お父様に許可を貰いに行こう
ミクをリタに変更しました。
ネギは強いですね、ええ。思ってましたとも。
「んにゅ?」
数日後。意識を失っていたイリスが目覚めて目を開けるとリタの可愛らしい頭があり、モフモフそうな耳がある。それに対してイリスは――
「頂きます」
――はむっと、甘噛みしだした。
「きゃんっ!? い、イリス、なっ、なにしやがってるです!」
「あまひゃがみ」
「ひゃっ!? そ、そこ、尻尾、尻尾と耳、だめぇですっ」
イリスは寝ぼけながら欲望の赴くままリタの尻尾と耳を撫で回して甘噛みする。
「いっ、いい加減にしやがれです!」
「痛っ!?」
遂に我慢できなかったリタはイリスを蹴り飛ばして引き剥がした。
「おおう?」
混乱するイリス。そんなイリスの前に全裸のリタが仁王立ちになり、怒りを顕にしていた。
「やるならもっと心を込めて丁寧にやりやがれです!」
「あ、やっていいんだ。というか、なんで裸?」
「寝る時は裸がいいでやがります」
「そう、なんだ……まあ、確かにリタの肌はスベスベで柔らかくて気持ち良いし、尻尾も最高だし」
「そうでやがりますとも。それにイリスと引っ付いていた方が魔力の回復も早いのです」
「じゃあ、これから一緒に寝る? もふもふしたいし」
「優しくしねーと許さねーです」
(まあ、精通するまでだろうけどね。こんな美少女と一緒に寝てたら襲っちゃうだろうし)
リタは人間に獣耳と尻尾が生えたかなりの美少女だ。といっても、まだ進化一段階のリタは普通に居るくらいのだが。そう、ゲームのように進化すればより美少女化が進んでいくのだ。
「あっ、リタの好みの触り方を教えてよ」
「仕方ねえですね。んっ、そこはもうちょっと強くしやがれです」
「こう?」
「んんっ!? そう、丁寧に……いい感じでやがりますよ」
「リタの肌触りも最高だよ!」
触りながら尻尾に顔を埋めてスリスリするイリス。そんな時に扉が開いた。
「イリス、起きましたの……?」
心配して毎日イリスの部屋を訪れていたコルネリアが入ってきた。彼女が見たものは裸の少女の股間(股間の上の尻尾)に顔埋めて幸せそうにしているイリスの姿だった。
「うふっ、うふふふふっ、人が心配していたというのに……何してるのかしら? これはお仕置きが必要ね」
「え、えっと、姉さん……」
「問答無用! ライトニング!」
コルネリアの掌から放たれる電撃。それはイリスに直撃する前に出現した黒い火の玉によって防がれる。
「小娘、私が居る限りイリスに危害は与えさせねーです」
「ぐぐぐぐぐぐ、この元凶めっ!」
「いや、落ち着こうよ。リタはとりあえず服を着て」
「仕方ねえーです」
服を着るように言われてたリタは直ぐに服を着て召喚された時と同じ巫女服のような姿になった。
「それで、なんであんな事に?」
「もふもふの魅力に逆らえなかったのです」
「なるほど。では私も……」
コルネリアの手がリタに伸びるが、触れる瞬間にベシッと、リタの尻尾で叩き落とされてしまう。
「な、何をするのですか!!」
「気安く触れやがるなです。イリス以外には撫でさせねーです」
「ぐぐぐ」
「まあまあ……あっ」
イリスが仲介に入ろうとすると盛大に腹の虫が鳴り出した。眠ったままで数日間食べて居なかったのだから仕方がない。いくら身体が変化しているイリスでも食事は必要なのだ。
「イリスは知っている召喚方法を教えて欲しかったのですが、とりあえずご飯が先ですわね」
「召喚方法? まあ、確かにお腹空いたしご飯がいいかな」
「では、また後に伺いますは。そこの駄狐には良く言い聞かせておきなさい」
「あははははっ」
コルネリアが去って行くのをイリスはリタを抑えながら見送った。
「イリス、アレ、食べていいでやがりますか?」
「食べちゃ駄目」
「ちっ、命拾いしやがったのです」
「ほ、ほら、ご飯行こう。ね」
「しゃーねぇです。行ってやるです」
「うん」
リタと共に食堂へ移動するイリス。そこでさっさく出された何時もの硬いパンと水。それを見た瞬間、リタは不機嫌になって文句を言う。
「こんなのごめんでやがりまよ! 改善を要求してやるです!」
「あっはっは……そうだよねー」
「まあ、俺達もどうにかしたいがどうにもできないんだよ。悪いな、嬢ちゃん」
前にリタを召喚する為に必要な物を貰った男性が2人の会話を聞いてこちらにやって来たのだ。その手にはトレイを持っている。
「誰でやがりますか?」
「俺か? 俺はギュンター。ここで料理長をしている。これは当主様達の残りのシチューだ」
(料理長だったんだ)
「どうにもならないの?」
「人手も足りねえし、食材もねえ。俺達は食べられるだけましだが、パンも食べられない奴等は大勢居るからな」
「パンができるって事は小麦粉はあるの?」
小麦粉に関しては生産されているので農民も微かだが手に入れている。もちろん、森に狩りに出る者達も居るが、この世界ではモンスターが跳梁跋扈している為にとても危険だ。それに加えて非常に高い税金が徴収されるので一日中畑仕事をしないととてもじゃないが生活できないのがエーベルヴァイン伯爵領の現状だ。
「ああ、あるぞ」
「塩とかは?」
「それもある」
「なら、少し考えてみようかな」
「イリス、私は魚が食べたいのでお供えしやがるです」
イリスが考えていると、リタは要求を突き付けてくる。
「お魚か、取りに行くしかないね。守護者が居れば外に出してくれるはずだし、取りに行くか」
「あー、一応当主様に確認を取らないとまずいぞ」
「わかったお父様に確認してみる。それと食事の事もどうにかできないか聞いてみるね」
「悪いがお願いしする。まあ、無理だとは思うけどな」
「まあ、駄目で元々だよ」
「ほら、さっさと行きやがるです」
「いや、まだ食べてな……」
イリスがリタの手元を見ると、既にパンがなくなっていた。硬いパンも獣人の強靭な歯にはひとたまりも無かったようだ。
「すぐ食べるよ」
「急ぎやがるです。お魚が私達を待ってやがるですよ!」
「うん。ごちそうさまでした。それじゃあ、ちょっと行ってきます」
「おう」
水魔法で強制的にふやかして急いでパンを食べたイリスはリタを連れて父親であるグレーデン・フォン・エーベルヴァインの下へと向かった。
当主であるグレーデンの部屋は大きく、寝室と書斎、使用人控え室、控え室が存在している。グレーデンが居るのは基本的には寝室だ。イリスはワールド・オブ・エンブリオでの事だが、ある程度はグレーデンの事を知っていた。
(ゲーム通りなら寝室はアレなんだよね)
「リタ、リタは外で待ってて」
「何故でやがりますか?」
「いいからね。危険は無いから」
「むぅ……なら、日向ぼっこしていてやるです」
「ごめん、よろしくね」
リタは廊下の窓を開けてそのまま外へと出て行った。イリスがリタを連れて行かなかった理由、それは女性には辛いものがあるからだ。
(さて、ゲーム通りなら彼女が居るはずだし、部屋はあんな感じなんだろうけど……)
ゲームではエーベルヴァイン伯爵領に魔王についての情報を手に入れた主人公達とそれに協力するプレイヤー達が攻め込むイベントが有ったのだ。その時、捕らえられて奴隷にされて居た女性達が救出された。その中には奴隷達が生んだ子供も含まれており、その内の一人が回復特化の隠しヒロインとして設定されている。その子の好感度を頑張ってあげるとかなり戦闘が楽になる。このワールド・オブ・エンブリオというゲームはNPCヒロインの好感度を上げると仲間になって一緒に冒険してくれる上に特殊な召喚が可能という素敵仕様だ。もちろん、通常は友情モードで一部の極秘条件を達成する事で恋愛に発展するが、この極秘条件は基本的にほぼランダムで設定される為に攻略は運によると言われている。ゲーム内で恋愛に発展したプレイヤーは数千人に一人居るかどうかというレベルで、その殆どが廃人と呼ばれるレベルの存在だけだ。
「イリスです、お父様に用事があってきました」
ドアをノックして要件を告げるイリス。直ぐに中から美人のメイドが扉を開けて書斎に入れてくれる。
「こちらでお待ちください。聞いてまいります」
「うん」
イリスにソファーを進めた後、美人メイドさんは隣の寝室へと入っていく。扉を開けた瞬間、女性の悲鳴が聞こえて来たが、扉が閉じられると一切聞こえ無くなった。
(お盛んな事だね)
少しするとメイドが戻ってきた。
「お会いになるそうです。どうぞ」
「ありがと」
「いえ……」
案内されてドアを通って次の部屋に歩いていく。そこは使用人の控え室となっている。更に進むと頑丈なドアと豪華なドアが存在し、豪華なドアを通って寝室に入る。
(ああ、やっぱりだね)
イリスは部屋に充満する臭いに顔を顰める。部屋の中には木と鉄でできた人の乗っているお馬さんや、貼り付け台などのオブジェが中心にあるベッドの周りに配置されている。床には何人かの綺麗な女性が息も絶えだえで倒れている。そして、ベッドの上には綺麗な女性を侍らせたグレーデンが両脇の女性の胸を揉みながら待っていた。
「イリスよ、何の用だ?」
「はい、お父様。食事の改善を行いたいので許可が欲しいのです」
「食事の改善か」
「はい。はっきり言って足りません。お腹が空けば作業効率も下がりますし、失敗も増えます」
「ならば鞭でも打って活を入れてやればよい」
「その鞭打ちだって無駄な労力じゃないですか」
(やっぱ、簡単にはいかないね)
「くだらん。そんなものは魔法や召喚獣にやらせればいいだけだ。そんな下らぬ事の為に私の貴重な時間を無駄にしたのか?」
(うん、これは駄目だね)
イリスはグレーデンの言葉を聞いて打開策を提示する。
「でしたら、私が食料を取ってきて配るのはいいですか?」
「私は一切金を出さんぞ」
「大丈夫です。できれば色々としたい事があるのでお金は欲しいですけど」
「勝手に稼げばいい。そうだな、税収が増えればその内の1%をくれてやろう」
「1%は安過ぎです。他の事業に手を出すならお金が……」
「商売でもなんでもして稼げばいい。まあ、5割は税金で徴収するが。まずは使える所を見せてみろ。全てはそれからだ」
「……分かりました。それじゃあ、外に出る許可は貰えるという事でいいですか?」
「そうだな、兵士を連れて行くなら許可しよう。まあ、断られるだろうがな。それとお前には奴隷を与えて居なかったな」
「奴隷、ですか?」
(与えて居なかったって、お兄様達は与えられている訳なの?)
本来、5歳の時に適性属性を調べた時に与えられるはずだった。魔法を覚えたばかりの子供に奴隷を玩具として与えるのがエーベルヴァイン家の仕来りだった。当然、大概の者は魔法の的などにして直ぐに殺してしまい、優秀なの者は新しいのを貰う。逆に貰えない者も居る。
「エーベルヴァイン家の者が奴隷の一人も使った事が無いのでは駄目だな。適当にくれてやるか」
(これはチャンスじゃないかな。よし、危険だけど言っちゃえ)
「自分で選んでいいですか?」
「何?」
「お父様が奴隷に孕ませた子からですけど」
「ほう……異母兄弟の奴隷が欲しいとはいい趣味じゃないか。いいだろう、準備させておく。今日は下がれ」
「はい。今日はありがとうございました」
「うむ。精々励め」
イリスは使用人控え室を通り、書斎から外に出て苦しそうに蹲る。
「くっ、くくくく」
いや、笑っていた。それはもう、面白そうに邪悪な笑顔で。
(商売の許可まで貰えたし、やりたい放題できちゃうね。それにあの聖女様を奴隷にできる。それはつまり、彼女の特性である天使を召喚できる。教国の連中に目をつけられそうだけど、魔王に対抗するには天使の力は必要だしね。っと、リタを待たせて居たんだった。早く行かないと。あ、兵士の人達にも話をしないとね)
直ぐに兵士の宿舎に向かうイリス。そこに居た兵士達に事情を話して付いてきて貰おうとお願いしていく。
「すいません、仕事があるので……」
「私達も無理です」
「そう、ですか……」
だけど、誰もイリスのお願いを聞いてくれない。彼らにとっても仕事があるのだ。それもサボるとかなりの罰則が与えられる為、誰もイリスのお願いを聞いてあげたくても聞いてあげられないのだ。
「あ、療養している連中なら休み扱いでノルマも無いですよ」
「そうだな。でも、重傷者ぐらいじゃないか? 数日間休めるの」
「重傷者? あ、治してあげた人はどうかな……」
「イリス様が治してくれた人ですか、確かにいけそうですね。ちょっと聞いてきます」
「ありがとう」
「いえいえ」
兵士達も重傷者を治してくれたイリスと出来る限り仲良くなっておこうという打算が働いている為に便宜を図ってくれる。彼らも何時彼らのように重傷を負うかわからないからだ。つまり、治療によってイリスに対する一部の兵士達の態度が軟化しているのだ。
少しすると先程の兵士が2人の兵士を連れて戻ってきた。
「イリス様、話は聞きました。私、アルフォンスとライヒアルトに是非手伝わせてください」
「皆の食料を確保しに行くんですよね? それなら協力します」
「うん、そうだよ。川でお魚を取りに行くの。それと海にも行きたいかな」
「海はここからだと距離がありますね。馬車で二日ですから……」
「なら、もっと早い乗り物ならもっと早いよね」
「そうですね」
「空でも飛べれば早いですよ」
「そうだね。まあ、今日は川だね。っと、荷車と樽を用意しておいて。樽に魚を積んで戻るから」
「分かりました」
「任せてください。直ぐに準備して門の前で待っていますね」
「よろしくね。後、呼んできてくれてありがとう」
兵士達にお礼を言ってイリスはリタを探しに向かう。リタとは制約により魂で繋がっている為に直ぐに居場所がわかる。強制召喚すらも可能だが、イリスは自分の足で歩いてそちらに向かった。そこで木の下で丸まって眠っているリタを発見した。
「リタ、終わったよ」
「んにゅ……イリス、抱っこしやがれーです」
「はいはい……って、無理だから。6歳の子供に12歳くらいのリタは持てないから」
「ちっ、仕方ねえーです。何時か抱っこしやがれです」
「うん、鍛えてるから任せて。それよりお魚を取りに行くよ」
「行くです」
「まあ、その前に寝癖とか取ろうね」
イリスはリタのさらさらな髪の毛に付いた葉っぱなどを取ったり、埃を払ったりして身だしなみを整えてあげた。それから門に向かうと少しして兵士の2人が馬に荷車を引かせてやって来た。