表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽少女  作者: 瞬々
明鏡止水
131/234

三十

 宙返りを打って小角の背後へと着地。湧き立つ欲望を抑えるように、一真は剣を持つ自分の腕を掴んだ。それでも霊力の制御は簡単には行かなかった。そして、そこに集中する余り、一真は小角の動きを見落としていた。小角の袖から霊符が覗く。

 舞香が碧へと達するその直前、小角の袖から霊符は飛び出した。一枚や二枚ではない。何十、何百という霊符が花吹雪の如く舞う。


「紙を切って兵と成す――百鬼夜行たちまち来訪、我が願妨げるものを喰らえ」


 一真には何なのか分からなかったが、それは切紙成兵法――紙で人形を作り呪いをなす霊術だ。霊術の中でも、霊具――この場合は霊符だが――の中に仕込まれた霊気を使って遠隔力場を作り出し、遠距離から操作して霊力へと変換する“方術”の類に含まれる。一真が使っている身固め等、自身の身体の中で霊気を変換する“体術”とは対極にある術だ。霊符が宙で見えない手に折られるように、素早く獣の形を象っていく。紙は内側から膨れ上がり肥大化し、そして本物の獣となり産声を上げた。


 本物であり、しかし現実には存在し得ない獣の姿がそこにはある。


 山に住む鬼の一種――山童、二つの尻尾を持つ化け猫――猫又、鎌のような腕を持つ鼬――窮奇かまいたち、女の顔を背に張り付けた絡新婦、赤い舌で人間の負の気すなわち“垢”を喰らうという――垢舐、海老の身体に巨大な鋏を持つ――網剪あみきり、鉄の牙を持つ――鉄鼠てっそが人間共を囲む。

 そして、人間の苦悶の表情が火の中に浮かんでいる鬼火の一種――叢原火そうげんびが篝火のように明かりを灯して、囲った。

 どれもここにいるのは、物の怪であるということは、流石に一真も悟っていた。この二か月で戦ったものも見られる。どれも怪異を象徴する霊気の歪み、人間の心や霊魂の穢れから生み出された怪物だ。一真達が必死になって調伏したその行為を嘲笑うかの如く、次々に生み出されて行く。


「クソッ!!」


 舞香が毒づき、小太刀を逆手に持った。その足が奇妙なステップを踏む。そして、どこか剣道の踏込にも似た鋭い音が響いた。


「渦害の悪鬼を厭ち除く力を刃に授けん――急ぎ急ぐこと律令の如し!!」


 小太刀の刃から霊力が迸り、髪が吹き上げられ風の軌跡を視覚化する。


「オン」


 振り下ろした小太刀の先が地面を貫き、浄化の霊力が周囲へと広がる。百鬼どもは霊力に触れて、苦悶の表情を浮かべ身を捩る。特に、大量にいるが霊気の低い鉄鼠等は次々に浄化されていく。


「成程考えたな、禹歩うほか」


 小角が感情の乗らない声で称賛した。だが、やはり舞香は消耗している。祓えたのは小さな物の怪、それも殆どが鉄鼠ばかりで、巨大な絡新婦や山童等は動きを止めるのがやっとというところだった。


 と、その時、網剪が巨大な鋏を舞香へと構え、突っ込んできた。


「舞香っ!!」


 碧が、身が引き千切れるかと思う程の声で叫んだ。鋏の両の刃が舞香の左右から迫る。


「破敵ッ!!」


 一真が鋏の真上から落ち、剣を打ち下ろした。地響きを立てて網剪の身体が連鎖的に倒れる。叩き割った鋏から全身へと亀裂が走り――砕け散る。


「サンキュッ」


 舞香が短く礼を言い、術に集中する。百鬼達は近寄れず、苛々と二の足を踏む。

 ただ一人、その中で例外がいた。義覚だ。彼は百鬼共を押しのけ、道を作り一真達の前に立った。その眼は一真に注がれているようだ。


「貴様、眼徹の術を使っていたな。そして、その剣技も」

「そりゃ、俺はあの人の弟子だからな、当然だろ」


 しれっと言いのけてみせるが、胸を張って誇れるような事なのかは、一真にも自信が無かった。義覚の言う通り、これは鬼一の術だ。そのやり方が、頭に文字通り刷り込まれているに過ぎない。だが、それでも今この場で使えるのならば。


――先生には、後から頭下げて改めて教えて貰うしかねぇ


 その前にこの鬼と、その卑劣な陰陽師を叩きのめす。まずは義覚だ。こいつをどうにか倒さなければ、と、一真の視線が自然と小角に向けられた。先程の“切紙成兵法”で使われた霊符。その一枚がまだ彼の手元に残されていた。


「ふむ、本来前鬼は後鬼との連携あってこそ、力を発揮する。が、惜しい。ここには奴はおらん」


 何? と、一真は身構える。前鬼――義覚には後鬼というもう一人の女の鬼と一緒で使われるという事を、一真は月から聞いていた。それが、いつどこで使われるかもしれないという警告も。


――いない?


 どんな事情があるのかは分からないが、小角はそこで初めて、人間らしい表情を見せていた。憤怒の表情を。


「義覚よ、お前は気に喰わないだろうが、これが代わりになるだろう」


 左手に霊符を、右手に小太刀を構えて義覚にすまなそうな視線を送る。対して、義覚はとんでもないと言うように、頭を下げた。


「主の命であるならば」


 一真が反応するよりも先に、小角が舌で軽く濡らした指先で手印を結ぶ。


「制鬼――刻鬼――召鬼――使鬼、『水』『符』『剣』でもって招鬼、出でよ後鬼。名は義賢ぎけん


 小角の手を離れた霊符が魚のように、宙を泳ぎそして弾けた。他の物の怪とは霊的な圧力が格段に違う。

 壺を抱えた女の姿がそこにあった。乱れに乱れた黒髪、土気色の頬には不気味に陰が差している。水に濡れた紙が風に弄られるように、襤褸のような着物の袖が揺れる。


「二対三ではあるが、こちらは瀕死の手負いが一人だ」


 まるでこれで公明正大な戦いになるとでも言いたげだが、それはあくまでも数だけ見ればの話だ。舞香もまた手負いであり、霊気を相当消耗してしまっている。唯一まともに戦えるのは一真だけだが、霊術の知識も技術も乏しい。

 鬼一から送られてくる戦いの知識、そこに導きを求めたところでどこまで戦えるのか。


「我らを」白龍、

「忘れてもらっては困る!」そして、赤龍が飛び出す。


 二頭の龍が咢を開き、腹の底に溜めた霊力を放つ。が、小角はその口に哀れみの微笑を浮かべていた。


「お粗末過ぎる」


 後鬼――義賢の壺から飛び出した霊水が二頭の龍を絡め取り、地面へと引きずり落とした。二頭は再び起き上がろうとしたが、白龍を義賢が、赤龍を義覚が取り押さえる。


「白龍、赤龍!?」


 舞香が叫んだ。霊水がたちまちの内に凍りついていく。碧達を捕えているものと同じく、色鮮やかな結晶となり、岩の床と同化していく。


「放しやがれ!!」


 一真が宙から斬り掛かる。義覚と義賢は同時に動き、龍の身体の上を曲芸のように動き一真の剣戟を躱した。正に阿吽の呼吸。義賢の霊水が生き物のようにのたくり、破敵之剣を封じに掛かる。龍の動きすらも封じた霊水。鋭角に飛び避けたが、霊水はしつこく追尾してくる。

 到底防ぎきれるとは思えなかったが、一真は鬼一の先程の戦いを頭の中で“思い起こし”導きを求めた。


――義覚が斬り掛かってきた一瞬、鬼一は九字を結んだ。その呪文は、


「被甲護身――瘴気を防げ、おん・せんえんしゃてんどう・そわか!!」


 破敵之剣の剣先より展開されたのは、結界の盾。義賢の霊水を堰き止めた。が、そこまでが限界だった。一発勝負で繰り出した結界はたちまちの内に罅割れ、いつ砕けてもおかしくなかった。術の維持に集中する一真の背後から義覚が斬り掛かる。


「蜃!!」


 驚いてその光景を見ていた舞香だが、毅然と命じた。あわやというところで蜃が義覚に体当たり。横へと吹き飛ばす。“百鬼夜行”が鋭く反応した。叢原火そうげんびが鬼火を蜃目掛けて放ち、網剪――先程倒したのとは別の――が巨大な鋏で掴み掛かる。

 対して蜃は俊敏に動き、鬼火を躱し、網剪の鋏を大顎で逆に噛み砕いた。その隙を衝いて飛び掛かる山童を、胴を翻し叩きつけることで吹き飛ばす。その勢いのまま、鉄鼠を尾で叩き潰す。

 絡新婦が二匹、そして人間面の口から糸を吐き出し、蜃を捕えに掛かる。いずれも蜃の何倍もあるような物の怪だ。蜃は鬱陶しそうに身を捩った。たったそれだけの動きで絡新婦の巨体が引きずられる。ハンマー投げの要領で、蜃は身体を捻り、絡新婦を天井目掛けて投げ飛ばす。

 絡新婦の身体が嘘のように岩に突き刺さり、遅れて爆音と振動が地下を襲う。その結果を見届けず、残った一匹に喰らい掛かる。すれ違うその刹那、蜃の咢が絡新婦を捕えていた。


 凄まじいという他ない。普段は土気色のその鱗が金色に煌めいていた。


「私達は、こんなところで終わらない」


 舞香は小太刀を地面に突き立てたまま、決意に満ちた声で告げる。その瞳が“金色”に煌めく。


「どれ程、お粗末だろうとも!! 未熟であろうとも!!」


――すごい……!!


 舞香と蜃、主と式神は完全に息を合わせ、目の前の敵を薙ぎ払っていた。いや、これは単に息を合わせただけなのか。まるで舞香の闘志が蜃に乗り移ったかのようだ。

 汗が頬を伝い、息も絶え絶えだが、それでもなお、百鬼夜行を退ける。碧を、佐保を、救い出す。その決意が彼女に“敗北”を決して許さない。


「舞香……」


 碧が、小さく呟き、その瞳に小波が広がる。


だが、


「それには何の根拠も無い。若気の勇ましさ等虚しいだけ、いっそ静かに滅びる方が潔いというものだ」


 ガクンと、気を失ったかのように舞香が倒れる。蜃が地面へと落ちる。


「神々の悪戯か。力は時に、授かるべきでない者の手に渡る」


 倒れる舞香には目もくれず、小角は手印を結んだ。一真が張った被甲護身印が破れる。どっと押し寄せる瘴気の水に呑み込まれる。ぞわっと身体の芯から拒否したくなるような怖気が這い登ってくる。そのまま壁に叩きつけられ、一真は肺の空気と水を吐き出した。


「……手間を取らせるな。どの道敗北するしかないのであれば、早い方がいい」


 小角の言葉は一真の耳にもしっかりと聞こえた。反射的に反発心が湧きあがり、衝動的に立ち上がろうとする。しかし、出来なかった。身体が地面に縫い止められたように動かない。

 小角の手が舞香へと向かう。碧と同じく捕えるつもりか、一真の予想は甘かった。


「玉は既に十分な数が出来上がっている。お前は苦しまず一瞬で済ましてやろう」



「やめてぇええええええええええええっ――――!!」



 碧があらん限りの声で叫ぶ。


 一真はぎりっと歯を食いしばり身体を動かそうと、あらん限りの力を振り絞る。だが、それでも指一つ動かず、声一つ上げられなかった。


 その場にいた全員が絶望に凍り付いたその時、



「うむ、同じ陰陽師とは思えん程、下衆だのうお前様は」



 散歩中に友人の悪行を偶然、目に留めてしまったかのように、その声はのんびりとしていた。一真は最初、その声が誰の物か分からなかった。その姿が目に入ってなお、分からなかった。


「この気配、まさか、貴様は――」


 小角が初めて恐れにも似た声を上げ、その少年を見た。舞香のことなどすっかり頭から飛んでしまったかのようだ。


 少年、そうその人物は少年だった。


「それにここにおる百鬼夜行どもも、杜撰だのぅ。“本物”を見た事があるが故に、言える感想かもしれんがのぅ」


 子どもの力作を冷静に評価するような視線で、周りを囲う百鬼夜行を眺める。一体、どこから出て来たのか、まるで影から生まれたかのような登場だった。やたらと年を喰ったかのようなというよりも、どこか時代劇に出てくる好好爺のような少年の喋りに惑わされそうになる。が、それは間違いない。


「……霧乃? 何で、そんな変な喋り方してんの?」


 こんな時に聞くべき事ではないと、分かっていてなお聞いてしまう。舞香や碧もまた、驚いた顔のまま、固まっている。藤原霧乃は栗色の髪、はっきりと開かれた瞳、薄らと焦がしたような肌の長身の少年だ。現陰陽寮に属する陰陽師の少年。どこか掴み所がないものの、一真にとってはかけがえのない友人の一人だ――


 だが、目の前のこの少年は違う。


 同じ身体に別人格が乗り移ったかのような違和感だ。だが、“少年”は、にこりと笑って親しげに一真を見た。


「おう、お前様とは一度会うてみたかった。どうじゃ、霧乃は、もうそちらには慣れたのかの」


 父親のような言い草に、一真はますます混乱する。が、それを問う間もない。


「私を無視してくれるとはいい度胸だ!!」


 小角が百鬼夜行目掛けて数珠を振るう。それまで少年を避けていた百鬼達の目に炎が灯った。少年を認識するや否や濁流の如く押し寄せる。


「失ね――」


 鋭く叫ぶ少年に、物の怪共の足が止まった。その隙を衝き、少年は目にも留まらぬ速さで霊符を取り出し頭上に舞わせる。



「東海の神、名は阿明あめい、西海の神、名は祝良しゅくりょう、南海の神、名は巨乗きょじょう、北海の神、名は愚強ぐきょう、四海の大伸、百鬼を退け、凶災をはらう。急々如律令」



 五枚の霊符が五行相生、五行相克の円と線、セーマンを描き出す。光の大海が邪気からなる物の怪を立ち所に押し流し、浄化していく。その燦然さに、前鬼と後鬼でさえも怯み目を覆う。

 古代のある陰陽師が使ったとされる百鬼夜行除けの術。今、少年が放った術は除けどころではない。たちまちの内に、紙兵を一掃していた。

 冗談のような光景だったが、役小角は怯まない。やはり先程までは遊びだったのか、素早く印を結び、少年に突きつける。


「東方降三世夜叉明王、南方軍茶利夜叉明王、西方大威徳夜叉明王、北方金剛夜叉明王、中央大日大聖不動明王――」


 内縛印三を結び「明王の縄にて絡め取り、縛りけしきは不動明王、締め寄せて縛るけしきは、念かけるなにわなだわなきものなり」

 外縛印を結び「生霊、死霊、悪霊絡め取りたまへたまはずんば不動明王、おん びしびんから しばり そわか」


 そして、内縛外縛印。金色の鋼線が小角の掌より飛び出し、少年を絡めに掛かる。対して、少年は不敵に笑った。


「ほぐれて解けて不動の縛の縄、あい緩めれば元のけんみちにとけ」


 熱に触れて引っ込めるように、鋼線が吹き飛び、小角の手に戻っていく。

 鬼をも縛る縄が呆気なく弾かれた。にも拘わらず、小角の口元にはこれまでにない程の笑みが浮かんでいた。まるでこの時をこそ待っていたのだと、言わんばかりに。対して、少年はあまり気乗りがしないと言うように、顔をしかめた。


「霊障を捕縛する術とな。お前様、この儂が幽霊か何かに見え取るのか?」

「で、なければなんだというのだ。成程――確かに、その体は“生きている”が、その魂は本来ならば彼方に行っていなければおかしい」


 ふむ、と少年はこれまた爺のような仕草で小角を見定める。一真は訳の分からないまま、息を呑んだ。


――一体、何の話だ


 霧乃に似た霧乃でない少年。彼は味方なのだろうが、そうと分かっていても得体が知れない。いっそ、敵として戦ってくれた方がまだ安心出来るかもしれないとさえ思えた。


「役行者――、お前様は、そうなのであろうな。が、儂は違うぞ? 本来ならあちらに行ってねば、おかしき所を、無理に繋ぎ止めているわけではない」


 小角は「何だと」と驚愕し、言葉を失う。が、その視線が何かを捉えた。それは地面。そこで一真の目にもはっきりと分かった。大地が脈動している。


「うむ、目聡い奴じゃの。それでは、脅かしようがないというもの」


 少年が笑いを堪えるように告げ、小角が素早く早九字を切る。

 膨れ上がった地面が爆発、飛び出したのは金色の蛇――勾陣だ。霧乃の式神であり京の中心を守護する獣。小角は直前に飛びあがっていた。そう、単なる跳躍ではない。


「霞吸い、木の葉まといて、宙を飛ぶ――ばん おん まゆら きらんでい そわか!」


 勾陣の攻撃を掻い潜り、鳥のように宙を自在に飛び回る。空を翔ける“乗矯術”とは根本から違う。


「孔雀明王の真言……、やっぱりあいつは」と舞香がぎこちない動きで立ち上がり呟く。ふとその視線が振り向いた少年と重なった。勾陣が小角を抑えているのを横で見つつ、少年は舞香へと歩み寄った。

「おー、吉備家の巫女か。先程の戦いは実にあっぱれだったぞ?」

「……えっと、お前誰? 霧乃なの? つーか、いつからいたんだよ!! 見てたんなら助けろよ!!」


 舞香が最初は胡散臭そうに半信半疑に、そして途中から怒鳴り立てた。当然だろう。一真も慌てて立ち上がった。義覚と義賢の二人は警戒し、近寄って来ない。今が態勢を整えるチャンスだろう。

「ほっほほ、すまぬのう。お前様方の戦いぶりはしかと見ておかぬと思っての。そんなことよりもじゃ」と、自身の身勝手さは棚に上げ、小角を指さした。彼は、追いすがる勾陣に向け術を放ち、勾陣はそれを避け或いは受け止める。が、あっという間にその動きが鈍っていくのが分かった。


「あれを止めるので、儂は精一杯での。済まぬがお前様方で、碧と佐保を助け、そしてあの式の方をどうにかしてはくれぬか」


 と鬼の二人を指さした。義覚がぎろりと目を剥き斧を構え、義賢が壺の口をこちらへと向ける。舞香は自信無さげに自分の手を見下ろしていた。


 実際、自信が無いのだろう。それは一真も一緒だ。この突然降って沸いたかのような少年は小角との術の応酬を、何の苦も無くやってこなした。同じ事が自分達に出来るとは思えない。だが、


「何、五龍珠に、竜王の玉は碧が持っておる。ま、霊力を強制的に出させる為に必要だったのだろうが、裏目に出たの。あれさえあれば、舞香よ、手負いの式神如きどうとでもなる」

「りゅ、竜王? あ、あれは蜃の力を引き出す霊具なんじゃ……」


 驚きしどろもどろになる舞華を、少年は待たなかった。勾陣が地面に墜落、地響きと砂煙を巻き起こした。小角がゆらりと降り立ち、二人の鬼が、一真達の方へと迫る。もう、出来る出来ないの問答をしている場合ではない。


「行くぞ、お前様らなら出来ると信じておるぞ?」


 少年は、悪戯っぽく笑い、己の敵へと向かって行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ