田舎になんて行くもんか
お泊り嫌いな少年少女時代を過ごした方、おうちが大好きな方、そうでない方も、読んでいただけると嬉しいです。
少年マーは、押入れの中心で、叫んだ。
正確には声を出さず、心の中だけで、叫んだ。
「ずぇーったいに、田舎になんて、いくもんかあああああ」
*
もうすぐお正月。お正月といえば田舎に行く。これがマー家の恒例行事。
でも、いやだ、いやだ、行きたくない!
だってさ、田舎の家って怖いんだ。
まずトイレが外にある。しかも「ボットン便所」。正式名称「汲み取り式便所」。くさい、暗い、夜電気をつけると、虫がたくさん寄ってくる。
歩くとギシギシいう長い廊下。風でガタガタゆれる窓。
仏間は暗くて、線香とほこりとタンスの防虫剤みたいなにおいが混ざっていて、ユーレイが出そう。
とにかくマーはいなかの家が苦手だ。それなのに、父さんと母さんはむりやり連れていこうとするんだ。
「自分のうちが、一番なのに……」
というわけで、マーは現在押入れにて引きこもり中なのだ。
小さい頃から押入れは、マーの秘密基地だった。
目が悪くなると言われてもマンガを読んだし、おやつも食べた。おやつは、食べこぼすとゴキブリが出るというから、もうやめたけど。
またあるときは、巨大戦闘ロボットのコックピットに早変わり。ロボットを「おうちロボット」と名づけ、一緒に悪者をやっつけたっけ。
おうちロボットは、めちゃくちゃかっこいいんだ。なんたってくつは赤いスポーツカー、足はエレベーター、胴体が押入れ。押入れって今思うとかなりしょぼい。頭の部分は何だったかな、忘れちゃった。だって昔のことだもん。
マーは壁を蹴った。
「ウイイイ~ン、ガチャン。おうちロボット、出動だ」
すると、床がガクンとニ十センチほどせり上がった。
(なんだろう、 地震か?)
身を固くして息を潜めると、どこからか変な声が聞こえてきた。
――ハアーッ、操縦の腕が落ちたな……。
(ま、まさか、おうちロボット?)
――まさか、じゃない。本物のおうちロボットだ。忘れたのか?
おうちロボットと名乗る声は、そう言ってまたため息をついた。
(ちょっと壁をけっただけで、本物のおうちロボットが現れたなんて、信じられない……。冗談だろう?)
――冗談ではないぞ。昔、二人でよく悪者と戦ったのに、覚えてないのか。
(あれは空想じゃないか)
――空想の中にこそ、真実がかくれているのだ。
(……バカみたい)
――オレたちは一番の親友で、大切なパートナーだったのに……帰る。もう二度と会うことはないだろう。
おうちロボットは、ガチャン、ガチャンと金属音をさせて、遠ざかっていった。
勝手に来て、勝手に怒って、勝手に帰っちゃうのか。変なヤツ。でも、本当に本物のおうちロボットだったとしたら?
(待って)
おうちロボットが立ち止まった。
(ごめん)
マーがあやまると、おうちロボットは振り向いてニヤリと笑った。でもすぐに、きびしい口調で言った。
――敵がせまっている。戦闘態勢につけ。
マーはキョトンとした。
(誰と戦うのさ)
――田舎の家だ。マーをきたえ直してやる。さあ、操縦桿をにぎるんだ!
(田舎の家だって? 訳が分かんないよ)
マーはおうちロボットに質問しようとしたが、マーの体が、いや、押入れ全体が回転して、強い重力がかかった。体が重くて動かない。その後、急に体が軽くなった。
まるで宇宙の暗やみに放り出されたようだ。目の内側に色とりどりの光がまたたいては消えた。
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