君の小鳥になりたい
海が、見える。
深いセピア色の海に、嵐で狂う波にもまれて今にも転覆してしまいそうな一艘の船が浮かんでいる。所々修繕が必要な黄ばんだ帆は弓なりに張り、叩きつけるような豪雨が小舟を襲った。
鉛のように重たい雲を分かつように雷鳴が轟いて、小舟の中でうずくまる幼い少女を更に怯えさせた。蓮の葉よりも小さな手で懸命に、それにしがみついている。
狭い船内いっぱいを占領して横たわっている、それ。痛いほどの雨と涙のような海水とを浴びて、逸そ美しくも見える赤が横溝を通って流れていく。幼い少女の肌よりも白い、純白のローブに染み付いた薄い
赤が、かえって彼女を冷静にした。
右手にきつく握り締めた刃物を、暴れる波に放り投げる。その拍子に風にもがれた少女のフードが飛ばされた。烏の濡れ羽色のような黒髪が、嵐と一緒になって舞い踊り、少女はうっとおしそうにそれをかきあげた。
船の端で揺られる白い包みを思い切り蹴り上げると、そのまま混沌とした海へ突き落とす。荷物は抗うことなく綺麗に弧を描いて落ちていった。
ノイズが走ったセピア色に、悪魔のように微笑む少女がひとり。