四ヶ月後 戦争前
イリス達が訓練を初めて数ヶ月。毎日のように人間の限界を超えたような厳しい訓練が行われている。限界を超えて酷使される肉体と精神。肉体は傷付くと直ぐに修復されてより強靭な肉体へと変化させられる。精神に関してはリラクゼーションやアロマセラピーなどを行なわれていく。これら意外にも色々と行われ、イリスに対する盲信や信仰にまで昇華されている。これは彼らに溶け合うように融合している能使兵達によるものもある。そう、彼らは憑依兵器となっているのだ。見に宿しながら天使の戦闘技術を教え込まれた彼らは天使の力の器として申し分ないのだ。能天使といっても、意識の無い出現したばかりの力の塊を召喚し、乗っ取られる事を防いでいる。力自体も大した事はないが、魔力を糧にして成長するのでコントロールもしっかりと出来ている為、暴走する事もない。
「なんとか間に合ったかな」
「戦闘に必要な事は全て教え込んでやったのです。何人かは堕天しちまってるですが、関係ねーのです」
ドワーフ達渾身の装備達に身を包んだ戦闘部隊、エクシア達が虐殺を行っている姿を観察しているイリス達。リタの言う通り、何人かは堕天しており、白い翼の中に黒い翼も存在している。
「しかし、志願者が多いのは驚いたね」
「まあ、若返ったり、美男、美女になれるなら受け入れる奴が多いのは当然でやがりますよ」
天使の力が馴染めば馴染むほど、美形へと変わっていく為、若返りと合わせて女性達には大人気だ。
「っと、終わったようなのです」
「ゴブリンロードも大した事ないね」
グレン達もこの4ヶ月で成長し、簡単にモンスター達を仕留めている。現に今もゴブリンロードの首を取ってきた。といっても、既に何回も倒されているのだが。
「宝を回収して撤退するよ。このダンジョンはもう用がないから解放してね」
「あいよ」
ダンジョンコアを取らない限り、魔力さえ貯まれば復活されるのだ。よって、戦闘訓練と素材集めの為に復活させては殺していたのだ。もうすぐ戦争が始まり、それにイリス達も参加をするのでダンジョンコアを抜き取って安全を確保してから向かう事にしたのだ。
「さて、さっさと移動するとしようか」
「「「イエッサー!」」」
撤退したイリス達はログハウスの前へと集まる。そこにはレナとニナ、フィリーネ達が待っている。フィリーネが治療を行い、レナとニナが素材などを仕分けていく。
「ユミルの炉は?」
「解体は完了してるよ」
「問題なく」
「了解。それよりも二人は大丈夫?」
「「平気です」」
双子のニナとレナには特別な存在が憑依されている。それは満月の夜に召喚し、契約を成功させたコルネリアの守護者の子供達だ。もちろん、こちらも生み出して貰って直ぐに憑依させて融合させたが、能天使よりも強大な力を持つ為、コントロールが難しくなっている。
「治療、終わりました」
「ありがとう。イルル達の方は?」
「ん、大丈夫」
イルルがドワーフ達を引き連れてやって来る。戦場では武器の修理も必要な為、どうしても鍛冶師達を同行させる方がいいのだ。ましてやドワーフ達はそのまま戦士としても戦えるので予備兵力となる。
「あとは向えを待つだけか」
「もう来るよ」
「そうですね。匂いがします」
「そうか」
少しすると街道の方から狼達に率いられた沢山の馬車がやって来る。
「積み込みを開始してください」
「急いでね! 船の時間もあるから!」
「「おう!」」
直ぐに荷物が積み込まれ、訓練をしていた者達とドワーフ達が馬車に乗り込むとエクシアの殆どを置いて出発する。訓練をしていない彼らは走って付いてくるのだ。護衛も兼ねているのだが、全速力の馬車と並走しても疲れない彼らは異常だといえる。
イリスはというと、馬車に乗ってコルネリアと会っている。他にはメイド服姿のニナとレナがおり、馬車の中で寝そべっている大きな白銀の狼に抱きついてもふもふしている。
「どうやら問題なさそうですわね」
「うん。戦力的にはかなりのものになっているよ」
「それは良かったですわ。それよりも、イリスも随分と痩せましたわね」
「頑張ったからね」
イリスはほぼ寝ずにひたすら訓練を繰り返しており、その練習量はエクシアの者達を軽く凌駕する。だからこそ、彼らも一緒になって厳しい訓練を乗り越えた。
「どうかな?」
「ええ、とても可愛ら……かっこいいですわ」
「よし!」
痩せたイリスは母親の容姿を受け継ぎ、中性的な感じが長い綺麗な銀色の髪の毛や戦女神のワルキューレ達を召喚して取り込んでいるせいか、女性側にかたより、美少女のような姿となっている。身体の中は外見と違い、魔法回路が無数に作られ、桁違いな量の魔力が循環している。人間の皮を被った何かといわれてもおかしくない存在だ。
「そういえば、戦場まではどうやっていくの?」
「船が基本ね。相手は大陸と島をまとめて連合にしたノルニラ連合国だから1週間かけてワーグナー港に入港し、そこから陸路か海路で責める事になるわね」
「ふむ。でも、うちって陸の方が得意だよね」
「ええ、そうよ。でも、海軍だって負けていないわ」
(海軍か……ゲームでもレヴィアタンを操る海軍将校が居たか。ゲームでは詳しくは説明されていなかったけど、他のを考えれば化け物だよね)
アスタリア帝国が誇る最強兵力は皇帝を除けば三元帥と呼ばれる三人の存在だ。ベヒーモスを召喚し、陸軍を統括するバハムート家。ジズを召喚し、空軍を統括するレナニン家。レヴィアタンを召喚し、海軍を統括するリヴァイア家。この中でもバハムート家とリヴァイア家はゲームのレイドボスとして現れ、カンストプレイヤー達を文字通り薙ぎ払った。まず、一つのレイドの最大である二十四人だけでは勝てない。レイドを最低でも六つ用意しなければ勝てないという鬼畜仕様だ。このイベント戦では十のレイドまで想定されており、二百四十人ものプレイヤーが戦う大規模戦闘ならぬ大規模戦争と言われるほどだ。あえて言おう。皇帝より強いと。まあ、皇帝は魔王に殺されるので戦えないのだが。ちなみにルートとしては三元帥を無視して魔王を殺すのが一番楽なルートとなっている。三元帥をどれか一人でも倒すと魔王が魔改造と言われるくらい強化される。二人倒すとマゾゲーと化す。三人目が出てこないのは良心と言われるほどの仕様だった。具体例をあげると、バハムートを倒すと体力と防御力が人数分強化される。レナニンを倒すと空を飛び出し、移動速度と回避速度、攻撃力が人数分強化される。つまり、二つ合わせると修羅モードといえる。
「僕らはどうなるんだろ」
「お兄様は空軍所属ですわね。なのでどちらかの支援となりますわ」
「支援だけ?」
「敵の本陣に突入というのも仕事のうちですわね」
(空軍怖いよ!)
「我が帝国は空軍による強襲から敵軍を混乱させ、陸軍を突入させるのが基本ですわ」
本陣の中に大量の召喚獣が現れ、暴れまわるのだから混乱が巻き起こるのは当然だ。更に陸軍が雪崩込んでこれば決定打になる。
「本当に楽しみですわね」
「まあ、それはね」
(戦場は大量の血が流れる。それらは全て僕の糧になる。より強く、大きな存在になる為に頑張らないとね。ふふふふ)
二人の姉と弟は笑いながら戦場へと向かう。間違いなく、この二人も魔王候補に含まれている。イリスに関しては既に片足を突っ込んでいる状態だ。




