二十三
射し込む光から逃れようと、影夜は左腕を抱えて窓から飛び出した。外は仄暗いが、全くの闇というわけではない。失った左腕からの出血は既に止まっていた。あの少年の刃は影夜の左腕を切り離すと同時に、傷口を霊気の熱で塞いだ。
意図しての事かは分からない。が、日々の鍛練の甲斐もあってか影夜は未だに生きていた。
「く……ふふ……ハハハハ」
あくまでも生命としての話だが。粘ついた笑みを浮かべ、だらしなく開いた口からは涎がひっきりなしに垂れる。
物の怪と化していた時の方が、まだ意識は正常だったかもしれない。決定的な差を生んでしまったのは、最後に少年が取ったあの行動。
「あいつあいいっつは、殺さなかった!!」
故に生き残ってしまった自分。故に狂ってしまった自分。
八年程前、あの男に出会った時から、彼の生きる道は決定づけられたも同然だった。自分で選んだ道……と言っても良いが、実際には選択肢すら無かったと言っても過言ではない。まつろわぬ一族の者として、自分こそが呪縛の連鎖を断ち切れる唯一の人間。
光など見出せなくても良い。底の無い闇に身を、精神を、沈めるのも厭わない。先祖幾代分の呪詛をまとめて返せるのであれば。
自分の人生を生まれたその時から左右してきたこのくそったれた運命、それを決定づけた者を引き摺り下ろせるのであれば。だが、彼は敗北した。初めて陰陽寮の人間と対峙し、負けた。無論、それもまた彼の望みの一つではあった。ここで討たれ、葬り去られるのであればそれも良かった。あの狂気めいた少年にやられるのならば、なおいい。世界の愚かさを嘲笑いつつ死ねた。
詰まる所、解放されるのであればなんでも良かった。
それなのに、自分は生き残ってしまった。あの少年はこの影夜を生かそうとし、そして光の中へと引きずり出そうとした。あの少年と共にあればどうなるか、影夜には想像がついた。あの少年はおそらく、影夜がこれまで歩んできた道のすべてを壊すだろう。
彩弓と同じだ。影夜が彩弓を利用し、最終的に葬ろうと考えたのは、あの愚かな巫女の姉妹が言っていたように、彼女が邪悪だったからではない。
――あいつが僕の夢に介入し、復讐を妨げ、闇から引き上げようとしたから
呪縛の闇に囚われた事を恨みつつも、引き上げようとする者を拒む。矛盾しているようだが、彼が望むのは復讐だった。安寧ではない。安寧は、怒りに荒ぶる魂を鎮める事は出来ない。仇である者を全て滅ぼし焼き尽くす事で、初めてこの焔は鎮まる……。そう信じ込もうとする影夜だが、実際には違う。多くを言い繕う必要はない。ただ、単純な話。
彼は光の中に出るのが怖いだけ。自らの罪を全て暴く光が、自分がいかに醜いかを暴く光が、恐ろしいだけだった。光から逃れ、我が身をすっぽりと覆い隠してくれる影を探し、夜の中を遁走する。そんなものはどこにも無かった。ちらっと下を見ると二人の人影が、自分を見上げていた。一人は浅黒肌の長身の男。もう一人は隣の男よりも背の低いほっそりとした体つきの少年で、どこかキツネを思わせるような細い目で影夜を射止める。狐顔の少年が九字を切った。金色の蛇がその手から飛び出し牙を剥く。
ひくっと影夜は顔を引き攣らせる。彼らが、屋敷に真っ先に侵入した陰陽師二人であることは分かっていたが、今の彼には防護の手段が無かった。
蛇の口から噴き出したのは金色の霧。闇をも包み込み染め上げる霧。呑み込まれれば全てを無で塗り潰されるに違いない。射し込む光が決して希望でないことの何よりもの証。
ぞわっと背筋の毛が逆立つ。何かをする間もなく霧に呑み込まれる。が、予想していたような浄化行為はなかった。敵が情けを掛けたわけではない。ガラスの玉の中から黄金の雲が渦巻き、通り過ぎ――気が付くと、影夜は地面に手をついていた。
「ひ――ぃいい――」
必死に息を吸い込み吸い込み、しかし肺が呼吸の仕方を忘れたのか、ちっとも満たされない。体の節々が狂ったように笑う。
「命拾いをしたことを喜べ、影夜」
目の前にいるのはあの坊主だ。白と赤の僧衣に身を包んだ僧が、粘っこさを感じさせる灰色の瞳で彼を見下ろす。その姿を捉えた瞬間、影夜は飛びついた。
「キサッサマァ!! 話ががが違う!!」
「悪かったな。“扉”を開いた後がどうなるかは、私にも予想できなんだ」
悪びれるという素振りも見せず、むしろ憐れむように坊主は言った。
「だが、まぁ。君は目的を達成した。我々が確かめたかった事を確かめてくれた。それには感謝しよう。が、“君の願望”の方だが、君の力では最初から不可能だったのだよ。陰陽少女の殺害はね」
あまりにもさらっと出た言葉に、影夜の狂った思考ですら凍りつく。右手に持った左手が地面に落ちる。それを坊主はおやっと拾い上げ、影夜の肩に押し当てる。何事も無かったかのように、腕がくっつく。
「何だと、てめぇえええええええ!!」
自分の腕が元に戻った事にも気づかず、影夜は左手でもって僧の胸倉をつかんだ。
「あの娘の力と拮抗し、それだけで勝ったと本気で君は思うのかね? 彼女自身には月の神の加護がある。彼女の身に……真の神霊が降りれば、君が愛でた亡霊共ではとても勝てぬ事はわかるだろう?」
「それでも殺す!! 神なんぞ知るか!! 引き摺り下ろしてやる!!」
月光が雲の合間から木の葉の隙間から僧を照らす。そこに浮かぶ笑みを、瞳の中に映し出された夜に吸い込まれる。がくっと影夜の手から力が抜け落ち、地面へと倒れる。
「分かっているとも。この世界は創り直されなければならない。その為に、我々は君の力を試させてもらった。君は合格だ」
ただしと、僧は言う。影夜と違い、彼は感情を抑えているのではない。感情をむき出しにして、なお透明。喜怒哀楽を全て曝け出してなお、誰にも分からない。だが、確かに今、彼は笑っていた。
「私が求めているのは、君の力だけだよ。力とそれを流し込む器さえあれば良い。君はお疲れのようだ」
だからと、彼は袖の奥、袋の中から数珠を取り出した。
「しばし休め。世界が沈み、再び明けるその日まで」
数珠が光の環を発し、影夜を拘束する。身を捩る間もなく、数珠は妖しく光りそして影夜の全てが無と成った。
坊主は数珠を再び袋へと入れ、法衣の中へとしまった。彼が立ち去ったその瞬間、森は時間を取り戻し、啜り泣きのような風が吹き抜けた。
†††
黄金の息吹が吹き抜けた後、そこには何も居なかった。その結果に霧乃はおやっと眉を上げる。死体が確認出来ないと困るので、跡形もなく吹き飛ばすような霊術は使わなかったつもりだ。手足や指の一本だけと言うのも困る。本当に有能な戦士というのは、本当の極限まで追い詰められると、自身の体ですら冷徹に切り捨てられる物だからだ。つまり逃げられた。
左腕を切り離されていたようだし、霧乃の見る限り彼は恐怖に囚われていた。あそこから術を防ぐだけの大規模霊術を使えたのだとしたら、見上げた者だが、ここは第三者の介入をこそ疑うべきだろう。
「逃げられたな、ま、これではっきりしたと言うもんやが」
「あぁ、今回の出来事。個人的な恨みではないと」
霧乃の言葉に海馬は頷いた。二人とも初めからこの怪異が組織的な物であると踏んで動いていた。特に海馬は腰の重い現陰陽寮の重鎮に働きかけ、なるべく早く増援を寄越すようにと頼んでいた。結果的に海馬達のみ、特に月と一真に負担を掛けてしまったが。月はともかくとして、一真を影夜に当てたのは、いつもの海馬であれば考える筈がないことではあった。
「“流鏑馬”“早乙女”の隊は?」
「向かっていますよ。“塵掃除”と“墓荒らし”だって海馬さんが言ったおかげで、意気揚々としてます」
言われて、海馬は喉の奥に苦虫を突っ込まれたかのように、顔を歪めた。現陰陽寮における雑用係、それが使部或いは直丁と呼ばれている。古来より――本来のというか、表向きの役割だが――陰陽師の補佐としての地位ではあるが、実際にはもっぱら“塵掃除”であるとか、汚れ仕事を請け負う事が多い。
具体的には陰陽師と物の怪が戦った後の事後処理が主な役割である。中原邸や常社神社の方にも何人か派遣されている。
「流鏑馬隊の頭である栗田さんの方は、なんか知りませんけど来る途中で、物の怪とやりあったせいで一人欠けたそうですが、活動に支障はないとのことです」
「霧乃……苛めか? 暗に俺のことを弄って喜んでおるんか?」
頭を抱え本気で悩む海馬の横で、いえいえと、霧乃はにこやかに報告を続ける。海馬は、四神の立場上、大規模な怪異を解決する場になると指揮官として担ぎ出される事が多い。彼がそれだけ信用されているからなのではあるが、その分、下っ端連中からの無言の不満を受ける事も多い。その気苦労をからかったのは、酷いとは思うが海馬が今回した事に比べれば、可愛いものだ。
「一真は生き残りましたね」
「おいおい、それを怒っているんかいな……悪かったよ。だが、お前の親父殿も言ってたやろ? 死なないだろうと」
不意に父親を出されて、霧乃は普段ならな、おくびにも出さない嫌悪に目尻を痙攣させた。先程からかった事に対する意趣返しかとも思ったが、海馬はどうやら本気で言っているらしい。霧乃の表情が崩れるのを笑うどころか、苦笑一つ漏らさない。漏れたのは溜息だった。
「嫌っているのは分かるが。あれでもお前さんの父親なんやぞ?」
「わかっているのならば、わざわざ“親父”と言う必要もないでしょう。でも、“晴明”殿でさえも時に間違う事はありますからね」
例えば息子の事とか――と口にするのは流石に子供過ぎるかと思い、心に秘める。そんな霧乃に何か言いたそうに、海馬は口を開いたが結局は諦めた。
「陰陽寮の頭をはじめとした長老連中のお達しだったからの。あいつの力を測れとなぁ。だからここまで連れてきたようなもんやってのも分かっているやろ? それに、老獪で頑固な長老共も、あいつが殆ど一人で影夜の奴を追っ払ったと聞けば、文句一つ付けられんじゃろ。逆にその有能さが災いする可能性もあるにはあるが」
それを狙ったからこそ、一真のあの作戦を承認し、そしてほぼ一人で影夜に当たらせた。海馬と霧乃の二人はその戦いぶりを、“最初から最後まで”しっかりと見届けている。一真がいや、月が聞いたらなんと言うだろう。或いは、既に気が付いているのかもしれない。
「それじゃあ、“危険性”の方は? 彼自身が真っ当な物の怪になる可能性があるか否かについての」
元々、海馬が陰陽寮に命じられたのは、沖一真がこの先月の元でやっていけるか、そして彼自身が陰陽寮の脅威となりうるか否か、その調査だった。常社神社の騒ぎはその後に起きた事で、なし崩し的に、彼が怪異解決の指揮を執る事となってしまったわけだが。
「ない、と言い切れないのが厄介でね。現時点での脅威は認められず、今後も注意をしていく必要がある――あの意地悪な長老達は、どういうことかと問いただすだろうな」
「あれはなんだったんでしょうか」
霧乃はふと中原邸の三階を見上げつつ、聞いた。戦いは終わった。恐らく今、一真は月を相手に四苦八苦していることだろう。そっとしておいた方が楽しい事になりそうなので、迎えに行くつもりは毛頭ないが。
「何だと思う?」
質問に質問で返される。自分で考えろという意味なのか、或いは海馬ですら分からないのか。もしくは、あれは人間等に理解出来るような現象ではないのかもしれない。
「まさかとは思いますが、影夜が言っていた通り、彼は身の内に、地獄に繋がる門を持っていると?」
影夜が語った事を思い出し、霧乃は俄かには信じられない、というよりも実感が湧かなかった。彼の言葉は、一真が持つあの金色の折鶴の霊具が全て二人にも伝えている。
「さて、な。もっと驚くべきは、その中に一真の人格の一部が封じられていたって事やな。それが表に出てくるちゅうことはだ。彼が秘めているのは地獄なんかじゃ無いってことじゃなかろうか」
「それは、影夜がこじ開けたから出てきたのでは――」
「地獄の深みは、その程度で脱せられはせんと思うがの」
推測で以て海馬は断言する。言われてみれば確かにそれはしっくりと来る。だが、だとしたら一真の身には何が巣食っているというのか。
「そう深く考えんでもえぇよ。“内なる幽暗”ってのは当たらずとも遠からずと言った表現なんじゃなかろうか……俺にもわからんけど」
海馬自身もあれが何なのかは理解できていないらしい。張りつめていた空気が、緩む。
「やだなぁ、何もかも分かっていて話しているのかと思いましたよ」
「それも皮肉か……?」
じとっとした瞳を向けられるが、霧乃は笑みを崩さない。
「いやいや。羨ましいなと思っただけです。海馬さんのその“知恵”が」
すると、海馬はじっくりと味わうように苦虫を噛み潰した。
「羨ましい、ね。お前さん分かってんだろう? 月程でないにしろ、“白虎”にも加護と呪縛両方の面があることくらい」
知っている。白虎は式神として、自分を扱う術者に対して“知恵”を授ける。知恵とは数千年で白虎が培ってきた老獪な思考力と判断力の事で、海馬はその知恵の助けを借りて物事を多角的に見、一番効率的に、如何に自分達が利益を得られるかの行動がとれる。彼が、よく指揮官として担ぎ上げられる最も大きな理由がこれだ。
若く逞しい体と新鮮な霊気、そして老獪な知恵の組み合わせは、破壊力のある霊術にも勝る。
ただ、完全無欠に見えるこの能力にも、代償はある。それは、人心の乖離。尤も、これは代償というよりは当然の結果とも言うべきことなのかもしれない。
海馬は白虎から得た“知恵”を元に人を動かす。その動かし方は一見すると雑で最終的にどんな結果を齎すのかも分からない。が、最終的には全てが海馬の掌の上で最高の結果を運んでくる。知恵を授かるその感覚は予知にも似ているらしい。
ともかく、海馬は最適な結果を齎す為に海馬は冷徹に判断を下し、人を動かす。動かされる部下達、巻き込まれる人々は、海馬のその『能力』を信用するが、それは決して信頼とはならない。次は自分が目的の為に利用されるのではないか。そんな不信感を海馬は周りから感じ取っている。
「まぁ、そりゃあね。でも、俺は海馬さんの事信頼してますよ」
「……そうかい。そりゃ良かった」
海馬は肩を竦めながらも否定はしなかった。海馬が四神としての呪縛を持つのと同様、霧乃も霧乃なりに呪縛を抱えている。
それを知っているからだ。霧乃は恐怖を感じる事がない。正確に言えば“出来ない”のだが、それ故に彼は誰かに言い様に利用されることに恐怖を抱かない。それがたとえ自分や友人の生死を扱う事であっても。先程のように憤りを感じることはあるが。
「ま、信頼してくれるもんが一人でもおれば、それはもう呪縛とはならんのだろうな」
月か或いは彩弓の事を言っているのだろうかと、霧乃は思う。彩弓の力とは結局何だったのだろうか。一真が影夜を圧倒したあの時、一瞬だけ“折鶴”から送られてくる情報が途絶えた。その直後に、一真は正気を取り戻した。戦いに介入したのは、彩弓だと霧乃は踏んでいる。常社神社でも彼女は一真を救っている。
霧乃の疑問を表情から悟ったか、海馬は聞いてもいないのに、答えた。
「彩弓の力の事じゃがな。これまた俺の推測になるが、負の気、或いはそれで構成された感情や世界、その中にいる人間と繋がる事が出来るそういう力なんじゃあないかの?」
「繋がる、ですか。でも俺達だって陰の界に行ったり来たりしますよね」
彩弓程広範囲に渡る物ではないが、負の気で構成される世界であれば、人間も物の怪も行き来する。
「そうじゃな。だが、彼女の場合は……せやな。直接行くのではない。声を届けるんじゃなかろうか。闇に囚われている者に声を届け、過ちに気付かせる。そんな力じゃ。尤も、能力と言うよりは、本人の徳による部分が大きい力だと思うがな」
「声、ですか」
半信半疑に返す。海馬自身もちゃんと分かっているわけではないのだろう。肩を竦めてみせる。
「中原家全体に掛けられた『まつろわぬ者』の呪縛は、代を重ねる毎にその効果は薄れていった。が、強い霊気を宿す者はどうしたって影響を受けやすい」
彼女の母親の事、親戚を盥回しにされた事。それらも或いは呪縛によるものなのかもしれない。
彼女が生まれもって持つ力は、霊気に敏感でない者にとっては不気味で仕方がないに違いない。幽霊か怪物か、そんな風に思われていたのかもしれない。
「影夜は力で以て、呪縛を掛けた陰陽寮の者やきっかけを作った者達――その子孫達だが――に復讐しようとした。報いを受けさせる事で、自分の運命を変えようとしとったが。彩弓は彩弓なりに、自分の運命を変えようとしていたのかもしれんな」
深い闇の底に堕ち、抜け出せず沈んでいく者達に声を届け、居場所を示す。そうする事で、自分自身の存在をも変えようとしていたのかもしれない。
「あの娘は夢の中に、物の怪が出てくると言っておった。俺はそれを聞いて非常に気の毒に思ったもんやが、もしかしたら、彩弓は自分の意志で物の怪に声を掛けていたのかもしれんな」
「夢の中に物の怪ですか。俺だったら、問答なんて無用で叩き潰してますね」
海馬は乾いた笑い声を漏らした。自分達は皆同じだ。物の怪がどんな無念を抱いていたか等、気にも留めずに潰す。それが世界の安定を保つ為であるから。そう信じて止まない。人一人、その一人が持つ感情をこそ優先する者等殆どいない。霧乃もその一人だ。
――一真は、あいつは陰陽師じゃないからな
沙夜の時と同じように、今度もまた、彼は物の怪を滅する事が出来なかった。結果として影夜は逃げた。それが次の戦いにどれ程の影響を齎す事か。それを彼自身も悩んではいるだろうが、甘すぎる。霧乃は彼の心情に共感は出来たが、同意までは出来ない。
「あいつは、俺達がやろうとしない事をあえてする。そこは、一真も同じやな」
またしても気持ちを見透かされたようで、霧乃は細い目を僅かに開いた。海馬は気付かない風を装い、夜空を見上げた。
「いつか、彩弓の見る夢が物の怪の跋扈する悪夢ではなく、笑いの絶えない華胥の夢になれば、ええのう」
海馬の呟きは、ゆるりと廻る夜の中に溶け込んだ。夜空に微睡む月の光は彼らの世界を優しく照らし、そして今日という時はいつもと変わらず過ぎていく。




