三十七
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神社の宝庫の中には開ける事その行為が禁忌となる物もある。そう、保管する為ではなく、封じる為に設けられた庫があること、中には怨念怨嗟の籠った霊具や鬼の首の封じられた桶と言った物が置かれている事を幼い頃の一真は知る由も無かったが、そこが恐ろしいところであることは身を以て知っていた。
しかし、とある陰陽師の少女に仄かな恋慕を抱いていた少年は、彼女の力になりたいという想いのままに、その扉を開いた。
その扉が何なのかは考えもせず、知りもせずに。
「みぃつけた」
そこで拾った鏡。そこに映るそこにはいない筈の何かに一真は怯え、鏡を落とした。それが割れるのを合図に、首桶から鬼が、封じられた物の怪が這い出してくる。
百鬼夜行魑魅魍魎。実際には数体しかいなかったのだが、それでも幼い頃の一真の呼吸を奪い、心臓を止めかねない程の恐怖を植え付けるには十分すぎた。
腰がぬけ、まともに足を動かす事も出来ないまま、歯を震わせて目を見開く一真の前にひらりと舞い降りる月の影。
刃は漆黒、輪郭は月食時の月のように輝く銀の太刀。自分の身長と殆ど同じ程の長さの太刀を物の怪どもに向けて彼女は麟とした態度で告げた。
「わたしの大切な人に手をださないで」
鬼の首が咢をぱっくりと開けて突っ込み、横薙ぎに閃いた月の太刀に上下に切り裂かれてそれぞれ回転しながら地面に当たって砕ける。
続けて襲ってきた髑髏の物の怪に月は無造作に札を叩きつけた。
「爆ぜろ」
月の静かな一言で髑髏が月の一歩前で四方に破片をまき散らし周りの物の怪も巻き込んで爆発の焔に呑まれる。
月とその後ろにいる一真だけが、聖域に護られているかのように傷一つ付かず、爆炎は彼らを避けるようにして広がる。
物の怪から飛び散ったどす黒い血飛沫にも似た液体が少女の肌を、狩衣を叩いたが、それらは、刹那浄化されて天に昇る煙と化す。
「封印され力を失ってもなおも向かってくる物の怪ども、か。うん、そうだね、こくいんつきかげ」
見た目の幼さとは不釣り合いな言葉を太刀に向かって興も無さげに少女は呟く。振り向いて見せたその表情はどこか寂しげだった。
「カズマ、ごめん。こわかった?」
――なんで、あやまるの? 悪いのは俺なのに
一真は目頭に涙を浮かべて心の中で返したが、嗚咽でそれは言葉にならない。その様子がますます誤解を生んだ。
「ごめんね。ごめんね?」
――だから!!
「あやまるなよ!」
一真の叫びに、びくっと怯えたように月は肩を震わせる。女の子を怖がらせる言い方が良くないというのは、幼い頭なりに理解していても、どうしたらそうならないように出来るかは一真にはわからなかった。
ただ、自分の言葉を口にするしかない。
「おれがおれが、おまえをまもれるくらいに、つよくなるから。だからあやまるなよ!!」
少年の儚くも力強い決意の言葉に少女の顔は夜空に浮かぶ明るい月のように輝いた。




