行く」

「それでは行きましょう」

「うん」


 イリス達は改めて川へと向かう。それから馬車に揺られる事30分。無事に森を抜けて大きめの川へと到着した。


(子供達はこの道のりを数時間掛けて移動するんだ。根性あるね)

「お魚を狩ってやるですっ!!」


 リタは待ちにまった魚の為に飛び出して、そのまま水中にダイブしていく。この川はかなり深いのか、完全に沈んでいる。


「い、イリス様……」

「後で躾けないとね。まあ、大丈夫だろうけど。アルフォンスは薪を拾って来て。私は準備しているから」

「わかりました」


 アルフォンスが森へと入っていく。それを見送ったイリスは水の魔法で川の水を集めて大量の水を圧縮して球体を作り上げる。それを川原の近くに落として大きな穴を開けた。その後、泥などを沈めて一部の水を除いて分離させる。残ったのは綺麗な池だけだ。


「生簀、完成」


 イリスが呟いた瞬間、水面が爆発してリタが飛び出して来る。彼女の爪がナイフのように伸びた指には魚が突き刺さっており、系10匹の大きな魚が捕獲されて引きずられていた。


「イリス、やるです」


 リタは片手に突き刺した5匹をイリスに渡して、その場でブルブルと身体を震わせて水滴を弾き飛ばす。


「うん、ありがとう。でも、それは離れた所でやってね」


 そう言いながらイリスは指を鳴らしてリタと自分の身体や服に付いた水滴を回収する。


「わかったから食っていいでやがります?」

「ああ、いいよ」

「はぐっ」


 イリスは4匹を置いて、1匹を生のままかじりついて食べていく。イリスはその姿を眺めた後、リタが取ってきた魚を観察する。その魚に見覚えがあった。特にイリスの口から漏れる卵とか。


(これって鮭じゃないのかな?)

「ん、イリスは食べねーです?」

「私は準備してからでいいよ。気にせず食べていいよ。どんどん捕まえるしね」

「おー」


 イリスはリタの頭を撫でてから川へと向かう。水面から覗いた水中は透き通っており、多数の魚が居る事が直ぐにわかった。


(産卵期なのか、鮭が多いな。まとめて確保しようか)


 水に手を付けたイリスは魔法を発動させる。半径3メートルもの範囲の水を魚ごと持ち上げる。むろん、水を操作して内部に渦を作り出して抜け出せなくしてある。その状態で生簀へと運び、そこで魚を排出する。これによって大量の魚が生簀の中へと入っていった。


「むう、私が取るより大量でやがりますね」

「まあ、水に関して負けるつもりはないね」


 2匹目に入ったリタに答えながら、イリスは生簀の中から小さいのを放出する。釣り竿などなく、取る方法が少ないので数がやたら多い。そもそも、水中に潜って取るには中に居るモンスターをどうにかしないと逆に食べられてしまう。今回の場合は、先に飛び込んだリタが既に排除していたから安全に取れただけだ。


「お待たせしました」

「お帰り。それじゃあ火を起こそうか。リタ、お願い」

「任せやがれです」


 アルフォンスが用意した薪にリタが狐火で火を付ける。イリスはその間にリタが取ってきた鮭を捌いて水で洗浄して綺麗にし、薪として拾ってきた枝をナイフで加工して針にして突き刺してから焚き火の近く指して焼いていく。


「イリス様がそこまでしなくても……」

「アルフォンスは料理できるのかな?」

「……無理です」

「なら、大人しくしてて。折角なんだから美味しい方がいいでしょ」

「はい。それなら出来る事をお願いします」

「なら、木を切り倒すから持ってきて」

「わ、わかりました」


 イリスは川原の近くにある木に向かってウォーターブレードを放つ。数本の木は見事に複数に切断された。それらをアルフォンスが取りに行った。


(さて、焼き魚を食べるなら塩は欲しいけど高いから持ってきてない。塩以外となると醤油だけど、大豆とかから作らないといけない。いや、待てよ……錬金とかで金属が作れるなら、成分さえ分かっていたら水の魔法で液体である醤油が作れないはずがないよね。魔法はイメージ。つまり、味を明確にイメージして……)


 イリスは水の魔法を使って醤油を大量の魔力を使って作成する。これは無から有を作り出すに等しく、大量の魔力が必要だった。作成する魔法を発動させると直ぐに黒い液体が現れた。


「ん、これは違う。イメージとズレた。もう一度」


 何度か試食しては変更して修正していくイリス。リタは醤油の匂いにピクピクと耳と鼻を動かしている。


「よし、完成。うん、魔法回路作っちゃえ」


 醤油の為だけに魔法回路を作成するというある意味では凄い事を行なうイリス。そして、それが完了すると同時に持ってこさせた樽を水の魔法で洗浄し、そこに醤油を注ぎ込んでいく。次に鮭から筋子を取り出してほぐして樽の中に入れていく。いくらの醤油漬け。これをイリスが作っていたのだ。


「イリス、それうまそーでやがりますね」

「食べるのは待ってね。もうすぐ魚が焼けるから」

「了解でやがります」

(さて、次の準備をしようかな)


 イリスはアルフォンスが運んできた木……木材をカットして整えてから、水の魔法で水分を抜いて乾燥させる。通常ではかなり時間がかかる工程が魔法では一瞬だ。


(木材だけで組み合わせて家も作れるんだから、これぐらいは楽勝だね)


 整えた木材に穴を開けたり、削ったりしてハメ合わせて椅子と机を作り出す。それが終われば箸やお皿、お椀などといった物も木材から作り出していく。完全にアウトドア気分なイリスだった。


「さて、お皿に焼いた魚を乗せて醤油をかけて食べるんだけど、箸の使い方わかる?」

「ふっふっふ、任せやがれです。伊達に東方出身じゃねーですよ」


 どうやらこの世界にも東方地域が存在し、そこでは箸がちゃんと使われているようだ。


「アルフォンス、食べよう」

「そうですね。ライヒアルト達の分も焼いておけばいいですし」

「うん。子供達にも食べさせないと。それに手伝って貰いたい事はいっぱいだし」

「はい」

「それじゃあ、頂きます」

「? それはなんですか?」

「東方の食事の挨拶でやがりますよ」

「そうですか……では、頂きます」

「頂くでやがります」


 箸を使いづらそうにするアルフォンスはフォークとナイフで食べていく。久しぶりのまともな食事に涙を流しそうになりながら食べていくイリスだった。その後、やって来たライヒアルトと子供達にも食べさせて、お腹いっぱいにさせたイリスは早速、子供達にお仕事をして貰った。それは筋子から卵をほぐし、樽に入れる簡単な作業だ。頑張ればまた先程の魚が食べられるという事をイリスから聞かされて頑張っていく子供達。ライヒアルトとアルフォンスはひたすら魚を捌いていく。その間にイリスは魚を取り、リタはイリスのお願いで鳥を取りに行った。







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