敵は、ぼく自身か、それともお前か、はたまた上がりかまちか、それとも?
気づいたときにはもう遅い。おうち大好き引きこもりライフから、強制的に
「田舎の家」アトラクションに参加する羽目になった少年マーよ、泣くな!
(ぼくの引きこもりライフを返せ!)
マーは操縦桿を激しく前後に動かした。
でも、おうちロボットは動かない。おしりをぺたんと地面につけた姿勢のままだ。
――どうやらオレは腰を抜かしたらしい。おかしいな、本来のオレは、もっとカッコいいはずなのに・・・・・・そうか、マーの精神状態が、そのままオレの動作として表れたんだ。マーの神経細胞とオレの運動機能が直結しているからだろう。マー、お前がしっかりしないと、おれたち一生このままだぞー。
おうちロボットは、まるで他人事のように言った。
(なんだよ、その上から目線は。だいたいぼくが操縦しなくてもお前は動けるんだろっ)
――俺、何か気に触ったこと言ったっけ。とにかく落ち着いてくれ。
(拉致されたも同然なのに、落ち着けだって?)
――拉致ではない、合意の上だ。マーは私に再会して、ワクワクしただろう。
(そりゃあ、少しはね。でも、ぼくに考える暇なんてなかったじゃないかっ!)
――そうかなあ、だとしたら、俺も悪かったよ。
(じゃあ、何とかしてよ。早く家に帰りたいんだ)
――だが、こればかりはマーが自分自身の力で、帰らなければならないのだ。帰るには、田舎の家に行かなければならない。
(いやだ、いやだよ)
おうちロボットが、怒鳴った。
――覚悟を決めろ。とびらは開かない。あとは中に入るしか帰る方法がないのだ。
――よく見れば、それほどこわくないだろ?
と、マーはおうちロボットにうながされ、涙の溜まった目で田舎の家を見た。田舎の家は、暖かそうなぼんやりとした黄色い光を放っている。マーは、なみだをぬぐって小さくうなずいた。
マーが操縦桿をにぎり直すと、おうちロボットは、そろそろと立ち上がった。家に近づくと、格子戸が見えた。
(お、お邪魔します)
格子戸は軽やかに開いた。玄関はコンクリで固めた簡素なつくりだったが、とても広かった。
(体育館か何かかな?)
おうちロボットは、吹き出しそうになるのをこらえていった。
――土間だ。
(じゃあ、あの壁は?)
――上がりかまちだ。
(・・・・・・)
マーが無言でいると、おうちロボットが説明を始めた。
――ここは土間だ。土間は第二の玄関みたいなものだ。昔の家は、今の家よりゆかが高い。よって、玄関も高い。ただ、それだけだ。
おうちロボットは、ただ、それだけだ、に軽く力をこめて言った。
(やっぱり、ここ、登らなきゃいけなかったりする?)
――その通り。さあ、レッツ、トライ!
おうちロボットはやたら陽気にふるまう。
(やれやれ、分かりましたよ)
マーは、上がりかまちに近づいた。上がりかまちは、おうちロボットの背丈ほどの高さあった。
右手、左手、のボタンを押して操縦かんを上向きに引っぱる。
ガチャンと両手を挙げる。だが、腕の力が足りない。これではおうちロボットが、土間から家の中をピョンピョン覗き込んでいるようだ。
――なんていうかな、鉄棒するみたいに、ぴょんとできないかな。
(今、やってます)
でも一向に埒があかない。見かねたおうちロボットが、アドバイスを出した。
――わあ、あんなところに置石がありますよ。
おうちロボットの言い方がわざとらしいのと、気づかなかった恥ずかしさで、マーは仏頂面になる。
(ハイハイ、分かってます)
――ハイは一回。靴を脱ぐのを忘れずに。
(へーイ)
いちいちうるさいなと思いながら、マーはスポーツカー靴着脱ボタンをおした。
両手をゆかにつけ右足を引っかける。
おしりが持ち上がらない。
ドテッ、としりもちをつく。
もう一度、同じ動作をする。でも、うまくできない。
――マーの身体能力と、オレの運動機能が直結してるんだ。登れないのは、マーのうでの力と、腹筋が弱いせいだ。
(ちくしょー)
マーはおなかに力をいれて、操縦かんを思いきり引き寄せた。おうちロボットは歯を食いしばり、ゆかにしがみつき、足を高く上げる。むうーっ、とうなり声を上げながら、何とかよじ登った。
――やったな!
(うん、やったね)
マーは板の間から土間を見下ろした。
(本当に高いな。そういえば昔、ここから落ちたことあったっけ……)
おうちロボットは、板の間の上で、疲れ果てたように大の字にねころがった。マーも肩で息をしながら、うす暗い天井を見上げた。天井板の、女の人の横顔みたいな木目模様、ずっと前、田舎の家で見たことがあった。本当に、ここは田舎の家なのかもしれない。
おうちロボットの上に、ずっしりとした何かがのしかかる。それは、小さいころ「寒いから、マーがカゼひかないように」って、おばあちゃんが掛けてくれた、木綿綿のたっぷり入ったふとんの重さに似ていた。木綿綿のふとんは、うちで使っている化繊綿のものより暖かいけれど、すごく重くて、上に掛けるとすごく息苦しいのだ。
実際、おうちロボットの上には、ずっしりと重たいふとんがのっていた。温まったふとんが、マーの神経をにぶらせる。熱が視覚化され、やがて実体となり、糸のようにおうちロボットの体にからみつく。おうちロボットは身動きが取れない。
――罠だ。早くふとんから逃げ出すんだ。
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