序
――笹井城阪の手記。
彼女を神社から連れ出してから三日であることに気が付いたのは、町まで降りて携帯電話を起動してからの事だった。
――今でも私は自分のした事が信じられない。
だが、例え人攫いとして警察に訴えられようとも、私は自分のした事に後悔はしない。一つ、後悔するとしたら、この先どうするかを全く考えていなかった点だ。それはもう一眠りしてから考えるとしよう。
――さて、話をもどそう。
彼女(名前は伏せておく)と行動を共にしていると時間がどれくらい経ったのかもわからなくなる。時々、私はこの娘が幽霊なのではないかと、疑う事がある。
――だが、違う。
彼女の姿ははっきりとしているし、身体には触れられる(触れる機会はあまりないが)。声はよく通る鈴のよう。
それに彼女はやさしい。人のどんな些細な心の変化も逃さず、気遣ってくれる。自分に自信が持てない性格がたまに傷だが、彼女の温和な性格をより一層、際立たせているとも言える。
こんな娘を監禁していたあの神社の人間っ共は、頭が狂っている。
――狂信者どもめ
それでも、時々彼らが叫んでいたことについて不安になる事がある。この巫女を連れ出した事で、禁忌の扉が開いてしまったなどという人が聞けば笑ってしまうような事を。
夜になるといつも夢を見るようになった。私が助けた巫女の夢だ。夢のなかでの彼女はいつも熱に苦しみ魘されているように呻きを漏らす。
いや、呻きだろうか。何かの呪文にも聞こえる。古語かとも思ったが、こんな古語は聞いた事がない。この世界の言葉ではないのかもしれないとすら思う。
そして人間の言葉を話す時もある。だが、その言葉はいつも支離滅裂で要領を得ない。ここにそれを書き写したところで誰も理解できないと思うので止めておく。
そして、その中で彼女は時々、未来を予言したかのようなことを告げる。
――それを私はここに記録しておこうと思うのだが何故か、それを書こうとしたその時には彼女の言葉を忘れている。
夢から覚めて(大抵まだ陽も出ていないくらい早い)目を開けると、目の前にはあの少女が、変わらない姿で寝ている。その事に私は涙が出そうになる。
……何故なら、夢の中での彼女は――だったから。




