瀕死のおうちロボット
ほっとしたのもつかの間、マーは異変に気がつた。
「穴が膨張している……」
穴は床の平面方向だけでなく、立体方向に大きく膨らみはじめた。
黒い球体はまたたく間におうちロボットのいる空間を呑み込んだ。
漆黒の闇の中に、なすすべもなく立ちすくむ。と、遠くから灯りが漏れているではないか。
「行ってみよう」
ドアがある。わずかに開けて、慎重に中の様子を伺う。
足の踏み場がないくらい物が置いてある。ここは納戸だ。静かに足を踏み入れる。
シールがベタベタはってあるタンス。使われなくなったお皿。古ぼけた日本人形。チョウの標本。
マーは、大きなハチの巣を見つけて、大声を上げた。
――生命反応が感じられない。これは、空っぽのハチの巣だ。
マーはおうちロボットの言葉を聞いて思い出した。父さんが子どものころ、うら庭の大きなハチの巣を大さわぎして取ったという話を。
古本がひもでしばってある。一番上の、昔読んだことがある。
手に取ろうとしたら、急に部屋の明かりが消えた。
木々がざわざわとゆれ、野生動物の鳴き声が聞こえてくる。
(いったい、どうなってるんだ?)
マーは、おうちロボットに装備されているサーチライトを着けた。
バサ、バサ、バサ、おうちロボットに無数のチョウが群がってきた。舞い上がった多量のりん粉がライトを浴びてきらきら光る。
(あっち行け!)
マーは、パニックを起こし、めちゃくちゃにレーザービームを発射した。
――マー、冷静になれ。
おうちロボットは、マーに呼びかける。でも、その声はマーの耳に届かない。
チョウは次々やってくる。何千匹、いや何万匹かもしれない。窓のところにべったりとはりつく。
はりついたチョウのおなかには、針が突き刺さっている。針は、ガラスにめり込む。少しずつ、ひびが入る。
(なぜ、針がチョウの体にささっているんだ)
部屋に入ったときの様子が途切れ途切れに思い浮かぶ。
(そうだ。チョウの標本だ。虫ピンで止められたチョウたちだ)
チョウの歌声が聞こえる。
『次に標本になるのは、誰だ』
ガラスがミシミシと音を立て、細かなひびが入る。
――逃げろ、マー!
おうちロボットが地面にひざをつき、崩れるように倒れる。マーはおうちロボットから投げ出され、地面にたたきつけられた。
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