十四
「海馬さんか」
一真が呟くと、月達の気配もさっと変わった。緊張が走る中、一真はその軽い口調の陰陽師の言わんとしている事、彼がどこまでを知っているのかについて思いを巡らす。
「俺達がここに来させられた本当の目的は常社を倒すことじゃなかったって事くらいかな」
電話の向こうで海馬が苦笑する。
『そういう言い方をせんでくれ。黒幕は彩弓を通じて、俺達の動きを全て見ていたんや。こちらの意図を全て話すわけにもいかんかった』
「だったら、彩弓を連れて行かずに、栃煌神社に残して置いた方が良かったんじゃないのか」
一真の疑問に、電話向こうの海馬は短く笑った。
「それで逃げられて、思わぬ奇襲を喰らっていた可能性もあった。あの時点では、まだ彩弓自身が敵なのかそうでないのかがわからんかったんでな。で、どうだったんや、そこらへん」
海馬はあくまでも気楽に答える。彼には分からないだろう。ここで起きた事、月がどんな思いをしたのか。彩弓がどれ程苦しんだか。或いは一真の決意の程を。
「大丈夫ですよ。彼女はただ道具にされていただけだった。それよりも黒幕は誰だか分かっていたんですか?」
『あぁ、少なくとも常社が自力で復活したんでない事は分かっていたのだが、それを誰が操っているかまでは特定できへんかった。奴の血縁関係の者が絡んでいると見て、調べるうちに、真っ先に引っかかったのが、彩弓や』
特殊な力のせいで、親戚や知り合いの間を盥回しにされていた彩弓。真っ先に目が付かない筈がないだろう。海馬の話によれば、彩弓は五回目になった「家族」の元から忽然と消えたのだという。それよりも少し前に橘花ら陰陽寮が派遣した巫女達が常社神社に潜入している。彩弓は三人の巫女に攫われ、神社へ。
『常社に、彩弓を使わせて俺らを誘きだそうという魂胆だったのだろうな」
「あぁ、正確には月を誘きだす作戦だったみたいだけどな」一真が答えると、海馬はふうっと長く重い溜息をついた。
『あぁ。常社は沙夜へ強い執着を見せていた。それを利用したのだろう――』
いや、と一真は微妙にどこか認識のズレたその答えに被せるように告げた。
「違うんだ。海馬さん。月を狙っていたのは常社だけじゃないんだ。あいつを生み出した男、黒幕の狙いも――月だ。さっき、その黒幕と戦って、その時に奴がそう言ってた」
『なに? 月を? 確かに彼女の力は陰陽寮において、群を抜いてはいるが……』
「というか、月こそが本命って感じだった」
海馬は言葉を失ったように黙る。電源が突然切れたのかと思った。
『いや、まさか。奴の狙いは』
電話向こうで勝手に納得し始める海馬に、一真は苛立ちを感じた。ここまでの戦いは何の為のものだったのか。何か本当に意味があったのか。
「海馬さん。はぐらかさないで、全てを聞かせてくれ」
海馬が息を呑む声が聞こえた。これ以上まだ隠し通すつもりかと思ったが、電話向こうの雰囲気からすると違うようだった。電話向こうで少女の悲鳴が上がる。月がハッと壁を睨んだ。いや、正確には壁ではなくその向こうにいるだろう何者かに。
一真が反応するよりも先に、衝撃がその場にいた全員を襲った。横から叩きつけられるような感覚。建物全体が揺さぶられ、一真はよろめき、破敵之剣を床に突き立てて自分の身体を支えた。未来と笹井は膝立になりながら倒れそうになる彩弓を支えた。月の足元は揺らぎもしなかった。未だ倒れたままの橘花が小さく呻く。
『全員、すぐそこを離れるんや! くそ、奴め、なんてものを“呼び出し”やがった!』
どういう事だと問いかけた時、天井が崩れた。 それはなんだと問いかけた時、天井が崩れた。一真が仰いだ先には、破片を纏いながら落ちてくる巨大な土気色の掌があった。その動きは思ったよりも緩慢であり、驚き或いは悲鳴を上げるだけのある意味で奇妙な余裕があった。
そして、一真にとっては身構えるだけの余裕もあった。
――今度は避けられる。足に霊気を溜めて一真は確信する。が、避けられるのは彼だけだ。目の前で身を固め合う三人を見て、一真は後ろへと回避しようとした力を前へと向ける。
が、避けられるのは彼だけだ。目の前で身を固め合う三人を見て、一真は後ろへと回避しようとした力を前へと向ける。
「逃げろ!」
三人を突き飛ばすようにその場から離れさせる。よろける三人を月と日向が支えた。一真の左右両側へ巨大な指が振り下ろされ、床を砕いた。踏みつぶされずに済んだそう思ったのは半瞬、床が抜けた。
「おわっ!?」
崩落に巻き込まれ、一真は恐怖を感じる間もなく落下する。月の叫び声が上から降ってくる。体勢を立て直そうと、宙を蹴って飛びあがろうと霊気を集中させようとするが上手く行かない。床が迫るのが見える――ガクンと制動が掛かったかと思うと、一真の身体は止まった。
真っ赤な翼が視界に映り、振り向くとそこには霊鳥の顔があった。鳥というよりも龍のようにも見える。羽毛の一つ一つが輝き、漲る程の生命力を表していた。驚きと共に一真は直感する。
「日向?」
「吃驚したなぁ」
いつもの日向の声だった。悪戯好きで陽気な、しかしまるで正反対の性格の月とそっくりのトーンの声。
「これでまた貸一つだねー」
「おいおい――」
一真は助かったという安堵と日向の真の姿を見た驚きから、それ以上の言葉を発する事が出来なかった。羽毛が光り煌めき、鳥の原身がその中で姿を変え次の瞬間、元の――いや、実はこちらが偽りなのかもしれないが――赤毛の少女の姿に戻っていた。
その手一つで一真の身体を支えていた彼女は、そっともう片方の手を一真の右肩にやり、ぐっと顔を近づけた。
「このまま連れ去っちゃおうっかなー」
「駄目――!!」
悲鳴とも怒鳴り声ともつかない一喝に日向は思わず一真を取り落としそうになった。鳴り響きこだまするその叫びに驚いてか、天井を突き破って侵入してきた巨大な腕はびくりと揺れてそろそろと、戻っていく。
巨大な腕が抜けると、風穴を空けられた天井よりもさらに数階分上、そこで真っ赤な顔で怒っている月の姿が見えた。その手には月影以外に天も握られている事に気づき、一真はハッと自分の手を見た。あの崩落の一瞬で落としてしまったらしい。ついでに携帯もだ。
「月、そこも危険だから、さっさと皆を下に降ろさないとね。三人全員。ちょっと大変だけど、出来るでしょ」
話題を意図的に逸らされて、月はうぅっとしばらく唸っていたが、頷いた。が、次の瞬間、その顔が緊張で張りつめられる。
「橘花……!!」
意識を戻したのか。この状況で、橘花とやり合わなければならないとは。月は自分の身も守りつつ、三人の身も守れるのか? 一真は日向に詰め寄った。
「上にあげてくれ」
「その必要はありません」
橘花が凛とした声で上から呼びかけてくる。その首元には月が太刀の刃を当てていた。
だが、橘花は彼女とも一真とも戦うつもりは無いようだった。戦意が抜け、顔からは血の気が引いて元々白かった肌は青白く、聊か鬱的にすら見える。それは、信念を見失った結果か。彼女はじろりと月を見た。
「できればその太刀を下して貰えませんか。でないと、ここにいる人達を助ける手伝いも出来ません」
「月、下げてくれ」
橘花の頼みには微動だにしなかった月だが、一真が頼むと不承不承といったように光刃を消した。目的を見失った彼女がこの場で戦う事は無いだろう。それに、黒幕にとっても彼女は既に用済みである筈だ。元々、彼女の存在すら計画には入れて無かったのではないかとも思える。橘花が共感したのは常社の嘆き、そして願いにだ。
「私達は何者かによって、踊らされていたのですね?」
「俺達皆がそうさ」
一真が答えると、橘花は唇を噛みしめた。一真の頬が上から降ってきた雫に濡れた。二人共、気付いていない振りをした。外では、重く低い咆哮が響いた。一真は身体を流れる血が熱を帯びたように熱くなるのを感じる。外にいる何者かの声に一真の躯に閉じ込めている闇が呼応しているらしい。内なる幽闇から解き放たれんとばかりに。
敵はあの巨大な腕の持ち主だけではない。耳を劈くような悲鳴が聞こえてくる。上からかと一真が仰ぐと、日向がその手に霊気の焔に包まれた矢を浮かばせた。何も無い空間目がけて無造作に投擲する。壁に当たるその直前、壁をすり抜けて飛び込んで来た何者か――白い影に当たった。侵入者は何が起きたかも分からなかったに違いない。その体を焔に焼かれながら悲鳴も上げられぬまま、落ちていった。
「急いで! さっさとしないと、皆こいつらと一緒に地の底にまで連れて行かれちゃうよ!!」
日向が叫んだその瞬間を狙ったかのように、四方八方から真っ白な影が飛び込んでくる。
「ほら、私達も!」と日向は一真を引っ張ったまま、突っ込んできた二つの白い影を躱し、振り向きざまに焔矢を放ち、二体ごと打ち抜て浄化する。
一階まで降りると、日向は一真を放した。かといってそこが安全というわけでもない。一真は足に霊気を込めて、入り口目掛けて跳ぶように走る。
日向は何の苦も無くそれに追随する。この白い影のような奴らが何者なのか、一真には分からなかった。一番に思いつくのが物の怪だ。しかし、どこか違う。物の怪と戦い始めてから、まだ日が浅い一真だが直感的にそう思った。
物の怪は吹き荒れる嵐のように、負の感情を撒き散らし、人間から集めた邪気を力に、暴れる。
だが、彼らからはそれが感じられない。いや、邪気は感じられる。だが、それを彼らは制御していた。白い影達の動きは、完全に統率が取れていた。嘘寒さを感じる程だった。
「彼らは神霊。物の怪とは訳が違うよ」
一真の怪訝を読み取ってか、日向が言った。
「……えっと神様の霊?」
神の魂。聞き違い、勘違いでなければそういう事になる。
「ある意味ではそう。だけど、それだけだと説明不足だねあれは、あれは神霊の二つの側面の内の一つ。荒之御霊だよ」
「あらのみたま?」
そういった知識は無い。が、どこかで聞いた事がある。陰陽師関連の本で、だ。未来が聞けば、またオタクな知識が……と言うだろう。
「荒之御霊ってのは、神霊における荒々しい面の事だよ。人間にとっては災いだとか天変地異を齎すから、あまり好まれはしない、かな? 因みにその反対は和之御霊」
「神様ってのは魂も分割できるのか?」
一真が訊ねると、日向はんーっと口を引き結んで少し考えるように瞳を逸らす。そのまま、二人は入り口を抜ける。外を見て、一真は息を呑んだ。神社の周辺はすっかり、あの白い影達に覆われていた。
そして、一真達を襲った巨体もそこにいた。それは一見すると山のようだった。いや、山そのものに一つの意志が宿って動き出したかのようと言った方が適切か。
山をそのまま、引っこ抜いて削って人間を模ったかのような体だ。ごつごつとした岩稜のような表皮と、そこに生える木や草は体毛のよう。だが、よくよく見ると草木は枯れて生気の無い茶色に、岩は死んだ体細胞のように動く度に崩れていく。
岩の躯に左から右にかけて薄く広がる亀裂はどうやら口のようだ。そこから天蓋に向かって放たれる咆哮は、神々しさと悍ましさでもって大地を、そこにいる者達を震わせる。
「神霊は、いわゆる君達人間や普通の生き物とは違うの。簡単に言っちゃうと、この世界を形成している霊気の具現の形。ただ、陽の界にしろ陰の界にしろ、神霊がこうして現世に、直接現れる事は殆どないよ」
「なら、どうして――」
「あれは、黄泉之国の神霊だね」
日向は断言した。黄泉……と聞いて浮かぶのは、死んだ人間の行く地獄のような所だ。そして、思い出す。常社は死んだ人間の魂を「呼ぼう」としていた事に。その常社自身も魂を「呼ばれた」者である事に。つまり、今目の前で暴れている彼らは……。
そこまで思い至った時、頭上で壁が内側から突き破られた。一拍遅れて出て来たのは、彩弓と未来を抱えた月と、笹井を――こちらはぞんざいに――抱えた橘花だ。狩衣を、巫女服を風にはためかせながら、一真のすぐ傍に着地した。
月と橘花に降ろされ、三人は目の前の光景にぽかんと口を開けていた。
「一真、これ」と破敵之剣を翳す月。一真は反射的に、取ろうとして引っ込められた。
「貸して」
「それを先に言えって……で、どうするんだよ。というか、この状況は――」
一真の言葉を轟音が遮った。見ると、あの山のような神霊に、何者かが拳を振り下ろしている所だった。神霊に比べると小粒程にしか見えない。が、あの白く太く荒々しい獣のような腕には見覚えがある。
「うん、あの哀れな霊魂を元の世界に戻してあげる。それだけだよ」
一真が振り向くと、月は既にそこにはいなかった。
飛び来る白い影のような神霊をすれ違い様に斬り捨てながら駆ける。山に目掛けて。その荒之御霊を鎮める為に。
天蓋を仰ぎ、果ての無い常闇に向かい叫ぶ神霊。彼らの言葉は人の身には理解も及ばない。ただ一真には、その声が、行き場を失い自分が何者かすらも思い出せずに嘆き故に発せられているのではないかとも思えた。奇妙な事にその声をずっと聴いていると、まるで自分自身がその声を発しているかのような感覚になってくる。
共感とも違う――意識そのものを同化させられるような叫び。
思わず、頭を抱えて膝を突く一真の前で、月はなおも駆ける。「山」が振り下ろす岩石を彫って刻んで作ったかのような巨大な腕を、宙返りで躱し逆にその上に身軽に着地する。左右から挟み撃ちにするように突っ込んできた白い影に対して、再び跳躍。
神霊達の頭上にあって、剣と太刀を手に月詠神の加護を受けた少女が舞う。金と銀、二つの刃が弧を描き、交差すると同時に「山」の右腕は肩の先から粉々に砕け散った。
「――!!」
神霊が叫びを空間に轟かせながら沈む。崩れゆく岩が、地に落ちる草木が霊気へと還元され地面へと吸い込まれるように消滅していった。だが、それで終わりではない。「山」はその巨大な「足」を振り上げて、地面に着地した月を押し潰そうとする。月はそれも予測済みだったようで、軽く二歩後ろに下がるだけで避けた。鈍い音を立てて巨大な足が地面を突き破る。衝撃で岩が飛んでくるが、それすらも軽くしゃがむだけで難なく避けた。同時に膝に力を――霊力が集中するのが分かった。
――身固め、それは自身の躯を霊気で固める術者にとっては基礎の防御手段。そのまま、「山」の「足」の岩石そのものの太腿へとぶつける。体格の差など論じるのも、馬鹿馬鹿しい程に両者の差は開いていたが、その一撃は「山」をもよろめかせ、膝をつかせた。
月が跳び、宙を翔ける。金と銀の光跡で帳の空に弧を描き、剣と太刀を岩石の肌へと突き立てた。同時に、月は二つの刃に霊力を込める。
破壊の力と浄化の力の陰陽相反する力を深々と埋め込み、上がる火花は月の顔を照らし出す。が、「山」は見た目程鈍感ではない。牙を突き立てられた岩の巨人は、身体を一回転させる。遠心力でもって、月の身体が宙へと投げ出される。
一真は考える間もなく飛び出した。だが、間に合わない。空中で均衡の崩れた月を叩き落とすように「山」が振り上げた左腕。それを、横から割って入った白き一閃が弾き落とした。
海馬だ。自身の身体と殆ど変らない大きさにまで膨れ上がった両腕を、「山」の左腕に叩きこむ。左腕は中程から砕け散り、いまだ掌の形を保っている大きな欠片が月の身体を打った。が、直前に身固めを張っていたのだろう。月自身はどうにか後ろ宙返りをうって着地する。
その手に残っていたのは護身之太刀のみ。一真が駆け寄ると、月は心底悪びれた様子で、一真に謝った。
「ごめん、置いて来ちゃった」
「どこに?」
月が指差したのは「山」の天辺。頭に当たる部分だ。目を凝らしてみると成程、突き刺さった懐剣が僅かに光を発しているのが見えた。
月が指差したのは「山」の天辺。頭に当たる部分だ。目を凝らしてみると成程、突き刺さった懐剣が僅かに光を発しているのが見えた。成程……あれを取るのは大変だろう。「山」の左腕を砕いた海馬が、二人の前に降り立つ。白虎を模った籠手は元の大きさ――元から隆々とはしているが――に戻っていた。
海馬は息も切らしていない。微苦笑を浮かべて、「山」を見つめていた。ここではない、どこか遠くの記憶を思い起こすかのような場違いな表情。一真は怪訝な表情になるが、月は海馬を咎めない。何故か、彼女は恥ずかしそうに顔を逸らした。
「一撃で解決出来ると思ったんだけど」
横顔の口から出たのは、子ども染みた言い訳だったが、海馬は月を咎めなかった。彼らだけで通じ合える思い出がそこにはあるのだろう。場違いにも一真はその事に軽い嫉妬を覚える。ただ、他人が聞けば――たとえば未来とか――「馬鹿な事を」と思うような事であるのも同時に理解は出来る。一真の視線――その内側の気持ちまで読んだかは分からない――に気が付いてか海馬が、彼の疑問に答える。
「月が京都に来て初めて戦ったのが、神霊だったんや。その時の事を想い出してな。神霊ってのはな」
「日向から聞きました」
一真はぶっきら棒に遮る。日向は彩弓達を守りながら、なるべく神霊から遠ざかろうとしていた。この隙に自分達は、あの「山」をどうにかしなくては。
「元は山の神やな。力自体はそれ程でも無かったようやが」
言いかけた海馬の目の前で、白い影のような神霊が「山」へと集まっていく。切断又は砕かれた腕の断面に吸い込まれ、膨らむ。やがて、「山」の腕は元通りに――否、さっきよりもより巨大化した。自らの身体を傷つけた人間共に向き直り、『山』は咆哮を上げた。
「訂正。中々の力らしいな」
「うん。あの白いのは、山の神の眷属かな?」
至って冷静な二人に、一真はハラハラとしながら言う。
「ちゃんと、対抗策はあるんだよな?」
「うん、あるよ。あれ」と狩衣の袖の先から伸びる細い指が示したのは、『山』の天辺に突き刺さった破敵之剣。
「さっきは実行する前に飛ばされちゃったけど」
「分かった。じゃあ、俺が実行する」
月が驚きと共に一真を見る。それと不安。その不安が一真自身の実力に対するものだけではない事は分かっていたが、一真は思わず苦笑する。
「信じてあげなよ」
そう言ったのは酷く幼い声だった。一瞬、三人の間の抜けた視線が彩弓に向けられる。幻影でも見ているのかと一真は思った。しかし、巫女服の少女はここにいる。大穴の空いた神社の方を見ると、日向達がいた。なにやら揉めている。未来がこちらに向かって走って来ようとするのを日向が片手だけで止めていた。
「彩弓――」
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんが好きなんでしょ。笹井のおじちゃんも言ってたじゃん。想う事が大切だって」
月は答えなかった。だが、分かっている筈だ。彩弓も彼女に教えようとしているのではない。一真は彩弓の肩を優しく叩いた。まさかと思うが、これを言う為だけに飛び込んで来たのだろうか。
――まぁ、俺が言えた事でもないか
幼い頃の自分を思い出して一真は苦笑する。
「俺はまだ未熟だ。正直、あれを相手に出来る自信も無い。だけど、今のあいつの相棒は俺だ。俺がやった方がいいだろう?」
「うん。大丈夫。信じてるから。それに、絶対傷つけさせない。一真も彩弓も。後、海馬も」
「俺はついでかいな」海馬がおどけた調子で笑う。
「海馬はすごく強いし。彩弓をちゃんと守って」
月はまだ不安を隠しきれない微笑を浮かべた。それから打って変わって、目前の神霊を引き締めた表情で見る。すっと右手に持った護身之太刀を肩の位置に構え、刃先を「山」に向ける。左手で九字を切り、その手を開いた。浮かび上がったのは円陣だった。
その中で光が宙にまるで血管のように伸び、文様を書き連ねていく。やがて浮かび上がったのは紋章のようだった。芸術的な精巧さよりも自然的な生命力を感じさせる。
――桜の花
それが何を意味するか、一真には分からない。
「沖一真。手は貸すぜい」
海馬が両の籠手を合わせ、腰を屈める。その意図に気づき、一真はその荒々しさと線密さが合わさった意匠の霊具に足を掛ける。一真の身体が帳の空に高く打ち出されると同時、月が言霊を紡ぐ。
「万物の霊気に命ず――華は天に舞い、月の光は地に降り注げ――」
――華天月地
天を引き裂いて伸びた光柱が、その紋章の上に落ちた。花が散り、円陣から飛び出した。それは、霊力が巻き起こした風に吹かれて空に舞う。花びらは後から後から舞い散る。桜の花、続いて桜そのものが円陣より伸びた。まだ蕾をつけたままの――いずれ咲き舞い散る――何十にも分かれた枝が、その先の収束した幹が、伸び「山」へと向かう。
宙にあるその一瞬、一真はその光景に目を奪われる。花はその巨体に当たると同時に刺さり、斬り裂き岩で出来た肉片を弾き飛ばす。伸びた枝がその「手足」に絡み付き、その胴体に幹が巻き付いていく。
木は土を剋する。動きを封じられ、「山」はただただ、空を仰いで咆哮を発する。一真はの背に着地した。霊気を使いバランスを保とうとしたが、思ったほど上手く行かず、巨体の背を滑り出す。一真を救ったのは桜の枝だった。一真の身体に優しく巻き付き、落下を止めた。
ごつごつとした山肌に手を掛け、ふと下を見下ろす。術を行使したまま、月は微動だにせず、海馬がその隣にいる。恐らくあの術はその規模に対して反動も大きいのだろう。或いは彩弓を守る為か、恐らくはその両方だろう。一瞬、月と目が合ったような気がした。
つい先ほどの海馬との会話が頭をよぎるが、馬鹿馬鹿しいと頭を振る。
――大事なのは思い出そのものじゃない。
一真は四つん這いになりながらも進む。自分自身の武器を求めて。相棒を救う為に。
「よう、大丈夫か、天」
「お前の想い人の悪口言うつもりはさらさらねーが、酷いぜこれは」
天の言葉に一真は恥ずかしさと可笑しさの入り混じった奇妙な気持ちになりながら、柄を握る。月の手の温かみが未だ残っていた。懐剣が剣へと変化する。そこには月が最後に残した霊気もある。一真どころか並の術士が精製するそれとは、段違いの量。使い慣れた竹刀が突然刀に変化したかのようで、思わず圧倒される。
「ともかく、終わらせようぜ。悪口ならその後で聞いてやるよ」
「ハ。ま、それもそーだ――山の主さんよ。あんたをこんな所に呼び出した下衆野郎は、俺達がとっちめいといてやる。だからさぁ――」
破敵之剣は、粗暴ながらもどこか憂いを帯びた声で、いい加減ながらもその実、崇めるように。
「今は鎮まったままでいてくれよ」
「行くぞ」
霊力を解放する。天の、月の力を借り、一真が唯一と言ってもいい程、出来る事をする。
「――打ち破れ、破敵之剣」
刃が短く、だが眩しい程の金色を放った。同時に、「山」が動きを止める。巨体の中で破壊の霊力が荒れ狂うのを、一真は感じた。
岩肌は腐り落ちた肉のようにボロボロと崩壊を始め、拘束していた桜の枝をすり抜けて地面へと崩れ落ちていく。崩れた先からは金色の光がマグマのように光り輝き、岩の躯を内側から焼く。「山」は苦悶の叫びを漏らしながら、膝をついたが、その膝すらも砕け散る。
倒れ行く山の化身から、一真は身を躍らせた。地面に落ちる寸前に受け身を取り、地面を転がり、素早く立ち上がる。
巨体は何十メートルとあったが、身固めを使い、身体を強化していたため、怪我はしなかった。一真はたったいま「破壊した」相手の最期を見届ける。
最後に「山」が天蓋へと手を伸ばしたのは、何を望んでの事か。それすらも最後には潰え、光の中へと消えた。
†
山の神霊――その成れの果て――が崩れるのを見届けてようやく、月は我に返る。華天月地の術を短い言霊で解除、護身之太刀も懐剣へと戻した。白磁のように白い肌には雫のような汗が薄らと浮かんでいた。胸の動悸が激しい。
陰と陽の神々より賜った加護――同時に呪いでもある――は、月自身に強大な力を与えてくれる。彼女がその気になれば、あの山の神霊を月影のみで真っ二つにすることも出来た。だが、危険も大きい。強大な霊気は彼女自身の精神や自我をも呑み込みかねない。一週間前の沙夜との戦いでは、月自身に断固たる決意、揺れる事なき信念あったからこそ限界まで霊力を高める事が出来たが。
与えられる霊気を全て受け入れようとすれば、自分がどうなるか、博人との戦いで身をもって理解した。暴力的な光の嵐の中に閉じ込められる感覚。自分の意識を塗りつぶされ、自分ではない何者かに変えられていく恐怖。
「安心して、月お姉ちゃん。」
その手を彩弓の小さな手がぎゅっと握った。まるで嘘のように胸の動悸が収まる。月は小さく驚き、彩弓の手を優しく握り返す。
「皆、ここにいるから」
屈託の無い笑顔。この少女が親戚を盥回しにされてきた等、月には到底信じられなかった。何故、誰も彼女の優しさに気付かないのか。
「こらぁ!! 彩弓ちゃん!!」
叫びながら近付いてくるのは、未来だ。日向と笹井そして橘花の三人が後ろから追いかけてくる。前者は顔を真っ赤に、後者は真っ青にさせながら。彩弓自身は呑気なものだ。ぶんぶんと手を振って、飛びっきりの笑顔でそれに答える。輪っかに結われた髪が顔のすぐ横で羽のように上下に揺れた。
未来は彩弓の所まで駆けてくると、荒ぶる呼吸を静めようともせずに、彼女を叱りつけた。
「離れないでって言ったのに!」
その瞳に涙すら浮かんでいるのを見て、流石の彩弓もたじろいだ。後から追ってきた笹井は膝に手を突いて、肩で荒い息を吐き出している。その後ろから日向がゆっくりと、どこか達観しているような仕草で近づいてくる。その後ろからとぼとぼとついてくる橘花はまるで幽霊のように身体に力が入っていない。日向はいつもは無邪気で、何も考えていないかのように振舞う。だが、時折、彼女は人をどこか上から見るような目つきになる時がある。
だが、決してそれが軽蔑故の所作でない事を月は知っている。彼女は式神だ。自分の立場を自覚しようとするが為に、人との関係に一線を引く。だが、同時に憧れているのだ。人と言う存在に。
「日向、なんでちゃんと見ていてくれなかったの?」
日向はいつもの無邪気な笑みの代わりに、薄く引いた微笑でもって答える。
「月達に、伝えたい事があるからってさ。聞かないんだもん」
勿論、ただの言い訳に過ぎない。彼女がその気になれば駄々を捏ねる子を怪我の一つも無く鎮める等、造作でも無い事である筈だ。日向はまるで気まぐれで、そうしたのだという風を装う。月はふと、この式神を思いっきりからかってやりたいような気持になる。
「日向は子どもには甘いもんねー。厳しいのは振りだけだもん」
「ぬ……」
「ハハハ、こりゃ一本取られたな、日向」
海馬が笑う。頬を膨らませて顔をしかめる日向に背を向け、月は、よろよろと這うように歩いてくる一真に向き直り、真っ先に近寄りその手を握った。
「大丈夫?」
そんな筈ないではないかと、月は自分自身を呪いたくなるような気持になる。一真が、それが月を守る為の行動であるならば、何でもするであろう事は分かっていた。それがとてつもなく怖い。彼の決断の速さ、決断すると同時に実行する。陰陽師であれば、当然備わっていなければならない条件反射。だが、一真は……。
「大丈夫かと問われると、微妙なところだけど、どうにか出来たな」
一真は額に汗を浮かべつつも、強気な笑みを口元に浮かべる。それを見ても中々安心出来ない。微笑で以て返そうとするが出来ない。一真の魂が呼び出されようとしたあの時の事が、脳裏をかすめる。助かったからそれでよしという考えが、月には出来なかった。思い出すとそれだけで、震えがした。
ふと、その肩を未来が温めるように抱いた。
月の知らない一真を知っている少女。
月がいない間、話し、笑い合い、時に喧嘩をして、時を過ごしたであろう少女。実際には、未来が一真と知り合ってからまだ一月ほどしか経っていないという。月が彼と共にいた期間に比べれれば確かに、長いが、決して深い絆を結ぶ程でもない。それでも月は羨望を感じずにはいられなかった。自分の知らない一真の事を、彼女は知っている。そう思うと。
その未来は、ぎろりと一真を睨んで彼をたじろかせた。
「“どうにか出来た”? なぁにが、“どうにか出来たよ”? 本当、鈍感というか乙女心が分からないよね、一真って」
「い、いや。もっと自信持って言うべきだったか?」
一真は怯み、たじろいだ。そういう事ではない。月はどこか他人事のように思う。本当なら自分が言うべき事なのに、未来が代弁してくれている。彼女の言葉で。今しがたも、大きなため息でもって、一真の浅はかさを指摘する。
「いい? 大丈夫だったかどうかじゃないの。月はあんたの事がたまらなく心配なの。ほんと、心配するだけ無駄よって教えてあげたいところだけどね。心配した分だけ損するんだもの」
ねぇっと唐突に問われて、月はしどろもどろになる。損だとか得だとかではなくて……いや、これは単なる冗談なのか。その線引きが月には分かりそうもない。京都においての陰陽師としての修行の中では、冗談とは一切無縁だったからかもしれない。冗談やおふざけと言えば、式神の日向が悪戯を仕掛けてくる程度。月はそれに対して大真面目な答えしか返さなかった。或いは、考える事を放棄して彼女の札を抜くか。
「損ってなお前……」
「ハハハハ、違いねぇや。こいつの生命力は、大したもんだからな。生命力は!」
被せるようにして、天が高らかに笑う。ただ、それが聞こえたのは、ほんの一部だ。自分に向かって彼は言っているのだと、月は気付き、ふっと静かに笑い返した。
一真は、弱り果てて笹井や日向に視線で助けを求めている。場の雰囲気が一段と冷えたところで、海馬が咳払いした。
「まだ、全てが終わったわけじゃないで。この件を起こした首謀者を見つけ出さなあかん」
こっち来いと海馬は手招きし、一行はその後に続く。改めて見回してみて、月はこの戦いがもたらした惨状について想いを巡らす。あれ程いた白い影――魑魅はどこにも見当たらなかった。恐らく、山の神霊自体を静めたことにより、その眷属である彼らも消えたのだろう。だが、彼らが引き起こした惨事は至る所に、爪痕を残している。
地面は至る所が抉れ、建物の残骸は押しつぶされた死体のように、中の柱があらぬ方向に曲がって突き抜けている。それがどこか幻想染みているのは、ここが陰の界だからだろうか、或いは人が誰一人として住んでいないからか。まるで元々、こういう光景だったかのようにすら感じる。常社が封じられてからここはすっかり時までもが止まってしまったのだ。
海馬に案内されたそこは鳥居の前に敷かれた石甃の道だった。その光景が目に入った瞬間、月は思わず息を呑んだ。石畳の上に双子の巫女が正座し、眠ったように目を閉じて瞑想していた。彼女らの周りに張られた縄と護符を見て、月は悟った。この二人の行為の意味を。それはすなわち罰。
「霞! 八鹿!」
橘花がよろよろとした足取りで二人に向かって走る。そんな彼女に対して、双子の巫女は薄らと瞼を開けて睨んだ。二人共、先程戦った時と比べると頬が削がれたように陰鬱な表情で、肌の色は白さを通り越して、青白い。
「私達の命は」霞が口を開き
「何のためにあるとお思いですか、姉さま」八鹿が言葉を引き継ぐ。
橘花は答えなかった。妹たちを騙した事に罪悪感は持っているものの、謝る気はないのではないかと、月は思った。
双子は同時に口を開いた。
「私達の命は、この世界を護る事、二つの世界の秩序を保つ事、それだけの為に存在するのです」
一字一句違わず、二人で一つの言葉を紡ぐ。怖気を覚える程に従順で、寒気を覚える程の血気。自分という存在に対して微塵もの疑問を持っていない。ある意味で、月は二人の事を羨ましく思った。だが、同時にこうも思う。それは果たして人間としての存在意義を持っていると言えるのか。
思わず後退りしそうになる月の袖を、彩弓が掴む。彼女は震えていた。月は思わずハッとなる。
「我々は」「お役目を果たす為の」
双子の声が呪詛のように、まるで憑かれたように熱を持つ。双眸は何処とも知れない宙の先を見つめていた。彩弓が月の手を握る。月も彼女の手を握り返した。双子の声は一段と高くなり、そして――
「道具――」
バシンという物音に、月は、彩弓は、双子ですら驚き弾かれたように、彼を見た。
「悪いな、それ以上聞いてると、こっちまでおかしくなりそうだったもんで」
一真は悪びれもせずにそう言った。まず彼が視線を向けたのは海馬だ。
「二人に何をしたんだ、海馬さん」
「あの神霊を相手する間に、介入されたり、逃げられたりすると困るんでな。ここで『罰』を受けて貰っていた。二人共、その事に異存はないという事やったし。で、それが?」
海馬は突き放すように、問う。陰陽寮に逆らい、剰え、物の怪の味方までするなど、その罪は重い。当然罰を受けるべきである。それは、月にさえ真理であるように思えた。
「罰を与えて、この二人が変わるとは思えない。また、同じ過ちを犯すと思う。今の言葉を聞く限りでは」
徐に、二人は立ち上がった。結界の影響のせいか動きが鈍い。しかしその眼光の鋭さだけは衰える様子が無かった。
「我々は橘花お姉さまのせいで、道を誤りました」
「だが、二度と命に背くような真似は犯さない」
短い沈黙が流れた。未来と笹井は気圧されたように黙している。一真だけは自分の考えを曲げない。その背に月は、言葉には出来ない安堵を感じる。それは月の身体の中で、勇気へと変わる。
「そうか。別にいいけどな。それで、陰陽寮だかの信頼は得られるだろうさ。だけどな」
「橘花はあなた達を、絶対に信頼はしない」
月は確信をもってその言葉を引き継いだ。勿論、双子はそれだけで納得する筈が無かった。だが、月は見逃さなかった。二人の顔が能面のような青白さから、真っ赤に燃えるような怒りに取って代わるのを。
「裏切ったのは橘花姉さまの方よ!」
「私達は姉さまの言った事を信じたのに!!」
確かにそうだ。霞と八鹿の言う事は正しい。橘花を信じ、彼女を支えた。それを裏切った橘花にも罪はある。だが、同時にこうも考えられる。
――橘花は二人を裏切らざるを得なかったのだと
「常社の為に力を貸してほしいって言ってたら、お前達はどうしてた? 同じように協力したか? そこまでしようとは思わなくても、彼女の気持ちを顧みる事をするか?」
二人は顔を赤くしたまま、黙りこくる。答えが無い事に構わず続ける。
「お前達が信頼したのは、橘花じゃない。橘花の言葉だ。『世界を護る為』って言葉が心地良かっただけなんじゃないのか」
双子を封じる結界が一瞬だけ大きく揺れた。怒気が二人に力を与え、結界を破らんとしたのだ。海馬の手が即座に九字を結び、その戒めを強めた。
「姉妹の絆については、本人同士にしか分からん事もある。ま、そういうことにして、この話は一旦終わりや」
海馬はそれ以上の言い合いを、許容しない。一真が顔を固くしているのをみて、海馬は苦笑した。
「なんや、この双子が『心から』橘花を信頼したところで、大した違いはない。それこそ、この三人が自己満足する程度やろう?」
そう言われて一真は、納得していないようだった。月も納得はしない。ただ、理解する事は出来た。
もしも、あの時、橘花が霞と八鹿を信頼して本当の事を話し、万が一に双子がそれでも協力すると申し出ていたとしても、未来に何か変化を齎すわけではない。それとも、何か変わっただろうか。霞と八鹿はそっぽを向いている。一真の言葉も、海馬の皮肉も今の二人には通じないだろう。橘花は、罪の意識からか一言も発しない。
――京都にいた頃の三人はとても仲良しだったのに。ふと、そんな事が頭に浮かぶ。橘花は双子達が真面目にやる余り失敗したり、他の術士に疎まれたりすると、よく庇っていた。双子達はそんな姉の為により一層頑張ろうとする。
「ま、三人は、共に京にて謹慎や。術も役目もない環境で、見えてくるものも違ってくるかもしれんな」
海馬が向けたのは、そんな投槍な一言。そして次の瞬間には、顔を引き締め本題に入っていた。
「中原影夜、この男についてお前らは本当に何も知らないんやな?」
海馬は三人の巫女の姉妹を見て問う。もしも、隠し通そうとすれば、今ここで吐かせる。そんな殺気が伝わってくる。
巫女達は反射的に顔を引き締めて、頷いた。どれだけ揺さぶられようとも、自分達は陰陽寮に属する巫女であるという存在意義は揺らがないらしい。
「よろしい。つまり、ここにいる者は全員、そいつの事、黒幕の事は知らんという事やな」
海馬が両手を広げて問うと、全員が頷いた。そして、一真が皆を代表するように一歩前に出る。
「聞かせてくれ、影夜ってのは何者なんだ。今までの戦いは何だったのかを、教えてくれ」
皆が耳を傾ける中、海馬は語り始めた。




