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イリスは頑張ります!



 翌朝、久しぶりのベッドでグッスリと眠っているイリスは悲鳴で目が覚めた。その悲鳴は起こしに来たメイドがあげたものだ。あげた理由は非常にわかりやすい。


「ちっ、血がぁぁぁぁっ!!」

「ん~~~?」


 寝ぼけ気味のイリスが周りを見渡すと、魔法回路を作成した事によって出血した血が辺りに飛び散っており、周りが殺人でも起きたような状態になっていた。その光景を見てメイドが悲鳴をあげたという事だ。


「おはよ」

「お、おはようございます……って、だ、大丈夫ですか!!」

「うん、平気。ちょっと待ってね。すぐ片付けるから」

「え?」


 何時もの通り、魔法回路に魔力を流して魔法を発動させて血液を回収するイリス。その姿を見たメイドは――


「む、無詠唱……いっ、いえ、それよりもそんなの飲まないでください!!」

「慣れたら結構美味しいのに」

「そんな訳ないです!」

「残念」


 イリスはメイドさんの言葉に皮膚から体内へと血を戻す。口などからより時間と手間は掛かるがこちらも可能だった。


「よし、終わり。着替えよう」

「お、お手伝いは……」

「いらない」

「わ、わかりました。着替えはこちらです」

「ありがと」

「はっ、はい!」


 イリスのお礼に驚いているメイドから受け取った着替えを着ていく。現代とは比べ物にならないくらいの粗悪品だが、ボロ雑巾のようになってしまった元の服よりはましだった。それにローブなので体型に余裕があるのだ。


(まだまだ脂肪があるねー)


 ぱっぱと着替えたイリスは設置されている小さな鏡を覗いて見る。


(銀髪に赤い瞳か……痩せたら見れる程度にはなりそうかな?)

「す、すいません。前と違ってお金の掛かっている服は作れませんので……」

「ん? ああ、それは別にどうでもいいよ」

「そ、そうですか……では食事の用意ができておりますので食堂の方に」

「その前に運動してからでいい?」

「いえ、他の方々もいらっしゃるので」

「そう、わかった」

「場所はお分かりになられますか?」

「わかるからいいよ」

「はい」


 前なら案内されるのだが、既に領主候補からは外されたイリスは基本的に放置される事となる。その為、殆どの事を1人でする必要があるのだ。だが、元より前世では魔法使いだった男。1人でもイリスの記憶があればなんら問題無かった。


(確かこっちだね。しかし、記憶とは別に見覚えがあるんだよね。なんでだろ?)


 不思議に思いつつも食堂へと足を運んでいくイリス。大きな扉を潜り、広い食堂へと入る。すると直ぐに執事服を来た初老の男性グスタフ・ヴェレスが話しかけて来た。


「ああ、イリス様はこちらです」

「?」

「これからイリス様が取る食事は我々と同じ物になりますので、こことは別になります」

「そうなんだ。わかった」

「はい」

(随分と聞き分けがいいですね。我々が取っている食事に関して理解しておられないのかも知れませんね)


 グスタフに案内されたイリスは先程よりも小さめの食堂に入った。そこでは多数の従業員が急いでパンとスープ、サラダを食べて居る。だが、イリスが入ってきた瞬間、嫌悪感を剥き出しにした視線で迎えられる。


(随分と嫌われているけど、これは仕方ないよね)

「こちらに並んで置かれているパンやスープをトレイに乗せて行きます。子供のイリス様にはまだ少し高いですね」

「平気だよ」

「そうですか?」

「うん。届かないなら届く物を作るだけ」

「?」


 イリスは自らの魔力で水を作り出し、それを手のように形作ってお皿やパン、スープの入った器やサラダを掴んで、同じく水の手に持たせたトレイに乗せていく。


(使える物はなんでも使わないとね。それにこれからの生活を考えると色々と介入した方がよさそうだね。私の快適な生活の為にも味方は多い方がいいし)

「これは素晴らしいですね。それほど精密に操作できるとは……」

「これくらいは楽にできるよ。それよりも早く食べよう」

「そうですね。ここが空いている時間も決まっておりますし」

「時間が決まっているんだ」

「はい」


 2人は空いている席に向かい合って座る。イリスは大人用の椅子の為に足をブラブラさせながら食べて行く。


「朝食は朝4時から6時までですね。夕食も同じです」

「お昼ご飯は?」

「ありません」

「持つの?」

「はっきり言ってもちません。ですが、一日に一食でも食べられたらいい方だという方もいらっしゃいますから」

「そこまで食料自給率悪いんだ」

(これは早急にどうにかした方がいいよね)

「えっ、ええ……」

(食料自給率という言葉を6歳児が理解しているというのですか? それも閉じ込められて居たはずの子供が……これはしっかりと見ておいた方がいいですね)


 子供ではありえない言葉をイリスは発した。それを不思議に思ったグスタフはイリスを観察する事にした。


「イリス様、少ないかと思いますが我慢してくださいね」

「平気だよ。前に居た所ではパン1日1個だったし」

「待ってください。それは本当ですか? 1日だけとかではなく?」

「うん。ずっとそうだったよ」

「わかりました。それはそうと1個で大丈夫だったのですか?」

「平気だったかな。脂肪もあったし、水を作って誤魔化していたから」

「水、ですか……」

「うん、これ」


 イリスはコップに作り出した水を入れる。そして、それをグスタフに差し出してもう一つに同じように入れて飲む。グスタフもそれを見てコップに手を取って飲んでみる。


(これは……回復薬ではないですか。それに美味しい。いや、それ以前この水にはかなりの量の魔力が注入されて作られていますね。子供が扱っていい魔力ではありませんよ……)


「ごちそうさまでした」

「? なんですかそれは」

「挨拶? まあ、いいや。それよりこれからの予定は?」

「9時より勉強がありますが、それまでは自由時間ですね」

「そうなんだ。じゃあ、運動でもしようかな。その前に片付けかな」

「いえ、こちらでしておきますよ」

「そう、こんなの直ぐだけど」

「はい」

「じゃあ、よろしく」


 イリスは席から立ち上がってさっさと出て庭に向かう。庭に出たイリスはそのまま柔軟体操を行い、日課の筋トレへと入っていく。もちろん、水の魔法も操作しながらだ。水の魔法で作り出す大量の水を圧縮して重りにしつつ行われる訓練は普通の子供がやれば潰れるのは確実だ。大人ですら潰される量の水を背負いながら行っているのだ。当然のように筋肉への披露は凄まじいがリジェネーションによって傷を負った傍から魔力を含んで強靭に修復されれていく。脂肪も燃焼され、イリスの求める痩せた身体へとゆっくりと近付いていく。


(よし、訓練終わり。さて、数時間暇だし……うん、食料の確保に行こうかな。魚でも取ってこよう)


 そう思い至ったイリスは外へと向かうが、当然のように門を守る兵士に止められた。


「通して?」

「駄目です」

「えぇーなんでよー」

守護者ガーディアンも居ない魔法使いの子供を外に出すのはできません」

守護者ガーディアンってなんだろ? 名前からして使い魔とかそんなのだよね?)


 守護者ガーディアンとは簡単言ってしまえば盾となって戦うの者であり、後衛の魔法使いなら前衛を用意して詠唱の時間を稼ぐ事が必要である。イリスの場合は詠唱を魔法回路で代用している為にほぼ無詠唱で発動が可能な為、必要かと言われれば戦力としてあればいいかという程度だ。


守護者ガーディアンって何?」

「勉強もまだじゃないですか。いいから戻ってください。絶対に出しませんから」

「むぅ……けち」

「むくれても駄目です。出したらこっちが殺されますから」

(そこまで酷いんだ。まあ、それなら仕方ないかな)

「わかった。あ、じゃあ怪我人とか居る?」

「怪我人ですか?」

「そう。魔法の練習に治したいから」

「それは助かりますね。あちらの宿舎が見えますよね」


 遠くにある2階立ての建物を指差す兵士。


「うん」

「その横にあるのが治療所なのでそこに行けばいいですよ」

「わかった、ありがとうね」

「いえ……」

(随分と変わったな……まるで別人みたいだ)


 イリスは遠くに見える建物を目指して走り出す。直ぐに息があがるが無視して走っていく。汗が大量に出る。荒い息を出しながらなんとか到着したイリス。


(はぁはぁ……やっぱり、室内で運動していたからしんどいね。でも、肺活量とかも鍛えられるし、リジェネーションで超回復もするし、頑張ろう)


 水の魔法で作り出した水を飲んで回復を行わせるイリス。少し休憩して汗などを集めて回収してから扉を開けて中に入っていく。

 室内には怪我人が大勢居て、忙しそうに動いていた。


「手伝いますね」

「助かる!」


 火傷や鞭の跡などがある怪我人が沢山居る。中には明らかに魔法で付けられたような重症といえる怪我人も居た。彼らはイリスの兄達の魔法練習の的にされたり、実験台や暇つぶしに玩具にされた者達だった。そんな中でも特に酷い人達の居る場所にイリスは向かった。そこは既に見捨てられた者達の場所だ。


「し、死にたくねえ……死にたくねえよ……」

(火傷か。リジェネーションでどうにかなるし、一気に治そうか)


 イリスは重症で転がされている人に触れて魔法を発動させる。膨大な魔力と常に発動して効率化されているリジェネーションはイリスの手から相手の体内に入り、暴力的なまでの速度でイリスがイメージする健康な状態に再生させられていく。古い皮膚が剥がれ落ち、綺麗な生まれたてのような肌が出現する。


「あっ、気絶した」


 ただ、難点は意識を失う程度の激痛を味わう事だ。もっとも、火傷によって長い時間その苦痛を味わっているのだから少し辛くなるだけで解放されるのは彼らにとって救いだろう。


「それじゃあ、次の人ですね」

「ひっ!?」

「た、助け――」

「ええ、助けてあげますとも。生命を司る水の恵みを差し上げます」

「ちが――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「体内に損傷がありますし、これは腫瘍ですか。ついでに治しておきますね」


 体内の老廃物を取り除き、損傷や劣化などした細胞まで再生させていくイリス。イリスの治療によって重傷者はみるみる治っていく。だが、同時にイリスの魔力も相当な量が減っていく。それをイリスは彼らの体外に排出された血液を魔力に変換して代用し、それでも足りない場合は彼らの魔力を直接貰って使用していった。

 数時間の治療が終わり、本日の死者の数はかなり少なくなった。といっても、まだまだ怪我人は大勢居るし、重傷者も多いのだが。


(訓練にはいいかな。人体の構造をはっきり理解できるし、多人の血液とかを操作する練習にもなるしね。っと、時間だ)


 鳴り響く鐘の音で時間を理解して治療所から出て行く。それから何時も勉強していた訓練所に向かった。それも大量の魔力を消費した状態でだ。魔法の訓練をするのにその魔力がほぼ無いという状態で向かう何処か抜けているイリスだった。







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