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陰陽少女  作者: 瞬々
清風明月
72/234

七十一

「残念だが、神になるだの、ならないだのに私は興味がない。そもそも神とは何かがなる物ではないからね。神とはこの世界を構成する莫大な霊気その物の事だ。五行もこの二つの世界を作ったのも確かに神だ。しかし、それは全て神という存在をも含め、自然現象の範疇を出ない。霊気の暴走が生んだもの、混沌から八罫……言い方などなんとでもいい。興味こそ湧いてこそ、畏敬の念など抱く必要もない」

 博人の言葉は時々、一真に聞かせていたのと同じ。取り留めが無く、どこに終着するのか分からない。そもそも自分は何をされたのかも理解出来ていないが、博人が何を企んでいるにせよ、それが何か碌でもない事は確かだ。

「素敵ね。あなたほどくるってる人間、わたしの時代にもそうそういなかったわ」

 腕を斬られたまま蹲っている沙夜が皮肉る。彼女を取り巻いていた黒い邪気は消え、その顔にはただ疲れたような表情が浮かんでいた。引き攣る頬が動いて笑みを模る。


「影女に蒼をその娘の月を襲わせたのは、彼女達の真の力を発揮させる為? あなたは最初から、影女の奴のことはは使い捨てにするつもりだったわけね。もしも月が影女に殺されていたらどうするつもりだったの?」

「もしも等と言う事を考える必要は無いな。しかし、君の言った事はそうだ。当たっているよ。私にとってアレは、春日の巫女の力を発揮させる為の使い捨ての道具に過ぎなかった。ついでに言うならば君もだよ。だが、君の方が重きを置いていた。何しろ、その身体は何千という物の怪の肉体を取り込んだという実績を持っているのだからね。本来の用途とは違う使い方をしているが、とても興味深い。その力には応用が利くという事が分かった」

 二人の間だけでどんどんと会話が進められていく。どうやら彼らの要は月であるらしい。それを悟り、一真は剣を杖にして立ち上がる。

「で、それがわかったからそこの子に用済みの私を殺させようとしたわけ? それとも本当に仲間に引き入れるつもりだったわけじゃないでしょうね? 霊気さえ取れればいいのに?」


「もしも闇を喰う者という自分の特性を受け入れるのであれば、それもまたと思ってね。私の弟子としてこれ以上にないくらいふさわしい。破敵之剣を渡したのもそのためだ。武器と共にあればいずれは自身の本性を自覚できたはずだからね」

 一真には分からない。叔父の真意――これからしようとしている何かではなく――がまるで読めない。もしかしたら、どちらに転ぼうとも構わないのかもしれない。生きていれば利用し、死んでいればそれまで、と。そこにどんな感情もないのかもしれない。

「さて、始めようか」

 博人がそう言い、杖を円を描くように振るう。銀色の光の尾が絵具のように空中で渦巻き、変化する。光に包まれたそれを博人が両手でそっと手に取った。砂で出来た宝に触れるかのように慎重な手つきで。驚愕の声を上げたのは日向だった。


「あれは……!」


 それは鏡だった。それも実用的な物ではなく、銅で出来た鏡だ。円の中に水が溜まっているかのように銀の光が輝いている。十年前に一真が見た鏡と同じ形状、そして同じ現象が起こっている。沙世の言っていた彼の世と繋がる鏡なのだろうか?

「この鏡はいわば神体。神の力が宿る場所……というよりは神の御霊の通り道のようなものだな。そこに」と博人は鏡を地面に置き、両手にあの血染めの剣を逆手に持つ。低く鈍い金属音と共に赤い刃が杖の先端より出現する。博人がとんっと軽く先端で銀色に輝く鏡を突く。途端、その輝きの中に紅色が混じり始める。鏡のその中で何かが爆ぜあい、外へとその力が溢れ始める。


 ピシっという何かが割れる音が聞こえた。銅鏡だ。空気を入れすぎた風船が破裂するように内側から壊れていく。


「二つの血を供え物として置く。これは、いわばきっかけだな。俗な言い方をするならば扉を開くための鍵というところか」

「貴様、神を卸すと言ったな……だが、これは」

 刀真は太刀で身を守るように立っていた。気を窺うようにじりっと博人に近寄る。

「なんなんだよ、その神卸ていうのは……」

 一真の震える問いかけに、博人は安心させるように笑みを深めた。だが、違う。この仮面の奥にある顔は人間の物ではない。

「神卸か。何度か話題として挙げたのを君は覚えてなかったのかな? 神卸とは読んで字のごとく。神という存在を超次元の世界――常世の界から現生に卸す事だ。昔の人間は降りてきた神から宣託を賜り、自分たちの世界が未だ安寧としている事を知った」

「ふん、随分と心配性な事ね。世界がいつ破滅するかとか聞くつもり?」

 そう皮肉を言ったのは日向だ。顔が幾分か青ざめているものの、未だ戦意は衰えていない。さりげなく、月の前へ――彼女を守るように――移動し、翼の鎧に覆われた拳を構える。しかし、それでも博人は意に介しない。舞台上で一人、芝居をするように話し続ける。

「神が降りてくる。これは人の意志によるものではない。そう、人は神を卸すきっかけを造ることはできても、神を思いのままにすることは出来ない。そう、これまでは。今日私がここで変えるまでは!」


 日向と刀真が同時に飛び出す。が、遅かった。ここにいる全員の目にそれは、その光景は目に焼き付けられた。


 瞳孔を焼き尽くさんばかりの光、鼓膜を突き破る程の甲高い響きが突き抜けていく。が、例え目が見えなくなろうと、耳に音が届かなくなろうとも、その光景は一真の記憶の中に刻み付けられ、一生忘れることはないだろう。

 真紅の稲妻が宙を翔、空へと駆け上がった。鏡はもはや原型を留めておらず、ぽっかりと空いた黒い穴からただただ、光を放出している。光は思い思いの所に飛んでいく。空はすっかり雷雲に覆われたかのようにあちらこちらで唐突に稲妻が閃き、竜の咆哮が轟く。


 こんな光景は見たことがないという一真の驚愕は甘かった。まず、気が付いたのは空。常に闇に覆われ先の見えない陰の界の空に真っ赤に皹が入っていた。パラパラと何かの破片が崩れ落ちてくる光景はどこか滑稽ですらあった。


――世界が壊れる。

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