イリスの新たな旅
街道を進む馬車は神聖王国ヴァルハラへと進んでいく。この馬車の中には美少女が三人乗っている。
「どなどなど~な~」
イリスは馬車の中で歌う。気分はそんな感じなのだろう。なにせイリスは女装させられ、ヴァルハラへと向かっているのだから。
「お嬢様、落ち着いてください」
「お嬢様じゃない」
「でも、そういわないと駄目だよね~」
メイド服を着たレナとニナの言葉にイリスは項垂れる。そもそも、こういうことになったのはイリスがやりすぎたことである。
期限である一ヶ月でノルニラ連合国をほぼ一人で落とし切ったイリスは名実ともに元帥の候補となった。しかし、貴族達からしたらすんなりと認められるはずもなく、ましてや父親であるグレーデン・フォン・エーベルヴァインは自らの言う事をきかずに多大な功績をあげたイリスをよく思うはずもない。
そのことから彼等は王に直訴してある計画を認めさせた。それこそがイリスが女装してヴァルハラへと向かっている理由である。その計画とはヴァルハラの最高戦力である天使の奪取もしくは破壊することである。
「しかし、成功するんですか? いくら聖女候補を募集しているとはいえ……」
「成功するかといわれれば成功する。何せ聖女候補の条件とは天使を召喚し、使役することだ」
「それだとご主人様は確かに問題ありませんね」
天使の召喚は血筋も関係あるが、魔力や鍛錬で召喚することで教会が保有する神器を使用して可能だ。しかし、生半可な修練ではできないので、孤児や優秀な人材を集めて聖女候補生として育成している。そこにイリス達は潜り込むつもりだ。
「そっか。天使の召喚ができるご主人様なら、大丈夫ってことだよね」
「そうです。聖女候補に選ばれることは確実です」
「だからってなんで女装しなきゃいけないんだ……」
「今回の目的は神器の奪取か破壊ですし、神器に触れられるのは聖女になったほうがはやいですしね」
教会は神器を聖女にしか触れさせない。資格無きものが触れると魔力と生命力を抜かれて死に至るのというのも理由の一つだ。聖女になれるかを試すだけでも命がけだ。
(もっとも、私の知るかぎりではフィリーネも聖女の一人になるのだけれどね。でも、あれは主人公達が助け終わった後の話だ。そもそも彼等が攻め込んできた理由の一つに帝国に奪われた神器を取り返すというものがあった。つまり、私以外にも誰かが派遣されていたはずだ。それがおそらく今回のつなぎ役かも。しかし、神器か……楽しみだね。皇帝陛下にお願いしてヴァルハラの神器を奪った暁にはその所持を認めてもらえたのは良好といえる)
神聖王国ヴァルハラはその名の通り、北欧神話の系統に位置する。その神器もそれに準じている。つまり、北欧神話の主神オーディンを初めとした神器があるのだ。
北欧神話で有名なのはグングニルだろう。この槍は決して的を射損なうことなく、敵を貫いた後は自動的に持ち主の手もとに戻る。また、この槍を向けた軍勢には必ず勝利をもたらすと言われている。ここまでの効果はないが、前半二つの効果を持つ神聖な槍が確かに存在している。
他にもギャラルホルンというものもあり、こちらはすばらしき音色で他者の意識を誘導して戦争を起こすことができる。
後はミョルニルなども有名である。これらの神器はゲーム上ではプレイヤーは基本的に得ることができない代物だ。代わりにレプリカを手に入れることはできる。
(ゲームと違って神器を持つことに制限がない。つまり、本物の神器を手に入れることができる。それにユミルの炉があればレプリカを量産できるから、皆の強化が可能だし……何より本物なら天使を超えて神の力を召喚できる。ああ、楽しみだね。っと、一応逃げるための布石も打っておこう)
「ご主人様、まもなく街です」
「たのむ」
「はい」
イリスは雨雲を作り出して、ヴァルハラへと向けていく。一定期間、ずっと同じ雲が居座るのならばれるかも知れないが、複数の雨雲が適度に動いて天気の日を作れば見付かる可能性が低い。もちろん効果は低いが、それでも時間をかければ問題ないのだ。ちなみに程度でこれをやった場合は元帥に即バレする。三元帥によって常に見張られて守護されているからである。それは相互監視でもあるため元帥も勝手に動けない。
この後、ヴァルハラでは栄養たっぷりの水が降り、水不足に困ることがなくなり、収穫量が格段に増えることとなった。
神聖王国ヴァルハラの王都は国の名前と同じヴァルハラであり、ここには巨大な育成機関が存在している。
エインヘリヤルに相応しい戦士を育成する戦士科。卒業するとエインヘリヤルを名乗ることができる。主人公やプレイヤー達が所属することになる場所だ。
聖女科。こちらは主に聖女を育てることに重きが置かれていて治癒魔法などをメインに教えられる。
他にも色々な科があり、日夜英雄や聖女を目指して少年少女から男性女性が頑張っている。
「さて、と。いこうか」
「はい」
「大丈夫かな?」
「なんとでもなるよ」
馬車から降りて聖女科の受付へと進んでいくイリスの姿はどこからどうみても美少女である。綺麗に光りを受けて神々しく輝く銀糸の髪にローブとスカート。周りの視線を一身に受けるイリスは完璧な微笑みを浮かべながら歩いていく。まさに天使といったその姿はある意味では当然だった。
何故ならば現在のイリスは神々の娘である。そう、彼女は裏技として自身にレギンレイヴを憑依召喚し、更に秘儀である憑依召喚した存在と融合する手段にでているのだ。
彼女、レギンレイヴは神々の残されたもの、力の跡、神々の娘と呼ばれる存在であり、神に近い者とされている。つまり、現状のイリスは神聖な気配を発している神々の娘そのものである。
「こちらへどうぞ」
「わかりました。どれくらい時間がかかる?」
「聞いてこようか?」
「いいです」
三人で列に並ぶとすぐに前の方が退いていく。当然だ。明らかに気配が違うのだから。このまま後ろに並ばれるより、先に行ってもらった方が精神衛生上いいのだ。
そんな理由からどんどん進んでいくイリス達は受付の前に立った。受付の人はイリスをみるなり、汗を浮かべておろおろしている。
「この方の名前はレギン様です。聖女候補の試験を受けに参りました。私達はそのメイドです」
「……」
「どうしたの? 大丈夫?」
レナとニナが受付の女性に告げるが、反応がない。ちなみにレギンという名にしたのは単純明快だ。別にばれても問題ないからだ。どう足掻いてイリスにたどり着くことはないからだ。あるとすれば離れた場所に空から光の階段が現れて何かが降りてきたという話だけだろう。これはイリスの細工である。
「はっ!? 申し訳ございません。すぐに係りの者を呼んでまいります!」
「早くお願いしますね」
「はっ!」
その後にやってきたのは責任者であろう女性だった。彼女に案内された部屋には神器のレプリカが置かれている。これらを使って天使を召喚するのだ。レプリカでも下級天使を召喚できる。また下級天使を育てることで上級天使を手に入れることもできる。
「そ、それではお好きな神器に触れて天使の召喚をお願いします」
「わかりました。貴女達は下がっていてください」
「「はい」」
イリスはレプリカを色々と見学していく中、選んだのはギャラルホルン。イリスが降れると同時にギャラルホルンは光る。
(これ欲しかったんだよね。もらっちゃえ)
イリスがギャラルホルンを吹くと巨大な門が内部と外に召喚され、そこから無数の下級天使が現れる。ギャラルホルンとはラグナロクを告げる終焉の呼び声でもある。そんなものをレプリカとはいえ、神々の娘であるレギンレイヴと融合しているイリスが吹けばもはや大惨事である。
「すばらしい。これはいただきましょう」
ギャラルホルンのレプリカを自らの喉に触れさせて取り込み、融合させる。イリスの声帯がギャラルホルンと化した。これによりパンデモニウムの一斉解放までもが可能となった。
(さて、試験管は……呆けたままだね。だったら、貰えるものをもらっておこう。必要になるのはガンバンテインのレプリカ。これさえあれば遺跡にいって機械娘を手に入れられる)
遺跡は魔法で封印されているため、ガンバンテインの力でその魔法を無効化する必要があるのだ。ゲームでは野外活動中に崩落事故に巻き込まれ、強力なボスモンスターに襲われる。主人公たちと一緒に巻き込まれた聖女候補の少女アリアドナと協力してどうにか洞窟に逃れるが、そこは封印されていたのだがこのままでは殺されるとわかっていたので彼女が解除した。
そして、その奥に眠る機械でできた少女と主人公が契約して、彼女のマスターとなった主人公達はみごとボスモンスターを倒す。といった筋書きだ。
(私が協力してやる義理も理由もない。ここで主人公達が消えてくれると正直言って助かるしね。来いラーズグリーズ)
イリスはガンバンテインのレプリカに触れて、それを持ちながら体内から呼び出す。すると新たな天使が召喚される。金髪碧眼の少女天使、ラーズグリーズだ。彼女は計画を破壊する者。今回、必要となる子という判断だだろう。しかし、それは他人の計画だけでなくイリスの計画すら破壊する可能性がある。
「あの、あなた様はいったい……」
「聖女候補になりにきた者です。それで試験は合格ですか?(もう用はないからさっさと合格にして欲しい)」
「もちろんです!」
「手続きは私達が行いますので、よろしくお願いいたします」
「わかりました」
手続きはレナに任せて、こっちはにニナと一緒にゆっくりとししようとするイリスだが、複数の神官や神殿騎士が入ってきて対応せざる終えなくなった。外ではいまだ大事が起こっているのだから。
その後、数時間経ってようやく解放されたイリスは無事に聖女候補となり、部屋を与えられた。使用人用の部屋も隣にあるが、基本的にレナとニナはイリスの部屋にいることにしている。
「もう疲れたよ」
「疲れた~」
「では今日はもう寝ましょう」
「賛成~」
「わふ~」
三人で服を脱いでベッドに入るイリス達。そのまま眠りにつくが、ラーズグリーズは護衛として残っている。暇そうにしている彼女にイリスの身体からひょっこりと顔を出してきたリタが向かっていく。二人はそのままボードゲームで遊ぼうとすると、他の戦乙女達もでてきて数人で遊ぶことになった。この光景をみるだけでも神殿の上層部は度肝を抜かれることとなるだろう。ヴァルキュリア達がこんなにも使役されているのだから。
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