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陰陽少女  作者: 瞬々
明鏡止水
105/234

 言ってみた本人が既に、顔を赤らめて顔を逸らしてしまっている。それでも舌を縺れさせ、机に手を突いて支えにしながらも、どうにか自爆したダメージから立ち直ろうとする姿が健気(痛々しいとも)だった。


「そ、その。だからね? 私の従弟だと偽れば、皆怪しまないと思う……のよ」


 語尾がどことなく頼りない。冗談を言い出したわけではないのだろう。毅然としたあの雰囲気にはその気はまるで無かった……と思う。


「いや……バレないか? てか、従弟は厳密に言えば家族というより親戚じゃないか?」


「え、そーなの?」と彩弓が横から口を出した。ややこしくなりそうなので、説明はしない。


「一日くらいならバレない……かと」

「生徒はそうかもしれないけどよ……」


 問題は教師陣ではないかと、一真は思う。突然来て見学させてくれと頼んだところで、そう簡単に許可は下りないだろう。だが、碧は何故かそこには自信があるのか、こくりと頷いた。


「えぇ、もちろん、そこも大丈夫よ」

「“そこも”?」

「何か、文句が?」

「ありません」


 実に、従順に一真はカクカクと頷いた。内心では大人げないと思ったが、口が例え裂けても言えない雰囲気だ。しかし、そこに呆れ声と溜息を挟み込んだ者がいた。


「ヤレヤレ、君は強引だな」


 蛇の顔がテーブルの下から現れる。結界が破れたわけではない。碧が式神として使っている蛟だ。水のような透明さを無視すれば、その姿は蛇にしか見えない。突然の事に、彩弓はひゃっと声を出して、コップをひっくり返した。幸い、中の飲み物も氷も吸い尽くされて無くなっていた。

「そして、大事なことをいつも、君は抜かす。ただこちらの要件を言うだけ言って、協力させようというのは無粋というものではないか?」


「黒……それは」


 正論だ。さしもの碧も彼の言葉には反論出来ない。いや、反論してしまったら、人として大事な物を失ってしまっていただろう。術者と式神の間柄だというのに、なんだか父親と娘みたいだなと思いかけた所で、キッとした表情で碧が向き直った。怒っているわけではなく、真摯なだけ。ただ、迫力があり過ぎるだけであって。それが分かっていながらも、思わず身を引いてしまう。


「沖一真殿」

「やめろ、不気味がっているぞ」


 はぁ……とため息交じりに、蛟が容赦のない言葉で止める。一真が言っていれば怒り返していたであろうが、碧は僅かに呻いただけだった。真面目過ぎるのも問題だなと、偉そうな事を一真は思う。話がこのまま流れれば、そのまま明日にでも岡見女子学園に碧と共に乗り込むつもりではあった。

 よく言えば友達思い、悪く言えば流されやすいと言ったところか。だが、碧の式神は、そんな流されやすい一真の性格も暗に批判しているようであった。


「互いの為にも、ただただ、その場の雰囲気に流されてしまうようではいかん。それを信頼と勘違いする若者が多いようだが」

「ごもっともです」と一真と碧は二人して小さくなる。ある意味でその場の雰囲気に全く流されていない彩弓が、天真爛漫な笑顔を浮かべ蛟に話しかけた。


「つまり、ちゃんと言葉でお願いするってこと?」


 最初の驚きはどこへやら。蛟もまた、この童女に対しては物腰が柔らかい。


「うむ、そういうことだな。年少の者でも分かる事が、なぜわからん?」


 碧はますます小さくなっていく。流石に可哀そうに思えてきたが、蛟の言うことも確かだ。


「その、さ。別にそんな堅苦しく改まらなくてもいいよ。ただ、教えてくれ。俺はその岡見学園に行って何をすればいいんだ?」

 そうは言ってみても、やはり碧は肩を強張らせたままだ。蛟の言葉が、余程身に染みたのだろう。普段の厳しさは、決して他人に押し付けるだけのものではなかったのだと、一真は感心というか、彼女の言葉が最近鬱陶しく思っていた自分が少し恥ずかしくなる。


「学園内を見て、違和感がないかを見て欲しいの。その……、私みたいな霊能力者達は、霊気の流れの違和感から物の怪の発生を見つけ出すんだけど、今回はそれが全くなくて」

「うむ。怪異があるとすれば、それは人為的な物であろう。物の怪が放つ災厄とは違う。人間が放つは呪詛だ。我々は先入観で怪異を見やすい。ある程度怪異を知りつつも、多角的に見れる君のような者に協力を願いたい」


「そりゃどうも。けど、人為的な怪異ってのは……」

「この前、起きたのと同じようなものだと、思えばいいわ」


 さりげなく、彩弓を見やりつつ碧は短く答えた。彼女の手前、あまり具体的な名前は出せないということだろう。まだ引っ掛かりを覚えるが、一真はとりあえず頷くことにした。影夜との戦いはまだ、記憶に新しい。


「つまり……、誰かが事件を裏で操っているとかそんなところか」

「問題はそれが誰かってことね。あなたがあそこに潜入することで、犯人が何かしらの反応を示してくれるといいんだけど……ま、それと容疑者というだけなら、私や舞香もその中に含まれてしまうでしょうね」


 一真はそんなことはないと、言おうとして言葉が出なかった。この二人が犯人である可能性は、他に誰も容疑者がいない状態であれば、かなり高い。普通の女子生徒は、霊気を操ることはおろか、その流れを見ることすら出来ない。


「なにはともあれ、舞香を早く見つけ出さないとね」

「あいつを疑っているわけじゃないんだろ?」


 立ち上がり、簡易結界を解除した少女の背に向けて、一真は問う。葛藤しているようだった。もしも、舞香が事件の首謀者であったら碧は彼女を止めなくてはならない。首謀者でなければという願いと現実にどれだけありうるかの可能性。だが、碧は気が付いていない。舞香が首謀者でないと願うのは彼女だけではない。


「俺は違うと思うぜ」

「そんな気休め……いや、ごめんなさい。そうね」と碧は一真に話す前以上に、虚ろな表情で謝った。一真は、碧が忘れて行った勘定の用紙を取ると、レジに向かう。


「あ、ちょっと……」

「別にいいだろ。俺の奢りだ……あー、ごめん後百円足りない」


 財布は小銭ばっかりで、お札を入れる所にはレシートが何枚も重なって入っていた。家に帰れば補給できるが、なんとも恥ずかしい。

 碧はぷっと吹き出した。そして、自分の財布――小奇麗な紅葉色の――から百円を取り出すとトンッと一真の手の上に置いた。一真は苦笑しつつ、代金を払った。彩弓が飲んだジュース二百円。自分で払うつもりだったらしい彩弓は自分の財布を握りしめたまま、少し不服そうに二人の後に続く。外の雨は止んでいた。雲から漏れる零れ日が街を照らす。一真は目を細めた。


「次、来る時は舞香を誘ってやったらどうだ?」

「そうね。姉妹三人で」と碧は彩弓を振り返る。一瞬ぽかんとしていた彩弓だが、財布を握りしめたまま、わっと微笑んだ。


「いいね!! そうしよ!」


 釣り込まれるように碧も笑い、陽が光の色にその笑みを染めた。



「なにしてるの」


 無機質な声が、碧の笑みを強張らせた。驚き、振り向いたその先には舞香がいた。巫女装束の姿が人目を引いたが、彼女はそんな事は目に入らないというように、大股で無防備な姉に歩み寄る。


「なんだ、姉様。普段は厳しいのに、ご自分には甘いのですね」


 普段の呑気さは剣呑へ。その口元には嘲笑すら浮かんでいた。青ざめている碧の前に一真が一歩進み出る。


「あのな、俺達は別にお茶会してたわけじゃないぞ?」


「へぇ……、でも大事な話なら別に神社の中でも出来たんじゃないの?」


 一瞬、言い返せずに黙った。確かに、彼女の言う通りではある。だが、碧が喫茶店を待ち合わせ場所に選んだのは、軽い気持ち故にではない筈だ。気の沈んだあの表情を舞香は見ていない。その原因の中心に自分がいることも分かっているのか。


「そうね、ここを待ち合わせ場所にしたのは軽率だったかもね」


 顔を上げた碧は表情の一切が無くなっていた。あっさりと認められて、舞香の顔に動揺が走った。それが何かとは分からないが、彼女は踏み出してはいけない一線を越えてしまった。次に来るのは、舞香がぶつけた以上に鋭く重い一撃。


「で、“そんなことより”あなたは、今朝から今まで何をしてたのかしら? 勝手に動くなと言った筈よ」


 息に詰まったか、舞香は額に青筋が立つ。が、次に吐き出されたのは怒気だった。


「勝手に動くな? あそこでは式神が暴走してた!! これは明らかに怪異だよ!! なんで、皆さっさと――」


 乾いた音が、湿った空間を張りつめた。舞香は目を瞠ったまま頬を抑え、彩弓が信じられない物を見たようにショックで固まっている。一真は何も出来なかった。

 碧の顔は髪に隠れ、どんな表情が浮かんでいるかは、窺う事も出来ない。一瞬の沈黙、舞香はすっと手を下し、憎しみに満ちただが、どこか冷ややかな顔で告げた。


「姉様なんか嫌いです」



 碧の身体が痙攣するように震える。我に返った一真が「待て」と言いかけたのを、碧の手が抑える。金縛りに掛かったように身体が動かなかった。



「そう、わたしもよ」



 その返しが、とどめとなった。舞香の目尻に涙が浮かぶ。二つに結われた髪を両手で掴み髪紐を引き千切るように、外し碧の足元に投げつけた。


「さようなら、姉ちゃん」


 懐から護符を取り出しつつ、舞香は言った。止める間もなく、陰の界への扉が巫女の後ろで開いた。舞香は倒れ込むようにその中へと消える。一真は自分も飛び込もうと走ったが、それは一歩手前で消えた。

「碧!! 追わなくていいのか! 早く開けよ!! 今なら間に合う!!」


 碧はその場に崩れ落ちた。


「もう、遅いわ」

「舞香お姉ちゃん……」ぐすっと彩弓が泣き出す。


 この場はとても、一真一人に収められるものではなかったが、ここで二人共放り出して逃げるわけにはいかない。かといって何か上手い言葉はかけられない。何を言っても、悪い方にしか進まない気がした。


 今にもパニックを起こしそうな一真の脇を通り過ぎて、真っ白な手が差し伸べられる。



「ほら、帰ろう碧」



 ぽかんと、一真は口を開けたままその少女が、碧を立ち上がらせるのを見ていた。


「月、何をしている……いや、してたんだ? 今まで」


 顔を覆ったまま、さめざめと泣いている碧を、慰めつつ月は申し訳なさそうな顔を一真に向けた。


「え、うん……舞香を説得してた。ちゃんと碧と話すべきだって。でも、失敗だったかな」


 その為だけに、学校を早引きしたのかと、一真は思ったが、もしも同じ立場だったら同じ事をしただろう。それよりも月が、そんな大胆な行動をした事に驚いた。碧と同じ位、しきたりだの、ルールだのを尊守する性格と見ていたのに。


 その彼女はちょっと不安そうな顔で聞いた。


「学校の先生怒ってるかな?」

「気にすんな。そんくらい。急に風邪引いたんだから、仕方ない」


 泣いている碧の手前、笑う事は出来ないが、力強く頷いて見せる。月は少しだけ顔を明るくし、それから逆に訊ねた。


「一真は何をしていたの?」

「あぁ、碧に呼び出されてさ。協力してくれって頼まれた」


 その碧は未だショックから立ち直れていないようで、何も言わなかった。月はそれだけで、大体の事を察したらしく、それ以上は聞かずに碧の背を擦った。


「ほら、歩ける?」

「えぇ、ごめんなさい」


 碧は月の手を離れると、ふらふらとした足取りながらも自分で歩いた。歩いて、直線上にあった郵便ポストにぶち当たった。やれやれと月は歩み寄り、碧を助け起こしに行く。


「大変だねー、月も」


 一真のすぐ背後で、日向が“いつものように”突然現れてしみじみと言った。


「……日向、突然現れるなよ」流石に毎日、一日に三回も同じ事されていると、驚かなくなる。が、慣れない。


「そんなことよりも、彩弓を慰めなくていいのー? おにーさん」と日向は、まるで意に介していない様子で、童女を指差した。真っ赤に腫らした瞳をごしごしと擦り、彩弓は泣いていた。悪戯している暇があったら、慰めろよと、思いつつ一真は背を屈め、彩弓の頭を撫でた。


「あー……その、彩弓。あんまり気にするな」

「だって……舞香おねーちゃん……、行っちゃったよ。もう二度と帰ってこないんだ」


「そんなことはないぞ、彩弓」


 一真は思わず苦笑してしまう。笑ってはいけないことなのだろうが、それでも。妹がいるせいかもしれない。その妹――花音とは、今も昔も何度も喧嘩したことがある。どちらかが、家出してしまう程の喧嘩も一、二回程度だが、ある。確かに今回の吉備姉妹の喧嘩も見た目だけで見るなら、凄まじい争いに見えた。だが、まだ修復出来る。決して「遅く」はない。


「……本当?」と彩弓は、疑わしそうに一真を見た。信じていない。ある意味それも当然だろう。彼女はこれまできちんとした家族の元にいた事が無かったのだから。


「あぁ、勿論だ。それが家族ってもんさ。それにほら、姉妹喧嘩は犬も食わぬって言うだろ?」

「――それ、夫婦」


 日向が後ろでぼそっと訂正したが、無視する。そのくらい知っている。


「ま、見てろって。もしかしたら、夕食時には帰ってくるかもしれないぞ」


 一真は明るく彼女を励まし、彩弓も涙を拭いてぎこちなく頷いた。――ただ、内心では一真自身も今回はどうなるか、分からなかった。本当に二度と帰って来ないのではないかという不安が過る。

 一度晴れかけた空は再び雨を降らした。夕食時までに、舞香が戻る事は無かった。



†††

 振り乱した髪は雨に濡れ、最近になってようやく、着慣れた巫女装束が肌にべったりと付いて気持ち悪い。寒く、なによりも心が張り裂けそうだった。どうせ、人目は無い。だから、泣けるだけ泣いた。泣きながら、少しでも遠くへ逃げようと走る。


「あっ」


 水を吸い重くなった緋袴に足を取られて、転ぶ。水溜りに顔から思いっきり、飛び込んでしまう。あっという間に泥だらけになった少女は、顔も上げられないまま、嗚咽を漏らした。顔の横で髪留めに使っていた碧色の玉が、泥塗れになるのを見て、悲しい気持ちになる。

 ふと、その玉の天辺が光った気がした。その光を過るようにして影が通る。顔を上に向け、そして少女は目を見開いた。


――それは龍だった。


 地に倒れている少女を見て龍はゆっくりと、降りてくる。水のように透き通った身を捩り、少女のすぐ横に座った。

 頭の両側からは神木の枝のように清廉な角が、その首に掛かっているのは、漆黒に輝く宝玉だった。鱗が小波のように揺れる。不思議と、少女の胸を締め付けていた心の帯が緩む。



 長い首を曲げ、覗き込むようにして龍は訊ねた。


「何故、泣いておるのかね?」


 少女は思わず泣き止む程に、驚いた。龍を見るのも初めてだが、人の言葉を喋るとは思いもよらなかった。起き上がった少女に龍は笑いかけた。


「ほぅ、泣きやんだか。どうして泣いておったのかね?」


「あなたは?」と少女が聞くと、龍はこれは失敬とおどけるように目を細めた。


「吉備家と契を結んだ龍だ。ま、有体に言えば式神のようなものであるな」

「それでは、あなたが……」と少女は尊敬に満ちた瞳で龍を仰いだ。龍はこそばゆいというように、鱗を波立たせる。


「で、何故泣いておったのだ」


 少女は俯いた。涙は流石にもう出ないが、口を動かすのには、勇気が要る。察したように龍はふむと小さく唸った。


「姉妹喧嘩か」

「はい、そうです……わたしたちのことを、しっているのですか?」答えてから、少女は小首を傾げた。

「言ったであろう。吉備家と契を結んだと。君と出会うのはこれが二度目だ。一度目は君がまだ産まれたばかりの時だった」


 そうなのですかと、少女は納得してそれ以上は聞かなかった。ややあって、呟く。


「いけに、つきおとしてしまったんです」

「……ほう、それはまた元気のあることだ」


 龍の言葉が胸に突き刺さり、少女は赤面した。じわっと大粒の涙が浮かぶのを龍は横目で眺めた。慌てる様子はない。


「わたしのたからものを、とろうとしたから……」と少女は握りしめていた拳を開いた。そこには碧の色の玉が二つ。龍はそれをじっと見た。くだらない子どもの喧嘩とは見なかった。


「それは命を分け合った姉妹よりも大事なものなのかね?」


 ゆっくりと告げられたその言葉に、少女はふるふると首を横に振る。龍はフッと笑う。


「だったら、どうすればいいか分かる筈だ」


 龍はゆっくりと脚を伸ばし鱗を逆立たせる。少女が慌てて立ち上がる。


「あの、いっちゃうんですか?」

「直に父上が参られるぞ」


 ふわっと龍は浮かぶと宙を泳ぐように身をくねらせて、天へと昇る。きらきらと輝くその姿、その軌跡が消えるまで少女は眺めていた。ふと雨の向こうから誰かが走ってくるのが見えた。

 藍色の狩衣を着込んだ男が駆け込んでくる。顎と口周りに髭を蓄え豪傑のようにがっしりとした体だが、目元は意外にも柔らかい。焦燥に満ちた顔で父は少女を優しく拾い上げた。


「全く、このお転婆娘が! 同じ逃げるにしても、なんでこんな所に逃げ込むんだ!!」

 怒っているというよりも、ほっとして思わず出たという感じだった。

「ごめんなさい」父の大きな腕の中で丸まりながら、少女は謝った。

「姉妹二人して、ずぶ濡れだな。全く、明日には風邪引いてるだろうなこりゃ」


 くしゅんと少女が小さく、くしゃみをし父はそれ見た事かというように苦笑する。


「自分の術で風邪引いてちゃ世話ないな、全く」

「え?」と少女は、父の独り言めいた言葉にきょとんとする。

「陰之界には、光も差さないが、雨も降らん。雨乞いの儀を行わない限りはな」


 少女はそれが何の事か、よく分からなかった。父にしても、少女に深くは教えるつもりは無いようだった――今はまだ。

 少女はすっと先程、龍にも見せた宝玉を父の目の前に翳した。


「これ、やっぱりあげることにした」

「そうかい」と父は頷いた。口元が綻んでいる。

「それがいいとも――碧もこれで立派なお姉さんだ。あの子を、舞香をちゃんと守れるようにな」


 雨はいつの間にか止んでいた。立派な姉になって、妹を守る。その言葉は碧の心に沁みた。うんと、幼い声で少女は答えた。



 それも今は昔の事。十年前の事だ。

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