九
「た、退治ってどんな風に?」
「普通に。手に持った刀で物の怪を一刀両断」
普通の物の怪退治というのが何なのか一真には想像もつかないが。未来はまだ、混乱から立ち直れないように呆然としている。
聞いただけではまるで、嘘のような、まともな人間だったらまず嘘と断言するような事だろう。
しかし、未来もまた、一真と同じように非現実的な世界で非現実的な存在に追われ、危うく殺されかけた。その為、未来は否定も肯定も出来ない。
「あの物の怪の正体だけどな。人の中にある憎しみが具現したもんなんだってさ」
「ごめん、一真落ち着いて?」
「それ、今日言われるの二回目。言うなよ、俺も大してわかってないんだから。言われた事をそのまま言っているだけだぜ」
未来は何か理解しがたい物を振り払うように頭を振った。
「もう帰る? 明日起きてみたらそんな事はなかったみたいになってるかもしれないし」
「そうはならないと思うが、帰るか」
二人は逃げるようにその場から立ち去り、公園の方へと戻る。そこを突っ切れば、近道になるのだが、未来はあえて、周りの道路を使い、迂回した。後に続く一真はあえて聞くような真似はしなかった。
分岐点にさしかかり二人は足を止めた。
「じゃあ、な。また明日」
「え、ええ。そう、ね。その陰陽師については……今頭痛いから、明日また聞く。出来ればその娘も交えて」
そう言って二人は分かれた。一真は一人、闇に覆われた道を歩く。
ふと思いついて携帯を手に取り、素早い手つきで操作していく。ダークブルーのそれは、高校入学に際して買った物で、説明書は特に読まずにボタンを押すうちに操作に慣れた。
「もしもし」
『どちらさまー?』
ぼんやりとしたどこか浮世離れした声が携帯のスピーカーから聞こえてきた。
沖花音。沖一真の正真正銘血の繋がった妹だ。
「電話の着信音でわかるだろ。わかれよ」
自宅の電話には家族から連絡があった場合は、親族名が機械的な女性の声で告げられるよう設定されている。それに、画面にも誰から連絡されたか表示される筈だが。
「で、今日母さんは?」
「夜勤入るって。お父さんはー……今度の日曜まで帰ってこないよ。ラッキーだね、兄ちゃん」
まったくもってその通りだ。一真は思ったが言葉にはしなかった。
「そっか、それが聞ければいい。帰るのがもう少し遅くなりそうだ」
そして、返事も聞かずに一真は電話を切った。その足の先は自分の住んでいる家では勿論ない。




